爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
ナリタブライアンは 炒り卵の作り方と 明太子のほぐし方を マスターした !
「お祭りといえばゴルシ、ゴルシといえばお祭り。中央トレセン学園最強のお祭り女ことゴールドシップ様の手にかかれば、冬の寒さもオリュンポス大噴火並みにホットに早変わりだぜッ!」
「たしかに盛り上がったけどね? 盛り上がりの意味合いが違うよね? イベントスタッフやお客さんからはメチャクチャ感謝されたけどさ、お前ホントに……お前なぁ……」
「はふっ、はふっ……。この子持ちコンブの竜田揚げ、とっても美味しいね」
「そうね。プチプチした食感が面白いわ。こういうとき、アイヌ語ではなんと言うのかしら?」
「えっとね、ヒンナって言うんだって」
「そう。とってもヒンナね、ライス」
「うん! ヒンナヒンナだね♪」
北海道で開催されたとあるイベントに参加したリブラ御一行。レース前の催し物も一段落して控え室にいる彼女たちは、お祭りの会場のいろんな人から渡された差し入れをモグモグと楽しんでいた。
なんでそんなことになったかといえば、もちろん理由なんてゴールドシップ以外にない。とはいえ、彼女の名誉のために言っておくが好き勝手にイベントを引っ掻き回したりしたワケではない。
ウマ娘の身体能力を活かしたダンスのお披露目の最中に、ひったくりが発生したのだ。もっとも、事件発生から確保までは電撃6ハロンよりも一瞬で終わったが。
なんでそんなことになったかといえば、もちろん理由なんてゴールドシップ以外にない。せっかく皆がお祭りを楽しんでいるのを邪魔した時点で1アウト。被害にあったのが子どもというので2アウト。逃げる最中に老夫婦を突き飛ばしたことで3アウトである。
キレたゴルシはハリウッドのアクション映画の如く展示物や店舗の屋根を軽快に駆け抜け、手頃な棒を引っこ抜いて天高く跳躍。そのまま槍のように投擲して、逃げる犯人グループのひとりが身に付けていたコートを地面に縫い付けた。
そしてフワリと棒の上に着地すると、突然の出来事に動きが止まった犯人グループたちを睨み付ける。勝ちを逃したとはいえGⅠレースの勝負の世界を知る気迫、そして追い込みウマ娘ならではの重力が倍増したかのようなプレッシャー。アイヌの民族衣装をイメージしたステージ衣装を着ていたこともあり、神秘的かつ恐ろしく冷たい眼をした狩人を前に、もはや逃げる気力など残るワケがない。
もしかしたらコイツのことだ、あえて派手にアクションして捕まえた可能性もある。そうリブラトレーナーは考えていた。目立つためではなく、ひったくりにあった子どもたちの思い出が苦いものにならないようにだ。
きっとあの子たちは今日の出来事を『ものすごく格好いいウマ娘のお姉ちゃんに助けてもらった』というプラスの方向で記憶するだろう。ヒトのほうはともかく、ウマ娘の子は将来競走バになりたい、なんて言い出すのではかろうか?
「お邪魔しますッ! レースの前にご挨拶に参りましたッ! 優等生たるもの、勝負の前に互いの健闘を祈ることは忘れませんッ! スズカさんッ! 今日はよろしくお願いしますッ!!」
「え、えーと。そうね、よろしくお願いするわ……」
イベント用の勝負服に身を包むやる気絶好調のサクラバクシンオー。受け答えするサイレンススズカはやや苦笑いである。
なにせ今回のレースは距離2000。スズカにとっては慣れ親しんだ長さだが、バクシンオーの脚質にはまったく合致していない。短距離ではすでに最強の片鱗を見せている彼女だが、マイルではそのスピードにわずかに鈍りが見えるし、中距離から先は……である。
そもそもの話。サクラバクシンオーとサイレンススズカの出走するレースは違う。彼女は1回目、自分は2回目のレースだ。
「よぅリブラの。さっきのゴルシは激ヤバだったな。さすがは中央の破天荒。あ、この唐揚げ美味そう。ひとつもらうな、ありがとう」
「返事待たないで食ってるじゃないか……。それで? ピスケスの。なんでバクシンオーなんだ? まだスマートファルコンのほうが勝ち目がありそうだが」
「んー? そりゃお前、ファル子は舞台のほうやりたいって言うし。パーマーのヤツもな。ま、公式戦じゃないから、黒星にならんところで経験積ませるのもアリでしょ。私はこれでもウマ娘思いなのだよ」
チーム・ピスケスの若手トレーナーがとぼけたように笑ってみせる。本人がやりたいことを最優先に、というのはリブラトレーナーも同感である。他人のやり方に口出しするほど偉ぶるつもりはないが、ならば自分はウマ娘の自由を尊重するやり方に徹底的に拘りたい。
もちろんトレーナーとして大ケガにつながりかねないムリならば絶対に引き止めるが。目の前の女性もそれは同じはず。ならば……まぁ、いいか。バクシンオー本人が楽しそうにしてるんだし、あまり野暮なことは言うまい。せっかくのお祭りなんだから。
◇◇◇
今日からオレの伝説が始まる。
北海道トレセン学園に所属するウマ娘、ワンダフルボディがニヤリと薄く笑う。重賞どころかオープン戦ですらないイベントレースだが、大観衆に自分の実力を見せつけるチャンスである。ウマソウルも早く走りたいと昂って仕方ない。
チームではすでに自分に勝てる者はいない。いずれ先輩たちも全て置き去りにし……まずは北海優駿。次に東北。そのまま日本ダービーで中央を破り──最後にオレが残る。
かつての中央ならばもう少し警戒したかもしれない。だがいまの中央はどうだ? 我が物顔で独占していたGⅠを次々と手放した。すでにメッキはポロポロと剥がれ落ちたのだ。
それに焦ったのか、今度はURAファイナルズなどという新レースを開催して誤魔化そうとしている。ハッ! とんだお笑い草だ、そんな根性無しどもにどいつもこいつもビビってやがる。
──さて、そろそろレースの時間だ。お遊び気分の中央のお嬢様たちに、本物の走りの“領域”ってヤツを見せてやろうじゃないか。
◇◇◇
ファンの歓声の中、得意とする先行の位置で虎視眈々と前を狙うワンダフルボディ。中央から参加しているウマ娘は全部で5人。ひとりは序盤から先頭を逃げ続けている。
やはり中央の強さなど幻想でしかないようだ。先のレースでも中央のウマ娘は同じように先頭を逃げていたが、ソイツは威勢がいいだけで残り200あたりで結局息切れを起こし2着で終わっている。
ペース配分も出来ないようなお粗末な走りをする連中に敗ける理由などない。ワンダフルボディはラストスパートに向け集中力を高め──己の領域に踏み込んだ。
彼女がイメージしたのは、鋼と岩と砂の荒野。
勝つために必要なのはパワーだ。全てを踏み越えて、あらゆるウマ娘たちを押し退けて前に進むための圧倒的なパワー。それこそが最強のウマ娘の条件なのだ。
この圧倒的な加速力こそがオレの必殺の走りッ! 見ろ、先頭を走るヤツの背中があっという間に目の前に……目の前に、目の前に? ……こないな。
チッ、さては先のレースで中央が敗けたからムキになって必死に逃げてやがるな? 仕方ない、万が一ということもある、オレもペースを上げて早めに“へし折って”やるとするか。
そぉら、距離が詰まってそろそろ横に並ぶぞ? 限界ギリギリの情けないツラをオレに見せてみろッ!
「静かで広くて空も澄んでいて……すごく走りやすい。とてもステキな領域ね……!」
「めっちゃキラキラしてるッ!?」
「あら、こんにちは。もしかしてここは貴女の領域なのかしら? どこまでもまっすぐ続く広い大地……さすがは北海道のウマ娘ね。点数をつけるなら100点満点中98点といったところかしら」
「世間話のノリで人の領域に点数つけてんじゃねぇよッ! しかもメチャクチャ評価高ぇしッ! つーかなに普通に和やかに話しかけてんだよッ!? 勝負中ッ! いま勝負の真っ最中だからなッ!?」
「? レースの最中にほかのウマ娘と会話をしていけないなんてルールは無かったと思うんだけど……。あっ、もしかしてこっちではそういう決まりがあるのかしら? ごめんなさい、私ったら勉強不足で」
「ルール以前の問題だよッ! テメーが不足してんのは勉強じゃなくて常識だよッ!」
「常識……そうね、貴女の言うとおり自分を基準に考えるのはよくないことだわ。私、昔から走ると周りが見えなくなるクセがあるの。この前もターフでの練習に集中し過ぎてトレーナーさんをダートから掘り起こすのが遅れてしまったし」
「トレーナーをダートから掘り起こすって何ッ!?」
「言葉通りの意味だけれど──ハッ!? ご、ごめんなさい! 自分を基準に考えるのはよくないって言ったばかりなのに……。そうよね、トレーナーさんがダートに生えてないトレセン学園だってあるはずなのに……本当にごめんなさい……」
「普通トレーナーはダートに生えてねぇよッ! 中央じゃトレーナーはダートから収穫してんのかッ!? そこはせめて畑とかだろッ!!」
「えっと、さすがに畑からトレーナーは……。あっ、もしかして人間と人参をかけたダジャレなのかしら? フフッ、貴女って面白いウマ娘ね」
「オマエの頭ン中が勝手に100倍面白いことになってんだよォォォォッ!!!!」
────。
「わぁ! やっぱりスズカさんはスゴいねお姉様ッ! ずっと先頭を自分のペースで走ってる……。このまま押し切れるかなぁ?」
「ひとり、しっかりとマークしている子がいるが……勢いにのったスズカなら失速する心配はないだろう。アイツが走りで油断する、なんてことも考えられないし」
「お、そうだな。……スゲーなスズカのヤツ。あれもささやき戦術に入んのかな? 今度ゴルシちゃんもマネして──いや、さすがに相手が可愛そうだな。試すならジョーダンあたりか」
────。
「クソッ! そもそもなんでテメェ普通に走れてやがるんだッ! この荒野はオレの領域なんだぞッ!? ターフしか走らねぇような中央のテメェが……そんな細い身体のどこにそんなパワーが──ッ!?」
「たしかに私はターフが好きだけど……別にダートを走らないワケじゃないし……。あ、ホラ! 慣れ親しんだコースもいいけれど、たまに気分転換で違うコースを走ると新鮮で楽しいでしょう? 例えるならそう、お汁粉にそっと添えられた塩こんぶがいい口直しになるみたいに」
「人の領域を気分転換に使ってんじゃねェェェェッ!! しかも塩昆布扱いとかお前ッ! そこはもう少しマシなもので例えろよッ! せめてレースに関係する話で例えろやァッ!!」
「もしかして塩こんぶは苦手だった? そう……なら、豆大福ならどうかしら?」
「そういう事じゃねぇよッ! しかも豆大福とかぜんぜん口直せてねぇよッ! 豆と豆と豆が被ってトリプルティアラになってんだよッ!!」
「──ッ!! 豆が被るとティアラを被るを掛けて……ッ! これが北海道のウマ娘の実力なのね……ッ!」
「あ゛あ゛も゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッッ!!」
────。
「敗けた……このオレが……あんなふざけたヤツに敗けたってのかよ……ッ!!」
先行策を得意とするウマ娘がスパート前に逃げウマのペースに合わせたらどうなるか? もちろんスタミナ管理ミスで最後に垂れることになる。
中盤戦から完全にサイレンススズカのリズムに巻き込まれたワンダフルボディの結果は4着。最終コーナーで差をつけられ、ラストスパートでスズカの走りに領域を塗り替えられて一気に突き放されたのだ。
「……いいや、そうだ。こんなイベントじゃあオレは本気で走れねえだけだ。きっと無意識に加減しちまったに違いねぇ。本番なら、本気のレースなら中央なんかに敗けるはずがねぇんだ……。 北海ダービーなら、
道産子ウマ娘ワンダフルボディ。彼女の七難八苦の道程はまだまだ始まったばかりである。
◇◇◇
「お疲れスズカ。相変わらず見事な逃げっぷりだったな。トレーナーとしても安心して見ていられるレースだった──なんでまた左回りやってんの?」
「あの子……途中からペースが落ちて……それに、なんだか表情も暗かったような……。そんなに塩こんぶがイヤだったのかしら……? もっとほかにも良いものが北海道にはあるというの……? あの、トレーナーさん」
「おう。なにかさっきのレースで気になることでもあったか?」
「北海道で、しょっぱい食べ物で美味しいものって、なんでしょう?」
「しょ、しょっぱい? こりゃまた変わったリクエストしてくるな……。ん~、定番だとじゃがバターだが……そうだな、ジンギスカンとか美味いんじゃないか? やっぱ北海道が一番有名だし」
「ジンギスカン……。トレーナーさん、その、ジンギスカンを食べに行くというのは可能でしょうか? せっかくですし、私、もっと北海道のことを知りたいんです。北海道のお汁粉について理解するためにも!」
「そうか。言ってることは全然理解できないがジンギスカンが食べたいことだけはわかった。ライス、ゴルシ。お前たちはどうだ? スズカも勝ったし、お前たちのステージも好評だったし、北海道の美味いもんでお祝いってのは」
「えっと、羊のお肉の料理なんだよね? そういえば1度も食べたことないかも……。うん、ライスも食べてみたい!」
「おぅ、アタシもそれでいいぜ! ……スズカ、一応言っとくけど、たぶん焼肉屋にお汁粉はねーからな?」
「ウソでしょ……?」
スズカのお汁粉への謎の熱い想いはともかく。こんなこともあろうかと日程には余裕を持たせてあるので、しばらく北海道で羽を伸ばすのも悪くない。
ゴールドシップがなにかをやらかしたり、ライスシャワーの
ついでに、次のレースの目星を付けるのもいいかもしれない。地方レースのGⅠ認定の話が出て以来、各地の競バ場は大いに賑わっている。
もともと重賞にこだわりがなく走ることそのものを楽しむサイレンススズカというウマ娘には、北海道ならではの広々とした空間……空気感のほうが適切か? ともかくのびのびと走る姿は担当トレーナーとしても見ていてホッとする。
北海道から始めて日本各地にファンを増やし、いずれは宝塚記念でも。そんなことを考えつつ、リブラトレーナーは車にエンジンをかける。そのファンの中から『日本の総大将』と呼ばれるウマ娘が誕生することは……もちろん、いまの彼女には知る由も無い。
次回の『爆進!ウマランナー!!』に出走予定のキーワードは
『マイルのたくさん食べる方』
『マイルのいっぱい食べる方』
『ヤクイニック城攻防戦』
となっております。
それでは皆様、ハーメルン競バ場でまたお会いしましょう。牛乳鍋がオススメです。