爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ

危険物は説教とセットでちゃんと持ち主の元に返却されました。


Extend / beat“Survive”

「GⅠウマ娘は1回までパトロンを全力で蹴り飛ばしていいみたいな法律ってなかったっけ?」

 

「気持ちはわかるけど止めとけ? 気持ちはわかるけど」

 

 

 地方レースのGⅠ認定、そして新設レース“URAファイナルズ”の話題で日本中が盛り上がる中。とある地方トレセン学園にスキルの指導で派遣されている天皇賞ウマ娘・メロディビートは不機嫌そのものだった。

 トレセン学園に出資している企業からぜひ挨拶をと招待され、臨時コーチとはいえスポンサーに顔見せくらいはするべきだろうと応じたまではよかったのだが……。

 

「是非とも才能のあるウマ娘たちをGⅠに勝てるように~、だったっけ? ま、スポンサーとしては支援してるウマ娘がGⅠの舞台で勝ってくれれば万々歳だよな」

 

「そんなことはアタシにだってわかってるっての。そりゃな? 競走バってのは金かかるし、企業だって慈善事業で支援してんじゃないのは理解してるけど! よりにもよってこのアタシを相手に才能才能とヘラヘラと言いやがってぇ~ッ!」

 

「あはは……。アンタ、未勝利戦5回走ってるもんね……」

 

 URAファイナルズの開催、それに伴うGⅠレースの増加。地方経済の活性化は素晴らしいことだが、そのせいで各地の企業が掛かりまくりの状態になっている。

 

 おそらくどこのトレセン学園でも、大なり小なり同じような問題が発生していることだろう。ウマ娘は、競走バはアスリートでもありアイドルでもある。スポンサー側としては是非とも仲良くなりたい。

 それだけならまだいいが、やはり宣伝効果を期待するなら勝って欲しいというのが企業側の本音である。となると、どうしても“勝てそうなウマ娘だけ”を贔屓したくなる。

 ほかのウマ娘たちがそれをどう思うかは知らない。だが、メロディビートにとって、いや長老のトレセン学園で“彼”から可能性を与えられた──彼自身はウマ娘がもともと持っていたものだと頑なに言い張るが──ウマ娘としては最高に気に入らないのだ。

 エリートに、才能に溢れた中央に勝つためにスキルを磨いてきた。薄皮を1枚1枚丁寧に重ねるように、ひたすら磨いてきたのだ。……ときどき嬉し恥ずかしハプニングも多々あったが、それくらいは自分へのご褒美ということでノーカウントで。

 

 ともかく。そんな彼女たちにとって、弱いウマ娘なんて価値はないと言わんばかりの企業の態度は自分たちの努力を否定しているも同然に感じてしまう。そもそも本当に才能があったら中央のトレセンに入学してるだろうに。

 

「トレセン学園のスタッフたちがアタシが挨拶に行くのを止めた理由がよぉ~~くわかったわ。ありゃウマ娘に関わる人には嫌われるタイプだね。スポンサーって、もう少しそのへんは上手くやってくれるもんだと思ってたよ」

 

「それだけ地元じゃ長老がイロイロやってくれてたってことでしょ。私たちに余計な心配かけないように。ま、ああいう企業もいるのはしょうがないって。そこは割り切っていこう? 私たちは一応“お客様”なんだし」

 

「ぐぬぬ……。はぁ、大人になるってマジ辛いわぁ……」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 余計なイライラは現場に持ち込むワケにはいかない。気持ちをサクッと切り替えて、メロディビートは芝のコースでウマ娘たちの走りを観察することにした。

 スキルの目覚めの話は聞いている。昔の偉い人がシンクロニシティと名付けた現象に近いものだと。ヒトにしてみれば理解するのは難しいかもしれないが、領域を持つウマ娘たちにとっては納得の状況でもある。

 

 言葉では説明できない。でも、自分に宿るウマソウルが理解している。ならばそれで充分なのだ。

 

 とはいえ……やはりまだまだ走り方が粗っぽい。皆がスキルに振り回されているのだ。重要なのは自分らしく走ることであり、スキルはそれを補助するもの。自然と噛み合うあの感覚が大事なのだ。

 もちろん、より速く、より強く走るための感触を掴んだウマ娘の考えることはよくわかる。掛かり気味の様子に苦笑いしてしまうほどには、かつては自分もそうだったのだから。

 

「アタシも最初はあんな感じだったんだろなぁ~。さてさて、どんなふうに指導してやろうかな? ──ん?」

 

 芝のコースで模擬レース中のウマ娘たちを見ていると、その中でひとり、面白い走りをするウマ娘がいた。

 走り方が少し乱暴で、先行として位置取りも悪くないが速度とパワーを扱いきれていないせいで前に出られない。なので順位が徐々に下がっていくのだが……なんとなく、惹かれるモノがある。

 

「ちょっといいですか。あの芦毛の子なんだけど」

 

「あぁ、彼女ですか。とある農村から出てきた子なんですけどね、悪くない走りをするでしょう? 幼いころから自然の中で遊んでいたらしくて、ほかのウマ娘には無い魅力のある脚をしてます。トレーナーとしては、是非とも育ててみたかったですね」

 

「その言い方だと、まるで彼女に先が無いかのように聞こえるんですが」

 

「無いですよ。スポンサーの偉い人と少々トラブルがありましたから。彼女は周囲に同世代の子どもがいなかったせいか、コミュニケーションの部分で素直というか……正直なところがありましてね」

 

「だとしても、それをどうにかするのがトレセンの仕事でしょう? 貴女もトレーナーなんだから」

 

「トレーナーだから出来ないこともあるんですよ。相手に謝罪をすれば、それは彼女の行動が間違っていたと認めることになってしまいますから」

 

 なるほど、なんとなくだが流れが見えた。つまりは自分が挨拶してきたような企業の人と揉めたのか。

 ウマ娘に対してか、トレセン学園に対してか。もしかしたらその両方、あるいは競バそのもの? ともかく、トレーナー側としても頭を下げるワケにはいかないところまで踏み込んできたのだろう。

 

「まぁ、そんなワケでしてね。彼女はここには置いておけなくなりまして。スポンサーを怒らせてしまった以上は仕方がない。仕方がないので──中央に春から通えるよう手続きを済ませてあります」

 

「……へぇ?」

 

「ウマ娘の未来のために手を尽くすのがトレセンの仕事ですからね。ただまぁ……たとえば。あくまでも可能性の話ですが、商売人たちが軽んじた彼女がGⅠでバリバリ活躍したら、なかなか爽快だなとは思ってますよ」

 

 あくまで例えばの話ですよ……。そう言い残して軽く頭を下げてからトレーナーが立ち去る。きっと、言外に含まれた意味についての解釈は間違っていないはず。なら、いまから自分がやるべきことは決まっている。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「へぇ~、地元の人たちが。だったら是非ともレースで勝たなくちゃだね!」

 

「うん。みんなが応援してくれているおかげでトレセン学園に通えているからな。期待に応えるためにも、いつかはGⅠレースで勝ちたいと思っている」

 

 模擬レースが終わってすぐ、メロディビートは例の芦毛のウマ娘と接触を試みた。結果は入着まであと3バ身という、高等部のウマ娘であることを考えると、今後の大成は厳しいレベルだ。()()()()()()()()()()()

 いまはすっかり状況が違う。地方のウマ娘たちも大きな夢を追いかけるようになり、スケジュールは忙しくとも精神的には余裕がある。先にゴールしたウマ娘たちが彼女を励ますくらいには良いライバル関係を築いているのだ。こうした環境の変化は、競走バとしての成長にも大きく関わってくる。

 もしかしたら彼女が中央に行くまでに、少しでもレベルアップできるように……なんて考えているかもしれない。いつかレース場で再会したときに、最高の勝負ができるように。

 

「すまない、そろそろ失礼しても構わないだろうか? これから自主練習を始める予定なんだ」

 

「ふーん、いまからまた走るんだ?」

 

「あぁ。見ていたと思うが、私はまだ入着すらできない状態だからな。まだまだトレーニングをたくさんやらなくてはいけない。それに」

 

「それに?」

 

「走ることが、とても楽しいんだ。自由に自然の中を走るのも楽しかったが、ここで、トレセン学園でライバルたちとレースを走るのが楽しくて仕方ないんだ」

 

 

 惹かれた理由がよくわかる。この子はどうしようもないほどウマ娘なのだ、走る姿が魅力的なのも当たり前だ。

 

 そうだ。きっと、この子がいいかもしれない。

 

 

「そっかそっか。キミの気持ちはよぉ~くわかったよ。でも今日は止めておきな。脚、けっこうキてるよ。ケガでもして、走ることができなくなったら困るでしょ?」

 

「それは……そう、だけど……」

 

「まぁまぁ。ここは素直にお姉さんに従っておきなさいな。その代わり、アタシがキミをバッチリ鍛えてあげるからさ!」

 

「貴女が?」

 

「そ。アタシこれでもGⅠウマ娘だよ? 天皇賞勝ってるからね~。逃げは……たぶん向いてなさそうだし、差しで勝てるようにしてあげるよ」

 

「本当か!? そうか、GⅠを勝ったウマ娘だったのか……。えっと、その。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

 

「それ、その挨拶だと意味が違っちゃうよ」

 

 

 うん。今度こそ、本当に自分の物語が終わるときが来たのだ。

 

 あの日、あのとき。3200メートルの大舞台を走りきったとき、そこが自分というウマ娘のゴールだと思っていた。本来ならば絶対に届かなかったGⅠ勝利の夢を掴んだ瞬間、なにかが燃え尽きたのだと()()()()()()()()()

 

 違う。そうじゃない。本当の終わりは、アタシの走りをこの子に全て託してから。

 

 自分の走りがいまでもたまに話題になっているのを知っている。天皇賞の出走権を賭けたとあるステップレース、最後の1ハロンで中央のエリートを全員まとめて置き去りにしたあの走り。それが多くのウマ娘たちにとって希望となっていると教えられたときは、嬉しさよりも恥ずかしいという気持ちが強かった。

 だけど、それも今日までだ。これからはこの子が次の世代に希望を与えてくれるだろう。デタラメさが残るフォームでもあれだけ走れるのだ、競走バとして完成すれば間違いなく超一流のウマ娘となる。それこそ、凡才の自分とは比べ物にならないほどに。最後の1ハロンは、この子の代名詞となるのだ。

 

 きっと自分は忘れ去られていくだろう。だがそれでいい。いや、()()()()()。ひとりのウマ娘の物語が終わり、新しいウマ娘の物語が始まる。自分の走りの因子を受け継いだこの子が夢の舞台に立つのを見届けての幕引きだ、ウマ娘としてこれほど幸せなことはない。

 

 

「よし! それじゃあ今日のトレーニングはここまでね! それじゃあ~、いっちょ親睦会といきますか! 近くに美味しいお店あるなら教えてよ。ここはセンパイがおごってやろうではないか!」

 

「……! いいのか? 本当に……いいのか!?」

 

「もちろんッ! どーんと任せなさいッ!」

 

 

 

 

 

 

 なぁ、トレーナーさん。

 

 アンタには迷惑ばっかりかけてたし、恩返しなんて、なにができたのかもわからないけど。

 モノのついでだからさ、もう1個だけアタシのワガママ、叶えてもらってもいいかな? 

 

 この子はきっと強くなる。アタシが絶対に強くしてみせる。この子を見限った連中が後悔するほどの怪物に。だからさ、この子がそっちに行ったら、少しだけ手助けしてやってほしいんだ。

 アンタが担当を持ちたがらないのは知ってる。レースの主役はウマ娘だって、自分は脇役だってことにトコトンこだわってるのはみんなが知ってる。

 だから育ててくれ、なんて言わない。ただ、もしもこの子が道に迷うことがあったなら、少しだけゴールを照らしてあげてくれよ。

 

 それだけで大丈夫。だって、みんなそうだったから。

 

 あとはアタシが伝えてみせる。

 

 差しで走るための駆け引きを、ゲートを飛び出すタイミングの掴み方を、荒れたコースに敗けない力強い走りを、ライバルに競り勝つための気概を。

 直線を速く走るための姿勢も、コーナーを鋭く走るための踏み込みも、長距離でも息切れしないリズムの取り方も、レーン選びに迷わない判断力も、ラストスパートをフルパワーで駆け抜けるための精神力もなにもかも。

 

 敗け続けで折れかけていたウマ娘(アタシ)の心にもう一度、夢の煌めきを灯してくれた勝利の鼓動も全部──ちゃんと、伝えてみせるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お気に入りのお店があるんだ。ボリュームもたっぷりで、美味しくて安いお店が」

 

「へぇ~。それは楽しみだな~! それにしてもボリュームたっぷり、ね。アタシ、こう見えてもけっこう食べるほうだよ?」

 

「それなら安心してほしい。私はいつも大盛りコースを頼んでいるが、その上に特盛りコースというものがあるから、それを頼むといい」

 

「ほほぅ? それはそれは、是非とも食べてみるしかないねぇ!」




次回の『爆進!ウマランナー!!』に出走予定のキーワードは

『バレンタインデー』
『シャドーロール』
『白羽の矢』

となっております。

それでは皆様、ハーメルン競バ場でまたお会いしましょう。健康の目安は腹八分目。

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