爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
幼いころから、ニホンという国は神秘の国だと婆さんから何度も聞かされていた。
そのときは適当に聞き流していたが、いまならわかる。ニホンは神秘で溢れていて、そして常識を鼻で笑うようなヤベェ民族なんだと。
アタシはいま、東京レース場で開催されている『ジャパンカップ』というニホンのGⅠレースを走っている。位置取りは差し脚をためながら後方集団で、ラストスパートに向けてじっくりと脚をためるつもりだったが……どうやらほかのウマ娘、というかジャパニーズどもは教科書通りの走りなんざハナッからするつもりはないらしい。
すでにターフは本気になったニホンのウマ娘たちの影響を受けてスッカリ様変わりしていやがる。瓦礫と荒野と森林が混じりあったカオスな大地に、熱風が頬を叩き付けるように荒れ狂い空にはルビーとサファイアを思わせるようなふたつの月が不気味に輝いている。
なにを言ってるかわからない?
大丈夫だ、アタシにもサッパリわからんッ!!
いや~、3回目だからまだマシだけど、今回がジャパンカップ初挑戦の連中はもう終わってんな。
可哀想に……自信満々で、コイツは来年の凱旋門へ向けた調整レースの始まりだと大口叩いてたフランスのエースどもは完全に喰われてやがる。たぶん見えてすらいないんだろうな。わかるわかる、アタシも1回目はそうだったからな。
──おっと、アタシも余所見してる場合じゃねぇな?
『──、────ッ!!』
「へッ! 躾のなってねぇ犬ッコロだなァッ!!」
飛びかかってきた黒毛の、いや影そのものにも見える犬。もちろん本当にコースに犬が乱入きてきたワケじゃねぇ、コイツはほかのウマ娘が放ったプレッシャーの形だ。
だから黙らせる方法も、このわけわかんねぇ世界とは真逆と言えるぐらいにシンプルでいい。ようは、アタシがプレッシャーに敗けないよう気合い入れて走ればいい。
そうすればこの通り──手元に手品みてぇに現れたリボルバーでズドンッ! ってなもんよッ!!
「フッ……このマッドドッグ様をナメんなよ? だてに真剣勝負の場数は踏んでねぇぜ……」
「いや、お前……それバ○ルフィールドやり込んでただけだろうが……」
「あぁん? イメージトレーニングだよ、イメージトレーニング! そもそもこんなワケわかんねぇレースしてんだぞアタシら。普通に鍛えるだけじゃ勝てねぇんだから仕方ねぇだろ」
「目の前の光景が理解の外側であることは否定しないがな。本当にニホンは恐ろしい国だ。どんな生き方をしていれば
1回目の“洗礼”ではワケもわからないまま雰囲気に飲み込まれて敗けた。
2回目からは見えるようになったが、だからこそ気がついた。ニホンのダービーウマ娘のヤツ、わざと手抜きしやがった。アタシら海外のウマ娘が連中のテクニックに特化した走りに対応してきたのを見てなにかを企んだのはわかるが……それが作戦だったとしてもナメられた事実は変わらねぇ。
3回目はあのアビスグレーターとかいうウマ娘と、ついでに新しいダービーウマ娘のシンボリルドルフとやらにも吠え面かかせてやると意気込んでニホンに乗り込んだが……いやはや、コースの上がまるっきり映画の世界になっちまってやがる。
「唸れ! 王冠のチャクラッ!」
「泰山府君、其れは我なりッ!」
「刻みなさいッ! 戦いのアートをッ!」
うん、国際色豊かだなージャパンカップ。気分はある種の同窓会か? アイツらも1回目のときから見知った顔だからな、それぞれの国に帰ってから頭抱えていろいろ考えたんだろう。
ま、目覚めるときも一瞬だっただろうけど。頭で理解できなくともウマソウルが勝手に領域を見せてくれたハズだ。これが、アタシらウマ娘の持つ可能性なんだと。
まぁ……
「ルドルフゥゥゥゥッ!!!!」
「シャドオォォォォッ!!!!」
「アタシ、しばらくファイ○ルファンタジーの新作は買わなくてもいいかな……」
「すごいな、あのふたりだけ別次元だ。きっとレースの外でもニンジュツぐらいは使えるに違いない」
いつも冷静な相棒のサンダウンキッドも興奮気味だ。そりゃそうだ、シャドウミラーとかいうウマ娘が5体のエレメントのような動物を呼び出し、比喩でも誇張でもなく嵐を巻き起こす走りを魅せている。
それに応じるのは、ニホンでも最強の証だというクラシック三冠ウマ娘、シンボリルドルフ。こちらは空と大地をまとめて切り裂くような雷光を自由自在に操って抑え込んでいる。
そしてニホンのウマ娘たちはあのトンデモ空間に全く怯むことなく突っ込んでやがる。
スゲェな、飛んできた雷を各々のやり方で打ち払いながら前に出ようとしてんぞ。ダークソ○ルで見たなこんな光景。正直アタシはかなりビビってるし、ほかの海外のウマ娘たちも完璧に怖じ気づいている。フランスの連中? とっくに失速して垂れとるわい。
それにしても、ふたりとも楽しそうに叩き合いをしてやがるな。たぶんアタシとキッドのように、お互いを認めあ合うライバルなんだろう。
決定的に違うのはアタシらにはあんなスーパーバトルは展開できねぇってことだな。
アタシら参加してんのウマ娘のレースだよな? 知らんうちに異世界転生とかしてないよな? オマエらちゃんとターフを走るレースしろよ、いやマジで。──あぁ、もうッ!! こうなりゃヤケクソだ、ようは気合いで敗けなきゃいいだけなんだッ! まっすぐいってブッとばしてやらァッ!!
「この瞬間を、待っていました」
「マッドッ!!」
「ちぃッ!?」
キッドの声に合わせて咄嗟に頭を下げる。その瞬間、アタシに負けず劣らずの早撃ちで後ろに迫っていた謎の……え? マジでなにコレ? 深海のモンスター?
「チィッ!? アビス先輩、どうやら全員まとめて潰すつもりみたいなんだな、これがッ!!」
「これは……ッ!? そうか、彼女の世代はサブトレーナー君の……ッ!! ここまで差があるのかッ!?」
考えるより先に身体が動いた。その場にいた、領域が見えているウマ娘は全員が同じことを考えたらしい。
とにかく近くにいたウマ娘と背中合わせになり、暗闇からゆっくりと姿を現したニホンのダービーウマ娘──アビスグレーターへ最大級の警戒を向ける。
こういう光景はほかのレースでも見ないワケじゃない。一番人気のウマ娘がマークされるのはよくある話だが……こうして全員に敵として
「みなさんの強さを『10』とすると、わたくしの身体能力はせいぜい『6』と『7』の間ぐらいでしょう」
「スピード、スタミナ、パワー。どれも客観的に判断して、わたくしがみなさんに勝てる要素はありません」
「ですが……たったひとつだけ。そんなわたくしにも唯一“これだけは敗けない”という武器があります。地方で燻っていたわたくしに、彼が授けてくれた領域という可能性が」
気がつけば。
アタシたちは全員 漆黒の海の上に立っていた。
全部だ。全部、アビスグレーターの走りに飲み込まれた。あんにゃろ、追い込みの位置から前を走っていたウマ娘が手札を使い切るのをギリギリまで待ってやがったな!? ほんの1秒でも仕掛けるのが遅れれば完全にアウトだってのに、なんつー精神力してやがるッ!?
ダービーウマ娘というのは特別な称号だ。およそレースが開催されている国であれば、国境を越えても通用するぐらいには。実際には色んな感情が含まれて平等とは言えないが、それでも“強いウマ娘”の証明であることに違いはねぇ。
だからこそ、もちろんニホンのダービーウマ娘についても研究した。それだけじゃねぇ、スキルという限定的な条件下でのみ使えるピーキーなテクニックも、領域というワケわからんオカルトじみた走り方も含めてだ。
だが、足りなかった。
目の前のコイツは──アタシなんかより、遥か前を走っていたらしい。
これが、ニホンのダービーウマ娘か……ッ!!
「──みなさんの領域の強さを『10』とするならば、私は『100』です。2度目はない、1度きりの初見殺しですが……さて、覚悟はよろしいですか?」
あぁ、クソッ。
敗けるのも悔しいが、それ以上にダービーを冠するウマ娘はやっぱり特別な存在って事実を嬉しく思っている自分に腹が立つ。
◇◇◇
「うーん、やっぱりニホンのラーメンはひと味違うな。ハシの使い方を特訓した
「むぅ……私も練習するべきだったか。やはりフォークでは今一つ『ジョーチョ』に欠けるな」
ジャパンカップが残念な結果で終わった我らアメリカチームは、現在ラーメンショップで反省会の真っ最中である。
もっとも、過去2回のレースでニホンのウマ娘との間にはいつの間にか高い壁ができてることは知っていたし、ウチのトレーナーもその辺りは見えないなりにナニかを感じていたらしい。敗けたことについては良くも悪くもアッサリと諦めていた。
ほかの国も似たり寄ったりだが、フランスだけは……うーん、いろいろと大丈夫だといいが。ウマ娘たちもだいぶアレだったが、それ以上にトレーナーもプライド高そうなヤツだったしなぁ。
「それでお前たち、今回の手応えはどうだったんだ? 掲示板こそ外したが、過去2回に比べればいくらかマシな走りになっていたが」
「あー、まぁ……なんだ」
「ベルモントステークスの思い出が完璧に色褪せてしまった気分です」
「そうか。……初めてニホンで走って以来、スキルとやらを研究し
「本格的に調査、ねぇ。たしかにアタシだって強くなりたいってのはあるが、そう簡単にいくかね?」
「フンッ。強かろうが優秀だろうが所詮、相手はジャパニーズだ。交渉など礼節を弁えて誠意と熱意を込めて丁寧に頼み込めば容易いものだ」
「では、本気でニホンのトレセン学園に乗り込むのですか?」
「そのつもりだ。なに、客としての立場に相応しい振る舞いを心がけ相手の信念や誇りを侮辱するようなゴミムシ以下の行為に気を付ける限り、ニホンの連中は私たちに対して強気になど出られんよ。なにも心配することなどない。クックック……ッ!」
ふーむ、ニホンのトレセン学園での合同練習か。きっと今日みたいなレースが日常的に行われているに違いない。
もしもアイツらの走りと互角に渡り合えるようになれば、そしてその技術を地元のトレセン学園に持ち帰ることができれば。アタシらがそうしたように、後輩たちもGⅠの舞台で堂々と走ることが──いや、堂々と勝つことができるに違いない。
アタシらのことを田舎者と嗤っていた連中を走りで黙らせた、あの瞬間を次の世代に繋げることができる。そいつは最高に……腹の底がビリビリ痺れるほどにワクワクする未来だ。
「さて、そうと決まればさっそく行動を開始しなければならん。──店主ッ! 会計だッ! アメリカに帰るのが惜しくなる程度には美味かったぞッ!」
「ご馳走さまでした。美味しい食事のおかげでレースの敗北も多少は気が紛れました」
「ばーさん、じーさんもまたなー! 次はトンコツとかいうのを食いにくるぜー!」
「は~い、どうもねぇ~」
…………。
「お爺さん、今日も世界は平和ですねぇ」
「マジそれな、というヤツじゃのぉ」
覇王やドジっ娘にとらわれることなく、幸福に空腹を満たすとき。
束の間、彼女は自分勝手になり自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずに物を食べるという孤高の行為。
この行為こそが、競走バに平等に与えられた最高の癒しと言えるので……ある。
次回
『アヤベのグルメ ~Season ?~』