爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
平和が続けば続くほど、些細な事件ですら民衆にとっては最高の娯楽となるらしい。
11月頭。
とある地方のトレセン学園が、中央へ向けて宣戦布告。
和装の礼服でビシッ! と決めた貫禄のある渋い老人っぽい雰囲気の理事長が──何故か後ろのほうに控えた状態で、新しく生徒会長になったというウマ娘が静かに、力強く、そしてタップリの威圧感でケンカを売ってきたのだ。
その様子はテレビで全国へ放送され、よほど視聴率がいいのか家電量販店のショーウィンドウに並べられたモニターでは、連日のようにそれ関係のニュースが流れていた。
「そして我らが中央理事長の返答は……レースの結果で答える、か。賭けのテーブルから逃げる気はサラサラなくて安心だな。それで、ジャパンカップや有マ記念には間に合わないとして、だ」
「年明けの1発目、GⅠ・雪の女王杯辺りやろなぁ。菊花賞の結果は中央の勝ちやったけど、辛勝もいいとこやったし。こら、先輩らもかなりアブないかもしれん」
「アタシはアツい勝負を見れるならそれでいいがな。ついでにアツい勝負をできるならそれこそ文句ねェ」
「せやなぁ。まぁまず間違いなく来年からのトゥインクル・シリーズは荒れに荒れて、それこそ大荒れやろなぁ。……ウチらかてそうやけど、あのトレーナーにキッチリ走りの技を叩き込まれた連中やろ?」
「表向きはともかく、事実上──
「本格化も済んでないのに掛かり過ぎやろ。そもそもトレーナーが担当してたワケちゃうらしいし。まぁ、ウチかていまから楽しみで仕方ないけどなぁ~? ……ほんでナカヤマ、ゴルシのヤツいつになったら来んねん」
「急かすなよ、まだ5分はあるだろ。それに、アイツはなんだかんだで時間を守る。……確率のほうが高めだ」
「確率てなんやねん。しかも高いじゃなくて高めかい」
「まぁ来るだろ。アイツもラーメンは好きだし」
走ることに全力のウマ娘とて休日は必要不可欠。そもそもトレセン学園はその辺りは意外と緩いのだ。
アスリートの養成学校ということでなにかと規則が厳しい様子を想像する者も多いが、オンとオフの切り替えはしっかりしている。むしろ、URA運営も学園側も息抜きを積極的に推奨しているくらいだ。
冬物の私服に身を包んだナカヤマフェスタにタマモクロスもまた、そんな休日を満喫しようと学園生徒ご用達の商店街にやってきていた。ラーメンを食べに。
ラーメンは良いものだ。
練習で疲れた身体にも染み渡る。寒い時期に食べる辛みの味付けの物も美味い。夜にコッソリ食べたときなど幸福と背徳で満たされてなんともいえない。
寮を抜け出した先で駿川秘書と樫本チーフのふたりと鉢合わせて連行されるウマ娘が毎年それなりの人数になるのも仕方ない。
「せっかく無料券が
「タダ飯食えるんやし、待つくらいええけど──お、来たな?」
「おーっす。ワリィワリィ、ちと遅れちまったかぁ?」
「約束の2分前。というかオマエ」
「なんでジャージやねん。しかも練習用の蹄鉄シューズまで履いとるし」
「いやぁ、ちょっと時間ギリギリまでライスの奴と併走しててさぁ。ホレ、いつもの不幸がどーのこーので落ち込んでたからよ。ブルボンとバンブーとジョーダン誘ってよー、ちょっくら走ってきたぜ!」
「あぁ、あれな~。ホンマになんなんやろなライスのアレは。可哀想なん通り越してもはや芸術やで」
「模擬レース含めて走ってる最中は起こらないのが不思議だな。しかしオマエも相変わらず面倒見がいいことだ」
ゴールドシップ。
有り余る行動力で教師たちの頭を悩ませている反面、破天荒さと面倒見の良さで初等部のウマ娘たちの憧れでもあり、やっぱり教師たちの頭を悩ませている中等部の名物ウマ娘である。
とはいえ、ちゃんと笑い話で済む程度の騒ぎ方であり、走ることには真剣であり、困っている者には(彼女独自のやり方で)手を差しのべることもあり、とりあえずは良しとしておこうというのが学園側の判断である。
「なぁなぁ、早くいこうぜ~。ライスのヤツ、けっこう速くなっててよー、かなりマジで走ったからハラ減ってしょうがねぇんだよ」
「オマエにそこまで言わせるのか。コイツは次の模擬レースが楽しみだなオイ? あぁ、少しまってくれ。ついさっき電話がきたってんで向こうで話してるから」
「あン? なんだ、ほかにも誰か──」
「おう、悪いな」
「……。────ッ!?」
「ええよー別にー。なんや楽しそうに話してたみたいやけど、エエ知らせでもあったんか?」
「地元の友だちから。元気でやってるかって」
「トレーナー。アンタ、トモダチいたんやな」
「そいつはジャックポット以上の驚きだぜ」
「え、ひどくない?」
酷くないワケがあるものか。この青年の友人である。さぞかし気苦労が多かったに違いない。
それでもこうして気を遣って連絡してくるくらいだから、その友人たちとやらはよほどの人格者なのだろう。彼を心配したのか、彼に振り回されている周囲を心配したのか判断に迷うところだが。
「お、ゴルシも来たのか。いまから行く店、お前のオススメなんだってな。楽しみだ」
「お、お、おうよッ! サイコーに美味いラーメンとかラーメンとか、あとラーメンとか置いてるからよッ! ビックリしてガニメデまでブッ飛ばないようシートベルトをちゃんとしとけよなッ!!」
「なんやガニメデて」
「知らん」
「それにテンパり過ぎやろ。どんだけラーメン推してんねん」
「まさかエアグルーヴ以外にも弱点があるとはなァ。誰だって可愛いところがあるもんだな」
トレーナーが厚着になり露出が減ったことを残念に思うウマ娘たちがいる一方、露出が減ったことで余計に“男性”というものを意識してしまったウマ娘たちがいる。
夏の間は露骨な色気というフィルターを通していた。それが無くなると今度は純粋に異性というものが見えてくるのだ。
おめでとう。じゃじゃウマ娘たちの、第二次性徴の自覚である。遅くないか?
正直、ナカヤマには彼女たちの葛藤がサッパリ理解できない。最初からアイツは男として、少なくとも外見的には魅力はあった。見せてくれるものは遠慮なく有効活用させてもらったし。
もちろん今ではトレーナーとしても魅力的だと自信を持って言える。技術的な部分はもちろん、彼の練習に参加するようになってから脚が──本格化の進行が早まっているのを感じるからだ。
あるいは、もしかしたら。
ともかく。
ようは彼女たちは半分くらい現実味のない状態でアイツと接していたのだろう。もうそれが理解できないが、ともかく今さらそうなった。あんだけ下世話な話題で盛り上がっといて、ホントに今さらだなオイ。
それにまさかライバルが含まれてることまでは予想できなかった。初等部のウマ娘たちと一緒にガチになってカブト虫捕まえに行ってたりしてるのは知っていたが……。
なかなか愉快なテンションで会話を続けるゴールドシップだが、それを平然と受け止めているトレーナーも大したものだ。あのノリについていけない教師もまだまだ多いのだが。やはり変人同士、なにかシンパシーでもあるのだろう。
そして、余裕のあるトレーナーと違ってゴルシはだいぶ緊張している様子。チラチラこちらを睨み付けてくる。
──ナカヤマァッ! テメェッ! なんでトレーナーが来ること黙ってやがったんだよッ!
──悪いな、うっかり忘れてた。
ウソである。これもライバルの成長を願っての荒療治。トレーナー相手に小学生レベルの初恋ごっこをするなとは言わないが、そんな理由で腑抜けになられては面白くない。
ゴルシがレースには本気なのは知っている。だが懸念材料は早めに潰しておくに限る。せめて中学生の憧れレベルまでには慣れてもらわなければ困るのだ。
さすがにウイニングチケット並みに慣れろと酷なことは言わないが。彼女には兄がいたからか、彼に対する距離感が高松宮記念よりさらに短い。
練習でいいタイムが出たときに、当たり前のように抱き合って喜んでいる姿はなんとも微笑ましい。純粋にトレーナーとウマ娘としてのスキンシップである。
それをなんとなく羨ましそうに見ているビワハヤヒデが少しだけ可哀想でもある。ぐだぐだ悩んでないでハイタッチのひとつでもやればいいのに。彼が気軽に背中をポンッ! と叩いてくれるよう、さりげなく近くに位置取りしているナリタタイシンを見習えよ。
理想でいえばシンボリルドルフくらい堂々とした態度で臨んでほしいのだが。浮かれ気分で練習に交ざることなく、いつも静かに離れた場所からウマ娘たちを見守っている。
ギャンブラーとしては是非ともあの余裕のある立ち振舞いは参考にしたいところだ。さすがは中等部生徒会の会長、いずれは高等部でも会長の座を務めるに違いない。
まぁ、さすがに1度くらいは走りを見てもらっているだろう。現時点でもかなりの強者だ、きっとまだまだ強くなる。レースで競う日が楽しみだ。
「……さ。はよ店に行こか。この無料券ってウマ盛りも対応しとるんか?」
「ウマ盛りGⅡまで注文できるって書いてあるな。アタシはオープンで充分だが」
ナカヤマの態度から、タマモクロスも今回の
さて、店についたらまずどうしようか? 4人がけのテーブルに案内されたら、すぐに自分たちで片側を埋められるよう集中力を高めておこうか。
トレーナーに愉快な会話を提供しつつ、前を歩く自分たちに器用にプレッシャーを与えてくるゴールドシップ。変な見栄をはって、ウマ盛りGⅠとか頼んだら面白いことになりそうだ。