爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
オグリキャップには夢がある。
ひとつは、GⅠウマ娘としての夢。応援してくれる故郷のみんなのために、自分の活躍する姿を見せたいという想いが彼女にはある。
それに、快く送り出してくれたトレセン学園の友人たち──いや、ライバルたちとの約束もある。次に会うときはレース場で、コースの上で戦おうと。きっとみんなもGⅠレースを目指すはずだ、ならば自分もまた同じスタートラインを目標にするべきだろう。
そして夢はもうひとつ。それは──。
あのおっきな海苔巻きを食べてみたいッ!!
タブレットの操作が苦手なオグリに友人が教えてくれた動画で見た巨大な海苔巻き。あれはもうアレだ。夢の塊のようなものだ。
具材も多種多様で海の幸はもちろんお肉も豊富、野菜もバランスよく多めに使われており栄養も考えられていた。あの海苔巻きを作った者は食べる人のことをよく考えている。
もしかしたらすでに卒業してしまった可能性もあるが、少なくとも海苔巻きの存在を知るウマ娘は残っているはずだ。とりあえず新しい友人であるタマモクロスにあとで絶対確認しよう。絶対にだ。
とりあえずいまは──。
◇◇◇
「──なるほど。それで1日でも早くGⅠレースに出たい、と?」
「あぁ。キミはこの学園の生徒会長であり、無敗のジュニア王者であると聞いた。だから相談相手として一番適切だと思ったのだが……」
学園で一番偉いのは秋川やよい理事長である。だがさすがにいきなり理事長に直談判は如何なものかとオグリは考えた。なにより理事長である。きっと忙しくていちいち生徒の相手をできるほどヒマではないだろう。
ならばほかに誰がいるか? そう考えたときに真っ先に思いついたのが生徒会長であるシンボリルドルフであった。困ったことがあればいつでも相談にのると言っていたし、我ながらナイスアイディアだとオグリは自信満々に生徒会室の扉を叩いたのだ。
頼られたことが嬉しいのかちょっと尻尾がご機嫌のルドルフ。その様子に生徒会役員共はもちろん気がついているが黙って見守っている。彼女たちはちゃんと空気が読める仲間なのである。
「すまないがオグリキャップ、君の要望に応えることはできない。GⅠレースというものはそう軽々しく出走できるものではないからな」
「むッ……」
「いいかオグリキャップ、よく聞きたまえ」
スッ……と椅子から立ち上がりオグリを正面から真っ直ぐと見るルドルフ。そして──。
「君はまずメイクデビューを果たす必要があり、それからレースを重ねて獲得賞金額を規定の金額まで積み重ねなければならない。そこから重賞レースに出走して実績を得たら次はステップレース、GⅠへの出走権を掴みとるための戦いに勝ち抜く必要がある。そもそもGⅠレースにも大まかにクラシック路線とティアラ路線があるからちゃんと担当トレーナーと相談してある程度予め日程を組まなければトレーニングも効率的に行えないし健康に影響が出てしまうかもしれない。意気軒昂も大いに結構だが怪我をしては意味がない。そういう意味でもルールを守るというのは大切なことだ。そもそも君だって特別待遇を期待して私のところに来たワケではあるまい?」
「──ッ!? ……なるほど。たしかに決まりごとはちゃんと守らないといけないな」
オグリの反応に満足そうに頷くルドルフ。掛かる気持ちが理解できるからこそ、まずは丁寧に説明することが大切なのだ。
もちろんそれですべてのウマ娘が必ずしも納得するワケではない。しかし、相手がどのような態度であろうともまずは落ち着いて対話を試みることが肝要だ。結果、こうしてオグリも冷静に話を聞いてくれているのだから。
「うむ。だから然るべきその日まで鍛冶研磨を怠らないようにな。だが、そうだな……君はタマモクロスと同じチーム・ジェミニのトレーナーが担当だったな」
「うん。実際に会って話してみたが、優しいヒトだったな。中央のトレーナーというから、もっと厳しい人を想像していたのだが」
「フフッ、気持ちは理解できるさ。さて、担当はすでに決まっているとはいえ実際にトレーニングが始まるのはしばらく先だろう? それまではサブトレーナー君のところに世話になるのもひとつの手段だ」
「そうか、サブトレーナーに──サブトレーナーに? サブトレーナーとはその、つまり……サブトレーナーということかッ!?」
「この学園で、いや日本のトレーニングセンター学園で冠に“サブ”と付くトレーナーはおそらく彼しかいないのではないかな。彼は指導者としての能力も高く、我々ウマ娘に対する熱意も素晴らしいトレーナーだよ」
「そう、なのか……。その、ずいぶんと信頼しているんだな……?」
「当然だとも。中等部代表として、そしていまは生徒会長として、私は彼の活躍をしっかりと
フフンと得意そうに微笑むルドルフ。生徒会役員共は静かに目をそらす。彼女たちはちゃんと空気が以下略である。
「いや、その、だが……その。優秀な人物だというのはタマからも話は聞いているが……。なぁ、ルドルフ」
「なんだい?」
「男性とは、どういった会話をすればいいんだ?」
「うん?」
「私が以前通っていたトレセン学園では男性のトレーナーどころか職員すらいなかった。もちろん実家の近所に男の人はいたが、みんなご年配のおじいさんばかりだったからな。若い男性とどんな会話をすればいいのかわからないんだ」
「ふむ。どんな会話、か。それについてはあまり悩む必要はないと思う。中央に慣れるまでトレーニングを手伝ってほしいと言えば、彼なら必ず快諾してくれるだろう。あとは──そうだな、領域について相談するのもいいだろう。領域というのは「あぁ、それなら使えるぞ」えッ?」
「向こうにいるときに、天皇賞を勝利したウマ娘が走りを教えてくれたんだ。そのときに目覚めた。ラストスパートで残り1ハロンあたりから自分の領域を走れるぞ」
「…………」
「いまはまだ模擬レースしか走ったことはないが、友人たちと互いの領域をぶつけ合う本気のレースは本当に楽しかったな。フフッ」
「………………」
「だが、やはり中央は違うな。タマにライアンにタイシンに……何人かのウマ娘と一緒に走らせてもらったが、みんなそれぞれの領域を持っていて、みんなとても強かった」
「……………………」
「そうだ! 機会があればルドルフも私と勝負をしてくれないか? 生徒会長としての仕事は忙しいだろうからムリは言わない。ただ、もし時間があれば是非キミの領域を感じさせてほしい。もちろん使えるんだろう? 中央の生徒会長だし、無敗のジュニア王者なんだし」
「……………………モチロンダトモ。中央ヲ無礼ルナヨ」
◇◇◇
「結局、勝負の約束はできなかったな……。やはり生徒会長というのは忙しいのか。しかし、サブトレーナー……か。うーむ」
大勢のウマ娘に慕われているのは理解している。だが、どうしても初対面のときの驚きが強く脳裏に焼き付いているのだ。
一応、いまは多少はイメージも和らいでいる。マイルの併走を引き受けてくれたアイネスフウジンというウマ娘に焼肉屋での出来事についてたずねたところ、即座に彼へのお説教タイムが始まったからだ。
──サブトレーナー! いくら個室とはいえいきなり脱ぐとかありえないのッ! いや、その、暑くなっちゃって、その、それにTシャツなら何度も見られてるからいいかなって……。よくないのッ! そもそもオグリちゃんもタイキちゃんも初対面なのッ! サブトレーナー、カフェテリアでみんながビキニ姿でご飯食べてたら許せるの? はい、それはさすがにダメだと思います。暑がりの俺でもわかります。なら言うことは? 今後は外では我慢します、2度と脱ぎません。ごめんなさい。うん、よろしいなの!
「私とは違いアイネスはかなり会話に慣れている様子だったな……。うん? ──そうか、まずはアイネスに相談するべきだな! うん、彼との会話に慣れているアイネスに接し方を学ぶところから始めよう!」
方針は決まった。次はそこに至るまでのプロセスを考えなければならない。
自分ではよくわからないのだが、どうにもオグリキャップというウマ娘は言葉が足りないときがあるらしい。中央に転入することが決まったあとも、地元の友人たちからそのあたりを気をつけるようにと言い含められた。
キチンと言葉を選ばなければ相手に誤解されてしまうことだってある。気心の知れた友人であればこちらの意図を正確に汲み取ってくれるかもしれないが、そうでなければ声に出す前にしっかりと考える必要があるのだ。
つまり……えーと、アイネスとサブトレーナーの関係を……会話が上手い、つまり交流の経験が豊富で……こういうのは社交性? 社会人っぽい? いや、ムリに難しい言葉を使わないようにして……うむ。
「──アイネスフウジンとサブトレーナーの関係のように、経験豊富な大人のウマ娘になるためのコツを教えてほしい。うん、完璧だッ!」
◇◇◇
──いますぐ、逃げなさい。
「──ハッ!? この感覚は……」
「アイネス?」
「ライアンちゃんゴメンなの! サブトレーナーに用事があったことをスッカリ忘れてたの!」
「へぇ。珍しいね、アイネスがそういうのを忘れるなんて。いまならトレーナールームにいるんじゃないかな?」
「ちょっとダッシュで行ってくるの!」
逃げウマ娘ならではの瞬発力。何かが危険だと直感した瞬間から行動開始。トレセン学園のお姉ちゃんと呼ばれているだけあってアイネスフウジンの判断力は優れているのだ。
だいたいこの手の感覚がピキーンッ! とくるのはサブトレーナーがなにかやらかすときなのだが、つい最近説教したばかりだし、まだ大人しくしているはず。ならば、むしろ彼の側は安全かもしれない。いわゆる“逆張り”というヤツである。
────。
「……ふむ。人の多いカフェテリアならいると思ったのだが……」
「あれ、オグリ? 誰か探しているの?」
「あぁ、ライアンか。ちょうどいい、実はアイネスフウジンを探していたのだが」
「アイネスならサブトレーナーさんのところに用事があるって」
「……! そうか、さすがはアイネスだな。きっといまからも経験を重ねるんだろう。やはり彼女を見習うべきだな」
「経験?」
「うん、実はな──」
「バクシンバクシンバクシ────ンッ!! カフェテリアの皆さんッ! 桜餅はいかがですかッ!? ただいま交流会でたくさんご用意しておりますので! ぜひぜひ食べに来てくださいッ!!」
オグリがライアンに説明しようとしたそのとき、肩から『桜餅テンアゲ宣伝部長』と書かれたタスキをかけたサクラバクシンオーがカフェテリアに勢いよくやってきた。
「桜餅? トレセン学園では桜餅を配る習慣があるのか?」
「あぁ、たぶん交流会というか、新入生歓迎会のイベントで作ってるんじゃないかな。前にもゴールドシップっていうウマ娘が何メートルもある海苔巻きを作ったことがあるしね」
「海苔巻きッ!? それは動画になっていたあのおっきな海苔巻きのことかッ!!」
「えッ!? あ、うん。どうやって作ったのかはわからないけどそうだよ。こういうイベントでは彼女は必ず参加しているから、今回も桜餅で……また大きな桜餅とか作ってるかもしれないよ」
「おや、ライアンさん! よくご存じですね! さきほど直径2メートルくらいの桜餅を完成させていましたよッ!」
そんなバカな。カフェテリアにいた全員が驚き──いやよく見たらオグリだけは目がキラキラしているが──ともかくまたゴルシがなにか作ったらしい。
直径2メートル。餅の部分もそうだが、餡だってとんでもない量が必要だろうし、桜の葉っぱの塩漬けだって……いや、そもそもそんな巨大な葉っぱがあるワケ……いや、でも、ゴールドシップだし……。
「っていうかバクシンオー、そのタスキは?」
「はい! これは桜餅テンアゲ宣伝部長の証です! 最初は桜餅を直接配る予定でしたが、優等生である私にはこちらのほうが似合うとダイタクヘリオスさんとトーセンジョーダンさんが用意してくれましたッ!」
走って配る間にグチャグチャになると思ったんだろうな。でも直接言うのはムダだと思って前向きに誤魔化したのだろう。コミュニケーション能力の高いあのふたりならそれぐらいの気遣いはお手の物のはず。
「ライアン、そのゴールドシップというウマ娘と会わせてくれないか? あのおっきな海苔巻き、ぜひ食べてみたいんだ」
「アハハ! たしかにサイズはともかく美味しそうだったもんね。それじゃあせっかくだし、私たちも桜餅を食べに行こうか! バクシンオー、宣伝がんばってね」
「はいッ! ライアンさんもオグリキャップさんも、交流会をぜひ楽しんでバクシンしてくださいッ!」
「ありがとうサクラバクシンオー。フフッ、早くも夢がひとつ叶うかもしれないのか……うん、これは楽しみだな……」
「夢って、大きな海苔巻きのこと?」
「あぁ。あの海苔巻きはぜひ食べてみたいと前から──」
「バクシンバクシンッ! ふぅ。これでかなり大勢の方に宣伝できたのではないでしょうか? ……おや、いつの間にか三女神さまの前に来ていたようですね。ふむ……日頃、私たちを見守ってくれているのですし、あとで三女神さまにも桜餅をお供えしましょう! ──んん?」
スピードが63上がった。
パワーが63上がった。
芝適性がA+になった。
短距離適性がA+になった。
「良バ場○」のヒントレベルが上がった。
「ややッ!? これは──まさか、優等生である私に委員長と宣伝部長、ふたつの“長”の力が合わさり最強の力にッ!? なんということでしょう、また模範的ウマ娘として成長してしまいました……我ながら末恐ろしいですね……ッ!」
せっかく指摘してくれたのだからサブトレーナーの行動を制御したい。
↓
でも急にまともになると辻褄が合わない。
↓
せや! ウマ娘に説教してもらえばええやん!
次回から本編(?)に戻ります。