爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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前回のあらすぢ。

新人教育の様子を隠れて見ていた名門のお付きウマ娘たちは、令嬢たちの晴れやかな表情を見て「これは報告する必要はない」と優しい眼差しで見守っていた。

その様子を隠れて見ていた先任の他家のお付きウマ娘たちは、本当に報告する内容に困ることになるのはこれからなんだよなぁと慈しみの眼差しで見守っていた。


ぎゅわんぶらあ被害担当派・前編

 学園祭。

 

 それは限りある青春の日々を学校生活という限定的な空間に閉じ込められた若者たちのリビドーを受け止めてくれる貴重なイベントのひとつである。

 それ故に、意見の食い違いによる対立の解決も一筋縄ではいかない。たかが祭り、されど祭り。とくにウマ娘たちの通うトレセン学園では応援してくれるファンへ向けての感謝祭という形で開催されるため妥協などできるワケがない。

 

 

「──ハッ。まさか生徒会長殿がジョークも嗜んでいたとは思わなかったな。それとも、私の耳の調子でも狂ったのか?」

 

「残念ながら私には言葉遊びの経験はないよ。それに、キミの耳の具合はおそらく健康そのものだとも。──もう一度言おう。サブトレーナーくんは私たち『クレープ屋さん』が協力を頼むつもりでいる」

 

「だから私たち『パンケーキ屋さん』はアイツを諦めろ、そう言いたいのか? それはそれは……随分とナメられたものだな。つ(・)も(・)り(・)でしかないのにもう勝ったつもりとはな」

 

 

 一触即発である。春の感謝祭はどちらかといえば運動会的な側面が強いが、それでも模擬店などを出店する生徒は大勢いる。各地のレース場でもさまざまなグルメを提供しているように、感謝祭で開催されるイベントレースをより楽しんでもらうためにも飲食店は必須である。

 もちろん自分たちも思う存分楽しみたいという本音を否定する者はいないだろう。学生半分アスリート半分のトレセン学園ウマ娘たちにとって、こういうイベントは堂々と遊べる数少ない機会なのだ。

 

 

 だからこそ、譲れない。

 

 

「そもそも、缶コーヒーすらまともに渡せないでウロウロしていたアンタにアイツを勧誘できるのか? 生徒会としてのやり取りもほとんどがエアグルーヴを通してなんだろう?」

 

「なるほど、たしかに以前の私はキミの言う通り差し入れすら満足にできずにいた臆病者だった。そこは否定はしないよ。だが──仮にも中央の生徒会長である私が、過去の失態をそのままにしておくとでも思っているのかい?」

 

「……ほぅ、たいした自信じゃないか。なら聞かせて貰おうじゃないか。それだけ大口を叩いてみせたんだ、ガッカリさせてくれるなよ」

 

「当然だとも。私はな、シリウス。先日──」

 

 

 

 

 

 

「──サブトレーナーくんの机に、差し入れのクッキーを置いてきた」

 

 

 

 

 

 

「……へぇ」

 

「事前にエアグルーヴやブライアンから聞かされていてね。サブトレーナーくんのルームには嗜好飲料が豊富に常備されているらしい。ならば、安易に缶コーヒーなどを差し入れるよりも、こうした“ちょっとつまみ易い”菓子類が最適だと判断したワケだ。無論、情報収集にも抜かりはない。ちゃんと流行りを意識した品物を選ばせてもらったよ」

 

「なるほど、そいつはたしかに進歩といえるかもな。──相手がアイツじゃなけりゃ絶賛してやってもよかったぐらいには、な」

 

「……なに?」

 

「オマエの判断は間違いじゃない。そこは否定しないさ。だが、肝心なモノが見えちゃいないようだな。アイツは十把一絡げに扱える男どもとは毛並みが違うってことを理解できてない。アイツは男のクセにオシャレなカフェよりも大衆的なラーメン屋を好む変わり者だぜ? ──大多数の意見に縛られて“個”を蔑ろにしたなルドルフ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるシリウスシンボリに対し、苦虫を噛み潰したような表情のシンボリルドルフ。

 

 そう、贈り物というのは真心が大切だと言うが、それはそれとして“相手に喜んで貰えること”という部分も必要不可欠な要素である。

 ルドルフが用意したクッキーの詰め合わせには間違いなく感謝の気持ちと労いの心は込められていた。だが、受け取り手であるサブトレーナーのことを考えていたかと問われれば自信をもってそうだと頷くことはできない。

 あくまでルドルフが調べたのは世間一般の意見であり、そこに彼の趣味趣向、味覚の好みが反映されているとは限らない。

 

 

「私はオマエとは違う。事前に後輩たちからアイツが調理器具を買うかどうかで悩んでいるという情報を仕入れていたからな。手頃な値段で学生からプレゼントされても気後れすることなく実用性も兼ね備えた──」

 

 

 

 

 

 

「──新品のフライパンをコンロにセットしておいた。料理好きの男に贈るにはピッタリだろ?」

 

 

 

 

 

 

「あくまで実利を求めたか。キミらしい。……ところでシリウス、我々競走バが贈り物として嬉しいが扱いに困る物として蹄鉄が挙げられるのは知っていると思うが」

 

「……何が言いたい」

 

「蹄鉄シューズは勿論、蹄鉄もまた見た目が同じような品々でもひとつひとつ特徴や癖が違う。それは第3者から見れば微々たる差異かもしれないが、我々ウマ娘とっては決して無視できないものだ。そう、道具というものは、本人にしか理解できない使用感へのこだわりというものが往々にしてあるものだ。──ここまで言えばキミならわかるだろう?」

 

 

 淡々と言葉を紡ぐルドルフに対して、今度はシリウスが舌を打ち鳴らす番となる。

 

 情報収集は完璧だった、フライパンの取っ手の金具がほんの少しだがグラグラしてきたから新しいのを買おうかどうかと話していると後輩から聞いたところまでは。

 だが、惜しくも彼女はそこで油断してしまった。彼ほどの料理の腕前の持ち主であれば道具に特別なこだわりを持っていてもおかしくないのに、フライパンの選定をシリウスの主眼のみで行ってしまった。

 己を貫く生き方を尊ぶシリウスシンボリというウマ娘の持つ判断力と行動力が、このときばかりは裏目に出たのだ。

 

 

 まさに一進一退。互角の攻防。

 

 

 ちなみにクッキーについては生徒会のウマ娘が、フライパンについてはシリウスの後輩がちゃんと彼に説明したので不審物扱いされることなく美味しく有効活用されている。

 

 数瞬か、数秒か、数分かもしれない。互いの視線が交差したままの沈黙の後──。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……で、アタシにディーラーの真似事を頼みたいってワケか」

 

「あぁ。オマエとはルームメイトとして、ギャンブル仲間としてそれなりに仲良くさせてもらっちゃいるが、そんな理由で手心を加えるほど腑抜けちゃいないだろ?」

 

「そして相手が生徒会長だろうと、それこそ無敗の三冠ウマ娘などという肩書きにすら臆することなく堂々とジャッジを下せる胆力も期待できる。完璧な人選というワケだ」

 

「そうだな、朝メシ食い終わるのを後ろで仁王立ちで待ってたぐらいだからな、アタシのことを信頼してくれているのはヒシヒシと伝わったぜコンチクチョウどんな嫌がらせだテメェら」

 

 

 本日、休日。

 

 現在、朝6時。

 

 

 サブトレーナーからカステラ並みにふわっふわの卵焼きの作り方を学んだヒシアマゾンのお披露目会を兼ねた朝食を楽しんでいたナカヤマフェスタの背後に唐突に現れたシンボリふたり。

 表と裏、ベイビィフェイスとアウトローの代表格とも言える有名人が揃っていることに新顔のウマ娘たちは驚いたり喜んだりと様々な反応をする中、同期の高等部のウマ娘たちは慣れたもので誰ひとりとして彼女たちの方をチラリとも見ようとはしなかった。

『あ、コレまためんどくさいヤツだ』と面倒見の良いヒシアマ姐さんですらノータイムでナカヤマを見捨てるぐらいには統率の取れた一糸乱れぬ目逸らしであった。

 

 たまたま入り口近くの席を選んだ自分のミスだと己の精神をムリヤリ納得させて同行したナカヤマ。キメ顔でしょうもない説明を始めたシンボリどもに一発くらいビンタかましても許されるんじゃないかと思いつつ、勝負事の頼みとなれば断れないのが彼女である。

 

 

「それで? いったいどうやって白黒付けようってんだ? わざわざアタシに声かけたってことは、走り以外での勝負なんだろ?」

 

「それは我々も最初に考えたんだが、私がターフに入るとほかの生徒が萎縮して遠慮してしまうかもしれない。まさか私闘のために彼女たちを追い立てるようなマネなど言語道断だ」

 

「いくら私でも休日を返上して真面目に練習しているヤツらを邪魔するのは気が引けるんでな。まぁ安心しろ、私とルドルフで勝負の内容については昨夜のウチにチャットアプリで決めてある」

 

「珍しく夜遅くまでケータイいじってたのそれか。表と裏のトップ同士が仲良しなのは結構なことだがな、私を巻き込まなければなおのこと。……それで、肝心の勝負の内容とやらはなんなんだ?」

 

「うむ。因縁の始まりはサブトレーナーくんをどちらが勧誘するか、というところから始まっている。ならば話は早い、どちらがサブトレーナーくんをランチに誘うことに成功できるかで決着を付ければいい」

 

「ククッ……なるほど。ちょっと5分ほど待っててくれ、耳の調子が悪いみたいだから掃除してくる」

 

「ルールは簡単だ。私とルドルフで順番にアイツにアプローチをかけて、OKを引き出したほうの勝ち。だからまぁ……ナカヤマにはジャッジよりも不正やアクシデントが起きたときの対応を頼みたいってトコロだな」

 

「やっぱり聞き間違いじゃなかったか。オマエらそれ決めるためだけに深夜の2時まで起きてたのか」

 

 

 言いたいことはたくさんある。

 

 そんな勝負をするなら最初から勧誘しろよとか、サブトレの性格からして断らないだろうから先に声かけたほうの勝ち確だし2人目は普通に先約があるから断られるだろうとか、まだ朝の7時前なのに昼飯の約束取り付けるのかとか、そんなん昨日のウチにやれよとか、そもそもこの流れで不正とかアクシデントとかってなんなんだよとか、こちらに人差し指を向けていつものキメポーズをとっているふたりに対して言いたいことはいくらでもある。

 

 だが言えない。言ってはならない。勝負師を名乗る者として、それがたとえどれほど小さなモノ、下らないモノであっても邪魔をしてはならない。合意の上で成立した勝負に横槍を入れて台無しにするなどあってはならないのだ。

 そういう意味では見届け人に彼女を選んだシンボリルドルフとシリウスシンボリの人物評価はこれ以上ないほど的確であったのだろう。断れない弱みにガッツリ付け込んでいるとも言えるが。ヒシアマすまねェ、アンタのこと一瞬でも薄情者と疑っちまった自分が恥ずかしいぜ。そりゃ誰だって関わりたくねェわこんなん。

 

 

 これから始まる大勝負に向け意気揚々と並んで歩くルドルフとシリウス。その後ろを付いて歩くナカヤマと視線を合わせる者は誰もいない。




後編へ続くッ!!
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