爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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それは誰かの(切実な)祈りの言葉

 偶然だったの。

 

 その日は差しと追い込みに適性のある子たちが中心に集まってて、パワーを鍛えるといいって話になったの。

 そこで、筋トレが趣味のライアンちゃんがみんなを鍛えてあげるってなったの。

 そしたら! なんとなんと、トレーナーまで身体を鍛えたいって話になっちゃった! あたしたちに指導する立場なのに、自分がだらしない体型してたら説得力がないから~って。

 

 とっても偉い心がけなの! 伊達にスケベな格好してるワケじゃなかったの! 

 

 それで、みんなでトレーニングルームを使うことになったの。普段はデビューが済んでる子しか使えないけれど、夏の期間はみんなが使えるからお得なの! 

 

 だけど。

 

 まさか、まさかあんなコトになるなんて。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「……っし。うん、ウマ娘用なだけあってかなりの手応えだが……悪く、ない、なッ! ふっ!!」

 

 

「「…………」」

 

「どうしようライアンちゃん。あたし、ちょっとトレーナーのこと甘く見てたの……」

 

「うん……。てっきり、健康のために鍛えてるくらいだと思ってたんだけど……」

 

 肉体の仕上げぶりが本気過ぎる……ッ! 

 

 普段から惜し気もなく丸出しにされている両腕と両足だが、すらりとしたモデルのように見えたのは表面的な物に過ぎなかった。

 それがいまはどうだ、筋肉のラインがくっきりはっきりと浮かび上がっているのだ。細身のシルエットはそのままに、パリッパリに張り裂けんばかりにムッチムチである。

 そして上半身も、一切の隙も油断もない。限界まで磨き抜いたかのような彫刻の如くである。それが汗に濡れた薄手のシャツ1枚、ピッタリと張り付いているものだからなんかもう……色々とヤバいのだ。

 

 彼女たちとて健全な女子中学生。その手の書籍類をまったく知らないなどということはない。

 そもそも少女マンガというものは表現の自由を守護るため、日夜PTAやら紳士団体と戦っているくらいには性的表現のチキンレースに積極的である。

 なのでこういう状態の男性を見る機会は何度もあった。なんならグラビア雑誌を寮にコッソリ持ち込んでいる勇気あるウマ娘だっているくらいだ。

 

 しかし……目の前のトレーナーは“格”が違う。

 

 どう表現すればいいのだろうか。グラビアアイドルが女受けを狙った媚びるような体つきだとすれば、これは完全な自然体。天然自然の中で育まれた高純度の雄の身体。

 不思議な感覚だった。シャツを着ているのに半裸のグラビアよりも何十倍も興奮する。これが本物の“着エロ”というものか。見せTだから大丈夫とかいうレベルではない。

 

 

「ふっッ! ……やれやれ。わかっていたけれど、動作確認用の1番軽いウェイトでもかなりキツめだな」

 

「あは、ははは。それでも充分すごいと思いますよ。それにしても、その、トレーナーさんもかなり鍛えてるんですね?」

 

「まぁな。さっきも言ったけど、偉そうなことばかり言って、自分がなにもしないってのは俺の好みに合わないんでね。自分で言うのもなんだが、なかなか説得力ある仕上がりだろう?」

 

 湿ったシャツを躊躇なくめくり、露出した脇腹をパシンッ! と叩くトレーナー。本当にそういうのは止めてほしい。狙ってやってないのがわかるせいで余計に()()が悪いの。

 あっという間にライアンちゃんのお顔が真っ赤になっちゃった。いや、よく見たらほかの子たちも無言でコッチを見てるし。そりゃこんな状況でトレーニングになんて集中できるワケないの! 

 

「それにしても、さすがに疲れたな……。えっと、マシーンの汗拭くヤツは~っと」

 

「あ、トレーナー。それはあたしがやってあげるの。トレーナーはクールダウンしてきなよ」

 

「いや、さすがにそれはダメだろ。自分の後始末をウマ娘に任せるとかトレーナーとしてだな──」

 

「いいからいいから。最初くらいはお客さま扱いでもバチは当たらないから大丈夫なの!」

 

 というか1秒でも早く友人の側から離れてほしい。小学生向けのギャグ強めのお色気シーンですらアワアワ言いながら読んでいるメジロライアンには刺激が強すぎる。

 正直なところ、アイネスフウジンとて平然と直視できるかと問われればムリに決まってると即答するだろう。ただ周囲が過剰に反応しているのを見て、かえって冷静に動けているというだけだ。

 

 とにかく1度、視界から消さなければ。

 

「──これでバッチグーなの! さぁライアンちゃん、あたしたちもそろそろ真面目にトレーニングを……始め、て……」

 

 手際よく清拭を済ませて振り替えれば真剣な表情で固まるライアンがいた。いったい何事かと視線の先をたどってみれば──。

 

 

「ふぅ。さて、替えのシャツは~っと」

 

 

 もしも。

 

 もしも、アナタの目の前でいきなりグラビアアイドルが、後ろ向きとはいえ、それこそたったシャツ1枚とはいえ、目の前で着替え始めたらどうする? 

 淑女らしくスマートに後ろを向いてあげるのが正解だろう。そんなことはこの場にいる全員が理解している。だが、それを求めるには彼女たちはあまりにも若すぎた。

 

 あの、しっとりとした肩のラインから目をそらす? できるワケがない。

 

 あの、ハッキリと主張する背中の筋肉から目をそらす? できるワケがない。

 

 あの、キレイに引き締まった脇腹から目をそらす? できるワケがない。

 

 いままで写真の向こう側でしか知らなかったような世界がそこにあるのに、それから目をそらす? できるワケがないッ! 

 

 手早く着替えを済ませたトレーナーが退室し、徐々に理性を取り戻した彼女たちの思考が一連の出来事を理解したそのとき──。

 

 

「──えふッ!」

 

「ライアンちゃんッ!?」

 

 

 メジロライアンは、性的興奮を抑えることができなかった。

 

「そうなんだ……アレが、黄金の比率……」

 

「ライアンちゃん! キズは浅いの、しっかりするのッ!」

 

「レッスンマッスルは……このときのために……ありがとう、本当にありがとう……」

 

「りゃいあんちゃぁぁぁぁんッ!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「いやぁ……のぼせて鼻血を出しちゃうなんて。現実にこんなことってあるんだね。アハハ……」

 

「はい濡れタオル。とりあえず頭の上にでも乗せておけばいいの」

 

「うん、ありがとうアイネス」

 

 トレーニングに熱中しすぎたライアンが、うっかりのぼせて鼻血が出てしまった。それだけである。それ以外の事実などなにも存在しない。

 メジロ家の名に泥を塗るような出来事など存在しない、それがこの場に居合わせたウマ娘たちに共通するたったひとつの真実なのだ。

 

 これもまた、美しき女の友情。

 

「……あたしも頭を冷やしたいから、ちょっと外で風に当たってくるの」

 

「……うん、いってらっしゃい」

 

 

 ────。

 

 

 これまでも細々とした驚きはあったが、今回に関しては本当に焦った。独特の感性の持ち主であることは誰もが知るところであるが、まさかウマ娘だらけの中で堂々と着替えをするなど予測できるワケがない。

 

 もしかしたら本人の中では水着姿と変わらないから問題ないと考えた可能性もある。

 たしかに水着であれば下半身を膝まで隠せばいいのだろうが、それは海辺やプールだから通用するのである。それ以外の場所を水着で歩いていたら、普通にちょっとアブない人なのである。

 

 

「あ、トレーナー」

 

「アイネスか。どうした?」

 

「ひと休み。ちょっと風に当たりにきたの」

 

「そっか。しかしアレだなぁ~、さすがは中央トレセンだよな。トレーニング機材の豊富さと豪華さよ」

 

「その気持ちはスッゴくわかるの! 普段は学園の外にあるジムにいったりするんだけど、同じようなトレーニングしても全然違うの」

 

「あー、そういや夏合宿でウマ娘が少ない間限定だったな。そこだけは地方のほうが楽だったかな。みんなで順番に使えたし。俺もガッツリお世話になったわ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 まさかトレーナーが貸し切りで使ってたワケではあるまい。つまりは、先ほどのような光景がなんども繰り広げられたということで。

 フィジカルだけでなくメンタルも一緒に鍛えられるお得なトレーニングだ。自分は先ほどの1回ですでにお腹いっぱいな気分なのだが。

 

 

「しかし、こうなると……まさかウマ娘たちを押し退けて割り込むとか論外だしなぁ。俺も近場のジムとか通ってみるかな~」

 

「え゛ッ!?」

 

 近場のジム? 学園の外のジムに通う? 一般人が大勢出入りする場所であの格好で筋トレするだと? あっという間にウマッターで拡散されて大事件になる未来しか見えない。

 

「え、え~とぉ~。あたしはそれは止めたほうがいいとおもうの~」

 

「そう? 学校の使うよりいいと思うんだけど」

 

「そ、それは~その~。──ッ! ホラッ! トレセン学園のトレーナーって、結構特別な仕事だから! まわりの人たちがビックリしちゃうの!」

 

「あー、そういや向こうにいたときもそんな感じのこと先輩たちに言われたっけな。お前はもう少し人に見られるということを考えて行動しろって」

 

「そうなのそうなの! それに、自分を鍛えることに夢中になっちゃったら困るの。トレーナーの仕事はあたしたちを育てることなの!」

 

「それもそうだな。よし! 使わせてもらえるときだけお邪魔して、それ以外は学園内でなにか……工夫して考えてみるか!」

 

「それがいいの! あたしも協力するの!」

 

 ありがとう、顔も名前もわからない先輩トレーナーのみなさん、本当にありがとう。みなさんが先手を打ってくれたおかげで、この天然ストリップストリームを外に出さずに済みました。

 でも、人に見られることを考えて行動した結果が先ほどの勢い任せの脇腹めくりだとしたら、たぶんみなさんの忠告は半分くらいしか伝わっていないと思います。

 

「そもそも、そこまで鍛える必要あるの?」

 

「そりゃな。人に見られるってことは、つまりトレーナーがだらしないとウマ娘までナメられるってことだろ? だったら徹底的に鍛えるしかないだろ。どこに出しても恥ずかしくない程度にな」

 

 違う、そうじゃない。コレ先輩トレーナーたちの忠告半分どころか1割も伝わってないヤツだ。

 

 ……よし、深く考えるのは止めよう。とりあえず一般人のみなさんが大事故に巻き込まれるのを防げたのだ、それだけでも頑張ったとしよう。

 

「さて、俺はそろそろ行くよ。今日はありがとな」

 

「いえいえ~。またね~」

 

 ほんのちょこっと頭を冷やすつもりが、しっかりと身体の熱が逃げてしまった。

 幸いなことにまだまだ時間はあるし、もう一度丁寧にウォーミングアップをして筋トレに戻るとしよう。

 

「さてさて、ライアンちゃんもきっと待ちくたびれて──え?」

 

 

 

 ────よく、やってくれた。

 

 

 

「……う~ん? いま、誰かの声が聞こえたような……でもまわりには誰も……うん! きっと気のせいなの!」

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