爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ。

本作の設定を考えているときに、『この世界で最初に領域に目覚めたウマ娘』として登場させても、読んでくれている人が素直にあきらm受け入れてくれるキャラは誰かと考えた結果……彼女になりました。
もちろん特別感あるように登場させたかったという気持ちもあります。そこはなんといっても三冠ウマ娘、二次創作とはいえ雑には扱えません。(鋼の意志)


理子ちゃんが筋力を求めるのは間違っているだろうか

 2人目の三冠ウマ娘。それも無敗の、である。

 

 数年前にミスターシービーがそれを達成したときも日本中が盛り上がったが、今回はそれ以上にお祭り騒ぎとなっている。

 魅力的な走りをするものの気分屋で戦績が安定していなかったシービーと違い、とことん王者の走りを魅せていたシンボリルドルフはそれだけファンの期待も大きかったのだろう。

 

 もちろん彼女が通う中央トレセン学園でも我らが生徒会長殿のすんばらしぃ栄光を讃えるウマ娘たちで溢れている。

 

 

「しゃあ! お前ら、手筈通りにイクゾーッ!」

 

『『おぉーッ!!』』

 

「は? ちょ、おい! キミたちなにを──」

 

「せーの!」

 

『『ワーッショイッ! ワーッショイッ!』』

 

 

 菊花賞の勝利はそれとして、無敗の三冠ウマ娘であるルドルフには案の定ジャパンカップへの出走依頼がやってきた。ここしばらくは日本のウマ娘たちが活躍できていないことはルドルフも知っていたし、担当トレーナーからも脚の具合も問題はないと背中を押されて快く引き受けた。

 短い準備期間を無駄にするワケにはいかないとジャージに着替えてコースに向かおうとしたところにコレである。クラスメイトに揉みくちゃにされてそのまま胴上げコースと芝を越えてまさかの空中行き。

 

 困惑しつつもちょっと嬉しいシンボリルドルフ。勝負の世界故に仕方ないことだが、勝ちを重ねることで孤独となるウマ娘は少なくない……らしい。ぶっちゃけ自分の世代はあまりそういう方面に縁がないのでイマイチ実感がない。

 バランスよく鍛えて勝てないならば、あえて弱点は鍛えない。得意な走りを一点特化で磨き抜くことで格上に挑む。あとは野となれ山となれ、出たとこ勝負の大博打。言葉にすれば自棄糞にも思えるが、そこには確かに勝利への尋常ではない執念が込められている。

 

 ともかく。無敗の三冠ウマ娘という偉業を達成しても変わらずこうして友として接してくれる友人たちの存在は貴重であり得難い宝であろう。

 

『『ワーッショイ! ワーッショイ!』』

 

「ははっ、頼むから落とさないでくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『『横わっしょいッ!!』』

 

「へ? ──ぶむぁッ!?」

 

 

 

 

 シンボリルドルフ、射出。

 

 いつの間にか用意されていた避難訓練で使うような分厚いマットに投げ出される。

 もちろん空中なので姿勢の制御などできるワケもなく、そのまま身体の正面からボフンッ! と勢いよく沈むこととなった。

 

「オマエさんがクラシック三冠を達成したお祝いはそれはそれとして、GⅠを独占されたことに対する嫉妬も表現してみたぞ」

 

「ハンパなやり方だとガチで悩んじゃうでしょ? アンタってば本当にクソ真面目だからさ。これなら愛情ある悪ふざけって分かりやすくていいでしょ」

 

「……その気遣いができるなら、最初から普通に降ろして欲しいのだが」

 

「すまない、それはムリだ」

 

「そんな真剣な表情で……。というか、こんな大きなマット、よく持ち出し許可を取れたものだな?」

 

「んーん? 絶対許可出ないだろうから勝手に持ち出したよ?」

 

「え゛」

 

「もちろんこの後たづなさんからお説教&罰則のコンボだろうな」

 

「だが、それを承知の上で私たちはルドルフのことを祝いたかったんだ……。コースの草むしりだろうが校舎のトイレ掃除だろうが喜んで罰を受けるぜ!」

 

 努力と覚悟の方向音痴が酷すぎる。だが、だからこそシンボリの名に怯むことなく挑んでくれてることを思えば……思えば……だとしても胴上げから放り投げるのはさすがにどうなんだ? 

 驚きが強すぎてリアクションできなかったが、万が一が起これば普通に痛いことになるだろうに。まぁウマ娘の身体ではあの程度の勢いではケガなどしないが。ヒトならばともかく。

 

 ……いや、そういえばヒトだが無傷で済みそうなのが何人かいたな。先代のレオチーフとか。

 

「さて、ルドルフさん。おふざけはここまでとして……こちらがご祝儀の本命でございます」

 

「これは……温泉旅館のチケット? わざわざ私のためにこれを──と、いうワケではなさそうだな」

 

 視線をプレゼントされた温泉旅行券から皆のほうに戻してみれば、全員が同じ物を手に持ってニヤニヤと笑っている。つまりはそういうことなのだろう。

 

「さすがにシンボリ家にはオマエさんを独占する許可をちゃんと貰ってるぜ? もっとも、理事長や樫本チーフ、もちろんオマエさんの担当トレーナーに相談して協力してもらったがな」

 

「そうか……。ずいぶんと準備がいいことだ」

 

「あと、旅館のほうにもジャパンカップや有マ記念の結果次第では残念会になるから、そのときは料理の内容とかも変えてくれるようお願いしてあるよ!」

 

「本当に準備がいいな!? それ確実に旅館のスタッフの皆さんも困ってるんじゃないのか!?」

 

「まぁまぁ。シービーさんのときは……あまりお祝いとか、そういう雰囲気ではありませんでしたからね。あの方は少し、突出し過ぎていましたから。正直、入学してすぐの頃の私たちでは、やはりルドルフさんのことをお祝いできなかったかもしれません」

 

「それはやはり、シンボリの名に臆していたという理由で?」

 

「いえ、ルドルフさんの『全てのウマ娘の幸福を~』という発言が単純に意味不明だったので。明確に優劣が付けられるレースの世界に来といてなに言ってんだコイツ頭にはちみーでも詰まってんのかテメーとか思ってましたから。でも、いまなら私たちにもわかります。貴女の走る背中には、たしかに希望がみえますから」

 

「そう言ってくれると私も嬉しいよ。ところで本当に私のことを祝ってくれているんだよな? 不満をぶつけるほうが今回の主題じゃないんだよな?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「サプライズは成功したようですね。無断で学園の備品を持ち出したことについては……一応、たづなさんに温情をかけてくれるよう頼んでみましょうか」

 

 ルドルフが友人たちにイジられている様子を眺めながら理子が満足そうに微笑む。チーム・レオの先代チーフとミスターシービーが三冠を達成したときは、表彰などはともかく学生同士で祝う様子を見た記憶がない。

 

 ──自分たちとは違う。

 

 ──あの子は特別なんだ。

 

 まぁ、あくまで中央トレセン学園の中での話だが。彼女は彼女で地方には友人がいたらしく、ちょくちょく遊びに行っていたことも知っている。案外、あれで彼女なりに青春を楽しんでいた可能性も充分考えられるだろう。

 

「それにしても、胴上げですか。トレーナーとしては安全面を考慮するとあまり褒められた行為ではありませんが……」

 

「チーフ、気持ちはわかりますけれど、それだけみんなルドルフの三冠達成を喜んでる証拠ですよ!」

 

「そうなの! 生徒会長がクラスメイトに慕われてるのはいいことなの!」

 

「ライアン、それにアイネスフウジンですか。もちろんわかっていますよ、喜びを分かち合えるということは素晴らしいことですからね。そしてウマ娘があの程度でケガを負わないことも知っていますが……やはり、立場上ついつい心配してしまうのです」

 

 こればかりはトレーナーのサガなので仕方ない。例え担当ではなくともウマ娘が、とくに競走バがああいう悪ふざけをしているとついつい脚のケガを心配してしまうのだ。

 

「うーん、でもやっぱり胴上げでお祝いって、いかにも“おめでとうッ!”って感じがして私は好きかなぁ。家でお祝い事っていうと、どうしても畏まった形式が多くてさ」

 

「そういうところは名門って不便だなーって思うの。パーティーで豪華なお料理が並んでるの見ても、正直堅苦しそうであんまり羨ましくないの」

 

「それについては大人もあまり変わりませんよ。私は好んでスーツを着ていますが、それでも礼服を手間と思うことはよくありますから。……それにしても」

 

「はい?」

 

 樫本理子は考える。己の愛バであるメジロライアンの先ほどの発言の意味を。普段の言動や性格から推察するに、やはりああいうのが羨ましく思えるのだろうか? 

 たまに忘れそうになるがライアンも名門出身のお嬢様であり、メジロに相応しい教育を受けてきたことを考えると胴上げのようなバカ騒ぎに分類されるようなこととは無縁だったのかもしれない。

 ふむ、ならば担当トレーナーとしてはウマ娘の秘めたるささやかな願いを叶えてやらねばなるまい。ライアンはクラシック路線にはそれほど興味を持っていないが、メジロのウマ娘として天皇賞に対する強い使命感をそのウマソウルに宿しているに違いない。

 

 ならば話は早い。ライアンが天皇賞を勝利した暁には、天高く胴上げを──するのはトレーナーとしてどうしてもケガが心配なのでほどほどの高さで執り行うべし。

 

 そうと決まれば準備が必要だ。チーム・レオの担当メンバーたちにも協力を頼むとして、自分自身のパワートレーニングも必要だろう。担当ウマ娘の吉事に担当トレーナーが参加しないなど言語道断であるのだから。

 あとは効率よく鍛えるためにどうするか考えねばなるまい。トレーニングに関する知識には自信があるが、自分が実践するとなると話は別だ。ここは筋トレに詳しい人物に相談するのが確実で──おや、ちょうど目の前にいるではないか。筋トレの有識者である愛バが。

 

「ライアン、貴女に頼みたいことがあるのですが。私に筋肉を効率よく鍛えるためのアドバイスをいただけませんか?」

 

「はい! 筋肉のことならおまかせ──へ?」

 

「先ほどのシンボリルドルフが胴上げされている様子を見て思ったのです。多少()()()()でも喜びを分かち合うことは素晴らしいことです。ならば、トレーナーに求められるのは危険だからと安易に否定することでなく、逆に私が受け止めてやるぐらいの器と気概が必要なのだと」

 

 あえてライアンの天皇賞のことには触れないように、しかし胴上げに前向きな姿勢を見せる。完璧だ。我ながら完璧な説明であると理子は渾身のドヤ顔気分である。

 しかしながら、その辺りの意図が正確に伝わったからこそライアンは困ってしまった。これはマズい。心の中のメジロの親戚ウマ娘が『ヤベーですわ!』と叫ぶくらいには非常にマズい。

 

 躍動感ある走る姿やウイニングライブのダンスなどを見て勘違いするファンもたまにいるが、ウマ娘の体重は同じサイズのヒトと比べてかなり重い。なにせ同じサイズでありながら圧倒的なスピードとパワーを発揮する筋肉である。一般ウマ娘ならまだともかく、鍛えに鍛えた競走バはそれはもうスーパーヘビー級なのである。

 

 そんなウマ娘の身体を支える? 誰が? 樫本チーフが? そりゃ胴上げならばひとりで受け止める必要はないが、あの樫本チーフだよ? 夏合宿のときに瓶ラムネのビー玉を外せなくてスーパークリークに開けてもらっていた樫本チーフがウマ娘の体重を支えるなんて……できるワケがない! 

 

「……いっけなーい☆ あたし、サブトレーナーから中等部の子たちのトレーニングのことで相談を受けそうな気がすることをすっかり忘れてたの! ゴメンねライアンちゃん、そういうことだから今日はこのへんで──どぅっふぇッ!?」

 

 

 アイネスフウジン、捕縛。

 

 

(ちょっとアイネス! 逃げないでどうすればいいか一緒に考えてよ! 私ひとりじゃ樫本チーフの説得はムリだよ! この人、見た目や雰囲気よりずっと頑固なんだから!)

 

(ムチャ言わないで欲しいの! いくらあたしでも歯磨き粉とケンカして負けるような人の面倒なんて見てらんねぇーなの!)

 

(しょうがないじゃん! ブラシのところが『ピッ』ってなっちゃったんだからしょうがないじゃん! 塩粒入りのヤツだから痛かったんだよ!)

 

「ふたりとも、聞こえてますよ? ……たしかに歯磨き粉が目に入ってしまい、洗面所の前で悶えていた情けない姿を見せてしまったのは私の落ち度です。しかし、いつまでも同じ失敗を繰り返しているワケではありません。すでにしっかりと対策済みです。そう──サングラスをかけて歯磨きをすれば、事故は完璧に防げるのです!」

 

「…………」

「…………」

 

 たまにサングラスかけて廊下を歩いていたのはそれが理由か。

 

 ちなみにライアンは気づいていないが、サングラスを外し忘れて歩く理子の姿を見たチーム・レオ古参メンバーのウマ娘たちの『きっと蛍光灯の光が強すぎておめめが痛いんだ!』という判断によりトレーナールームの明かりが全て刺激の弱いタイプに取り替えられている。もちろん自主的な行動なので経費はレースの賞金からの自腹である。理子ちゃんは担当ウマ娘たちにとっても愛されているのだ! 

 

 仮に『担当ウマ娘の愛情度に応じて筋力ボーナス・A+』のようなスキルを彼女が持っていたらデコピンで瓶の頭も弾き飛ばせたことだろう。

 残念ながらヒト娘である彼女ではスキルを使うことは叶わない。打ち直しも焼き直しもできない以上、自前のトレーニングで身体を鍛えるしかないのだ。

 

「え~と、あ~と……あっ」

 

「アイネス、もしかしてなにか閃いた?」

 

「アレがいいの! ほら、音楽をかけてシャドーボクシングみたいにサンドバッグを叩くヤツ! あれなら()()()()()()()()()()だけだから簡単なの!」

 

「あぁ~、そういえばサブトレさんにお世話になってるときに、ときどきみんなと一緒にやってたね。歌いながらやれば肺活量も鍛えられてライブの練習もできるからって」

 

「音楽に合わせて? なるほど、そういうのもあるのですか。いいですね、それなら念願の“担当と一緒にウォーミングアップ”の願いも叶って一石二鳥です」

 

「あはは……そこまでムリしないほうが……。っていうか、あきらめてなかったんですね、それ」

 

「もちろんですライアン。私は貴女たちの担当トレーナーなのですから。ゆくゆくは彼のように登山トレーニングにも同行してみせましょう」

 

 もしも本当にそうなったら近場に本家のヘリを待機しておいてもらえないか相談しなければ。本気でそんなことを考えながら、すっかりやる気に火がついた理子を連れてトレーニングルームに向かう。

 だが、ライアンは忘れていた。そして、アイネスは知らなかった。感謝祭のイベントなどでトレーナーたちが歌を披露することがあり、そこで理子が見事な歌声を響かせて拍手喝采となったことは覚えているのだが……リズム感が備わっていることと、リズムに合わせて動けるかはまた別の問題であるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理事長、樫本チーフが担当ウマ娘たちと一緒にトレーニングしている最中に倒れて保健室に運ばれたそうです」

 

「む、それは心配だな。しかし何故? まさか熱中症というワケでもあるまいに」

 

「それが、サンドバッグを使った練習をしているときにトラブルが起きたそうで」

 

「理解……。 強く打ち過ぎて手首でも痛めたのだな?」

 

「いえ、自分の足につまずいて顔からサンドバッグに突っ込んでノビてしまったそうです」

 

「そんなバカな」




本日は当店をご利用いただき誠にありがとうございました。

さて、次回の『爆進!ウマランナー!!』のメニューはこちらになります。

・オードブル
ジャパンカップ表“会長はつらいよ・リスタート”

・メインディッシュ
ジャパンカップ裏“日本が誤解された日”

・デザート
こばなし“普段オペラオーやドトウと絡んでいるからてっきり中等部だと勘違いしていたがスズカから先輩と呼ばれているのを見て慌てて確認したら高等部だったことを知り急遽出番がまわってきたアヤベさんの話”

それでは、またの御来店を心よりお待ちしております。
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