爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

33 / 47
前回のあらすぢ。

エアグルーヴは『ハーブティー』『季節の行事』の会話ピースを手に入れた!

『サブトレーナーのルーム』にお出かけできるようになった!


マイルでスマイル

 ──さて、今日の仕掛けどころはどこになるかしら? 

 

 

 マイルのGⅠレース『NHKマイルカップ』を走るマルゼンスキー。彼女はワクワクしながら集団の先頭を走っていた。

 

 ギアを上げるタイミングを慎重に、丁寧に、いますぐ全力で駆け出そうとするウマソウルの本能を理性で無理やり捩じ伏せながら走っていた。

 すでに周囲の景色は出走しているウマ娘たちの領域同士がぶつかり合いすっかり様変わりしている。レースで慣れ親しんだターフではなく──アスファルトを蹄鉄が切り裂く高速道路のように。

 

 

 マイルカップに出走しているウマ娘たちが求めた領域。その走りの理想は“車”であった。

 

 

 ウマ娘として生まれたのなら1度くらいは誰もが考えることだ。スピードの向こう側を求めて、いつかは車にだって勝ってみたいと。

 バ生のどこかでさすがに時速100kmを超えて走るのは無謀であると気がつくが、それでもその“速さ”に憧れるウマ娘は大勢いる。それこそ、ヒトに比べてはるかに多い。

 脚質がスプリントやマイル向きのウマ娘は特にスピード狂いになりやすい。そんなウマ娘たちが領域を手にしてGⅠに集えば……こうなるのは予測可能回避不可能というものであろう。

 

 

「この私が2着ッ!? この私がslowlyッ!? いいや、今日こそは私が勝たせてもらうッ!! このまま世界を縮めてやるッ!!」

 

「領域……可能性の新しいベクトル……これが“スピード”の“向こう側”か……ッ!? あは、アハハ……頭がおかしくなりそうだ……ハハァッ!!」

 

「そう何度も独り勝ちを許してなるものかッ!! 伊達や酔狂で“竜巻”などと名乗っているワケではないと証明してみせようッ!!」

 

 

「来たわね~? フフッ♪ 悪いけど、そう簡単には勝ちは譲らないわよ? ──エンジンの違い、見せてあげるッ!!」

 

 

 この世界には存在しない仮定の話。

 

 マルゼンスキーは強いウマ娘であった。それこそ、まともに勝負になるのはシンボリルドルフを含む数名しかいないほどには走るのが速かった。それは、ほかのウマ娘たちが憧れと同時に“恐怖”を抱くほどにだ。

 模擬レースで、選抜レースで、同じコースを走っているはずなのに彼女たちは自分のことを見ていない。マルゼンスキーに勝負を挑む者は無く、自分以外のウマ娘だけがレースをしているかのような孤独な錯覚である。

 

 強さ故に、怪物と畏怖されるウマ娘。

 

 だがそんな孤独な怪物が誕生することは無かった。地方のウマ娘がGⅠレースに勝利したというニュースが報じられてから、中央トレセン学園のウマ娘たちの意識も変わったのだ。

 努力は才能を超えることができる。私たちとは違う、彼女たちは特別なのだと、風に吹かれたままの草のように全てを諦める必要はない。中央ですら一握りの天才だけが得られると()()()()()()()GⅠウマ娘の称号に挑む権利は平等なのだ。

 

 ルドルフと並び、無敗のウマ娘として走るマルゼンスキーを恐れるウマ娘はこの場にはいない。中央も、地方も、敗ける度に彼女たちはより強くなり自分に挑んでくる。今度こそ必ず追い越してみせると最高の気迫を宿して。

 

 

「──これが私のッ! フルスロットルよッ!!」

 

 

 あぁ、どうか三女神さま。

 

 この幸せな時間が、いつまでも続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぉぉぉぉッ!! 今日のレースも超☆接戦ッ! 誰が勝ってもおかしくない、ライバルたちの火花散らすデッドヒートぉぉぉぉ……。てぇてぇ……表情を曇らせているウマ娘ちゃんは誰もいない、全員が闘志メラメラで次のレースでまた戦おうとアオハルしてる姿……てぇてぇよぉぉほぉぉぉぉん……ッ!! はぁぁぁぁ、あの空間をより間近で感じたい……ノータッチの精神は絶対厳守ならばあと1歩くらい歩み寄っても……しかし、どうすれば……ハッ!? もしかしなくてもウマ娘として産まれたのは覚悟が試されているからではッ!? ────ひ ら め い た ッ!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「えぇと……教えていただいた練習用コースはここであっているはず……っと、どうやらナイスタイミングだったようですね」

 

 取材のために中央トレセン学園にやってきた月間トゥインクル記者・乙名史悦子は、ちょうど目的の人物がウマ娘たちのトレーニングを監督している姿を発見し早足でコースに近づいた。

 

 

 先輩記者から教えてもらっていた、噂の男性トレーナーである。

 

 

 ただでさえ少ない男性スタッフ、しかも現役トレーナーともなれば下手をすれば現在は世界で彼ひとりかもしれない。希少性というだけでも取材する価値はある……のだろう。

 ぶっちゃけウマ娘に魅了されて記者となった乙名史としては性別などどうでもよいのだが。大事なのはトレーナーとして優秀かどうか、ウマ娘たちにとって信頼できる人物なのかだけだ。

 

 おそらく、熱心なウマ娘ファンも同じようなものだろう。そうでなければいまごろ、いや長老のトレセン学園に所属していたころから大騒ぎになっていたはず。

 珍しいと思いつつ、ウマ娘たちにとって良くないことになるかもしれないと誰もが大きく取り上げることを控えていたのだ。

 が、それはあくまで男性トレーナーとしての扱いについてである。ウマ娘の指導については別腹なのだ。

 

 最初に乙名史に気づいたのは側に控えていたウマ娘たちだ。

 

 ひとりはエアシャカール。徹底的にライバルを分析し臨機応変な走りでオープン戦の勝ちを重ねている頭脳派のウマ娘として注目されている。

 もうひとりはアイネスフウジン。鍛えられたフィジカルで先頭を意気揚々と走る様子は本人の明るく爽やかな印象と合わさり大人気である。

 

 ターフを駆けるウマ娘たちの走り方を見るに、おそらくは中等部の子たちだろう。ならば彼を挟むように立つふたりは後輩たちの練習を見守る先輩たちといったところか。

 

 一瞬だけこちらを見て足音の正体を確かめると、軽く頭を下げて再びコースに視線を戻す。目立ちたがるワケでもなく喋りたがるワケでもない。

 こういう言い方は失礼なのはわかっているのだが、よく躾けられた番犬と猟犬のように彼に付き従っているようにも見える。まるで彼こそが正規のトレーナーであると、彼女たちを知らない者が見れば誤解してしまうかもしれない。

 

 それだけ慕われ信頼されているのだろう、乙名史はそう結論付けた。もちろんなんの根拠もなくそのような判断を下したのではない。

 

 ターフで走る18人のウマ娘たちに次々と指示を出しているのだが、驚くべきことに彼は全員のことをちゃんと名前で呼んでいるのだ。

 次の18人も、そのまた次の18人も。もしかすると全校生徒の顔と名前を全て記憶しているのだろうか? それはさすがに大げさかもしれない。だが、少なくとも中等部全員の顔と名前くらいは記憶していてもおかしくはない。

 

 

 

 

 実に。

 

 

 

 

 実に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実に素晴らしいッッ!!!!  

 

 

 

 

 ウマ娘たちを導くためならば顔や名前はもちろん、芝やダート、距離適性に作戦の得手不得手、あらゆるデータを収集し分析し全員の脚質を完璧に把握して記憶しているに違いないッ! 

 それどころか食事や休息についても自分で世話を行い、ウマ娘たちと一緒にトレーニングできるよう身体も鍛えて隣を走れるほどに自分自身も限界まで追い込んでいるかもしれないッ! 

 

 

 感動のあまりハァハァと、恍惚とした表情で息を荒くし件のサブトレーナーを後ろから見守る乙名史。いますぐ取材をしたいところだが、トレーニングの邪魔をするのは彼女の記者としての在り方に反する行いである。

 それにターフを走る若駒たちも実に魅力的な走り方をしているのでじっくり観察したいというのもある。まだまだ荒削りであるものの、メイクデビューがいまから楽しみであると期待したくなるくらいにだ。

 これが彼の指導の賜物だとすれば、やはり取材をする価値は大いにある。まずはなにから聞いたものか、乙名史はウマ娘記者としても、ひとりのウマ娘ファンとてもワクワクが止まらなかった。

 

 

 

 

 そんな乙名史の様子をバッチリ気配察知しているシャカールとアイネスはさりげなくサブトレーナーのやや後方に位置取り、いつでも彼女を押さえ込めるよう身構えていた。

 

 乙名史悦子記者のことはちゃんと知っている。こんなんでもウマ娘関係のメディア側としてはトップクラスで信用できる人物なのだ。こんなんでも。

 だが、客観的に見ていまの彼女は完全に不審者である。間違いなく頭の中はウマ娘のこと一色なのだろうが、状況的には男性トレーナーの後ろ姿に興奮しているセクハラ記者でしかない。

 

 物理的に彼をどうこうできるヒトの女はそうそういないのはわかっている。だがウマ娘としての本能と言うべき部分がこの変態から信頼するトレーナーである彼を守護らねばと訴えかけてくるのだ。

 あと、このバイオ・オーガニック・フェロモンが乙名史記者から変な影響を受けてタイラントに進化しないようにと警戒している部分もある。現状ですら日々の鍛練に潤いを求めるウマ娘たちがあの手この手でアプローチを仕掛けては自滅しつつベッドの中でニヤニヤ笑う夜を過ごしているのだ。ある意味で健全なる若者の姿だが。

 実際には大きなトラブルに発展することはないが、なぜか後始末を引き受けるハメになることが多いシャカールとアイネスとしては、可能性があるだけでアウトである。

 

 

 いや、まぁ……彼の名誉のために言っておくが、サブトレーナーと過ごす時間そのものに不満はない。あくまでも彼の名誉のためにね、不満はないっていう話としてね? 

 

 

 ハァハァする記者とピリピリする先輩たちの様子を不思議に思いながらも、もしかしたら月刊トゥインクルに写真が掲載されるかも? そう考えた中等部のウマ娘たちはいつも以上に気合いが入る。

 そんなウマ娘たちの様子にさらに感動を深めた乙名史は、本来の目的である『マイルのウマ娘たちの活躍と、彼女たちが口にするスキルや領域について』の取材が見事に頭からすっぽ抜け──上司と先輩に呆れられながら叱られるのであった。




ついに始まる日本ダービーッ!

ターフに集う領域に目覚めたウマ娘たちッ!

迎え撃つは無敗の皐月賞ウマ娘、シンボリルドルフッ!

ファンの期待を一身に背負い走る彼女を突如として飲み込む謎の世界ッ!

そこに現れたのは……もうひとりのシンボリルドルフッ!?


次回! 『爆進! ウマランナー!! 会長はつらいよ・リローデッド』に、チャンネルセットッ!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告