爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
新年を迎えたあとはお餅の食べ方でメッチャ揉めた。
「ほい、王手」
「むむむ……。チーフ、その一手、ちょっとだけ待ってくれないかな?」
「ダ~メ」
「むぅ! ……コホンッ。貴様~、私のお願いが聞けないと申すのか~!」
「あぁ聞けないねぇ。肩書きひとつにいちいち臆してるようじゃあトレーナーなんてやってられんからな」
「むぅ~ッ! え~んオグリさ~ん! チーフがいぢわるだよ~」
「いや、しかしだなファイン。それだけチーフもちゃんと本気で勝負してくれているということだから──」
「え~ん、弾食光牙軒の気力マックス野生化ラーメン4倍合体盛り~」
「チーフ。真剣勝負も確かに大切なことだが、ときには余裕を持って担当ウマ娘に華を持たせることも──」
「沖縄風鉄板焼トネガワの悪魔的うみんちゅコース120分食べ放題」
「ファイン。レースでも上手く走れなかったからといってやり直しなどできない。敗けたことを素直に受け止めることも大事なんだ」
「ぐぬぬ……ッ!」
「ふ……ッ!」
「ウチのライバルが食いモンの誘惑に弱すぎる件について」
春の訪れを願うにはまだまだ早い2月のトレセン学園。春のGⅠ戦線に向けてウマ娘もトレーナーも忙しくなるこの時期であるが、チーム・ジェミニのチーフトレーナーとその愛バたちは穏やかなひとときを過ごしていた。
タマモクロスはクラシック級レースにそれほど興味はなく、オグリキャップの目標レースは得意な距離であるNHKマイルカップなので時間的に余裕がある。
ティアラ路線を走る予定のファインモーションは桜花賞の前哨戦であるチューリップ賞が控えているが、他ふたりのスケジュール調整がそれほど難しくないぶんチーフの負担も少なく済んでいる。
故に、こうして息抜きとしてのんびりと将棋などを楽しんでいた──のだが。
「チーフッ! ここにいましたか! スミマセン、いますぐこっちに来ていただけませんか?」
「おや、なにかトラブルかい? こんなババア引っ張り出さんで、お前さんもベテランなんだからまずは自力でなんとかだねぇ」
「仮にベテランだろうと私が口出しすると余計に拗れそうな問題が起きてるんですよ。なにせ、平民出身なもので。今年の新人たち、名門出身のウマ娘が騒いでいるんですから。──男のトレーナーの指導なんか受けてられないって」
「……かぁ~。こりゃまた面倒そうなことが」
◇◇◇
レース後進国と言われる日本でも、競走バやトレーナーの歴史はそれなりに旧い。
源平合戦の壇之浦で短距離・マイル・中距離・長距離で圧勝したという義経四天王、徳川に過ぎ足るものと呼ばれた戦国最強ステイヤー・ドラゴンフライ、現代のチーム制の始まりと言われている幕末の新撰組などなど、そういう血筋やら家柄に連なるウマ娘やトレーナーは中央トレセン学園にも大勢いる。
わかりやすいところで言えば生徒会長のシンボリルドルフがそうだし、わかりにくいところで言えばサクラバクシンオーも名門のご令嬢である。
どちらもパッと見たときの印象はまったくの別物だが、その精神性の高潔さは流石は名門とはこういうものかと納得させるものがある。
いや、まぁ、バクシンオーは本当に最初はわかりにくいがアレはアレで先導者としては花丸なのである。悩む若人たちにとってバクシンの精神は意外と救いになっているのだ。
と、まぁ名門出身が誰もがこのような人格者揃いならどれだけ気苦労が少なく済んだものか。悲しいことに肩書きを持ち出してふんぞり返る輩はそれなりにいるのだ。
そして、どうしてもレースの世界は女社会99割、どれだけ女男平等だなんだと言われても男が軽視される風潮はそう簡単には無くならない。そもそも現役の男性トレーナーは──奇跡か神憑り的なタイミングの良さ(悪さ?)により──世界中で彼しかいないのでなおさらである。
身も蓋もない言い方をすれば、彼が大多数のウマ娘の面倒を見てくれていることに甘えてないで、さっさと担当持たせて真っ当な形で表に出していればこんなことにはならなかったかもしれないが。
ベテラントレーナーに連れ出されチーフが、ついでに話を聞いてきたタマとオグリとファインが練習場に駆けつけてみれば……そこにはすでにレースの準備を終えたウマ娘の姿。18人フルゲート。取っ組み合いのケンカになるよりは健全ではある。
「ちょいと誰か──あぁ、ミホノブルボン。ちょうどいいや、なにがあったのかサラッと説明してもらってもいいかい?」
「はい。いまからブライアンさんがミッション『新人教育』を実施するところです」
「なるほど、わかりやすい」
改めてゲートに並んだウマ娘たちを見れば、ナリタブライアン以外は全員が新規入学のウマ娘たちである。
静かに眼を閉じて合図を待つブライアンとは対照的に、新人たちはいかにも自信満々といった様子でやる気も高いのが一目瞭然だ。
それだけ名門出身のウマ娘たちも入学前に相応の教育を受けてきたのだろうが、如何せん相手が悪い。話を聞けば模擬レースの距離は2400。もしかしたら東京優駿を意識したのかもしれないが、よりにもよって中距離での勝負を挑むとは。マイル、いや短距離ならばまだ可能性はあっただろうに。
ブライアンが大外枠なのは本人の希望だろう。お上品な鍛え方のお嬢様がた相手であれば、バ群から充分に離れても──それこそコースの中央を悠々と走っても余裕で差し切れるハズだ。
大方のトレーナーたちがそう予想する中、いざ合図と共にウマ娘たちが飛び出せば。
「あ、ブライアンさんが先頭に出たよ! あれは……先行の位置取り狙いのため、じゃないね」
「あのまま押し切るつもりだろうな。新入生たちの動きも思ったよりは悪くないが、ブライアンと勝負できるほどの仕上がりには程遠い」
「ん~、ありゃアカンな。新入りども、ブライアンのヤツが掛かっとるとでも思ってるっぽいな。こりゃ退屈なレースになるで」
最初の500までは表情に余裕があった。
1000を越えた辺りから疑念に変わる。
1500を過ぎても加速し続けるブライアンの様子にようやく焦り始め、残り2ハロンとなるころには跳ねっ返りたちが哀れに見えるほどの圧倒的大差である。
当たり前といえば当たり前の結果だろう。デビュー前とはいえ、ブライアンの加速力は中央トレセン学園でも指折りである。それがなんの制約も制限もなく好き勝手に加速し続けたのだ、本格化が始まったばかりのルーキーには影を踏むことすら許されない。そもそも根本的に勝負勘が育っていないのだから勝ち目など最初から無いのだが。
トレセン学園ではウマ娘同士が常にバチバチ競い合いをしているし、近年の中央では彼の手料理の試食券、いや試食権を賭けた本気の模擬レースがちょくちょく開催されているので勝負勘を鍛える手段には事欠かない。
とくに「どうしても1度調理してみたかった」という子豚の丸焼きが賭けの対象となったときは凄かった。カフェテリアでもウマ娘向けに盛りの派手な料理が提供されているが、さすがに豚一匹の迫力に勝てるようなモノは置いていない。蜂蜜水を何度も丁寧に重ね塗りしてじっくり直火で焼き上げられた豚は色艶照り輝き全てにおいて格が違った。
ついでに、それを調理するサブトレーナーの姿もイロイロとスゴいのである。なにせある程度解体されているとはいえ巨大な肉の塊であり、それを両手だけで支えているものだから、腕から背中にかけての筋肉がそれはもう素晴らしい自己主張をしていた。
トレーナーとして恥じることのないようにと鍛えられた、ウマ娘たちと供に大地を蹴り風の中を駆け抜けて育まれた身体。しかも炎にさらされながらの作業なもので上は案の定タンクトップ1枚。汗と焔で色艶照り輝き全てにおいて格が違った。あのアイネスフウジンやエアシャカールですら説教を忘れるほどに。
まったく、豚肉を焼いているだけでエロいとはいったいどういう了見なのか。ヤツはトレセン学園が教育機関だということをちゃんと理解してんのか? 初等部ウマ娘の邂逅禁止令が解除される日は来ないかもしれない。
と、まぁこんな具合に流れ行く日々のそこかしこで闘走本能ガンガン燃やして走りまくっている相手に、立場的な問題を含め本気の叩き合いとなるような競り方を経験したことのない温室育ちが挑めば──ゴール板の周囲が死屍累々となるのも致し方無し。
もちろんブライアンは息の乱れもほとんどない。彼女にとってはせいぜいウォーミングアップ程度の運動量でしかなかったのだから。
「どうした。もう終わりか?」
「…………い……だ」
「ん?」
「もう……いちど……勝負……だ……ッ!」
「──フッ」
教育完了、である。
今度は先ほどとは違う、驕りも侮りもない純粋な闘志を宿した眼をしている。あぁ、そうだろうとも。レースの結果で己の無力さを思い知ったところで簡単に敗北を認めるワケにはいかないだろうとも。
ウマ娘とはこういうものだ、どれだけ外面を取り繕ったところで闘走本能には勝てはしない。名門の肩書きが無力であると知った彼女たちに残されているのはせいぜい負けん気と意地くらいなものだ。そしてそれは競走バとして生きるために欠かせない心の支えとなる。
まぁ、こんなものだろう。新入りどもの尻を叩いてやるなど本来は私の仕事ではないが、アイツが買い出しで不在の間に面倒を片付けておいてやるのもヤツの事実上唯一無二のハイパーラグジュアリーフルオートマチック真ファイナルヴァーチャルロマンシングときめきドラゴンホースである自分の役目だろう。まったく面倒なことだが仕方のないことなのだ。
「いいだろう。オマエたちが納得できるまでトコトン相手をしてやる。だが、その前に──」
『『…………ッ!?』』
「ほかの連中の教育も終わらせてから、だ」
「待ちたまえよブライアン。軽くとはいえキミは中距離を1本走ったばかりだろう? ほかの新入生たちの相手は私に……いや、私たちに任せたまえよ」
「えらく威勢のイイ跳ねっ返りどもじゃねぇか、ひとつあたしらもお相手願いたいと思ってね。ペラペラと御高説
「あまり偉そうなこと言いたくないんだけど……アタシも立場上、黙ってるワケにいかないのよね。巻き添えでメジロ家までイメージ悪くされたら迷惑だし」
「私は肩書きなんざどうでもいいがな。ただ、生意気な後輩が“おいた”をしたのなら躾が必要だろう? じっくり可愛がってやる、覚悟しな」
「わぁ、みんなとってもやる気まんまんだね! ……チラッ、チラチラッ」
「あーいいよ行っといで。この程度のお遊びならチューリップ賞にも響かないだろうし」
「チーフ、私も走ってきていいだろうか?」
「オグリ、お前さんもか。いや、いいけどね。こんな機会でもなければ新入生と併走することなんてないだろうし」
「なんや、チーフ止めへんのかいな。ええんか? どいつもこいつも完っペキに火ィついとるで。ありゃ新入生が全員ボロボロになるまで終わらへんかもしれん」
「止めないさ。血気盛んにバカやれるのも若者の特権だろう。それに、ヤンチャなガキどもが遊んだ後始末を引き受けてやるのも大人の役目だ」
チーム・ジェミニのチーフトレーナーとして交流戦の開催を認めた。そういう建前を用意しておけば、少なくともウマ娘たちや彼が責任を問われることはない。
子ども同士が納得しても、そこに大人の思惑が入り込んでくると実に面倒になることをジェミニチーフは良く知っている。1度の模擬レースで熱を取り戻したということは、高飛車な態度は彼女たちの本質ではなく後天的に備わったものであり……十中八九、環境によるものだろう。おそらくは、中央トレセン学園のウマ娘たちがレースで敗けたことで『ブランド』としての価値が下がることが気に入らないような連中の差し金といったところか。
どうやらその手の連中に彼は目の敵にされつつあるらしい。歴史と伝統ある中央トレセン学園に男のトレーナーなんかを採用したから敗けたのだと。ある意味では彼のせいで不敗神話が崩壊したので間違っているワケではないのだが。
いまは、まだ。無敗の三冠ウマ娘シンボリルドルフの存在感と新設レースURAファイナルズの話題性が鮮度をキープしている間は問題ないハズ。たが、その後はどうするか……なにかしらの手を打たなければならないだろう。
最も単純で効果的なのは彼をトレーナーとして堂々とデビューさせること。以前、彼に見せてもらった物心ついたころから収集して分析・研究してきたという万を超えるウマ娘の、競走バのデータの内容からして彼も一流トレーナーを名乗る資格は充分にある。
それにひとりのトレーナーとしても、彼が本気で育てたウマ娘と自分の愛バが大舞台で火花を散らすデッドヒートを繰り広げる光景というものには興味津々だ。うまくは言えないが、自分たちとはなにかが決定的に違う──全く異なる視点でウマ娘を見ているような雰囲気を持つ彼はどのようにウマ娘を仕上げてくるのか、実に楽しみじゃないか。
ただ。
「ボウヤを“お気に入り”の連中は黙っていられないだろうね。なんならチーム組ませてまとめて任せるか? しかし、それはそれで誰を優先するかで揉めそうなのがなんとも……頭が痛い話だねぇ」
例えば、同じチームから複数のウマ娘が出走しつつも協力してレースを走るような、ほかのスポーツのようにチームで協力して競い合う形式のレースでもあればまた違ったのかもしれないが。
いっそのことボウヤ本人にアイデアを出させてみるのもいいかもしれない。ほかでもない自分自身の仕事に直結する話だ、実現できるかどうかは別として思い付きのひとつやふたつは出てくるだろう。
なんとも厄介ごとの気配はあるが、新たにライバルを
アプリのオープニングに出てくる、ナリタブライアンが食べてる目玉焼きがたくさん乗ってるハンバーグとか食べてみたいな~とか思ってます。
おっきいハンバーグって、夢、あるじゃないですか!(小学生並みの感性)