爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ。

本作の秋川やよい理事長は成人女性です。

つまり身長やバ格(意味深)が成長する可能性は……オグリやスペがおかわりを自重するくらいにはありますねぇ!


愛しき苦労人の始まり

「いらっしゃいませー。おやシンさん、相変わらず一番乗りですね。今日のお通しはトコブシのバター焼きとサバの生姜煮ですよー」

 

「こんばんは小さな看板娘さん。そうだな、たまには皆が来るまでのんびり嗜むのも悪くない。あぁ、飲み物はジンジャーエールを頼もうか」

 

「はいはーい。それではお席にご案内しまーす」

 

 

 中央トレセン学園のウマ娘たちのオアシスである地元の商店街、そこのとある夫婦が営む小料理屋に常連客のウマ娘がやってきた。

 前髪の白いメッシュが特徴的な美人で、かつては競走バとしてレースに出ていたらしく、いまは娘さんが中央トレセン学園に通っているらしい。

 

 詳しいことは知らないしサービス業のモラルとしてわざわざ聞こうとも思わないが、仕事柄ときどきトレセン学園にやってきては帰り際にお店をご利用いただいている。それもお仲間の皆さんと一緒で、いつも10人そこそこの大所帯である。実にありがたい上客である。

 両親のお手伝いとして接客を担当しているウマ娘の少女の案内で、最近ではすっかり指定席になりつつあるテーブル席へ移動する。普段はまったく出番の無いご予約席のプレートは実質このグループ専用だ。

 

 

「こんばんわ~」

 

「邪魔するぞ」

 

「うぃ~っす。いやぁ、盆を過ぎてもまだまだ暑いねぇ!」

 

「どもども皆さんいらっしゃいませ~。いつもの席でシンさんがお待ちですよー」

 

 

 続々と“シンさん”の友人であるウマ娘たちがやってくる。全員が元競走バ仲間らしく、なんとなくオーラというか、本能的になんとなく強かったんだろうなという気配は感じる。

 どんどん賑やかになっていくテーブル席に、少女は手慣れた様子で次々にお通しと飲み物を並べていく。全員が揃うまではソフトドリンク、ジンジャーエールにウーロン茶ににんじんジュースにメロンソーダなどなど……特に注文がなければいつも頼んでいるものをサクサクと用意する。

 

 まだアルコールは一滴も提供していないのだが、すでに今年の秋のGⅠ戦線についての話題で場は盛り上がり始めている。ほかのお客さんよりもちょっと専門的な雰囲気なのは、さすがは元競走バにしてトレセン学園関係者といったところか。

 

 

「はーい、こちら季節のナメロウと獅子唐の揚げ浸しでーす。──いらっしゃいませ~。あ、シロさんこんばんわー。そちらの方は……初めまして、ですね。ようこそようこそ」

 

「……日本では子どもがこんな時間に労働しているのか?」

 

「ここはこの子の家族のお店で彼女はそのお手伝い。親孝行の素敵な娘さんでしてよ? こんばんわ、今日もご馳走になりに来ましたわ。あと、こちらのウマ娘は仕事仲間……みたいなものかしら。海外の方なので文化の違いによる不手際があるかもしれませんが、多少は大目に見ていただけると助かりますわ」

 

 

 ウチの店にもとうとうグローバル化の波がきちゃったか~、などととぼけたことを考えながらキッチリと接客をこなしていく。事前に連絡を受けた人数におさまったことだし、ここからは本格的な呑兵衛特別記念杯、距離無制限レースの始まりである。

 ウマ娘の、それも引退したとはいえかつてはレースでバチバチ競い合っていただけあり注文する量もヒトのそれとは比べ物にならない。次々と料理を仕上げては並べるの繰り返し。一応、アルコールだけは少女ではなく父親が運んでいるが。いくら家の手伝いとはいえ、その辺りの気持ちはまぁ、だろうなとお客側も察していた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 カンパイの音頭が店内に響いてからしばらく。

 

 

「だからさ~、娘たちがね? 姉のほうはともかく妹のほうが全然連絡を寄越さないんだよ~。メールのひとつも無いのぉ! 昔はあんなに……あんなに……まぁ、楽しそうにしてるみたいだし、お野菜も少しは食べるようになったらしいけどさぁ! そりゃお肉うまいけど──」

 

「うんうんわかる、わかるよ。私もね、やっぱりレースはスピードが大事だと思うもん。やっぱりお肉のパワーも必要だけど、模範的な速さのためには野菜食べなきゃダメだもんね! やっぱ速さは全てを解決する──」

 

「わたくしとしてはやはり甘いものが重要であると主張したいですわ。筋肉、えぇ筋肉も大切ですが脳の回転を早めるためには糖分が重要であり、常に隙の無い立ち振舞いを心がけるためにも──」

 

 

 そのウマ娘の集団は混沌としていた。

 

 何度も見ている光景なので少女も両親もほかのお客さんたちも特に気にしていない。雰囲気からそれなりの立場があるか、ともかく普段は相応に背筋を伸ばしながら仕事あるいは生活をしているのだろう。こんなときくらいハメを外しても許されるはずだ。どれだけベロンベロンに酔っても暴れたことはないし。ただ……。

 

 

「フフ……このチキン、キチンとサクサクじゃないか……フフフ……」

 

「シンさん」

 

「なんだ?」

 

「そのチキン南蛮、アタシが非番のときもバンバン売れてマスよ」

 

「フフひばんでばんばんンフフフフ……ッ!」

 

「そして人気はいちばんンブフ……ッ!」

 

 

 あぁ、また始まったかとシンさんの隣に座っていたウマ娘が大きなタメ息をつく。普段から大人と接する機会が多いのが原因か、看板娘の少女はこの手のくだらないダジャレがどうにもツボなのだ。

 どうやら学生時代も時折、会話の最中に唐突にダジャレを盛り込んできてはドヤ顔でリアクションを待つことが多かったらしい。

 その度に副会長と呼ばれているウマ娘がアイアンクローに処していたのだが未だにダジャレ癖は治らないのだとか。厳格な母親のこの有り様を見た娘が変な影響を受けてしまったらどうするんだと周囲が嘆くくらいなのでそうとう重症なのだろう。

 

「フフ、相変わらず素晴らしい才覚の持ち主だなキミは。どうだ、キミも中央トレセン学園に入学しないか? 私が責任を持って推薦しようじゃないか」

 

「へ? いや~、その~、お恥ずかしながらですね、アタシも実は競走バを目指しておりまして~なんて……」

 

「ほほう! つまりはキミは未来の後輩となるのか! つまり私は未来の先輩なワケだな。ん? 後輩……先輩……いやダメだ、巧く文章が繋がらない……ッ!」

 

「ごめんなさい、このアホのことは気にしないで。それにしても貴女もトレセンを目指すのね。レースの世界は厳しいけれど、きっと素敵な出会いがたくさんあるわ」

 

「出会い、出会いですか~。でもまぁ、ほら。中央の倍率ってケタ違いなワケでして。合格できるかどうかは未定もいいところ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? いまのトレセンは基本的に全員合格だぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「筆記試験と実技試験が合格ラインに届かない者でも将来性を加味して抱え込む方針だ。追試験を何度も落としたり、レースであまりにも結果が出せないようであれば学園を去ることにはなるが。そもそも私たちの時代と比べて地方が賑わっているぶん倍率そのものが落ち着いているし、キミにその気があるならば────ぴぃッ!?」

 

「あっ」

 

「ねぇシンちゃん? 貴女『守秘義務』って言葉は知っているかしら? 仕事柄、見聞きした大切な情報は安易に外に広めてはいけないという決まりごとのことなんだけれど」

 

「あ、いや、その、だな……そう! これも立派な仕事の内なのだよ! 愛娘がウマ娘たちの幸福を願っているのだがら、母親である私もそれを応援するのは自明の理だろう? 進路に悩む若きウマ娘に進むべき未来を切り開くための助言のひとつやふたつ示すことができなくてなにがシンボ「このたわけぇぇぇぇッ!!」ぎゃぉぉぉぉぉんッ!?」

 

 

 リーダー格のウマ娘が後頭部を鷲掴みにされて悲鳴を上げているのを見てもほかのウマ娘たちはまったく気にした様子がない。

 いや、今回が初来店の海外のウマ娘だけがメッチャ困っている。少女もほかの常連客も見慣れた光景でスルーしているせいでなおさら混乱しているのだろう。

 

「あのふたりは相変わらず平常運転ですわね……。こほん。まぁ、知ってしまったものは仕方ありません。どのみち、入学してからが本番であることには変わりませんし。ですが、できればこの話はご内密にお願いいたします。もし広まるようなことがあれば、あの阿呆に相応の罰を与えなければなりませんので」

 

「その辺りはまぁ、アタシも飲食店の娘ですからしっかりと心得ておりますとも。お客さまのプライベートな情報ですからねー」

 

「ふふッ、ありがとうございます。そのお礼というワケではありませんが、未来の後輩に少しだけアドバイスを贈りましょう。いいですか、レースに勝つために必要なもの、それはズバリ“精神的な強さ”ですッ! 我がメジrん゛ん゛ッ!! えー、わたくしの娘も、親戚の子たちもとあるレースに勝つことを目標とすることで「やっぱりレースに勝つならスピードですよッ!」ちょっとッ!? いまわたくしが話を──」

 

「速さこそ正義! 速さこそ真理! 誰よりも速くゴールすれば1着なのです! スピード、イズ、ビューティフルッ!! 勝利に向かって邁進、マイシンですッ!」

 

「いや、レースに必要なのは洞察力と加速力だ。適切なタイミングで仕掛けることができれば、たとえバ群の中に沈みそうになっても安心だ。やはり力こそパワー、パワーこそ頭脳ッ!」

 

「坂路です。坂路を走るのです。スピードもパワーも鍛えられて、さらにメンタル的な強さも得られる坂路トレーニングこそが原点にして頂点なのです。さぁ、アナタも坂路を走るのです」

 

「いやいや、やっぱり脚の使い方ですよッ! レーンの移動にコース取りにウイニングライブにステップの技術はどこでも使うし役に立つしで一番重要だよ? 私も娘と一緒にリズムゲームで鍛えてるし~」

 

「なにッ!? 日本のウマ娘の強さの秘密はラーメンではないのかッ!? 娘からの手紙には多種多様のウマ娘の個性に合わせたラーメンがトレーニング効果を高めているのだと書かれていたぞッ!」

 

 

「はい、空いているお皿お下げしますねー」

 

 

 もはや少女のことを忘れて白熱する大人たち。このパターンも何度も経験しているので慌てることなく空の食器を回収してテーブルを離れる。

 この盛り上がり方だと、ここからさらに追加注文が大量に入ることだろう。前もって予約の連絡があったので食材の確保は充分だが、元競走バとはいえ引退しただろうによくまぁ太らないものだと感心してしまう。

 

 

 それにしても、だ。

 

 

 毎度のことながら、みんな本当に仲が良い。ライバルとして、友人としてトレセン学園で青春時代を過ごした縁が何年と……それこそ家庭を持って子どもたちが学園に通うようになっても続いている。

 自分もトレセン学園でそんな出会いに巡り会えるのだろうか? 仲間としてライバルとしてお互いに競い合い高め合う。なんだか、まるで物語の主人公のようだ。少しだけ。そう、本当に少しだけだが、いまの自分よりもキラキラと輝けるかもしれない。

 

 

「……いやいや、なーに考えてるんだか。なにごとも分相応、ほどほどが一番ってねぇ~」

 

 

 

 

 

 

 少しだけキラキラどころか、入学後にレース業界の重鎮(国賓を含む)とついうっかり普段の調子で親しげに話しているところを密かに目撃され本人の知らないところで大変なことになるのだが……それはもう少しだけ先の話。




私の作品はクライマックス時空なんじゃないかと思い始めた今日この頃。

次回? ナリタのかわいい方かウマ娘たちの日常のどちらかが主役です。
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