爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ。

グラサンをかけて歩くチャンリコを見たトレセン学園関係者の反応。

一般ウマ娘
「サングラスの似合うクールで知的なオトナの女性! カッコいい!」

一般トレーナー
「あの樫本チーフのことだ、あの行動にも育成のヒントがあるに違いない!」

一般理事長秘書
「またサングラス外すの忘れてますね……」


会長はつらいよ・リスタート

 本来ならば。

 

 本来ならば、己の不甲斐なさを猛省せねばならないのだろう。無敗の三冠ウマ娘と持て囃されておきながら、先のジャパンカップでは結果を示すことができなかったのだから。

 

「いようルドルフ! なんだよ~資料室に引きこもったって聞いたから敗けたのがショックで落ち込んでんのかと思ってたのに、わりと平気そうだな?」

 

「むしろ、三冠ウマ娘を達成したときよりも気力が充実していそうな雰囲気だね。せっかくの差し入れだけれど、この様子だと必要なかったかもしれないね」

 

「ゴールドシップにフジキセキか。そんなことはないさ、敗北を喫したことについては責任を感じているよ。皆の期待に応えられなかったのだから」

 

「ほ~ん? ならよ、なんでそんなに“ワクワク”してんだよ。あんまり気づいてるヤツはいないみてぇだが、アタシの目は誤魔化せないぜ? あ、とりあえず差し入れのモノポリーやろうぜ!」

 

「……差し入れというのは、普通はこう、食べ物とかではないのか?」

 

「そこはほら、ゴールドシップだから」

 

「言葉の持つ説得力が尋常ではないな」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 コト、コト、と。それぞれの駒がボードの上を移動する。トレセン学園では昔からこうしたゲームもトレーニングの一環として取り入れられている。頭の回転を鍛えることはもちろん、冷静に勝負を進めるための精神力を養うこともできるからだ。

 

「それで会長、ジャパンカップではどんな素敵な出会いに巡り合えたのかな?」

 

「なに、特別なことなどなにもないよ。越えるべき壁が、心から勝ちたいと思えるライバルがいる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、極々ありきたりな幸福だよ」

 

「あ~、テレビも雑誌もメッチャ盛り上がってたもんな。さすがは日本のレース史上、初めて地方からダービーとったウマ娘って。それにジュニア王者んときからのライバルなんだっけ? あの赤毛」

 

 無敗の三冠ウマ娘がジャパンカップを勝利する姿を誰もが期待した。しかし残念ながら、シンボリルドルフの結果は3着という地味な終わり方であった。

 だが、ジャパンカップそのものは大いに盛り上がった。1着が地方に所属したまま東京優駿を征したウマ娘・アビスグレーターであったこと、そして2着がホープフルステークスからクラシック路線でルドルフと火花を散らすような激しい競り合いを繰り返していたウマ娘・シャドウミラーであったからだ。

 

 こういうドラマチックな展開はそれはそれで喜ばれる。とくにシャドウミラーなどはライバルでありながらルドルフと良好な関係であることは誰もが知るところなのでなおさらだ。

 夏合宿のリフレッシュ期間がたまたま被ったのか、海の家らしき場所でダービーに出走したウマ娘が集まりルドルフを中心に3段重ねのアイスクリーム片手に撮影された写真がSNSへ(トレーナーの許可のもと)投稿されたりもしている。

 レースでは苛烈や叩き合いを繰り返し、ひとたびターフを離れれば友人としてバカ騒ぎができる関係。こういうのはこれはこれでファンたちは大好物なのだ。

 

 ちなみに、アンチ活動に熱心な記者がこれ幸いとルドルフを叩こうとしたものの、世間がこれではイマイチ反応は薄くなるだろうと渋々方向転換をすることになって歯噛みしていた。

 せめてもの意趣返しとしてルドルフのことには一切触れず、ひたすらアビスグレーターとシャドウミラーをピックアップして記事を出した。結果、各社メディアがルドルフについて報道する中ひとり権力に媚びることなく勝者を称える中立的で素晴らしい記者であると予期せぬ形で名門たちから目をつけられている。そのせいで思っていたのとなんか違うと頭を抱えているが、ある意味因果応報である。

 

「それでルドルフ、レース中になにがあった? レースに絶対は無いってのは常識だが、それでも順当にいきゃあアンタが勝っていただろうに。いったいどんな()()()()()があったのかアタシにも教えてくれよ~」

 

「そうだな……ひと言で表現するなら、私も、そして他のウマ娘たちも──もちろん海外のウマ娘たちも含めて──全て彼女の掌の上で転がされていたと言ったところかな?」

 

 アビスグレーターは地方から初めてダービーを勝利したウマ娘である。故に、地方トレセン学園に所属するウマ娘たちにとっては希望の象徴のようなものだ。

 本人もそのことは理解しており、ぶっちゃけ好き勝手期待されるのも面倒だなと思いつつも……ダービーウマ娘は夢を見るより夢を見せる側なのだから仕方ないかと受け入れていた。

 

 その上で彼女は考えた。地方で燻るウマ娘たちの闘志をより効果的に燃え上がらせる方法はなにかと。その結果たどり着いたのが今回のジャパンカップである。

 前年度は惜しくも敗退しつつ、翌年のレースで見事にリベンジを果たす。追い抜いたメンバーの中に無敗の三冠ウマ娘まで含まれることになったのは想定外であるが、おかげで企みは想定以上の結果をもたらした。

 

「偶然、去年のジャパンカップの勝者……ドイツのウマ娘、ヴァッフェバニーと会話しているところを聞いてしまってね。今回の確実な勝利、その仕込みのために昨年のレースではわざと競り合いを途中で放棄──つまりは手加減して走っていたらしい」

 

 ルドルフの言葉を聞いてフジもゴルシもモヤッとしたモノを感じたのか絶妙にイヤそうな顔をしている。仕方の無いことだがこのふたり、中央の中でもさらに“持つ者”に分類されるウマ娘である。故に、こうした“持たざる者”の戦い方にはなかなか共感できないのだろう。

 ルドルフ自身は、今回の敗北は己の認識の甘さが原因であると割りきっている。ダービー以降のアビスが中央のレースではイマイチ結果を残せていないこと知り、彼女の成長は止まってしまったのだと決めつけて……それでこのザマである。

 

「油断を誘うためとはいえ1年もの間、勝ちきれない様子を晒すのは屈辱的だったことだろう。まさに臥薪嘗胆の日々、か。ダービーウマ娘としての役割を十全に果たすため、ジャパンカップの勝利のための布石を、使える手段を全て使い尽くしての勝利だ。嫌味な言い方になるが、私は素直に感動したよ。本物の勝利への渇望とはこういうものか、と」

 

 敗けたことがなかったヤツが言うとホントに正しく嫌味だな。そう思っても口に出さないのがゴールドシップである。

 これで相手がトーセンジョーダンであれば親愛を込めてイジる感じに……いや、そもそもジョーダンからこの手の強者発言が出てくるところが想像できない。そんな語彙力100パーねーわアイツ。

 

「使える手段を全て、ね。それはもしかして、彼女の領域がパワーアップしていることにも関係しているのかな? 以前ダービーでは感じなかったプレッシャーが観客席まで届いていたよ。たぶん、私のほかにも領域に目覚めた子たちは全員が同じことを思ったんじゃないかな」

 

「その通りだ。そして彼女が領域を強化するために行った、恐るべき手段についても聞いている。彼女は──」

 

 ゴクリ、とふたりの喉が鳴る。

 

 シンボリルドルフは間違いなくURAの歴史に名を残すレベルの天才である。そんな彼女を努力で降したウマ娘が用いた方法。それはいったいどれほど過酷なモノなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は、サブトレーナー君を誘い()()()()()で遊びに行ったらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「────ッ!!??」」

 

 純粋に遊びに出るための外泊は中央トレセン学園でも認められている。もちろん申請は必要だし、普段の生活態度があまりにも悪ければ却下されるものの賞金片手に小旅行やキャンプなど珍しいものではない。

 

 だが、そこに若い男性が混ざるとなれば話は違ってくる。

 

「正確には彼女たち、らしいがね。サブトレーナー君が長老トレセン学園に赴任した最初期のころから彼の指導を受けていたウマ娘たちで集まって……だ、そうだ。早朝に出かけて昼間は渓流釣り、夜にはバーベキューを楽しみ山小屋で一泊。翌日には観光名所を巡り地元の名物を堪能し温泉旅館に一泊。1分1秒たりともムダにできないハズの夏の時間を、気力を充実させるという目的のためだけに2泊3日も費やしてみせたワケだ」

 

 ゴールドシップとフジキセキ、ふたりの胸中を支配するのは驚愕か、それとも畏怖か。言葉を発したシンボリルドルフ自身でさえ、冷たいものが頬を伝う感触をはっきりと自覚している。

 これが、真に餓える者たちの覚悟なのだ。か細い可能性に勝機を見出し全力で賭けに出る。これでもしも敗北していたら、あのとき練習していればもしかしたら……と一生後悔することになっていただろうに。

 

「思い知らされたよ。私にはまだまだ覚悟が不足しているのだと。搦め手を受けて走りを乱し領域を乱すようではまだまだ未熟。レース中に如何なる挑戦を受けようとも泰然自若、威風堂々と受けて立つだけの器を身につけなければ全てのウマ娘の幸福を語るなど愚の骨頂というもの。ならば……私も挑まねばなるまい? 己の殻を破るための一手を、それが例えどれほど危険だとしても」

 

「──ッ!? まさかルドルフ! オマエッ!?」

 

「一応聞くけれど、なにをするつもりだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼を、サブトレーナー君を──外食に誘う。もちろん完全なプライベートで、だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「────ッ!!??」」

 

 ふたりが言葉を失うのも無理はない。

 

 ウマ娘とトレーナーという公的な立場ではなく、あくまでシンボリルドルフという個人として彼を食事に誘うという。

 

 たしかにそれが成功すれば得られる効果は大きいだろう。嬉し恥ずかしお食事デート、しかも相手は競走バが相手でも一切怯むことなく自然体で接してくれる超が付くほど稀少種の男性である。なんならちょっとアレなハプニングも期待できるかもしれない。なんかもう領域というか色んなモノがパワーアップするんじゃないだろうか。

 だが、それ相応のリスクも伴うことは確実である。トレセン学園の生徒は学生扱いではあるものの、メイクデビューを済ませたウマ娘というのは社会的には微妙な立ち位置として扱われる。ヒトならば大学生のように、半分は大人として見られるのだ。距離感を間違えれば一発でセクハラである。相手側の距離感が初めからバグってることは別として。

 

 あと、単純に拒否されたときの精神的ダメージもとてつもなく大きい。普段いい感じに接してくれるからと思いきってバレンタインにチョコを渡したら『ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ』と謝罪されるくらいにはデカい。

 

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。危険を恐れて臆するような生き方はシンボリの名を持つウマ娘として認めることなどできない。私は……自分自身を乗り越えてみせるッ!!」

 

 

「ルドルフ……オマエ、そこまでの覚悟を……ッ!」

 

 感銘を受けるゴールドシップ。そんな彼女だが、かつてナカヤマフェスタが企みタマモクロスが悪乗りした結果、サブトレーナーと一緒に4人でラーメンを食べに行っている。ムダに緊張していたせいか、恐らくゴルシ本人は覚えていないかもしれないが。

 

「なら、私たちから言うことはなにもないね。会長のご武運を祈っているよ」

 

 背中を後押しするフジキセキ。こちらは以前、学生寮がチョコの香りで制圧され体調を崩したときにちゃっかりサブトレーナーの膝枕を経験している。本気で具合が悪くトモの感触を堪能する余裕はなかったが、もちろんフジ本人はガッツリ覚えている。

 

 そもそも彼と遊びに出かけたくらいで領域がパワーアップするのかという根本的な問題があるのだが、そのことを指摘する者はこの場にはいない。なぜなら3人とも清く正しい思春期女子校生なのだから。ルドルフが成功したら次は自分もと思ってなにが悪いのか。

 なんならこの中にひとり、自分自身に対する静かな怒りで領域が高まっているウマ娘がいるのだが……無自覚なのでもちろんノーカウントである。本人が知らないのだから仕方ない。

 

 

「あぁ、次のレースが……有マ記念が待ち遠しいな。無敗の二つ名と引き換えに得たこの渇望。これを抱えたまま挑む勝負はどれほど昂るのだろうか。本当に、楽しみだよ……フフッ」

 

「おやおや、まさかそんな好戦的な会長の姿を見ることができるなんてね。励ますまでもなく、すでに次を見据えているあたりはさすがの──あっ」

 

「ん?」

 

「へ? ……あー、ルドルフ。そのマス」

 

「あっ」

 

 

 シンボリルドルフ、破産。




後編(海外ウマ娘視点のジャパンカップ)に続くッ!!


最近ルドルフの出番が多くて優遇し過ぎでは? と感想でお叱りを受けるんじゃないかとドキドキしながら投稿してます。
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