爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
つまりフジキセキは二次創作で活躍させ放題ってコトです。
「距離1800。長さはともかく、芝じゃなくダートをわざわざ選ぶとはなァ。そりゃトレーナーとしちゃあ愛バがヤル気ってんなら応援するがねェ」
「ポニーちゃんたちにも同じように言われてしまったよ。フジ先輩にダートは似合わないですよ、って」
「芝や砂の似合う似合わない、って感覚は私にゃワカランが。トレーナーとしては適性のが大事だし。まぁ、お前さんなりにダートに出る理由があるんだろう? ならしっかりガンバんなよ」
「もちろんさ。ファンの心をしっかりと射貫いてみせるよ。サジタリアの名に懸けて、ね!」
チーム・サジタリアから、フジキセキが地方のダートレースに出る。この知らせはトレセン学園にちょっとした騒ぎを引き起こした。どうしても芝に比べてダートは華やかさが物足りず、フジキセキというウマ娘のイメージに合わないからだ。
しかし、フジ本人はその反応にむしろ満足している。だからこそ走る意味があるのだ、注目度の低いダートレースで走ってなおファンに感動を届ける。エンターテイナーとしてはなんとも唆る挑戦だ。
一応、このことはサブトレーナーにも報告している。今後、本格的にダートに挑むかはわからないが、適性を見てもらった恩がある。ひと言くらいはあってもいいだろう。
返ってきた反応は驚きとも違う、心配とも違う。ほかのウマ娘たちのような、ほんの微かにどこかガッカリしたような雰囲気を含んだようなものとも違う。どちらかと言えば──あれは何か、自分を納得させるかのような。
少しだけその感覚に戸惑ったが、続く言葉が彼の期待を全て表していた。
『やっぱりフジキセキには、挑戦がよく似合う』
本当に、心の底から楽しそうに。それだけで充分な激励である。
◇◇◇
「悪役とは言え所詮はイベント、か。ありがたいことだが、ある意味ナメられてるってことでもあるんかねェ」
地方のトレセン学園も、そこに所属するウマ娘も、そして地元のファンたちも、自分たち中央からの挑戦者……侵略者? を当たり前のように歓迎している。そのことをサジタリアの若手トレーナーは冷静に分析していた。
ファンはともかくウマ娘たちの反応は随分と変わっている。少なくとも自分が学生のときはもっと濁りの混ざった眼をしていたハズだ。華やかな中央の踏み台扱いされていることを受け入れていたのだ。
だが、いまの地方のウマ娘たちの眼には強い意志の光が宿っている。かつては手の届かない遥か高みにいたエリートたちも、いまでは決して勝てない相手ではないと認識したからだろう。中央がGⅠの勝利を逃すことは、それほどまでにウマ娘たちに影響を与えたのだ。
レースそのものが活気付いて盛り上がるのはいいことだ。だが、それはそれとして自分の担当するウマ娘を甘く見られるのは面白くない。もちろん本気で侮られているのだなどと考えてはいないが。
「フジの性格からして油断は無いとは思うが……どうにも、私の知るレースとは常識が変わりつつあるからなァ。今後のためにも、しっかりと見極めてやらんとイカンねェ」
◇◇◇
『序盤からハイペースで進んできたレースですが、ここにきて全体の脚が鈍っているようにも感じます。この展開、どう見ますか?』
『そうですね、出走しているウマ娘は全員が初めての重賞ですから。掛かってしまっていたのが落ち着いたのか、あとは思った以上にスタミナを消耗してしまったのでしょう』
『つまりここからは冷静に走れていたウマ娘が有利ということですね! さぁ先頭から殿まで全体のペースが落ちる中、徐々に速度を上げているウマ娘がふたりいる! 中央からはフジキセキ、そして地元トレセン学園からは──』
────。
「んー、これはこれは。先輩が見せてくれた領域とは随分と……趣が違うね。なるほど、こういうのもあるのか。なんだか面白いねぇ」
ありのままフジキセキに起こったことを話そう。とあるGⅢのダートレースを走っていたら、いつのまにか月明かりの古城を走っていた。催眠術や超スピードなどではなく、もちろん誰かが展開した領域の世界である。
先ほどまではほかのウマ娘たちが何人か一緒に走っていた。おそらくは彼女たちも領域に踏み込むかどうかの瀬戸際にいたのだろう。残念ながら、全員が途中でリタイアしてしまったが。
と、いうのも。
「「──、──ッ!!」」
「おぉっとッ! そう簡単に私を捕まえられるとは思わないことだねッ!!」
古城に囚われたウマ娘たちを襲う恐るべきモンスターの群れ……と言うにはなんとも愛嬌のあるマスコットたちが次々とフジキセキに飛び掛かる。
ホラーテイストというよりはハロウィーン。小さな子ども向けにデフォルメされた鏡の国のアリスの絵本にでも出てきそうなガイコツの兵隊たちが、ピコピコハンマーや虫取り網を大袈裟な動きで振り回している。
なんともコミカルで厄介な領域だが、その性質についてフジキセキは心当たりがある。おそらくはディレクションの一種、走り方や視線、気配の動かし方とプレッシャーの掛け方など。あらゆる手段でレースをコントロールしているのだ。
この領域に踏み込むことができたウマ娘たちは消耗しつつもなんとか冷静さを取り戻せているだろう。だが、領域に触れることすらできなかった、
「やぁやぁやぁポワロくん。我輩の用意したパーティーは楽しんでくれているかね?」
「これはこれはミス・オリヴァー。もちろんだとも、手厚い歓迎に感謝しているよ」
城壁の上に立つそのウマ娘は、例えるならば怪盗アルセーヌ。URA指定の運動着ではなく深紅のスーツに黒マントが風に揺らめいている。
おそらくはそれがGⅠレースに出走したときのために用意されている彼女の勝負服なのだろう。どうやら領域とやらはドレスコードも自由自在らしい。
「素晴らしい! さすがはフジキセキといったところですなぁ。あの母親にしてこの子アリ、ってヤツ? GⅢ程度の舞台じゃあプレッシャーには負けないか」
「おや、私の母を知っているのかい?」
「それはモチロン。なんなら舞台公演記念の限定仕様トランプもバッチリ5種類コンプリート済みなのである。どやッ!」
「それはどうも。君のような熱心なファンがいると知れば、きっと母も喜んでくれるよ。私が保証しよう」
「ニシシ♪ そう言ってくれるのは嬉しいけれど、だからって手加減はしないよぅ? キミもそーゆーのは好みじゃないでしょ? だからさ……今回のレースは遠慮なくこの私が、オラクルヘッド様が勝たせてもらっちゃうよん♪ ──踊れッ!!」
「──、──ッ!!」
リズミカルに踊りながら迫るガイコツ兵士たち。その様子からオラクルヘッドもまた魅せる走りに重きを置いているウマ娘であることがヒシヒシと伝わってくる。
おそらく、このまま流されたとしてもレースには勝てるかもしれない。マイルは自分が一番得意とする距離だし、ダートのコツは同世代の圧巻の走りをするウマ娘、いやウマドルからしっかりと教わった。
だが、それでは
失敗は誰にでもあるだろう。その事実を無くすことはできないし、だからこそ次のためにより真剣に、本気になれるのだから。
しかし、
なら、どうする?
どうやって対抗する?
──フフッ、なんてね。迷う必要なんて初めから無いのだけど。彼女が彼女らしく走ることに本気なら、私も私らしく走るだけだよ。
気がつけば右手に持っていたお気に入りのシルクハットを被り指をパチリと鳴らせばアラ不思議。フジキセキの運動着もあっという間に黒スーツの勝負服に早変わりである。便利だねコレ。朝とか制服の着替えにも応用できないかな?
「ンフー♪ こっからがメインディッシュってヤツ? GⅢレースでも本気も本気だねぇ?」
「もちろんさ。君と私と、ふたりでファンのみんなに最高のレースを届けよう」
フジキセキがタンッ! と力強く脚を踏み鳴らす。心地よい音が古城全域に広がると同時に、それまで月明かりだけだった世界に鮮やかな輝きが灯されたッ!
──
『レースは終盤! フジキセキ、前目に付けていたフジキセキが一気に加速して先頭を狙う! それを見るようにオラクルヘッドが追走! フジキセキが前! オラクルヘッド追走! ふたりが重なるように、一気に集団を抜け出した!』
『このままフジキセキが逃げ切るのか、オラクルヘッドが抜け出すのか、これは瞬きするヒマもないですよ!』
「
オラクルヘッドがカードを投げる。投げたカードがいくつもの水の塊となってフジキセキに迫る。これもまた駆け引きの延長だ、迂闊に触れれば走りを乱されることになるだろう。
ならば、
狙うはあくまであの水の泡たち。投擲のスキルはエンターテイナーとしては必修科目と言っても過言ではない、フジキセキも当然身に付けている。とはいえ、カードにカードでは芸がない、だからといってナイフでは剣呑が過ぎる。ならば。
「うはー! バラの花とはやってくれるゥ! いいねいいね、イケメンさんにはそーゆーちょっとキザなのもよく似合うねぇ~ッ!」
「定番だけれど悪くないだろう? せっかくの舞台だからね、華やかさは蔑ろにできないよッ!」
「だったらこんなのは──いかがッ!
高く放り投げたカードが輝く矢となり降り注ぐ。とことん勝負を仕掛けてくる気概に思わずフジキセキも胸が高鳴る。
駆け引きを領域として展開できるまでに高める。その道程にどれほどの努力があったのか、そしてよくそんなことを思いついて──いや、そうか。彼女の世代はつまり、彼の愛バみたいなもの。サプライズはお手の物なのかもしれない。
『先頭フジキセキ! 2番手にはオラクルヘッド! ふたりが完全に抜け出した! 完全に一騎討ちだ! 逃げるフジキセキ、オラクルヘッド仕掛けるか! フジキセキ、先頭フジキセキ! ──来たッ! オラクルヘッドがレーンを変える! 残り200で最後の勝負を仕掛けたぞ!』
「──
オラクルヘッドがマントをひらりと翻すと同時に星屑が流れる。正真正銘のラストスパートだろう。それに応えるようにフジキセキもバラを構え──静かに、あくまでも冷静に、仕止めるべきターゲットを見極める。
真実はひとつだけ。残りは全てブラフ。ここでミスを犯せば流れを掴み損ねて差し切られるだろう。そうでなくとも、おそらくこれが最後の競り合いになるのだから。
「──見つけたよ、ポニーちゃんッ!!」
魅せるということに、見られるということに特別な想いを持つフジキセキだからこそ、見逃さない。
1枚のカードをバラが貫き、それと同時に大量のカードも、周囲でひたすら踊っていたガイコツたちも一斉に姿を消した。オラクルヘッドの
笑え。笑うんだ、私。
私はキセキのウマ娘。
この程度どうということはない。
いつものように大胆不敵に。
決して余裕を崩すな。
昨年のオータムカーニバル、ゴールドシップの敗因はペース配分のミスだと世間では言われている。GⅠ初挑戦ということでスタミナ管理をしくじったのだと。
だが、彼女をよく知る者たちはそうは考えなかった。ゴールドシップの才能は追い込みを得意とするウマ娘の中でも頭ひとつどころでなく抜きん出ている。いくら大舞台だからといって、あのゴルシがスタミナの使いどころの判断を誤る? いったいなんの冗談だ。
だが現実、ゴールドシップは1着を逃した。本来なら起こり得ないはずのイレギュラー。ならばそれを引き起こしたのはなにか? 十中八九、領域の目覚めによるもの。
まさにハイリスクハイリターン。理想の走りとはつまり、いまの自分では届かないからこそ理想足り得るのだ。メンタル、フィジカルともに消耗の度合いが尋常ではない。
ゴールドシップが勝ち切れないほどに。その話を聞いていたエアグルーヴでさえ、ウイニングライブが終わってからしばらく領域の目覚めによる疲労で控え室から出られなかったという。
シンボリルドルフについては……さすがは名門シンボリ家の若きエースといったところか。もしかしたらサブトレーナーとは別のアプローチでシンボリ家も領域の存在を知っていたのかもしれない。
残念ながら自分には会長殿ほどの天才性には恵まれなかったらしい。ゴール板はすぐそこにあるが、手札も全て使いきってしまっている。
オラクルヘッドも同じように消耗していると期待したいところだが、自分よりも領域について詳しく知るだろう彼女がそんなミスをするだろうか? 少なくとも私ならば弱点を放置したまま出走はしない。
一瞬の静寂。そして。
「ニシシ♪ さすが、さすがのフジキセキ! いやはや、やっぱり中央のウマ娘は強いですなァ~♪ こりゃ大人しく敗けを認めるしかないんじゃない? 魅力的な敵役ってのは、引き際も弁えているもんなのだよ~」
「──え? ちょッ!! 君ッ!?」
◇◇◇
「少し、いいかな?」
「ほいほい? オラクルちゃんになにかご用事? あ、さっきのウイニングライブとってもステキだったよ! いやぁ、サイリウムを握る手に力も入りまくりだったわァ……」
「うん、私もまさかギリギリの競り合いをした相手が最前列で一番盛り上がってくれるとは思わなかったよ」
「そこはホラ、だってライブだし。勝負は勝負、メリハリつけて楽しまないとイヤな気持ちが連鎖しちゃうじゃん。それで、なにが聞きたいのかな? あの人がコッチのトレセンにいたときの話でもする? 寝ぼけたトレーナーくんがウマ娘を後ろから抱き締めて耳をハムッ! ってしちゃったときの話とか」
「それは是非」
「お、おぅ」
「実は君に、さっきのレースのことでどうしても確認したいことがあるんだ」
「普通に話を続けるのね。このイケメンウマ娘、もしかして意外とイロモノか?」
「さっきのレース、君は本当に最後まで
「やだなぁ。レースだもの、
即答するオラクルヘッドの様子に確信する。ここまでが彼女の駆け引きなのだと。
後の勝利のために、目先の敗北を利用したのだ。きっと彼女にはまだ手札が残されていただろう。あえてそれを出し惜しむことで楔を打ち込むことを選んだのだ。
次があるかもわからない、だが強力なライバルとなる可能性があるフジキセキというウマ娘を警戒して。また同じレースを走るときに備えて、領域の展開を意図的に絞っていたのだ。
まぁ、考えようでは今回のレースは悩ましいことばかりではない。たしかに今後、彼女と競い合うときには“本当の勝負どころ”を常に意識させられることになるだろう。その精神的な負担は決して侮れない。
しかし、同時に可能性も見えた。
さて困った。いよいよ本格的にダートを走ってみようか、実に悩ましい。クラシック三冠に、トリプルティアラに、2大マイルに宝塚記念に有マ記念。芝のレースは魅力的なものばかり揃っている。
だが、それ以上にオラクルヘッドに完璧に勝ちたいという欲が出てきてしまった。フジキセキは懐が広くあまり“怒る”ということはしないほうだ。それでも……勝ちを譲るという行為は競走バとしてのプライドをそれなりに傷付けてくれた。たとえそれが、彼女なりの真剣勝負のカタチだとしても、だ。
彼女が隠し持つワイルドカード、なんとしても切らせてみたいじゃないか。大人げないかい? 仕方ないだろう、意地ってものがあるのさ──女の子にはね。
「それじゃあ次はさっき言っていたサブトレーナーさんが引き起こした事案についての詳しい話を聞かせてもらえるかい? いやね、実は私は次期寮長に推薦されていてやはりポニーちゃんたちの安全を守るためにはリスクマネジメントは必要だからその重大インシデントが状況の再現性があるものかどうかを事前に知ることで予防できるかどうかが変わってくるだろうしもし今後も起こりうるのであれば対策を練るためにも私も正確な状況把握が必要であり場合によっては自分自身を実験台にしても皆の平穏を守る必要があるからこれはどうしても詳細について理解しておかなければならないのでとりあえず音声データとしても記録したいんだけどさすがにボイスレコーダーは持ってないからタブレットの録音機能でも構わないかな?」
「アッ、ハイ」
中央のウマ娘ヤベェ。オラクルヘッドは警戒レベルを一気に最大まで引き上げた。
「ほぅほぅ? 画面越しだとちょ~とわかりにくかったけど、これってアレかな? フェイントとかそーゆー、駆け引きでレースに勝つ、みたいな。いわゆる