爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
……知らない天井だ。
半分ほど寝ぼけたまま、マンハッタンカフェはぼんやりとそんなことを考えていた。
ゆっくりと状態を起こすと目の前には知らな……くないこたつがある。その上にはさまざまな飲み食いの跡。そして中央に鎮座する大きなボードゲーム。
──あぁ、そうか。夕べは夜遅くまでみんなで騒いでいたのか。
事の始まりはファインモーションのひと言。せっかくの春休みだし、みんなで徹夜でワイワイ騒ぐという体験をしてみたいッ! との仰せである。
普段の様子からはわかりにくいがファインは歴とした王族である。本来ならばそんな不良じみたマネなど許されるはずがない。
だが彼女の母親である女王陛下はなんとも柔軟な思考の持ち主だったらしく、日本のトレセンにいるときにしかできないことはなんでも体験させてやりたいとアッサリと了承した。
これが女男が逆ならばそうはならなかったかもしれない。ただでさえ王族、それも男児となれば転んで擦り傷ひとつでも大騒ぎになっただろう。幸いにしてファインモーションはSPに見守られながらもかなり自由を許されている。
さて、ならばなにをしようかと話し合いになったタイミングでウイニングチケットが福引きでボードゲームを引き当てたと大喜びでやってきた。
コズミックホラーをベースにしたテーブルトークRPG、それを初心者でも気軽に楽しめるようにすごろくのような形にまとめたものだ。
フジキセキが語り部を引き受けてくれたこともあり、まさに『ゆうべは おたのしみ でしたね』といった盛り上がりであった。
ゲームに慣れているナリタタイシンはバランス良く能力を割り振り全体のフォローを。
ビワハヤヒデは調査能力を高めつつ、ここぞというときは拳で解決することが多い。
エアシャカールはタイトルから必要になりそうな特技を絞り込んで強化。
マチカネフクキタルは成功してはいけないときに限って大成功を引き当てる。
ファインモーションは行動の結果がプラスでもマイナスでも大喜び。
ウイニングチケットは体内時計がお休みのお知らせを告げたのか早々に寝落ち。
……と、なかなか個性に溢れたゲーム展開になった。
最終的には──そういえば、ちゃんとクリアしていないような? そうだ、夜食を食べ始めたあたりから今年のクラシック級のレースの話で盛り上がって……そのまま全員ダウンしたのか。
皆を起こさぬよう、ゆっくりとこたつを抜け出し窓際へ。3月の朝は真冬よりはいくらか寒さは和らいでいるものの、まだまだ鼻先が凍りそうな程度には冷たい。
透明感のある空気で肺を満たし、ハッキリと意識が覚醒したマンハッタンカフェは改めて部屋の中を見回す。
この部屋、くっさい。
ニオイの主な原因は食べかけのお菓子やらインスタント食品、そしてサブトレーナーさんが差し入れてくれたいくつかの料理である。
もちろん一晩で腐敗したワケではない。単純に様々なニオイが混沌としているのだ。食べている最中は気にならなかったが……時間を置いて、しかも寝起きの鼻にはツーンとくるものがある。
それに加えて自分を含めた全員の尻尾トリートメントのニオイが実に悪さをしているようだ。
風呂は済ませてからの集合で、どうせそのままここで寝るからとしっかり手入れをしてきたのがしっかりと効いている証拠である。それぞれのお気に入りの香りが仲良く喧嘩している状態だ。
──よし、逃げよう。
◇◇◇
トイレで洗顔と歯磨きを済ませたのは良いとして。またあの部屋に戻るのはちょっとためらってしまう。窓を開けっ放しにしてきてしまったが、仮に不審者が出たとしても、たぶんファインのSPさんたちが鉄壁の護りでなんとかしてくれるだろう。
「これは……パンの香り? そう、サブトレーナーさんが……」
こたつ部屋のひとつとなり。そちらもまたサブトレーナーさんルームである。あからさまな特別待遇だが、ひとりで複数の部屋を使うことに文句を付ける者はこの学園には存在しない。
何故なら文句を付けたら最後、彼の仕事を分担するハメになるからである。数百人単位のウマ娘の走りを分析して研究して指導できるのは、彼の人並み外れた──むしろ人から外れた? スタミナとタフネスがあるから実現できるのである。誰だって我が身がカワイイのだ、やぶ蛇など全身全霊でお断りである。
────。
「おはようカフェ。しっかり息抜きはできたか?」
「おはよう……ございます。はい、なかなか……貴重な経験でした……」
「それはよかった。ちょっと待っててくれ、コーヒーいれるよ」
「あ……はい、ありがとうごさいます……」
自分で好みに調整したコーヒーもいいが、こうしてお任せで出されるコーヒーもたまには悪くない。小麦の焼けるイイ匂いに独特の焦げたような、それでもどこか優しい香りがフワリと届いてきた。
そして……これは、にんじんのポタージュ? わざわざ朝ごはんまで用意してくれているのか。なんだろうか、実家にいるときを思い出すレベルの主夫力を感じる。
寮の食事よりもずっと家庭的な空気で迎える朝の目覚めは心地よい1日の始まりを予感させてくれる。
ただ──。
Tシャツに直エプロンは如何なものか?
せめてもう1枚なにかないのか。いや、わかる。事情はわかる。サブトレーナーさんは暑がりなのは知ってるし、この部屋は暖房が効いてるほかに調理の火もあるし、トタパタと動いていれば体温も上がるだろう。
だが下着である。考えてみてほしい、もしも女がブラジャー丸出しで歩いてきたらどうなる? ワイセツ罪で一発逮捕に決まっている。
下は普通にデニムだが、上は下着エプロンである。なんだこの光景。ちょっと大人向けの漫画雑誌の袋とじ企画かなにかだろうか? いくら支払えばいいのか、出世払いで是非お願いします。とんだモーニングセクシーショット、目覚め、いや目醒めは確実である。絶対に初等部の校舎に近づけたらダメだなこの人。
そういえば。
「あの、トレーナーさん」
「んー?」
「その……トレーナーライセンスを取得するときに……ご家族の方は、反対とかは……されなかったんですか?」
「反対はなかったかな。あぁ、俺、母親がウマ娘なんだよ。だからというか、自分の母親がウマ娘だと理解したときにはもうトレーナーになろうって思ったんだよね」
「いやいや……いくらなんでも早すぎる気が……」
「そう? それなら……三女神さまのお導きってのはどうだ? わりと運命とか、俺信じるタイプなんだよね」
「意外と、ロマンチストなんですね……」
…………。
なぜだろう。何処からともなく否定、いや拒否? なにかこう、強い感情のようなモノを感じるのだが……。
「あー、うん、まぁね。ともかく、小さいころからトレーナーなりたいって言ってたからか、母親は反対しなかったんだよ。父親は心配してたけどな」
そりゃそうだろう。
サブトレーナーさんの羞恥心の崩壊ぶりは一朝一夕で出来上がるような生易しいモノではない。芸人や男性アイドルのキャラ作りのためのわざとらしいアレとは違う、正真正銘の天然モノである。
つまりは幼いころからこんな感じということだ。それで心配しない父親は普通いないだろう。母親のほうは……ウマ娘だから確信犯の可能性もある。婿の貰い手に困らなくて好都合とか考えていそうだ。
いや、本当に。URAはよくこの人にライセンス発行したものだ。どう考えても教育者にしたらダメだろうこれは。知ってますけれどね? 真面目だし、一生懸命だし、有能なのは知ってますけれど。
人材不足がそこまで深刻──そうか、そういえばこの人こんなんでもわりと社会人としての常識ある人だった。ただバランスが極端過ぎるだけで。たぶん面接とかは完璧だったのだろう。情熱は本物だし。
「ん、にんじんポタージュもイイ感じに仕上がってるな。カフェ、ここ任せてもいいか? ちょっとSPの皆さんに差し入れしてくるからさ」
「わかりました……全員、叩き起こしておきますね……」
「そこまでしなくても……。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。えーと、上着~ど~こに置いたっけ~?」
────。
「さて……ロールパンがキレイに焼けてますね……。たしか冷蔵庫にジャムとヨーグルトが……」
ガサゴソと朝食の準備を整えるマンハッタンカフェ。となりの部屋からは眠そうな声がいくつも聞こえてくる。すぐに香りに釣られてこちらにやってくるだろう。
全員の身支度が終わるころにはサブトレーナーさんもSPさんたちに届けて戻って──SP?
マンハッタンカフェ、一時停止。
そう、ファインモーションには本国からSPが護衛として同行しているのだ。当然、彼女の身の回りの出来事を報告しているはず。
つまり、その報告には、もちろん“彼”についての記述も含まれているワケで。
仮釈。
もしも、あくまでもしもの話であるが。彼を日本の平均的な男性像として向こうの人々が、いやウマ娘たちが認識していたとしたら? わりとシャレにならない文化への誤解が……。
さすがにそれは無いとしても、だ。彼は現実として存在しているのだ。貴重な男性トレーナー、しかもウマ娘相手にまったく怯む様子が無い。婿事情に餓えている競走バが彼をゲットしてやろうと日本のレースに乗り込んでくる可能性もある、のか……?
「……ふぅ。少し、ゲームにのめり込み過ぎましたか……。こんな……我ながらバカバカしい……」
イメージを広げるのは領域だけで充分だ。アホなことを考えていないで、みんなに声をかけてこよう。
数年後。日本のウマ娘たちは世界の強豪相手にウマソウルの強さを試されることになる。
読んでくれる人がいて。
評価してくれる人がいて。
感想をくれる人がいる。
だったらあべこべやサブトレーナーの出番のさじ加減がどうとかグダクダ考えてないでとにかく投稿しちまえヒャッハーッ!!
と、いうことで迷っていたネタをとりあえずいくつか投稿して、あとの判断は皆さまにブン投げることにしました。
本編の3月末~4月頭までの春休みの話として、次話までのなんか外伝とか日常編みたいな感じでお楽しみください。