爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ。

ロープでぐるぐる巻きにされてグッタリしたアグネスタキオンを引きずるマンハッタンカフェを目撃したウマ娘たちの間に緊張が走るものの、「でもまぁタキオンだしなぁ……」と、とくに騒ぎにはならなかったという。


がんばれ秋川ちゃん2世

 中央トレセン学園の理事長・秋川やよいは忙しい。

 

 どれくらい忙しいかといえば、家に帰る時間すら面倒で職員寮に寝泊まりするくらいには忙しい。

 

 新レース『URAファイナルズ』開催に向けての業務がてんこ盛りなのだ。重要な案件は発案者である彼女が処理しなければ外部への面目がアレなので、ほかのトレセン学園はあまり手出し口出しはできないのである。

 もっとも、やよいの立場を考慮しなかったとしても手伝えるかは微妙なところだが。日本国内のレースのグレードの統一化と予選会場の設定、地元の企業とのやりとりも必要だし一般参加枠の基準についての話し合いに──と、若手から重役までタフネスドリンクを片手に文字通りの意味であちこち走り回っているのだ。

 

 

「んぁ……? 日照……朝、か……ふぁ……」

 

 

 理事長室のソファーで仮眠をとっていたやよいが目を覚ます。カーテンのすき間から射し込む日の光で夜が明けたのだなと時計を見れば時刻は13時。朝どころかお昼ごはんのお時間である。

 時間の感覚がおかしくなっているな~、とぼんやり考えながらタブレットをテーブルに放り投げる。さて、プランはどこまで決まったんだったか? ……そうそう、予選の参加資格をGⅠレース入着以上にしたのだった。

 中央がGⅠを独占していたときならばともかく、群雄割拠の時代となったいまであれば不満も出ないだろう。ちょっとだけ中央の理事長としては複雑な思いがあるが。

 

 想定外にガッツリ寝てしまった以上、すぐに脳みそを叩き起こして仕事を再開せねばならぬ。だがしかし、やよいちゃんだって生きているのだ、眠いものは眠いし疲れるものは疲れるのだ。そんなふうに往生際悪くタオルケットに顔を埋めているところに扉をノックする音が響く。

 

 

「失礼します。理事長、マスターの命令によりお迎えに来ました。昼食の時間になっても姿を現さないので他の皆さんもステータス『心配』になっております」

 

「む……それはすまない。いますぐ支度して……おっと」

 

「ステータス『疲労』を確認。マスターのルームまでの移動は困難であると推測。プランDの実行が必要であると判断します。理事長、私の背中へどうぞ。責任を持って食事をお連れします」

 

「感謝ッ! ミホノブルボン、世話をかけて──まて、いま日本語おかしくなかったか?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 見栄より実益。ハードワークの中、理事長としてのメンツやプライドなど路傍の石ほどにしか感じなくなっていたやよいは一切の迷いなくミホノブルボンにおんぶされることを選んだ。

 

 いまの時期のトレセン学園は非常に静かだ。初等部のウマ娘たちは普通に夏休み、デビュー済みのウマ娘たちはもちろん合宿中。それに加えてお盆休みの期間となれば学園のスタッフも必要最低限である。

 そんな静寂の支配する学園の通路に、食欲をそそる醤油のタレの香りが漂っている。方向からして彼のトレーナールームからだろう。様々な理由で学園に残っているウマ娘たちの空腹を満たすためにいろいろ食事の世話をしてくれている。

 

 まぁ、普段からちょくちょくウマ娘たちはサブトレーナーに……餌付け? されているので彼の料理の腕前はよく知っている。

 一応、休日の自炊も学習の内と推奨しているものの、それを三食キッチリ実行できるかと問われれば──年頃の女子校生には難しい話だろう。遊び盛りの女の子、時間を惜しんでインスタントで即解決である。

 

 もっとも。

 

 ちょい年上の優男系お兄さんがわざわざ食事を用意してくれるのにそれでインスタント食べるヤツがいるのかと。

 

 

 ────。

 

 

「ただいま戻りましたマスター。プランD、理事長の輸送を完了しました」

 

「ありがとうブルボン。あとマスターはやめてくれ」

 

「了解しました。それでマスター、私は次になにをすればよいでしょうか?」

 

「そうだな、理事長のぶんの食事を用意するからお吸い物を頼む。あとマスターはやめてくれ」

 

「ミッション『配膳準備』を開始します。適温まで127秒、マスターもタイミングに注意してください」

 

「軽く炙って温めるにはちょうどいいくらいの時間だな。了解了解。あとマスターはやめてくれ」

 

 

「おぉ。やよいちゃん、お疲れさま。お先にいただいているよ」

 

「うん? ジェミニチーフ……そうだ、オグリキャップのレースが控えていたな」

 

「9月にね。オグリ本人がマイルが得意だって言ってたからね、芝とダートをどちらも1600に挑戦する予定。ギリギリまでトレーニングしてもよかったが……軽く遊んで帰ってくることにしたんだよ」

 

 食欲をそそる香りに満ちたサブトレーナーのルームでは、中央トレセン最年長のトレーナーであるジェミニチーフがお茶を片手にくつろいでいた。

 見た目こそ年相応に歴史が刻まれているが、老齢であることを感じさせないほど活力に溢れている。トレーナーたちの善き相談相手としても頼りになるし、ワケありのウマ娘たちの担当として理事長という立場からもなにかと世話になっている。例えばどこぞの王族ウマ娘とか。

 まぁ、かの王族に関してはそれほど(トレセン学園としては)深刻な悩みはないのだが。女王陛下より『死なない程度の怪我は勉強』『女の子はヤンチャなくらいでいい』『挫折を知ってなお胸を張れずして王族は名乗れない』などの御言葉を頂戴している。

 

 ちなみに樫本理子を学園の看板チームであるレオのチーフに推薦したのも彼女である。なぜなら自分がやりたくないから。余計なしがらみなくトレーナーとして現役でいるための致し方無い犠牲だと素敵な笑顔でハッキリ宣言した。

 つまり樫本チーフのルームにバファ○ンと豆乳とココアが常備されるようになった理由の3分の1はジェミニチーフが原因である。残り? もちろん3分の1は個性豊かなウマ娘たちの行動で、あとの3分の1は目の前でウナギを焼いている甚平男が原因である。

 

 レースに勝利してテンションの上がったウマ娘にドロップキックをされても耐えられるように、という一般人なら顔を青ざめるようなシチュエーションを想定して鍛えられ絞られたサブトレーナーの身体は相変わらずムダにしゅごい。甚平程度の薄着では隠しきれないオーラのようなものがある。そもそもアンダーがランニング1枚なので隠れていない。

 そんな見た目は細身の優男、中身はぱっつんマッスルの彼が丼を両手で抱えて微笑みながら近寄ってくる。なるほど、その肩ひものところにねじ込めばいいワケだ。とりあえず大20枚でいいかな? お持ち帰りコースでお願いいたします。

 

 

「おーい、やよいちゃん。財布をしまいな~」

 

「──ハッ!? 私はなにを……」

 

「別にお金なんて取りませんよ。タダでいいですって」

 

「タダで持ち帰っていいのかッ!?」

 

「持ち帰り……? いや、食器洗いたいからここで食べてもらったほうが……」

 

「いや、いい。ボウズは気にしなくていい。この頭桜花賞の世話はこっちでやるから。となりの部屋で昼寝してるウマ娘たちの様子を見てきておくれ」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 学生の前で不適切な発言をしたことに対するジェミニチーフの教育的指導(物理)により今度こそしっかり意識が覚醒したやよいは、ズキズキと痛む後頭部をサスサスしながら改めて用意された食事をじっくり眺める。

 メインの丼にはウナギ、豆腐と野菜のこれは白和えという物か。そしてお吸い物と醤油漬けにされたイクラにお新香が少々。鰻丼に対してイクラの使い方が少し難しいが実に美味しそうである。

 

 ひと口食べれば案の定。さすがに専門店には劣るが、そもそも食事の用意はトレーナーの仕事ではない。ウマ娘の支えになるならばとなんでもできるように技術を磨く彼が例外なのだ。そこまで努力できるのになんで貞操観念だけは行方不明なんだ。マジでウス=異本から出てきた存在とかじゃなかろうか? 

 

 そんなことを考えながら4杯目のごはんを丼によそって鼻歌まじりにイクラを盛り付けていると、目の前のジェミニチーフがなにやらニヤニヤしているではないか。

 この顔は知っている。樫本チーフに顔役を押し付けたときのようなロクでもないことを考えている顔だ。

 

「ロクでもないとは失礼だね。なに、やよいちゃんもちゃんと異性に興味あるんだなと感心していたところだよ。どうにもウマ娘関係者ってのは仕事一筋でほかのことを疎かにする傾向があるからね」

 

「唐突ッ!? チーフ、思考を勝手に読まないでくれ。たしかに理事長としての立場上、私はウマ娘たちの幸福について常に考えているがそこまで不器用なつもりはない」

 

「いやぁ、ほら。どっかの誰かさんみたいに『私の恋人はもうラーメンと餃子でいいですぅ』とか言い出さないかと心配で。ま、だからといってウマ娘たちみたいに過剰反応されても困るけど」

 

「同感ッ! だが事実、彼はトレーナーとしても優秀だ。そうでなければ男性だからというだけで慕われたりはしない。良くも悪くもウマ娘にとっては“走る”ということはそれだけ重要だからな」

 

「長老トレセンのとこのウマ娘たちが依存しそうになった、ってのもわかるね。嫌味な言い方になるが、GⅠを勝つことに慣れてる中央とは比較にならんほど魅力的なトレーナーだったろうさ」

 

 

 これまで常識とされていたウマ娘の育成に新しい可能性を見出だした若き天才トレーナー。地方のウマ娘たちにとってはある種の劇薬だったことだろう。

 

 それでもなんとか手遅れになる前に彼を手離すことができたのは、これまたイヤな言い方になるが長老トレセンが中央トレセンに比べて小規模だったからだ。

 夏合宿の移動がトレーナーたちの運転で間に合うほどの人数だからこそ、彼ひとり抜けた程度ならばトレーニング計画もフォローが可能だった。トレーニング以外の部分では間違いなくどえらいブーイングがあっただろうが。

 

 

「確認ッ! チーフ、ぶっちゃけ私たちの学園もヤバくないか?」

 

「ヤバいねぇ間違いなく。ボウズが頑張ってくれてるのに甘えてきたツケはとんでもないレベルで積み上がっちまってる。勝つことに慣れてるぶん依存するほどではないが……単純にボウズの仕事を代われる人材がいない。そしてそのことはウマ娘たちも理解しているハズだ」

 

「仮定、もしも他所に彼が出向かなければならないような状況になったとしたら」

 

「短期間の出張くらいならまだ耐えられるだろう。だが、もしも完全な移籍を要求されようものなら──こんなことやよいちゃんに言うのも釈迦に説法ってヤツだけど“ナメられたら走りで黙らせろ”それがウマ娘の流儀だからね」

 

「うぅむ……暴力沙汰にならないだけマシか……。まぁいい。あくまで彼の立場はサブトレーナーだからな、仮に研修の類いを提案されたのならば正規のトレーナーを出すのが礼儀だ。余程のことがないかぎり、中央に残ってもらうことになるだろうな」

 

「そもそもの話、たったひとりのトレーナーの影響力をそこまで深刻に受け取るヤツなんて普通はいないさ。長老トレセンから相談されたときだって半信半疑どころじゃなかったし。──だが実際はご覧の通り、ウマ娘たちのレベルアップが尋常じゃない」

 

「つまり、本来ならば笑い話でしかないような彼の価値を正しく理解できる者ならば……」

 

「ピンポイントで狙いにくるかもしれん。ウマ娘に、レースに関わる者なら喉から手が出るほど欲しいだろうさ。ま、そんな変わり者がそうそういるとは思えないがね!」

 

 それもそうだ、と緊張を解く理事長やよい。

 

 彼が切っ掛けでウマ娘たちが大きく成長したのは事実だが、いまデビューしてレースを走っているウマ娘たちを育てているのはそれぞれの担当トレーナーだ。

 ウマ娘の活躍に注目し、その強さの秘密を探るとすれば最初に着目するのはトレーニングの内容。まぁ、あまりほかのトレーナーの指導内容を探るのは褒められた行為ではないが……自分の愛バの成長のためならば恥も承知で頭を下げるのがトレーナーという生き物だ。気になるウマ娘の担当トレーナーからヒントを得ようと接触してくる可能性は充分に考えられる。

 

 

 だが、そこまでだ。まさか正式な担当を持たないサブトレーナーのところまで押し掛けてくるような者はいないだろう。

 

 

 ただの考えすぎ、働きすぎで疲れているのだなと5杯目のおかわりに手を伸ばすも「肥るぞ」のひと言で大人しくご馳走さまをしてお茶をひと口。

 夏が終われば秋のGⅠ戦線が始まる。シンボリルドルフの菊花賞はもちろん、新しい走りを身に付けた多くのウマ娘たちの獲得賞金額もGⅠの出走条件に届いているはずだ。どのレースもきっと面白いことになる。

 

「ふむ、これもまた自意識過剰か。いかんな、私としたことがいまのウマ娘たちを羨んでいるのかもしれん。さて、美味しい食事で空腹も満たされたことだし、仕事を再開するとしよう!」

 

 

 

 

 

 

 日本を競バ後進国と油断している海外のウマ娘たちが領域同士の激突に巻き込まれる運命の分水嶺、ジャパンカップまであと3ヶ月。




次回のッ! 「爆進! ウマランナー!!」はッ!

『SSR級保護者会+α』の出走だッ!

そこそこ独自設定をブッ込むけれど広い心で許してクレメンスッ!
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