爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~   作:はめるん用

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主人公が以前所属していたトレセン学園のウマ娘の事が気になるという感想があったので、とりあえず少しだけ。


夢は広がり胃は荒れる

「ワシらんとこでは“スキル”という呼び方が定着している。もともとはボウズがウマ娘どもに分かりやすく教えるための記号みたいなモンだったがナ? すっかりトレーナーの間に浸透しちまってるよ」

 

「道理ッ! 何事もイメージというものは重要だ! それがわかっているから長老殿も許可したのだろう?」

 

「ったりめぇよ。そんなことでGⅠ取れるんだゼ? そりゃどんどんやってくれってなもんよ!」

 

 珍しい連絡だった。日本の最後の男性トレーナー()()()男、そしていまはとある地方のトレセン学園で理事長として勤務する“長老”が話があると言ってきた。

 やよいとしては断る理由がない。現役の理事長の中では1番の年長者であるし、なにより“彼”に関することで話さねばならないことがいくつもある。

 

「……で、ボウズの様子はどーよ。環境が変わったくらいでいきなり大人しくなるたぁ思っちゃいねぇがよ?」

 

「大きな問題は起きてない……と、思う。夏の合宿期間の間に居残り組のウマ娘たちを丁寧に指導してくれていたようだ。おかげで合宿明けの模擬レースで、何人かチームに参加できるようになった」

 

「そいつはなにより。まぁ元気にしてるんならそれでいいさ。ほんで? お嬢は何を聞きたい?」

 

 

「──長老。何故、彼を手放した?」

 

 

 射貫かんばかりにまっすぐに、モニターに映る長老を見つめるやよい。歩く風営法違反な彼であるが、トレーナーとして見れば真面目……真面目? うん、とにかくウマ娘たちの能力を上手に引き出しているのはたしかだ。

 それも、単なる身体能力の向上というよりは才能の開花、あるいは潜在能力の覚醒とでも表現すればいいのか。普通のトレーニングが長い坂道を登る作業だとすれば、彼の指導は壁を乗り越える、あるいはブチ壊す作業だろう。

 

 そんな稀有な能力を持つトレーナーを手放すなど、理事長としてはあり得ない。そうでなくとも、私なら絶対に手放せない。

 

 と、なれば。

 

「仮定ッ! 彼の普段の様子からして、人間関係にトラブルがあったとは考えにくい! ……まぁ、スタッフたちは色々と振り回されている感は否めんが。年配の既婚者たちは、彼のことを厄介だが可愛い弟くらいの扱いで済ませているが……」

 

「こっちも似たようなもんよ。まぁ、トレセン学園に勤めるようなヤツぁ、基本的に男よりウマ娘が最優先だからな。お嬢の言うとおり人間関係は問題ねぇ。問題は──ウマ娘たちの意識だ」

 

「意識……」

 

「上の世代は問題ない。GⅠ取った、いや、GⅠで走ったウマ娘たちは軒並み()()()()()終わったからな。……なにそんな不思議そうな顔してやがる。夢の舞台を終えたんだ、あとは社会人レースに行くか大人しく引退するかだろ」

 

「ま、待てッ! 引退だと? せっかくGⅠを勝利したのだろうッ!? まだまだこれから──」

 

「それはお嬢、お前さんだから──お前さんたち、中央のウマ娘側だから言えるセリフなんだよ。地方のトレセンのウマ娘にとっちゃGⅠはゴールなのさ。URAの連中がステップレースと呼んでるGⅡだって、こちとら一世一代の大勝負なんだからよ」

 

 否定の言葉は出なかった。なぜならレースを走り終えた彼女たちの表情をやよいは知っているからだ。

 勝つにせよ、負けるにせよ、自分自身の全力で夢を終わらせたウマ娘たちの表情は──希望や幸福とは違う、適切な言葉は見つからないがもっと尊いもので満たされているように感じていた。

 

 それを思い出して、もう一度引退という言葉を聞けば……そうか、彼女たちは自分の物語を無事に終えたのだな。そう納得できてしまう。

 

 

「つーことでよ、上の連中は問題ないんだよ。上の連中は。問題は後輩ども──()()()()()()()()()()()()が掛かっちまってる」

 

 中央というエリート集団、そこに残ることが出来なかったウマ娘が地方のトレセンに入る。声を大にして言うものこそいないだけで、ヒトもウマ娘も皆が同じようなことを思っているだろう。

 そして、そんなエリートたちのために用意された舞台がGⅠレース。凡人にはターフに入ることさえ許されない夢の聖域のはずだった。

 

 ──凡人が、天才を超えた。

 

 天才でなくとも、エリートでなくとも。自分を騙すための言い訳などではない、本当に努力で才能を超えてみせたのだ。

 中央だけが有するGⅠレースのトロフィーを、自分たちの先輩ウマ娘が持ち帰ってきたとき、果たして後輩ウマ娘たちの興奮はどれほどだったか。

 1度だけなら幸運だったで終わった話だ。それが複数になればもしかしてと期待する。ならば、次の年も続いたならばどうなる? 

 

 ──次は、自分たちの番だ。

 

 夢を終わらせてはならない。先輩たちがそうしてくれたように、GⅠウマ娘の夢を受け継ぎ、そして次の世代にバトンを渡さなければならない。

 可能性はある。何故なら、自分たちも条件は同じだから。先輩たちにGⅠに勝つためのスキルを与えてくれたトレーナーは、自分たちにもそのスキルを教えてくれたのだから。

 

「人手不足を解消できなかったツケだな。ボウズが良かれと思って世話してくれたおかげで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「同じトレセン理事長の立場としては羨ましい話だがなぁ。しかし、朧気だが見えてきたな。彼を盲信、いや狂信する勢いなのだな?」

 

「不幸中の幸いなのは、その勢いが全部レースに向いてることだな。ボウズの教えが正しいことを証明してみせるってな。まぁ、ともかく、そんな状況だったからよ……1度、逃がす必要があったワケだ」

 

 優秀過ぎる故に追放せねばならない。そんなラノベの主人公みたいな理由で中央に異動させられたのか。思いの外、深刻な理由でなくて安心……していいのだろうか? 

 

「つーことで、な。こっちのウマ娘どもは中央に対して闘志メラメラって状態だからよ。もちろんトレーナーたちもだ。ボウズが居なくなったとたん、GⅠ勝てませんでしたじゃ沽券に関わるからな」

 

「承知ッ! そういうことなら受けて立とうッ!」

 

「そうか! そいつは良かった! いや~助かったぜ、なにせウマ娘たちをなだめるために色々と吹き込んじまったからなッ!」

 

 は? 

 

「いやな? ボウズを逃がすときにちょっとな」

 

「長老。いったい何をした?」

 

 

 

 

 

「……優秀なトレーナーは中央にいるべきだ、みたいな感じで連れてかれたよ~的なことを、チョロっと面白おかしく」

 

 

 

 

 

「ジジィィィィッ!? なんつーこと仕出かしてくれたんだこの老いぼれがァァァァッ!! それ完全にこっちが悪者にされてるパターンだろォォォォッ!!」

 

「しょうがねぇだろッ! こちとらもギリギリだったんだよッ!! ホントにあのボウズ頑張り過ぎたせいでウマ娘どもの勢いがヤバかったんだよッ!!」

 

「それを何とかするのが貴様の仕事だろうがッ!!」

 

「何とかって何だよッ!! だったらテメェになにか考えでもあんのかよッ!!」

 

「そんなん私が知るかァァッ!!」

 

「はい出たー! 出ました代案も無いクセに否定だけする奴ゥ~ッ! お前そんなん許されんの中学生までだろバーカ! そんなんだから身長伸びないんだよバーカッ!!」

 

「やかましいわこのハゲ山王冠ッ!! 引退した貴様の毛根と違ってまだまだホープフルステークスに出走できるわッ!!」

 

「ハゲじゃないです剃ってるだけですゥ~。お前の身長と違って伸ばそうと思えばすぐ伸びますゥ~。悔しかったら明日までに身長伸ばしてみボゴフッ!?」

 

「あ」

 

 一瞬、モニターが激しく揺れる。

 

 ……どうやら後ろに控えていた秘書(ウマ娘)が長老を物理的に黙らせたらしい。ドラム缶をバットで殴ったような凄まじい音がしたが、コレちゃんと生きてる? 

 こちらに向かってペコリと一礼し、再び後ろに控えるウマ娘秘書。よかった、たづなが口より先に手が出るタイプじゃなくて本当によかった。

 

「……うん、まぁ。とりあえず来年。第一波がメイクデビューすっからよ。レースで当たったらよろしく頼むわ。1番早いヤツで2月にデビュー戦だ。スケジュール次第では最速で秋のGⅠ“オータムカーニバル”に出走するかもしれん」

 

「カメラ割れてるぞ」

 

「ともかく、ボウズのことはよろしく頼む。抜けてるところはあるが、ウマ娘に対しては一生懸命なヤツなんだ」

 

「……善処はする。私とて優秀なトレーナーは喉から手が出るほど欲しいからな」

 

「ありがとうよ。……いやぁ、お嬢のおかげで、これからはだいぶ心に余裕が出るぜ。これからは夏合宿のたびに理事長同士の緊急会議を開かなくていいし、花見の席や聖蹄祭の前に機動隊との連携確認もいらんし、学園の搬入業者から『バファ○ンの注文書、桁数まちがってませんか?』って確認の電話が来ることもないワケだ。ガハハッ! ──う゛っ」

 

 アイツいったい何やったの? 

 

 長老も男にしてはなかなかヤンチャで、母からは色んな逸話を聞かされてはいた。しかし彼は周囲に認められ、望まれて理事長の椅子に座ったくらいにはまともな感性の持ち主である。

 

 どうやら常識のあるヤベー奴では、常識のないヤベー奴には太刀打ちできなかったらしい。

 

 そして、そんな“とびっきり! 日本で1番ヤバい奴選手権”の絶対王者はいま、自分の部下として働いているのだ。あっはっは! これからのことを考えるだけで、やよいちゃんってばもうぽんぽんがイタイのである。なんかもうぴしゃんぴしゃんになるまでココア飲みたい。

 

 

「スマン、ちょっと目眩が……。あぁ、スキルについては共有化するかはまだまだ未定だ。なにせ根拠が全部ボウズの感覚頼りだからよ。ワシんとこのトレーナーたちも頑張っているが、天才の感性を万人向けに解析すんのは骨が折れるみたいでな」

 

「了承ッ! なに、本人がいるのだから中央は中央で技術として確立してみせようッ!」

 

「いい返事だ、先代とそっくりだな! あ、そうそう」

 

「何事?」

 

「そのうち下剋上って感じで、メディア通して中央に宣戦布告するかもしれないから。たぶんそっちにも色々行くかもしれんけど、上手く対応しといてくれ」

 

「へ?」

 

「じゃあの!」

 

「あ、ちょッ! ……あのクソジジィッ!!」

 

 いつか必ず右ストレートでブッ飛ばす。




これがトレセン学園の理事長同士による高度な情報戦である。
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