爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
おしるこを提供する焼肉屋は実在するそうです。きっとメニューにおしるこを見つけたサイレンススズカは『北海道◎』のヒントを得たことでしょう。
※北海道は広大な大地です。ノリと勢いだけで旅行しようとすると日程の大半が移動で潰れます。計画は冷静かつ慎重に立てることを推奨します。
その走りは風か光か。
ターフを駆ける白いイナズマ、そのウマ娘の名は──タマモクロス。
出走するウマ娘には“二つ名”というものが付けられることがある。ファンの間で自然と呼ばれるパターン、学園やトレーナーが付けるパターン、そしてウマ娘が自分で名乗るパターンなど、条件は様々だ。
タマモクロスは自分で名乗ったパターンである。芸人気質というか、お祭りごとなど楽しく騒げるならばトコトン盛り上げたい彼女としては、二つ名は見逃せない要素であった。
だが……いざ名乗るとなると、これがなかなかネタが出ない。当たり前と言えば当たり前である。思い付いたそのときはまだタマはメイクデビューの前。二つ名を付けるにも実績が無いのである。
友人たちや同じチーム・ジェミニの仲間、担当トレーナーなどに相談しつつも言い案がポンポン出てくるほど都合良くもなく。
藁にもすがる思いでサブトレーナーのところに相談に行けば──光の速さで「じゃあ白いイナズマで」と即答された。ついでに煽り文句もセットでプレゼントである。よっしゃ! その案いただきやぁッ!!
◇◇◇
「タマ、すっかり人気者だね。さっきの子どもたち、すごく目がキラキラしていたよ」
「いや~、やっぱ嬉しいモンやなぁ~♪ まだ重賞も走っとらんのに、あんな喜んで応援してくれるっちゅうのは。でもライアンも負けとらんやろ? さすがはメジロのエースやな!」
「あはは……。メジロのエースだなんて大げさだと思うんだけどな……。あ、もちろん応援してくれるファンの期待には全力で応えるつもりだけどね! レースで勝負することになったら、当然タマが相手でも容赦はしないよ?」
「そんなんウチかて同じ、むしろ望むところや! やっぱライバルっちゅうモンはアレや、本気でバチバチ火花散らしてやり合ってナンボや! ……ところで、そろそろ時間やけど、場所、ココで合っとるよな?」
「うん、駅前の噴水広場ってほかに無いし……。やっぱり私服じゃなくて制服で来たほうがよかったかな?」
「失敗したなぁ。写真があるからウチらは相手の顔知っとるけど──あっ」
「どうしたのタマ、もしかして見つけ──あっ」
「これがニホンのバーベキュー・チキン“ヤキトリ”なんデスネッ! ソイソースの香りにほんのりとスィートなニュアンス……んん~ッ♪ とっても美味しそうデースッ!」
「あぁ、やはり職人さんが手掛ける焼き鳥は素晴らしいな……ッ! 鶏肉を串に刺して焼く、言葉にすれば簡単だが、美味しい焼き鳥を焼くためには何年もの修行が必要だという……」
「アメージングッ! つまりこのヤキトリはヴィンテージということですネッ!」
「えっと、その……お嬢さんたち、一本味見してみるかい?」
◇◇◇
「はむっ……オグリキャップだ。これから世話になる。よろしく頼む」
「むぐっ……タイキシャトルデースッ! ヨロシクブシドーのほど、お願いしマースッ♪」
トレセン学園の3月は一般的な学校よりもだいぶ忙しい。卒業式と入学式が同時期に行われるので、ヒトもウマ娘も大勢入れ替わるからだ。
皐月賞、桜花賞、天皇賞と大きなレースが4月に集中しているため、どうしても学生的なイベントは3月にずれ込む。もっとも、3月も大きなレースはいくつもあるのだが。
ともかく。そんな事情で学園スタッフもトレーナーたちも忙しく、地方からの転入生・オグリキャップと海外はアメリカからの留学生・タイキシャトルをタマとライアンが迎えに来たのだ。
「あー、うん。焼き鳥はな、うん。外国からの観光客にも人気やもんな……うん。なぁライアン、もうふたりまとめてアンタにぶん投げてええか?」
「あっはっは! いやだなぁタマ、絶対に逃がさないに決まってるよ? えーと、私は中央トレセン学園チーム・レオのメジロライアンだよ。タイキシャトルさんとは同じチームになるね」
「ノンノン、ライアン! Please call Me“タイキ”デース! これからはフレンドとしてもライバルとしてもセッサアクマするのですから、ナカヨクしまショウッ!」
「切磋琢磨ね。うん、わかった。それじゃあ遠慮なくそう呼ばせてもらうよ、タイキ。これからよろしくね!」
「ほんでウチがチーム・ジェミニのタマモクロスや! オグリキャップはウチのチームメイトになるな。これからよろしく頼むでぇ~」
「タマモクロス、私のことはオグリと呼んでくれてかまわない。向こうでも友人たちに、それから師匠にもそう呼ばれていたからな」
「ほなウチのこともタマでええで。ま、レースはレースとしてな、学園では仲良くしようや!」
◇◇◇
ウマ娘のパワーであればひとりで家電製品だって持ち運びはできる……が、それはそれ。どれだけ筋肉を鍛えても腕は2本しかないのだ。というワケで宅配便とは別に持ってきたオグリとタイキの荷物をみんなで手分けして駐車場を目指す。
それじゃあまずは運転手さんに挨拶を……というタイミングで、それまで和やかに話していた新人ふたりがピタッと黙る。いったい何事かとタマもライアンも首を傾げるのだが──。
「えーと……なんかふたりとも固まってんだけど。つーか、なんか摩訶不思議な視線を感じるんだけど。なぁタイシン、俺、なんか格好とか変かな? ちゃんとしたスーツ着てきたつもりなんだけど」
「その子たちのその反応は正解だから。アンタは気にしなくていいヤツだよ。ほら、さっさとエンジン回しなよ」
「そ、そうか? それじゃ荷物は後ろを自由に使ってくれていいから」
…………。
「Amazing……Can not believe it……」
「そんな……まさか……。師匠から聞かされたときは、私の緊張をほぐすための冗談だとばかり……」
あ、そういうことか。
タマモクロス、メジロライアン再起動。
そりゃそうだ、男性トレーナーの存在は大々的には知らされていないのだから。いきなり目の前に現れたのだ、ふたりにしてみればいったいなんのドッキリなんだという話にもなるだろう。
ならば説明のひとつでも……と思ったものの。そういえば彼のプライベートな情報はほとんど知らない。中央にはスカウトされて来たんだっけ? いや、サブトレーナーさんはあまり名誉とかに魅力を感じるタイプじゃなさそうだし。
「そろいも揃ってなにボンヤリしてんの。ほら、さっさと車乗りなよ。オグリキャップにタイキシャトルだっけ? アンタたちの歓迎にアイツが焼肉屋連れてってくれるから」
ナリタタイシンが発した焼肉というワードで多少は落ち着いたのだろう。オグリもタイキも車に荷物を積み込んで乗り込むのだが、どこか借りてきた猫のようにソワソワと落ち着かない。
タマとライアンがお互いの自己紹介などで緊張を解そうと試みているものの、浮わついた雰囲気はなかなかしぶとく残り続けている。
まぁね、競走バなんて家族以外の男とプライベートで接する機会なんてそうそうないし? まして男性トレーナーとなれば気になるのはわかるけどさ。
だからってそんなにモジモジしてるんじゃないっての。そりゃね? 車なんてこういう閉鎖的な空間だし、アタシらウマ娘的にはこう……独特のニオイとかそういうのに反応しちゃうのはわかるけど。
「タイシン」
「んっ」
サブトレーナーに名前を呼ばれたタイシンが、ポチポチとタブレットを操作して焼肉屋の予約を済ませる。
まったく、名前呼んだだけでアタシを使うとか何様のつもりだっつーの。たしかにアタシは中央で最初に、一番最初にアンタの指導を受けたウマ娘だけど。アンタのトレーナーとしての仕事で一番の古株のウマ娘だけど。一番付き合いが古いし深いから細かい説明無しでも意志疎通できると思われるのも仕方のないことだけど。ブライアン? アイツはただ道案内してただけでしょ。走りはともかく立ち位置とか最初から眼中にないし。前のトレセンのウマ娘? ハッ! いまはコイツ中央のトレーナーなんだから勝負にすらならないし。こういうのは時間の長さより深さだってことくらい、普通の神経してたら説明するまでもなく理解できることじゃん。ホラ、やっぱりコイツの相棒はアタシしかいない──ん? それだと名前だけでも意図を汲み取るのはアタシの役目ってことになるのか。じゃあ仕方ないハナシだね、担当じゃなくても相棒なワケなんだから。たまたま出掛けるところにタイミングよく鉢合わせするのも必然だったワケでしょ?
「予約、とれたよ。ちょうど個室」
「お、サンキュー。しかしオグリもタイキもこう……思ったより大人しいな。ま、初対面だし緊張するのもしょうがないか。メシ食って少しは打ち解けられるといいんだけど」
「まぁ……大丈夫じゃない? ってか、やっぱあのふたりもアンタが面倒見るワケ?」
「どうかなぁ。トレーナーが付くこと決まってるならあんまり口出ししたくないんだよなぁ。変なクセ付けちゃうと申し訳ないし、別にスキルの走りは俺の専売特許じゃないし。特にタイキは樫本チーフだろ? あの人なら確実に強いウマ娘育てられるだろ。決勝で何度目覚まし時計使わされたか……」
「ふーん、あっそ」
ほかのトレーナーの仕事には割り込まない。うん、いい心掛けだ。それはとても素晴らしいトレーナーとしての矜持だ。ご褒美にウーロン茶のお酌くらいしてやるか。
◇◇◇
タマとライアンの努力もあり落ち着きを取り戻したオグリとタイキ。いざ平常心を取り戻すと、今度は焼肉に心が踊りだす。
なにせ目の前のお店は大衆向けというよりはやや高級路線。気取るほど敷居は高くないけれど、たまの贅沢として利用するにはかなり奮発する部類であることが外観からもわかる。
特にタイキシャトルは如何にも“和風”という内装にも大喜びである。彼女が外国からのお客さんということを察したのか、店員さんもほかのお客さんたちも微笑ましい視線を向けていた。
もしも彼が油で汚れるのを嫌ってトレーナーバッジを外していなければ、あっという間に騒ぎが起きていたかもしれないが。
「さて、支払いは先に店員さんにカード渡してあるから、ストップがかかるまで遠慮なく食べてくれ」
「ふむ。自分で言うのもなんだが、私はほかのウマ娘よりも少し食べ過ぎるらしいんだ。だから、その。……本当に好きなだけ食べてもいいのか?」
「大丈夫だ、問題ない」
ぱぁっ♪ と表情が明るくなるオグリキャップ。自由に注文していいと言われて喜ぶタイキシャトル。そしてそこまで言うならとちゃっかりお値段お高めの自腹では絶対に頼まないようなお肉を注文するタマモクロス。ナリタタイシンはメニューからブランド物である愛媛のにんじんを見つけてタッチパネルをポチる。
ただひとり、メジロライアンだけが本当にいいのだろうかと出遅れていた。なにせ先ほどチラリと見えたのだが、サブトレーナーが店員さんに渡していたカードの色は白金に輝いていた。ウマ娘の食事支払い用のカードは入金されている金額で色が変わるが、アレはメジロの家でもそんなに見かけることのないランクのカードだ。
え? ここってそんなに高級なお店なの? いや、でも、予約してたのはタイシンだったし……えぇと、本当に大丈夫なのかな……。
少しはセーブするべきだろうか? そんなふうに考えていたライアンだが、しばらくしてオグリとタイキの前に並ぶ皿の数にそういうことかと納得していた。
「はぐ、はむ、んぐ……ッ! ふむ、牛肉ばかりだとバランスが悪いな。次は豚肉と鶏肉も頼んでみよう」
「ん~♪ このバーベキューソースもとってもデリシャスッ! ほかほかのライスとのコンビネーションもバッチリですネ!」
ヒトや一般ウマ娘に比べてたくさん食べる自覚はあるが、それにしたってふたりの食欲はかなりスゴい。ちゃんと焼けているのを食べているのか心配になるレベルで次々とお肉が消えていく。
「食いねぇ食いねぇ。食うに追い付く病なし、ってな。ホラ、お前たちも遠慮すんなよ~」
「お、おう……。いや、ウチもトレセン来てからそこそこ食う量増えたけどな? さすがにこのペースはムリやって……」
「アタシも遠慮なく食べてるけどさ……アンタ、本当に大丈夫なワケ? その、サイフ的な話で」
「フッ……サブが冠に付くとはいえ、トレーナーを甘くみないことだな。この程度、最初から想定済みだ。食事の出費については向こうにいるときからURAに何度も呼び出しくらってるからな。いまさらこの程度では誰も驚かんのだよ」
「あはは……変な方向で信頼されてるんだね……。あ、トレーナーさん。ワイシャツ脱ぐならこっちにハンガーあるよ」
焼肉を食べているうちに暑くなったのか、ネクタイを外すサブトレーナー。気を利かせたライアンがワイシャツごと受け取ってハンガーにかける。
「「────ッ!?」」
「あ、このにんじんメッチャ美味いな。甘さがダンチや。これ頼んだのタイシンか?」
「ん。愛媛のにんじんは頼むでしょ。学園の畑のヤツも悪くないけど、たまにはね」
「焼いても生でも美味しいのはさすがブランド──あれ、ふたりともどうしたの?」
「い、いやッ!? なんでもないぞッ!?」
「イ、イエスッ!! ノープロブレムッ!!」
────下着姿だとッ!?
オグリキャップは驚愕した。当たり前のように食事が続いていることに。この状況なぜ誰もなにも言わないんだ!? 都会の男性は大胆だと聞いたことはあるが……これほどまでに違うのかッ!?
タイキシャトルは驚愕した。周囲に女が、それもウマ娘がいるのに平然と脱いだことに。みなさんノーリアクションですヨッ!? まさかニホンのトレセンではこれがEverydayッ!?
かつての3人であれば新人ふたりの驚きを察することもできたのかもしれない。だが、オグリとタイキの心情を読み取るには彼女たちはあまりにも
特に用事もなくサブトレーナーのトレーナールームに入り浸るタマモクロスとナリタタイシンはいまさらシャツ一枚くらいで驚かない。そもそもたまに部屋の隅っこに洗濯したお宝──もとい、衣類が干してあるので見慣れたものだ。
メジロライアンに関しては初期にトレーニングルームを一瞬で領域・筋肉秘宝館に早変わりさせられた経験があるので尚更である。
まぁ、慣れたといっても時と場合とシチュエーション次第ではまだまだ振り回されているのだが。
日向に置きっぱなしになっていたスポーツドリンクを温くなるといけないとライスシャワーが気を利かせて運ぼうとして案の定盛大に転び、結果サブトレーナーが全身スポドリまみれになったときのターフの静けさは時が止まったかのようだった。
濡れてピッタリ肉体に張り付く白シャツと甘酸っぱい香りで包まれた彼。その液体の正体が果糖やクエン酸であることを承知でも思春期女子にとってはアレな素材として充分なのだ。発想は自由に、妄想は手堅く。これこそ日本の若者の権利“思想の自由”である。
ちなみにその事件以来、ライスシャワーが廊下を歩いていると後輩たちが壁に並んで頭を下げて挨拶するようになったとかなんとか。ライス先輩、お疲れさまッスッ!! その中に生徒会長を含む上級生が混ざっていたというウワサもあるが真偽のほどは定かではない。
新しい生活に期待と不安が入り交じったワクドキを感じていたオグリキャップとタイキシャトル。いまは違う意味で期待と不安が止まらない。まさかこの場で問い質すワケにもいかず、とりあえずお肉をガツガツ食べることでザワついた気持ちを落ち着けるしかない。
中央トレセン学園。いったい自分たちには何が待ち受けているのだろうか……?
その後、お店を出るときに『大変申し訳ありませんが、次にご来店いただく際には事前に……できれば1週間ほど前にご予約いただけますと……』と店員さんに頭を下げられている彼の姿を見て、やっぱりブレーキを掛けてあげるべきだったかとライアンは苦笑いするのであった。
次回の『爆進!ウマランナー!!』に出走予定のキーワードは
『憧れの先輩』
『素直な後輩』
『言葉の凶器は容赦ない』
となっております。
それでは皆様、ハーメルン競バ場でまたお会いしましょう。スーツの消臭はお忘れなく。