爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ

キラキラエガオ(強者)
ギラギラエガオ(勇者)
ギラギラエガオ(記者)


会長はつらいよ・リローデッド

『──さぁ順位を振り返ってみましょう! 先頭はディスカッター意気揚々と逃げるッ! それを見るようにパステルフェアリ前につめるッ! 3番手マイブリス安定した走りで追走ッ! やや後方、本日の二番人気“ターフの麒麟児”シャドウミラーが外側から様子をうかがうッ! ここまでで先頭集団を形成しています!』

 

『ハイペースな展開になりましたね! やはり日本ダービー、ウマ娘たちの気合いのノリも違います!』

 

『さらに、3バ身後方にシームレスバイアスッ! それを見るようにオーロラクイーンッ! 外から外からグレースメリアッ! 1バ身差、ペッパーキャットッ! 本日の一番人気、無敗の皐月賞“常勝ウマ娘”シンボリルドルフここにいたッ!』

 

『芝の感触を丁寧に確かめていますね! これは後半、鋭い差し脚が期待できますよ!』

 

 

 ◇◇◇

 

 

「さぁキサンらぁッ! 覚悟はいいかッ! ──地獄の壁の厚さを知れェェいッ!!」

 

 レースも中盤戦を越えたころ、追い込みで走っていたひとりのウマ娘の領域が本人を含めたフルゲート18人全てを飲み込んだ。

 もちろんその程度で動揺するようなウマ娘はここにはいない。相手の領域……この追い込みウマ娘の得意とする走り方の完成形がどのようなものか興味はあるが、それに押されて自分のペースを乱すワケにはいかない。

 

 それは、芝の状態を確かめるように“差し”を意識して走っているシンボリルドルフも同じである。今日のダービーは素晴らしきお日さまぱっぱか快晴レース、なれど今朝方まで降っていた雨の影響でバ場の状態はお世辞にも良いとは言えない。

 担当のレオトレーナーと相談して決まったプラン。いつもの先行ではなく、ギリギリまでターフの感触を確かめてスパートで一気に差しきって勝つという作戦はいまのところ悪くない手応えだ。

 

 フィジカルはなにも問題はない。鍛えたスタミナを武器に、垂れウマを警戒してやや外側に位置取りをしても問題なく走りきれるだろう。

 

 

 問題は──メンタルである。

 

 

 18人のウマ娘の中で唯一無二、ルドルフだけが領域無しで走っているという事実が普通にショックなのだ。未だ展開することなく様子見のウマ娘たちもいるが、彼女たちも使えるだろうことはなんとなく理解できる。

 それだけでも落ち込むのに、周囲のウマ娘たちからの『シンボリルドルフはどれだけスゴい領域を使うのか?』というプレッシャーもハンパないのだ。中央トレセン学園の生徒会長にして無敗のジュニア王者からの皐月賞ウマ娘である。そりゃ期待したくなる気持ちは痛いほどわかるが。というか当事者なのでさっきから視線がザクザク刺さりまくりでものごっつ痛い。

 

 いや、これは違うだろ? シンボリのウマ娘として、中央の生徒会長として皆の幸福のために勇往邁進すべく覚悟を決めてターフの上に立つことを選んだが、このプレッシャーはなにか方向性が違うだろ? 

 

 どうしてこんなことに……と嘆くルドルフ。しかし周囲のウマ娘にしてみれば領域を展開することなく自分のペースで走り続けている彼女の姿にこそマジかコイツと嘆きたい気分であろう。

 幸いにしてルドルフがちゃんと本気で走っていることはウマソウルに伝わってくるので負の感情は産まれていない。しかし、その代わりに彼女が領域を展開しない──いや、()()()()のは自分たちが対等なライバルとしてまだ足りていないからかもしれないという素敵な思い込みが誕生していた。

 

 上等だ、それなら無理やりにでもお前の本気を引き出してやる。

 

 本能が猛るままにより魂の輝きを増したウマ娘たち。彼女らの領域が放つプレッシャーのレベルはどんどん強くなる。不幸なことにルドルフは恋愛シミュレーションの主人公のように察しが悪いワケでも難聴でもない。ライバルたちの変化をそこそこ正確に把握してしまったせいで、ますます斜め方向に追い込まれていた。

 

 それでもルドルフが失速していないのは環境に恵まれていたことが影響しているだろう。それはもちろん中央トレセン学園の設備が整っているということも含まれているが、ともにトレーニングに励む友人たちを得られたことが大きい。

 入学してすぐのころはシンボリの名前で、そしてその走りの才能から遠巻きにされることが多かった。しかしあるときを境に──具体的には御意見無用の肌色セレブレーションが中央にやってきた辺りから周囲との関係が穏やかに変化していった。

 彼に対する淑女的(ヘタレ)な態度を目の当たりにしたウマ娘たちは、どれほど強く気高くあろうとも、シンボリルドルフもまた自分たちと同じウマ娘なのだと認識を改めたのだ。

 

 それこそ、サブトレーナーに差し入れの缶コーヒーを渡そうと画策するもなかなか声をかけることができずに旋回していたところを慈しみと哀れみを込めた渾身のドヤ顔で肩をポンッ! と叩いてきたウマ娘を相手に地獄の併走トレーニングを強行する程度には周囲と打ち解けていた。

 なお会長の併走相手を勤めたそのウマ娘、己のウマソウルから光が逆流してもかまわないぐらいの覚悟で逃げ切ったものの、その光景を目撃していた友人に『そう、アナタもやっぱりターフが、走ることが好きなのね! 今度は私とも併走しましょう!』と目を付けられた。ふたりの規格外の間を往復するハメになった結果、件のウマ娘は占いに頼らなくても中央トレセン学園で屈指の実力者へと成長している。残念ながら本人は無自覚なので相変わらずふんぎゃろふんぎゃろとお祈りを捧げているが。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 無敗の二冠バが誕生するのか、それともほかのウマ娘が意地を見せるのか、はたまた地方が再びダービーをもぎ取るのか。大勢のファンが熱狂する日本ダービーも最終コーナーでの勝負が始まっていた。

 ここからが本番。芝の感触は完全に把握した。あとはここまでためていた脚を一気に開放して先頭を目指すのみ。

 

 ひとり、ふたりとウマ娘を追い越すルドルフ。追い越されたウマ娘はそのあまりの強さに心がポキリと折れかけて──などということはなく、最後の最後まで差し返すことを諦めていない。

 その意気や良し。ならばいよいよ遠慮は無用だろうとさらに加速する。3人目のウマ娘からも一瞬、驚きの気配を感じたがすぐに闘志で上書きされた。その様子にルドルフもついつい心が踊る。

 

 僥倖。挑む者とは、ライバルとはなんと素晴らしきものか。中央トレセン学園に入学してから今日まで、これほど満たされた気持ちで走れたことはなかった気がする。なぜなら──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幼いころから『私』に向けられる視線はいつだって冷めていたからね。そうだろう? シンボリルドルフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ!?」

 

 

 一瞬で周囲の景色が変わる。それはファンタジーを題材にした映画やアニメのような、あるいはテレビゲームの宣伝で見るような西洋の城。薄暗いが、いわゆる“謁見の間”のような造りであることはわかる。

 そして、赤い絨毯の先には玉座らしきもの。そこに不敵に微笑みながら脚を組んでこちらを見ているひとりのウマ娘。

 

 

「最初は脚が速いことを褒められた。同世代の子たちもすごいすごいと喜んでいた。だが、いつしか自分の走りを喜んでくれるのは大人だけとなり、共に走ったウマ娘たちはシンボリルドルフという存在を特別視するようになった。良くも、悪くも……ね」

 

「……事実は小説より奇なり、か。ずいぶん知った風な口をきくじゃないか」

 

「当然だろう? 知った風な、ではない。私が『私』のことを知っているのは当たり前のことだよ。それぐらい説明するまでもなく理解しているのだろう? ──いや、自分自身のことなどは存外、わからないことのほうが多いかもしれないがね」

 

 

 スッ……と立ち上がり、ゆっくりとルドルフに近づいてくるウマ娘。同じ勝負服、同じ髪の色。同じ高さで交差する視線と──なるほど、()()()()というものは、己の頭の中に響く音とは異なるものなのだなと場違いな納得を抱く。

 

 

「好敵手、というものは嬉しいものだな『私』よ。これまでのシンボリルドルフの走りを否定するつもりなどサラサラないが、やはり純粋に走ることを楽しめる機会というのは我々ウマ娘にとって大切な……あぁ、それこそ釈迦に説法だったな。キミ(私たち)は独りで走る虚しさを、とてもよく知っているのだから」

 

「それ、は……」

 

「だがいまは違う。東京優駿という大舞台だから、というだけではない。彼が()()()()にもたらしたスキルという技術面に特化した走法。決意、覚悟、理想、あるいは気合いや根性でもいい、ウマソウルの輝きを最高まで高めてくれる“領域”の存在。全てのウマ娘が勝利を目指して邁進できる素晴らしき世界。……いや、まぁ、海外のウマ娘たちの事情はまだわからないが。ファインモーションの護衛たちもいろいろと報告が必要だろうから、広まっている可能性は充分にあるがね」

 

「結構な……ことじゃないか。筋肉の性質や骨格など、生まれつきの条件を理由に夢を諦めていたウマ娘たちにも新しい可能性が見つかったのだからな」

 

「あぁ、そうだ。そうだとも『私』。世界には可能性がばら蒔かれた。これからウマ娘たちは誰もが己の理想を胸にターフへ、ダートへ駆け出すだろう。だから、だからな『私』よ。──もう、いいだろう?」

 

 

「……なに?」

 

「もっと走ることを楽しみたまえよシンボリルドルフ。キミひとりが、唯一『私』だけが理想に殉じるようなマネはもう必要ない。誰かのためではなく、闘走本能のまま『私』のためにダービーを勝ち取ろう? もちろん担当トレーナーにダービー勝利を捧げるというなら、それもまたウマ娘らしくて好ましいが」

 

「──確認するが、もしかして、私はいま、これはアレなのか? いわゆる“喧嘩を売られている”という状況なのか? ハハ、これはなかなか嬉しい誤算だ。さすがは私だな、ジョークもしっかり嗜んでいるとはな……」

 

「落ち着きたまえ。別に私は『私』の理想を否定したつもりはないんだが? ただ、優先順位をほんの少しだけ下げてもいいだろうと提案しているに過ぎないよ。ひとりのウマ娘が背負うには“全てのウマ娘の幸福”は重すぎる理想だからね」

 

「断る。私はシンボリ家のウマ娘として、中央トレセン学園の生徒会長として、皆を導かなければならない立場にある。そしてそれは誰かに命じられたものではなく、自らが選んだ生き方だ。それを途中で投げ出すような無責任なマネはできない。できるはずがない」

 

「なるほど。責任、責任か。──笑わせてくれるじゃないかシンボリルドルフ。忘れたのか? 私は『私』でもあるのだ、キミの心の奥底にある渇望を知らないとでも思っているのか? 立場、責任、生徒会長としてシンボリ家のウマ娘としての義務などとッ!! どれほど嘯いて誤魔化しても飢える心そのものを消すことはできないッ!!」

 

「誤魔化してなどいないッ! これは確かに私が望んだ在り方だッ! 私が求める理想のために、皆を導くウマ娘として相応しい存在に成るために実力を示す必要があるッ! ……だから私はクラシック三冠バを目指したのだ、理想を掲げるに足り得るウマ娘であることを認めさせるために……ッ!!」

 

「強情だなシンボリルドルフッ! いや、ウマ娘だからなッ! やはり我々はそうでなくてはならない、どんな形であろうと挑まれたら迎え撃つのが礼儀だからなッ! ならば私からひとつ、その覚悟を砕く一手を、キミの抱える欲望をお披露目してみようかッ! そう、たとえば──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──たとえば、キミが幼いころに両親と交わした『お腹がピーちゃんになるといけないからアイスは1日1個まで』という誓いを反故にして2種類以上食べてみたいと考えていることは知っているぞッ!!」

 

「く……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、これ、俺ら見ちゃっても大丈夫なヤツ……?」

 

「いや、えぇ~? いや、えぇ……?」

 

「ダメに決まってるっちゃ。完全にプライベートな話だっちゃ……」

 

「これ不可抗力よね? ワタシら巻き込まれただけだし……」

 

「さすがにこの展開は予想してなかったんだな、これが……」

 

「とりあえずワシらぁ柱ン陰にでも隠れるかのぉ……」




後半に続くッ!
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