爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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皐月賞はシンボリルドルフが危なげ無く勝利したのでカットです(手抜き)

日本ダービーは真面目に書きます。作者の主観での真面目ですが。


こばなし そのよん

 早起きは三文の徳。

 

 その言葉は真実であると、昔の人は素晴らしい言葉を残したものだとメジロライアンはしみじみと感じ入っていた。

 

「……ふー、よし。ふたりとも、もう少しペース上げても大丈夫だぞ」

 

「ふむ。相変わらず見事な体力だなサブトレくんは。ライアン、せっかくだし少し遠回りのコースを選んでみるのはどうだろう?」

 

「いいね! 今日は時間を気にしなくていいし、せっかくのいい天気だからね。川のほう通って学園まで帰ろうか!」

 

 同行者にビワハヤヒデがいるのは良かったのか悪かったのか。一瞬考えたものの、やっぱりいてくれて正解だったかもしれない。異性と併走というこのシチュエーション、ひとりでは少々メンタルにくるものがある。

 一緒に筋トレをすることも多くシャツ1枚のきわどい超えてアウトな出で立ちにも慣れつつあるメジロライアンだが、この早朝ジョギングを並んでというのはウマ娘的に超☆ストライクなのだ。

 

 ジョギングデートが憧れとして話題に上がるのは世の男たちの体力事情もある。いくら走ることが好きなウマ娘とはいえ、それはある程度の速度があってこそ。

 あまりにも遅い相手に併せて走るのはストレスでしかない。一般ウマ娘はもちろん、競走バともなれば“遅い”の基準も高くなる。

 

 ヒトがウォーミングアップと呼ぶレベルはとうに超えている速度と距離を走っても、ほとんど息を乱していないサブトレーナーの体力は尊敬に値する。

 朝早く、新調したトレーニングウェアの着心地を試すのだとランニングの準備をしていた彼とバッタリ会ったのはまさに幸運。まるで少女マンガの王道のような展開に多少のワクドキを感じてしまったライアンを誰が責められるだろうか? 

 

 うん、やっぱりハヤヒデも一緒に来てくれたのは良かったかもしれない。自分ひとりだったら緊張し過ぎて色々と危なかったかも。

 

「それにしても、サブトレさんにしてはなんだか重たそうなウェアを選んだんだね」

 

「通気性は悪くない……かな。できればもう少し軽いといいんだが、やっぱりウマ娘用と比べると種類が少なくてなぁ~」

 

「普段着ていたものはどうしたんだ? たしかに多少は劣化していたようだが、廃棄してしまうほどではなかっただろう?」

 

「んー、まぁ、ね。アイネスに説教されたからさ、少しは我慢することにも慣れようかと。さすがに本気で運動するときはもっと薄手のウェアにしたいところだが」

 

 やたらと露出が多いで賞のおかげでウマ娘たちの頭は今日も性駿、しかも本人は距離感がおかしいで賞の3部門でワールドレコードを持つ無敗のエロチック三冠トレーナーでも、どうやらアイネスフウジンの説教はそれなりに効果抜群だったらしい。

 

 しかし。

 

 説教されて即座に改善したということは、だ。

 

 つまり前のトレセン学園では誰ひとりとして彼の服装その他に対してツッコミをいれた者はいなかったということでもあるワケで。

 

 数年前、彼がまだ駆け出しトレーナーだったころの地方の扱いを思えば黙っていたくなる気持ちもわかる。当時は地方のウマ娘がGⅠを勝つなどと誰も考えもしなかったし、世間では地方は中央で()()()ウマ娘が流れ着くところというイメージすらあった。

 臥薪嘗胆の日々を過ごすウマ娘たちにとって、彼の存在は灰色の青春をフルカラー劇場に──多少、配色に偏りがあるが ──変えてくれたのだ。そりゃ1分1秒でも長く堪能したくもなろう。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ほどよい発汗と脚に宿る熱量。トレーニングとするには少々物足りないが、これはこれで5月のまだまだ冷える朝の空気の中では心地よい。

 

「……ふぅ。ま、無駄遣いにはならずに済んだってトコかな。長いこと甚平姿で半分トレードマークみたいなものだったんだが、ウマ娘にダメ出しされてんのに着るのはちょっとアレだし。素直にこれからはジャージにしとくかねぇ~」

 

「ほかのトレーナーさんたちも服装はわりと自由だけどね。樫本チーフはしっかりスーツ着てるけど、学園全体で見ると……うん、甚平そんなに奇抜でもないかも」

 

「そんなこと……そんなこと……うーん。そういやウマ娘の勝負服に負けないくらい個性あるよな……。俺、着物姿で歩いてるヒト初めて見たときマナーとかの外部講師かと思ったもん」

 

「実際にそういう授業もあるがな。せっかくだし、社会に出たときのために1度くらいチケットやタイシンにも受講させたいと思っているのだが……」

 

「チケットにマナーの講習かぁ。言っちゃあ悪いがあいつ、正座ガマンできるのか?」

 

「ムリだな。1分──いや、30秒でも耐えられたのなら称賛に値するだろうね」

 

「だよなぁ。っと、身体が冷える前に後始末しないと。ライアン、ハヤヒデ、ジョギングに付き合ってくれてありがとな。よかったらルームに顔出してくれ。簡単な朝飯くらいなら用意するぞ」

 

 

 ────。

 

 

「簡単な朝ごはん、ね。サブトレさんの簡単はあんまりあてにならないからなぁ~。見た目の彩りにも栄養バランスにもとことんこだわってるし。たまに考えちゃうよね、トレーナーの仕事ってなんだっけ? って」

 

「サブトレくんの用意する食事であれば、ブライアンも少しは野菜を我慢して食べるから姉としても助かっているよ。よく味の染み込んだビーフシチューはブライアンもお気に召したらしい」

 

「うんうん、たしかにアレは美味しかったね! クリークやヒシアマが真剣な顔してレシピをメモしてたのも納得だよ」

 

「隠し味のブランデーは学生が購入するのは難しいだろうがな。それはそうと──ライアン、キミがジョギングに同行してくれて助かったよ。私ひとりでは少々手間取っていたかもしれないからね」

 

「手間取る?」

 

「なに、大したことのない簡単な未来予測だよ。仮に、私とサブトレくんのふたりでジョギングデートに出かけたとするだろう?」

 

「いまデートってハッキリ言ったね」

 

「朝日がようやく昇る薄暗い空の下、並んで走るふたり以外は世界からいなくなってしまったかのように静かな時間の中で互いの息づかいだけが耳に届く。トレーナーとウマ娘という事務的な関係性でありながらプライベートで一緒に走るという特別な状況下ではきっと彼もウマ娘のビワハヤヒデではなく私という個人を意識してしまうに違いない。そしてそんなタイミングで小石につまずくサブトレくん。もちろん私は素早く彼を抱き止める。『大丈夫かいサブトレくん?』『あ、あぁ、すまないハヤヒデ、助かったよ』普段は男らしくない彼も、突然のハプニングで私の女らしさを再確認することで動揺してしまうだろう。そうなれば最早ジョギングどころではなくなるし、明日からは私と彼との間に生まれた目に見えない繋がりのせいで周囲のウマ娘たちもなにかと遠慮してしまうことになってしまう。私が彼の心を独占してしまうことで後輩たちの成長を妨げるのは不本意だからね。故に──ライアン、キミが一緒にいてくれて助かったということだ」

 

 姉と妹。どこでここまで違いが生まれるのだろうと、わりと本気でメジロライアンは考えていた。禁欲的にトレーニングに励むナリタブライアンの姿とは面白いほど真逆である。

 まぁ、ブライアンのように彼の側にいても()()()()()()()()()()()()()()()のもそれはそれで心配なのかもしれないが。まったく異性に興味が無いというのも考えようでは不健全だろう。

 もっとも、少なくともハヤヒデの周囲にはあまりその手の話で盛り上がるようなタイプではないウマ娘が多いのも知っている。ウイニングチケットはサブトレーナーを異性として認識しているかも怪しいし、ナリタタイシンはトレーナールームの据え置きゲームで遊ぶ仲間という雰囲気に見えるし。

 

 案外、こういう話をしたいけれど機会に恵まれなくてこんな感じになっている可能性が? そういうことなら少しぐらいは──いや、やっぱり遠慮させてもらおう。なんかこのまま1時間とか平気で語り続けそうだし。

 

「うん、そうだね。それはそうとハヤヒデ、私たちもいい加減部屋に戻って着替えてこないと。せっかく朝ごはんを用意してくれるってサブトレさんが張り切ってるんだし、遅くなっちゃったらもったいないよ」

 

「おっと、少し語りすぎたか。さて、今日はなにを用意してくれるのか楽しみだ。寮の朝食も充分美味しいが、やはり男性の手料理というものは特別感があるからな」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 休日ということもあり、寮だけでなく学園もかなり静かである。気配があるとすれば彼を含む徹夜組であろうトレーナーたちと警備員、あとは各名家から出向しているその道のプロフェッショナルたちぐらいだろう。走ることに青春フルスロットルなウマ娘たちだって休日の朝くらいはゆっくり眠りたいのだ。

 それでも寝起きの空きっ腹に美味しそうな香りが届けば跳ね起きるかもしれないが、十中八九サブトレーナーが調理しているだろう甘塩っぱいタマゴの焼ける匂いもさすがに寮までは届かない。

 

「んん~♪ これは和食で決まりなの! というかライアンちゃん、ジョギングに行くならあたしも誘ってほしかったの」

 

「いやぁ、アイネスにしては珍しく熟睡してたからね。昨日、ギリギリまでアルバイトだったんでしょ? 今日は学園も休みだし、ゆっくり寝かせておこうかと」

 

 ちょうど着替えるタイミングで起きたルームメイトを誘って彼の待つ部屋を目指す。

 

 ライアンとアイネスだけではなく、ハヤヒデに誘われたのであろうまだ少し眠そうなチケットに欠伸をするタイシン、寝ぼけているアグネスタキオンの頭を鷲掴みにして引きずるマンハッタンカフェ、夢遊病にも見えるが足取りだけはしっかりしているオグリキャップ、おそらくデザートとして切ってもらうつもりなのだろう大量のフルーツを包んだ風呂敷を背負っているゴールドシップなどなど。サブトレーナーの作る朝食目当てのウマ娘たちが続々とトレーナールームに集まってきた。

 

 チームの枠を越えて集い、同じテーブルで朝ごはんを食べるウマ娘たち。そんな彼女たちの様子を満足そうに、あるいは幸せそうに眺めながら次々と料理を運ぶサブトレーナー。そんな空間で絶品のみそ汁をすすりながらライアンは改めて思った。

 

 

 トレーナーの仕事って、なんだっけ?




アプリではヒシアマゾンがツインターボなど寮生たちに朝ごはん(サンドイッチ)作ってる描写もありましたが……寮の食事事情がどうなっているのか、作者はあまりよくわかってません。

トレセン学園ならカフェテリアも年中無休で運営してそうですが。
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