爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
生徒会長×ペルソナ=テンタラフー!
ウマ娘たちは こんらん した !
「私は知っている。皆とカラオケに行ったときに、お気に入りの洋楽を歌ってみたいと考えているが知らない歌では皆も反応に困るだろうし別にほかの歌でも楽しめるからと遠慮しているのを。本当は歌ったときに皆がどんな反応をするか気になるのだろう?」
「わかりみ深ぇわ。なんか洋楽って遠慮しちゃうんだよね」
「好きに歌えばいいのに、ってお互い思ってるんだろうなぁ」
「私は知っている。カフェテリアで食事を選ぶとき、デザートが付属しているものを食べたいと思いながらもそれを選択してしまえばその日に食べても良い菓子類の枠を消費してしまうと悩んでいることを。本当はアップルパイにアイスを乗せて食べてみたいのだろう?」
「いや、アップルパイのアイスはトッピング扱いでいいでしょ」
「パフェとかプリンアラモードとかどういう扱いになるんだろ」
「私は知っている。皆とバーベキューをしたときに、お肉の脂身の味が移ってしまうので海の幸を焼くときは別個のスペースで焼きたいがタレを付けて食べるなら結局美味しいからそれで良しと妥協していることを。本当はゆず胡椒やわさび醤油も使いたいのだろう?」
「たまにトング持って一時停止してたのはそういう理由か」
「今度やるときはカラ付きのエビとかホタテも用意しよっか」
「そう……私は知っているぞシンボリルドルフッ! 放課後に売店に併設された休憩スペースでッ! ウマ娘たちが楽しそうに食べているインスタントラーメンに興味津々で自分も一緒に食べてみたいと思っていることをッ! 本当は天ぷらそばの“あとのせサクサク”がどのようなものか体験してみたいのだろうッ!?」
「いや、食えよ。買えるだろ、GⅠレース勝ってんだからさ」
「イメージ的に遠慮してるのかしら? 皐月賞ウマ娘だものね」
柱の陰からはシンボリルドルフの表情は見えないが、耳がどちらもペタンと垂れているあたり指摘の内容は正解なのだろう。他人からしてみれば些細なことであるが、彼女の普段の様子──各種メディアで理想について語る姿を思えば、理解できないこともない。
ただ、それをもうひとりのシンボリルドルフがわざわざ本人……本体? に叩き付ける理由がイマイチわからない。ファンタジー作品でよくあるパターンとしては、ルドルフ(影)は抑圧された感情が人格を得て主導権を奪おうとしているとかだろうか? もしそうなら恐ろしいホラー展開なのだが、内容がアレなのでイマイチ危機感が薄くてリアクションに困ってしまう。
なんにせよ17人のウマ娘たちには見守る以外の選択肢は存在しない。一応、たぶん大丈夫だろうという予感はある。
この空間がルドルフの領域であることはウマソウルが理解しているので、きっとここから彼女の理想の走りにつながるヒントを得る切っ掛けに繋がるのだろうと信じているからだ。
「シンボリルドルフ。多くのウマ娘たちの模範で有ろうとするその精神性は認めよう。だが、キミは少し勘違いをしている」
「勘違い、だと……?」
「そうだ。理想を語るに足る完璧なウマ娘としての己、それを追い求めることばかりに囚われ視野狭窄に陥っているのがいまのキミだ。この際だ、ハッキリと言わせてもらおう。──完璧なウマ娘など幻想だ」
「──ッ!? 貴様ッ!!」
「ほぅ? なんだシンボリルドルフ、
「それは……」
「心当たりはあるだろう? 夢への第一歩、メイクデビューへ出走することを目標に励むウマ娘たち。彼女たちの走りは未熟そのものだが、努力する姿を嗤う者はいない。ファンは彼女たちの“心の強さ”に憧れ応援する。それと同じだよ。皆がシンボリルドルフを慕うのは完璧なウマ娘だからじゃない。理想を求め走り続ける姿に、その行く先に未来を垣間見たからだ。……実績が必要なのは否定しない、しかしルドルフッ! いまのオマエに必要なのはもっと周囲の者たちを信じることだッ!!」
「オマエは孤独な王などではないッ! 生徒会の仕事はどうだ? エアグルーヴやヒシアマゾン、フジキセキ……それに文句を言いながらもナリタブライアンだってッ! ほかにも何人もの生徒たちがシンボリルドルフを支えているッ! トレーニングはどうだ? クラスメイトが、友人が、ライバルたちがッ! シンボリルドルフと競い合い高め合い、同じ方向へと走り続けているッ!」
「同じ視座に立てッ! 全てのウマ娘たちの幸福を望むのなら、まずは己から歩み寄れッ! それがどれほど小さなものでも、それがどれほど単純なものでも、彼女たちと同じ“幸せの形”をオマエ自身が知らなければ意味がないッ! そして、その程度のことでシンボリルドルフに失望する者などいるものかッ! これまでの努力は、積み上げた信頼はその程度のことで瓦解などしないッ! もっと彼女たちを信じろルドルフッ!! ホットケーキを5段重ねてホイップクリームを乗せても良いッ!! カツ丼のお味噌汁の代わりにラーメンを頼んでも良いッ!! 信頼とはそういうものだッ!!」
「熱いこと言ってるけど食べ物率多くない?」
「我慢できるだけで食べたいことには食べたいんだろうな」
「ホットケーキとかサブトレさんに作ってもらったことあるって言ったらどうなるかな?」
「やめとけ。おまえもフクキタルするぞ」
ルドルフ(影)の言葉にルドルフは応えない。
柱の陰から見守るウマ娘たちはともかく、同じ中央トレセン学園から出走しているウマ娘たちは先ほどから変な汗がツツーッと背中を流れている。
ルドルフ(陰)が言いたいことはなんとなくだが理解できる。つまりは、不器用なのだ。我らがライバルにして友人である生徒会長どのは。その様子を見てイライラ──というよりは心配になって対話を試みた、というところだろう。
使命感ではなく、純粋にレースを楽しむ。勝ちたいという気持ちとは別に、真剣勝負の中に自分がいる充実感はウマ娘にとって確かに幸福だろう。敗けたことが悔しくて、届かないことが辛いというのもまた事実だが、それらですら走る喜びを知るからこその感情だ。
だから、そんな当たり前の幸せを体験して理解するべきだという忠告なのだろうが……これをルドルフが頑なに拒んだ場合、少々その、危険じゃないか?
ストイックに自分を鍛える様は流石だが、いくらなんでもそこまで徹底しているとは思っていなかった。この様子だとたまに一緒に遊んでいるときも彼女なりのルールに従って行動していたのだろう。
それは別にいい。しかし、あまりにも自分を追い込みすぎて余裕が無くなるウマ娘というのは毎年必ずと言っていいほど出てくる。もしもルドルフがそうなれば、期待と使命感がほかのウマ娘とは桁違いであるだけに非常に厄介なことになるだろう。
苦しむ友人の姿はできることなら見たくない。可能ならいますぐにでも飛び出して説得したいくらいだが、そんなことをしたらどうなるか? 決まっている、このアレな会話を皆に見られたルドルフがショックでリタイアしてしまう可能性だってある。
ならば黙っているか? そしたら今度はこちらの精神がガリガリ削られるだろう。勝利への想いはあるが、ライバルの不幸を喜ぶほど自分たちは腐ってはいない。葛藤を抱えたまま走るルドルフを見殺しにするようなマネをすれば、必ず後悔するだろう。それぐらいには自分たちは友人であるつもりだ。
なんだこの状況。全てのウマ娘の幸福どころか自分たちはワケのわからない決断を迫られて泣きそうなんだが。いや、間違いなくルドルフ自身も内なる声を叩き付けられて心が揺さぶられているだろうが。
もしかしてこれはアレか? 全員が等しくアンハッピーなら逆に平等な幸せでしょ的な意味なのか? なんだそのディストピア思考。おぉ、三女神よ。どうして
「……キミは私を惑わすためではなく、背中を押すために現れてくれたのだな」
「本当ならもう少しスマートにことを運びたかったがね。どうにも『私』は頑固なようだったから生半可なことでは考えを改めないだろう?」
「それでも好き放題言われたことは少しばかり癪だが……そうだな、それぐらい言われなければ私は生き方を変えることはしないだろう。だが──すまないな、むしろ私の中で以前にも増して闘志が滾っているよ。より理想の生徒会長を目指そうという闘志がね」
「私の話を理解できていない……というワケではなさそうだな」
「なに、極々単純で下らないことだ。己の弱さを認めた上で、私はそれに勝ちたいと思ってしまったんだよ。唯一抜きん出て並ぶもの無し。それはライバルだけとは限らない。私は、自分自身の弱さにも敗けたくない。だからこれは使命感ではない、極々単純で下らない感情だよ。信頼してくれる者たちがいるというのなら、殊更目指したくなるだろう? 理想の走りを、皆を導くに相応しい己の姿を。そう──意地というものがあるのだ、女の子にはね」
「……ほう?」
「キミの忠告はありがたく受け取ろう。しかし、せめて菊花賞まではいまの自分を貫きたい。なにせ私は自分で思っている以上に不器用なようだからね。急に走り方を変えて失速してしまうリスクはできるだけ避けるべきだ」
「ふむ。いくらかは
「なに……? ──ッ!? これはッ!?」
薄暗かった謁見の間に光が満ち、それと同時にルドルフの身体に雷光が宿る。パワーアップ、とは違う。新しい力を得るというよりは、器が満たされる……いや、それも正確とは言い難い。
そうだ。これは最初から自分自身の中にずっとあったものだ。なるほど、こんな大切なモノをいつの間にか忘れていたらしい。
「今日のところはこれで引き下がるとしよう。だがこれだけは忘れてくれるなよシンボリルドルフ。孤独な王に未来は無い。独りで走るレースなんて……虚しいだけだよ」
◇◇◇
「へぇ~? これが中央トレセンの生徒会長サマの領域か。いかにも王様って感じなんだな、これが」
「キミか……。ようこそ、私の領域へ。すまない、巻き込むつもりは無かったんだが」
「なに、わざわざご招待下さり光栄の極みってヤツさ。──それがアンタの領域か。さすがのシンボリルドルフも日本ダービーでようやく手の内を見せる気になったか?」
「これまでのレースとて全力だったがね。少しばかり心境の変化があった、それだけだ」
「そうかい。
ルドルフの雷光に挑むように、ひとりのウマ娘から紅蓮の炎が鳳となって飛び出す。我が翼、その切っ先は触れれば斬れるぞと言わんばかりに鋭く。そしてその様子を見ていたウマ娘たちは完璧に流れを理解した。
私たちは、たったいま、初めてルドルフの領域に招かれた。それ以外の事実は一切存在しない。そう、仮に消えゆく直前にルドルフ(影)が隠れて見ていた自分たちと目が合って一瞬「あ、ヤベェ」みたいな表情をしていたとしてもだ。
「巻き込んでおいて本当に申し訳ないが、いまの私はいつも以上に勝利に餓えていてね。手荒い歓迎になってしまうが……悪く思わないでくれよ?」
テレビで見た“いかにも優等生”の微笑みとは違う好戦的な表情を見てウマ娘たちは確信する。きっと、自分たちは将来「アレはシンボリルドルフの世代だ」と言われることになるだろう。
まぁ、だからといってなにかが変わるワケでもないが。あぁそうだ、たしかに彼女は自分たちとは格が違う。しかしそれがどうした? ルドルフが強いからなんだというのだ、そんなもの勝負から逃げる理由になどなるものか。
彼女を“孤独な王”になど、させるものか。
「中央の英傑シンボリルドルフッ! その御首ッ! 貰い受けるんだな、これがァッ!!」
「来るがいい強敵たちよッ!! 唯一抜きん出て並ぶもの無し、その言葉の意味を知るがいいッ!!」
──無敗の三冠ウマ娘の誕生まで、あと一戦。
シリアスな話が続いたので、次回からはちゃんといつも通りのほのぼのハートフルに戻ります。