爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ。

「基本は緑スキルで固めて通常スキルで追い討ち、固有スキルでトドメだよ!」


ただのぬのきれ

 ウマ娘・ヤエノムテキの朝は早い。

 

 競走バとして、そして金剛八重垣流を修行中の武術家として日々の鍛練は欠かせない。冬の朝、身を刺すような寒さにも怯むことなく外に出てランニングの開始である。

 冬であっても彼女と同じように走りに出るウマ娘は意外と多い。先輩たちはもちろん、獲得賞金額が規定値に達し“クラシック級”と呼ばれるレースへの出走権を得た同期のウマ娘たちの気配もある。そして、これから選抜レースに挑むのであろう後輩たち。

 

 ここは、トレセン学園は良い環境だ。己を高めるためにもやはり手強い好敵手の存在は必要不可欠。ともに競い合い、そしてときには助け合う。

 きっと一般校ではこれほどの出会いには恵まれなかっただろう。格闘技を部活として扱う学校はあるかもしれないが、やはりトレセン学園はひと味違うのだ。学園そのものが“闘争”のために存在するのだから。

 

 修羅の巷、大いに結構。

 

 

 ────。

 

 

「ハァッ、ハァッ、ふぅ……。やはり冬の早朝は空気の透明度が違いますね。呼吸のひとつひとつに心身を清める力があるように感じます。さて、ようやく体も温まってきましたし、もう少しペースを上げて──おや?」

 

 ランニング中のヤエノムテキの視線の先に、なにやら黒っぽい塊のようなものが落ちている。一瞬、動物が凍えているのかとも思ったが生命らしい気配は無い。

 となるとゴミかなにかだろうか? それならば拾ってちゃんとしかるべき場所へ持っていかなければならない。誰かが、あるいは学園のメンテスタッフが片付けてくれるだろう……などという人任せなことはしない。

 金剛八重垣流は当主自ら率先して道場のトイレをピカピカに掃除して仕上げるのだ、その門弟たる自分が競走バの道場に等しい学園内のゴミを放置するなどあってはならない。

 

 一歩、二歩と近付いてみれば。

 

 おや、なにやら模様のようなものが見えますね。もしかして誰かの落とし物でしょうか? 手拭いか、あるいはシャツの可能性もありますね。となれば、なおさら放置はできません。もしかしたら持ち主も困っているかもしれませんし、ひとまず寮まで持ち帰って──。

 

 

「……? ……ッ!?」

 

 

 ピタリッ! と伸ばしかけた手が止まる。

 

 まさか、と。これは、と。ヤエノムテキがとある可能性に気づいてしまい拾い上げるのを躊躇したそのとき。ふわりと風が吹き、その物体の全容が明らかになった。

 

 

 

 それは世間一般では、主に男性が、下半身に身に付ける、最も秘匿性の高い肌着。

 

 

 

 所謂──ぱんつである。

 

 

 

 なぜ、どうしてこんなところに? いや、そんなことを考えても意味がない。たとえ答えにたどり着いたところで目の前にあるトランクスタイプの漆黒の布の塊の存在は変わらないのだから。

 この時点で持ち主はほぼ100パーセント確定だろう。学園に出入りする業者ですら男性はまず見掛けないのだ、となればこのぱんつはサブトレーナーが落とした物であろう。

 

 となると、学園内に落ちている理由もわからなくはない。大勢のウマ娘たちを支えるサブトレーナーは泊まり込みで仕事をしていることも珍しくはないからだ。

 それでいて身だしなみには一応気をつけているらしく、衣類はいつも清潔だ。まぁ、なんだ。夏場は露出がアレだが。いや、清潔であることには変わりはないし。

 なのでおそらく、彼の着替えがなんらかの拍子に落下したのだろう。だとしても、そもそも下着を持ち歩くというシチュエーションが問題な気もするが。

 

 ともかく、落とし主が判明した以上は届けるべきだ。意を決して再び手を伸ばすが──やはりピタリと手が止まる。

 

 これは、ただのぬのきれ、なのだ。それなのにどうにもこうにも気恥ずかしい。顔見知りの他人という不思議な距離感がヤエノムテキの精神を惑わすのだ。

 これがまったく知らぬ存ぜぬ何者かのぱんつであれば無視もできた。たとえ男物の下着であろうと、持ち主不明の物など単純に触りたくない。もしかしたらそれでも一向に構わんッッ!! という剛の者もいるかもしれないが、少なくとも自分はムリだ。

 

 だがこれはサブトレーナーさんのぱんつなのだ。義を見てせざるは勇無きなり。弱きものを守るが金剛八重垣流であるならば、正道を貫くもまた我らの在り方。恩義あるサブトレーナーさんのぱんつを素通りするのは仁心と義侠心に背く行いである。

 

 悩むことなどない。普通に拾って普通にサブトレーナーさんのところに持っていくだけ──持っていく? え? これを持ち歩くんですか? 私が? 男性の下半身専用肌着を持って? 早朝のまだ薄暗い中をひとりで? 

 

 その光景、危険極まりないのではなかろうか。

 

 目撃されて誰何を問われればまだマシなほうだ。これこれこんな事情だと説明すればそれで事足りる。普通なら信じてもらえるかどうか悩ましいところだが、彼のぱんつだと知れば納得してもらえるだろう。だって彼だし。

 どちらかといえば密かに盗み見られたときのほうが厄介だ。自分の預かり知らぬ間に根も葉もないウワサが学園中に広がることは容易く想像できる。明日から、いや今日の昼間には自分には新しいあだ名が付けられているに違いない。

 

 しかも事態はそれだけでは収まらないだろう。ことの始まりがサブトレーナーのぱんつだと知られれば、当然彼にも恥をかかせることとなる。()()()()()()()として、()()()()()()の名誉を傷物にしたとなれば責任を取らねばならないだろう。

 

 

 

 彼を、八重垣の婿として迎えねばならない。

 

 

 

 言ってしまえばこのぱんつはウエディングチケットのようなもの。拾ってしまえばそれで最後、結婚お゛め゛て゛と゛お゛お゛お゛お゛ッ!! からの明日へのレ゛テ゛ィ゛コ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!! 不可避である。

 彼は料理上手で家事能力も高い。きっと仕事を終えて家に帰れば豪華でなくとも家庭的で温かい夕餉で出迎えてくれることだろう。そしていつかはそこに娘か息子がひとり、ふたり、いやそれだと片方を贔屓してしまうといけないのでやはり3人はいたほうがバランスも良い。

 

 いまの自分にそこまでの覚悟が本当にあるか? 競走バとしてもまだまだ未熟、GⅠどころかまだ重賞すら勝てていない己に家族を持つ資格が本当にあるのだろうか? 

 だが……拾ってしまえば……それで。金剛八重垣流の後継者問題も解決するとなれば現当主である祖母も喜ぶだろう。達者なうちに曾孫の頭を撫でてもらうのもまた孝行だ。

 

 ──くッ!? なにを考えているのだ私はッ!! そんな破廉恥な手段で得た幸福にどれほどの価値があるのだッ!? 

 

 それに考えてもみろ。もしも娘が大きくなって、自分の両親の馴れ初めを聞きたいと眼を輝かせて問い掛けてきたらなんと答える気だ。

 

 

「かあさま、かあさまはどうやってとうさまと()()()になったのですか?」

 

「それはですね、私が彼のぱんつを拾ったからですよ」

 

 

 当主にまで話が及べば、下手をすれば八重垣の家から勘当されるのではなかろうか? もしそうなったら家族で新天地を目指さなければならない。

 候補としては北海道あたりが良さげだろうか? やはり子どもには窮屈な思いはさせたくないし、まずは健康にのびのびと育ってほしい。

 

 嗚呼、なんということだ。どう転んでも未来に希望しかない。なんだか目の前の薄布の下から自分を呼ぶ声が聞こえてきそうだ。脱衣の波動で目覚めた私が手招きをしている気がする。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと手を伸ばし──。

 

 

 

 

「私は、私はッ! 私はァッ!! なんと──弱いウマ娘なのだろうか……ッ!!」

 

 

 

 

 一筋の悔し涙を流しながら、突き刺すような凍てつく風の中を駆け抜けるヤエノムテキ。彼女の手元には何もない。

 誘惑には耐えきった。だがそれは、同時に恩義に背いたことに他ならない。サブトレーナーのぱんつは未だ道半ばに放置されたままである。武術家であることを誇りであると常日頃から口にしておきながら、己の名誉を惜しんだのだ。

 

 頬を濡らしながら走るヤエノムテキ。だが彼女とて、未熟者であっても気概はウマ娘のそれである。己の弱さ故の敗けを認めたならば、あとは立ち上がるのみ。

 

 

 彼女は──復讐を誓っていた。

 

 

 次なるぱんつへの復讐。

 

 今後、また同じようなことが起きたならば。次こそはその試練、必ず乗り越えてみせると……ッ! 

 

 ヒトならぬ、三女神の祝福を賜りしウマ娘という存在。謂わばこれは三女神による復讐。神が誓いし復讐に、誤算(ミス)はあり得ないッッッッ!! 

 

 

 奮起せよ、ヤエノムテキッ!! 

 

 勝利に酔いしれることなく、敗北に跪くことなく、その魂が天に羽ばたくその日までッ! 己の心と技を磨き続けるのだッ!! 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「バクシンバクシンバクシ────ンッ! ……はッ!? いま、なにか道に落ちていたような気がッ!」

 

「…………」

 

「たぶん気のせいですねッ! ランニングを再開しましょうッ! 目指せ、全距離全重賞制覇ッ!! バクシンバクシンバクシ────ンッ!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「にんじんを~だーきーしめて~♪ アナタに急加速ゥ~うぅう~♪ はぁ、当たり前だけどクソさみーなァ……。ゴルシちゃん自慢の白銀しっぽも凍り付いちまうぜ。いますぐワイキキくらい暖かくなんねーかなー」

 

「マジそれなー。早く春になってほしいわ、マジで。つーか、なんでまたこんな朝早くからランニングなワケ?」

 

「いや、フクキタルがよ……なんか、朝……走るといいって言うから……。アイツの占い、わりとバカにできねぇじゃん?」

 

「あー、わかる。つか、マジメにさぁ? フクキタルさんって占いガチ勢じゃね? 的中率ハンパねぇっしょ。100パーじゃないのが逆にリアルっつーか」

 

「だろ? うん……だからさ……こうして走りに出てみたんだけどよ……うん。いや、これはこれでアリだなって気もするけど、やっぱ冬場の朝はちと厳し」

 

「んー? なにゴルシ、急に立ち止まってどうし」

 

「…………」

 

「…………」

 

「あ、あー。うん! ゴルシちゃんなんだか違うルートで走りたくなっちゃったなぁ~ッ!」

 

「マジそれなッ! たまには気分変えて走るのも大事っしょッ!」

 

「よっしゃジョーダンッ! 向こうのルート走ろうぜッ!」

 

「おけおけッ! 急いでアッチ行くしかないっしょッ!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……ふぅッ! やっぱり朝のランニングは最高ッスッ! さて、まだまだ行くッスよッ! 気合いと! 根性で! 冬の寒さもへっちゃらッスッ!! とぉりゃぁぁぁぁッ!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あン? コイツは……こりゃまた珍しいモンが落ちてんな。あーあー、すっかり泥で汚れちまってるじゃねェか」

 

「シャカール、なにか見つけた──うわぁお。これはこれは……えぇ? なんで?」

 

「さぁ? ま、ロジカルに考えるまでもなく持ち主はひとりしかいねェんだ。届けてやるとすっか」

 

「届けるって……え? それ持ってくの?」

 

「なんだ、メジロのお嬢様には刺激が強すぎるってか? まぁ、オレだって別に全然気にならねェってワケじゃないがよ……サブトレ絡みだしな。リアクションをイチイチしてたらキリがねェよ」

 

「それでも私はちょ~とねぇ。さすがにデリケートな問題相手だと逃げたいかな~」

 

「そうかよ。それじゃオレはトレーナールーム行ってくるわ。昨日も泊まりだったみてェだし」

 

 

 ────。

 

 

「しかしパーマーのヤツでも動揺するモンなんだな。ある意味で貴重なデータ……か? レースに使えるかはわからねェけど。いっそほかのウマ娘の反応でも集めて──いや、さすがに悪趣味が過ぎるか」

 

「とりあえずコイツは届けるとして……そうだな。こんな危険物をホイホイ落としてんじゃねェって、ガツンと説教でもかましておくか? 一応女子校だし、無意味にウマ娘困らせてんじゃねェってな。──あぁ?」

 

 

スピードが12上がった。

スタミナが12上がった。

パワーが42上がった。

根性が5上がった。

賢さが12上がった。

 

 

「────うおッ!? なんだこりゃッ!? まさか、ウワサの三女神の? マジかよ、眉唾モンだと疑ってたが……いや。だとしてもなんでオレ? つーかこのタイミングなんだ??」




次回の『爆進!ウマランナー!!』に出走予定のキーワードは

『地方』
『芦毛』
『転入生』

となっております。

それでは皆様、ハーメルン競バ場でまたお会いしましょう。取得物にはご注意を。
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