爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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迫り過ぎてブレる影

 スタートは意識し過ぎない。

 

 先に飛び出すウマ娘がいても引っ張られないように。

 

 冷静に。

 

 追い込みならば序盤で前を狙う必要がないのだから、冷静に他のウマ娘を観察しながら脚を慣らす。

 

 残念ながら今はターフの上にひとりなのでイメージトレーニングではある。なにせ追い込みで走るのは初めての経験なので、友人ふたりに併走を頼む前に感触を確かめたかったのだ。

 

 ……スタートから500くらいまでは脚を暖めるのを優先して……ね。

 ふーん、思ったより悪くないじゃん。追い込みの適性が高いとか言われたときにはバカにされてるのかとも思ったけど。

 

 差しや追込というのはパワーがいる走り方だ。他のウマ娘を避けつつ前に出なければならないため、体格の小さいウマ娘がこれらの走り方を選ぶことはまずない。

 実際、彼女も最初は逃げや先行を勧められていたし、半ば諦めも混ざった状態でそれを受け入れていた。

 

 気に入らなくても道理には勝てない。

 

 そんなふうにイライラしているときに、追い込みで走らされるのだ。これで合わなかったら蹴り飛ばしてやろうかと思っていたが……どうやらその必要はなさそうだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 さて、この辺りから中盤戦かな? 巡航速度をじっくりと上げて、でもまだ。まだ、前にでない。

 

 ──リズムを乱すな、アタシ。

 

 トレーナーの言葉を、()()()()()()を自分のモノにするんだ。少なくとも最終コーナーまでには。

 

 まだまだ遠い。

 

 まだ遠い。

 

 目の前、ここから。

 

 

 コーナーを走りながら、脚と呼吸のリズムを完璧に重ねることで息を調える。

 説明されたときはそんなことが可能なのかと疑ったが、ほかのトレセン学園のウマ娘にできたんだから大丈夫と言われては挑戦しないワケにはいかない。

 負けず嫌いなのは彼女も自覚していた。だが──お前なら簡単にできるとハッキリ言われたし。逃げたら負けたみたいじゃん。

 

 

 ──さぁ、ここから。ウソだったら絶対に蹴るからな。

 

 

 カチリ。

 

 思わず笑ってしまいそうになるほど、完璧なタイミングで噛み合った。速度をまったく落とすことなく、呼吸は完全に調った。

 

 ラストスパート、直線を全力で駆け抜けて──。

 

 

「っはぁ、はぁ、はぁ……で、タイムは?」

 

「タイシぃ~~ンッ!! タイシンタイシンタイシンッ!! おめでとうッ!! 3000、ちゃんと走りきれたねぇッ!! おめでとうタイシ~~ンッ!!」

 

「チケット、うっさい。それよりタイム……」

 

「おめでとうタイシン。私たちの中では君がナンバーワンだ。さすがに本格化した者たちには及ばないがね」

 

 大喜びで抱きついてきたウイニングチケットを軽くあしらいつつ、ビワハヤヒデからストップウォッチを受け取りタイムを確認する。

 

「──しッ!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「お疲れ。ほら、ドリンク」

 

「……ん」

 

「脚のほうは問題ないか? 見てるぶんにはスムーズに走れていたようだったけど」

 

「……特には」

 

 

 違う。そうじゃない。そうじゃないだろアタシ。そこはせめてもう少し……あるでしょ? ありがとうが言えなくてもさぁ、悪くなかったよとか、言い方もう少しあるでしょ普通。

 せっかくチケットの思いつきのおかげでトレーナーと知り合えたのに。わざわざアドバイスお願いしておいてこの態度とか、さすがに怒るか呆れるかされ──てない? なんで? 

 

 ナリタタイシンは困惑していた。どう考えても初対面の相手にするには失礼な態度であったのに、隣に立つトレーナーからは不快そうな気配が全然しない。

 世の中の男たちは皆こうなのだろうか? いや、ないな。一歩間違えば太股が見えるような犯罪ギリギリの格好がスタンダードでたまるか。ソシャゲに出てくる擬人化した男キャラじゃあるまいし。

 

 チケットがどうしても新しいトレーナーを見てみたいと騒ぐので探してみれば、まさかの本当に男性トレーナーというのでまず驚いた。

 ハヤヒデとタイシンはどこぞのゴールドなんとかのイタズラ、あるいはアグネスなにやらの実験かなにかだろうと疑い10割で考えていたが、まさかの真実である。チケットは大喜びし、タイシンは言葉が出ず、ハヤヒデは眼鏡が割れた。

 

 まぁ、紆余曲折の果てに(主にチケットのコミュ能力のおかげで)トレーニングを見てくれることになったのは素直に嬉しいのだが。

 

 いや、違うからね。本格化前で個別の指導を受けられないから、それでトレーナーに見てもらえるのが嬉しいだけだから。性別とか……男だからどうとかじゃないから。

 

 

「ウイニングチケットにビワハヤヒデか。アイツらも()()()()ステイヤーなんだなぁ。──うん、ふたりも簡単にリズムを掴んでみせたな。精度はタイシンが1番みたいだが」

 

「あっそ。……ねぇ。アンタ、マジで新しいトレーナーなワケ?」

 

「半分正解、かな。前のトレセンでは、俺は1度もウマ娘を担当したことがない。いや、正確には任せてもらえなかった、だな。こうしてアドバイスしたり、トレーニングしてるウマ娘たちのサポートばかりしていたよ」

 

「半人前ってコト」

 

「まぁね。お前は能力はあるが担当を任せるにはまだ早い、その理由は頑張って自分で見つけるように……ってな」

 

 服装だろ。その言葉をすんでのところでタイシンは飲み込んだ。もしかしたらこんな格好にも理由があるのかもしれない。

 例えば、男だからとナメられないように。自分はそうだ、体格が小さいことをバカにされるのがイヤで言葉遣いは荒く、愛想のない態度になってしまったし。

 

 つまり、このトレーナーとアタシは似た者同士ということになるのだろうか? 

 

 ……これは、もしかしてチャンスなのでは? 自分で言うのもなんだが、ナリタタイシンというウマ娘は気性難な性格をしているので、本格化してもトレーナーが見つかる可能性は低いだろう。

 だがこの男ならばイケるかもしれない。こんな態度で接していても会話が成立しているし、それに彼だってトレーナーなのだ、自分の担当バを持ちたいと思っているだろう。

 

「ふーん。ねぇ、やっぱり担当ウマ娘とか……欲しいの?」

 

「うーん……。正直、サブトレーナーも別に悪くないかなとは思ってるよ。俺は脇役で、いつか現れるだろう()()()の引き立て役でもかまわないかな」

 

 チッ! 思いの外、手強いじゃんか。

 

 しかし主人公か。この場合は()()()()()()()()だろうけど、トレーナーが脇役とはどう解釈するべきか。

 ストップウォッチと走るチケットから目を離さないようにしつつ、タイシンは考える。男がトレセンで働いている時点で目立つのに、トレーナーだ。これで脇役はムリでしょ。

 まさか現役の男性トレーナーが自分しかいないことを知らないワケじゃあるまいし。

 

 なんだろう。脇役、ウマ娘を支える。ゲームならばヒロインポジションで亭主役。……()()()? 

 

 

 …………。

 

 

「────ッ!?」

 

「どうした?」

 

「べべ、別にッ!? なんでもないしッ!? いいからハヤヒデのこと見てろよ蹴るよッ!?」

 

「お、おう」

 

 よし、うまく誤魔化せた。

 

 いやいや、ありえないし。そりゃ多少はさ、顔は悪くないけど、だからって……初対面の相手でそんな想像するとかありえないし。小学生かよ。

 

 これが例えば、パートナーとして何年も過ごしてきた間柄ならまだわかる。トレーナーとウマ娘の絆が信頼から愛情へと変化していくのは娯楽の世界では王道パターンだ。

 だが、いくら周囲が同性しかいないからといって、いきなり飛びすぎだろう。

 

 せめてもう少し手頃な、ちょっとしたイベントやハプニングとかならわかる。

 

 例えばそう、例えば……同じ物を取ろうとしてうっかり手を握っちゃうとか。

 飲みかけのペットボトルを間違えて間接キスとか。

 着替え中にうっかりドア開けちゃうとか。

 

 メイクデビューからクラシック三冠とかの大きなレースで勝敗を繰り返して苦楽を共にして3年目くらいにはふたりきりでクリスマスとか過ごしたりして有マ記念で1着とって一区切りしてバレンタインでお互いの気持ちを確かめてホワイトデーに正式にプロポーズして卒業&ゴールインふたりは幸せなキスをして夢の第2レース開催ですとか、ちょっとした出来事を想像するくらいならまだわかるのに。

 

 いや、よく考えたら卒業と同時にゴールはダメな気がする。たしかに定番だけど、最低限の礼儀として半年くらい前には相手のご両親に挨拶するべきでは? 

 そもそも相手が競走バというだけで警戒される可能性がある。身内にウマ娘がいれば多少は和らぐだろうが。

 それに、いくらトレーナーが高給取りだとしても、こちらのレースの成績次第では生活能力の面で渋られるかもしれないし──。

 

 

「──シン、タイシンッ!」

 

 ん? 

 

「ねぇねぇタイシンッ! アタシのタイムどうだった~ッ!?」

 

「あっ。……ゴメン、ストップウォッチ止めるの忘れてた」

 

「えぇ~~ッ!? そんなぁ~~ッ! せっかくハヤヒデに勝てたのにぃ~~ッ!?」

 

「その、ホントごめん……」

 

「珍しいなタイシン、君がそんなふうに心ここに有らずとは。なにか考え事でもしていたのか?」

 

 ──隣にいるトレーナーとの脳内人生ゲームでうぴうぴはにーしていて見てなかったよ☆

 

 言えるかァァァァッ!!!! 

 

「いや、ちょっとね。チケットの走りが良かったからさ。そっちに集中しちゃってた」

 

「えッ!? ホントにッ!?」

 

「たしかに今日のチケットの走りは見事だった。だが、敗けっぱなしで終わるのは面白くないな。というワケだタイシン、次は彼女たちも含めて模擬レース形式で勝負といこうじゃないか」

 

 コーナーの走り方の練習を見ていたウマ娘たちがいつの間にか近くに集まっていた。興味はあるが話しかけるのをためらっていたのが、3人の走りが改善したのを見て我慢できなくなったらしい。

 

 丁度いい。もうすぐ夏だというのに春爛漫になりかけた脳ミソを叩き起こしてやる。

 

「いいよ、やろう。追い込みの練習ついでに全員まとめてブチ抜いてやるよ」

 

 

 合流した同期のウマ娘たちが一通り走り方を覚えてから開催された模擬レース。そこで宣言通り大活躍したタイシンは翌日──無事、全身筋肉痛に悩まされた。

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