爆進!ウマランナー!! ~逆転☆熱血青春編~ 作:はめるん用
トレセン学園に、新人トレーナーたちがやってくる。
彼女たちの案内役を任されている樫本理子チーフトレーナーは年末最後の大仕事について、どうしたものかと頭を悩ませていた。
幸いにして、自分が担当するチーム・レオのウマ娘たちの大会参加についての世話はメンバーが引き受けてくれたので、スケジュールにはだいぶ余裕がある。
「成績は優秀のようですが……」
理事長であるやよい同席のもと、URAから送られてきたトレーナー候補生との面接をしたのだが、どうにも……精神的な部分で不安になる人材がそこそこ含まれていたのだ。
──これで、私たちもエリートだ。
ハッキリ言おう。自分も理事長も含め、中央スタッフが一番嫌いなタイプの思考回路だ。中央の肩書きそのものに価値を見出だしているような人材は、いずれ必ずウマ娘たちにムチャをさせるだろう。
ウマ娘の治癒能力はヒトと比べ物にならないほど高い。が、そもそもの身体能力が高い故に、大きな事故ではヒトよりも深刻な事態になりやすい。
ウマ娘たちの安全を第一に考える理子にしてみれば、その手のトレーナーを中央に所属させたくはない。
とはいえ。
彼女たちはしっかり条件を満たしたからこそURAがトレーナーとして認めたのだ。個人の好みで拒否することなどできない。
というか。
これで拒否しようものなら『え? 人手足りないっていうから送ったんだよ? なのに拒否るの? じゃあ中央は人材余ってるよね!』なんて受け取られる可能性がある。
となれば。
「仕方ありません。これもウマ娘たちの未来を守るためです。彼女たちには少しだけ──ブレイクスルーを体験してもらうことにしましょう」
◇◇◇
「──さて、それでは今から皆さんには模擬レースを見学してもらいます。出走するウマ娘たちは正規の担当ではなく
「あの~、質問いいですか?」
「はい。どうぞ」
「その、サブトレーナーってなんでしょうか?」
「言葉通りですよ。決まった担当を持たない、チームにも所属していないトレーナーのことです。同じように、出走条件を満たしていないウマ娘たちは基本的に彼がトレーニングを監督しています」
「なるほ──え? いま、彼って……」
「えぇ。サブトレーナーは現役の男性トレーナーですよ」
ざわ……ざわ……ッ!
どのみち正式に勤務するようになれば、すぐに全員が知るところとなる。隠すのは無意味であるので正直に伝えてみたが……やはりというかなんというか、わかりやすいくらい動揺している。
そりゃそうだろう。男性トレーナーはもともと少ないところに、彼女たちが物心ついたときには最後のひとりも引退していたのだから。
さて、ここまでは想定通り。
ざわめきが落ち着くまでの間、理子は冷静に新人トレーナーたちの反応を評価していた。レオに誘う予定の後輩が緊張した顔付きになっているのを確認できて、とりあえず一安心というところか。
真面目で聡明な彼女のことだ、自分が模擬レースで何を企んでいるのか予測できたのだろう。それでいい、彼女にはシンボリルドルフとエアグルーヴ、中等部でも屈指の実力者であるふたりを任せる予定なのだ。この程度で足踏みされては困る。
ほかには……よし、期待していた新人たちは全員、合格と言っていいだろう。
緊張しているのも、不安そうにしているのも、楽しそうにしているのも、挑発的に笑っているのも。それらのルーキーたちにとって、これから見せる模擬レースは良い刺激となるはずだ。
あとは……こちらも概ね、といったところか。
自分たちよりも先にトレーナーとして赴任しておきながら、いまだにサブとしてしか扱われていない未熟者。
あるいは、所詮男にはウマ娘のトレーナーなど務まらないのだという自尊心からくる侮り。
大変素直な態度で結構。せっかく上が割り振ってくれた人材なのだ、有効活用しなければ勿体ない。しっかりと身の程をわからせて再教育してやるとしよう。
◇◇◇
新人たちは期待していた。担当のいないウマ娘の模擬レースを見せるということは、きっと自分たちに彼女らをスカウトさせるつもりなのだと。
その考えは間違っていない。なにせ、いまの中央トレセン学園の高等部には──重賞に挑めるレベルのウマ娘たちが何人も余っているのだから。
「これが……中央か……ッ!」
能力のあるウマ娘たちが集う、それが中央トレセンだと知識では知っていた。しかし、これだけの走りができるウマ娘ですらメイクデビューできずに埋もれていたとは思わなかった。
やはり私も樫本先輩からチームに誘われたことで自惚れていたのかもしれない。サブトレーナーと発言したときの先輩の表情から、絶対になにかあるとは思っていたが……そういうことだったのか。
サブトレーナーとはつまり──未熟な私たちでもレースに勝てるよう、ウマ娘たちを一定のレベルへ育ててくれるトレーナーのことだったのだ。
屈辱だった。自分たちは1人前として扱われてなどいないのだ。ライセンスを獲得したとはいえ、所詮はURAからのお客様でしかないということか?
……だったら、やってやろうじゃないか。いま、コースを走っているウマ娘たちをそれ以上の走りができるように育ててみせようじゃないか。
私だけじゃない、きっとこの場にいる全員が同じことを考えているはずだ。負けず嫌いはウマ娘たちだけの特権ではない。先輩たちから売られたこのケンカ、逃げてたまるものか!
それにしても。担当のいないウマ娘たちはサブトレーナーなる人物が全員まとめて育てていると言っていたけど、ひとりを担当するだけでも大変なハズのウマ娘を同時に育ててこのレベル。
外から見ているだけではわからなかったが、さすがは中央ということか。ならばきっと、チームを率いる先輩たちは遥かな高みにいるのだろう。不安はもちろんあるが、なんとも楽しみになってきた。
◇◇◇
「……みたいなこと、考えてるんだろうねー」
「だろうなァ。完全に表情が変わってるもんなァ」
メイクデビューできるかどうかのレベルを想像していたところに、GⅢレベルのウマ娘たちの走りを見たのだ、驚きもするだろう。
舐めた態度の新人たちですら真剣な顔付きになったのを確認して、理子もほかのベテラントレーナーたちもイタズラの成功を確信した。それと同時に。
「「う゛ッ……」」
全員が胃の辺りを押さえて顔を歪めた。
感じる……ッ! ハードルが、期待値が、先輩トレーナーとなる自分たちの評価がチャート急上昇しているのが伝わってくる……ッ!!
胸の奥から熱いものが物理的に込み上がって来そうになるのを気合いで押し返し、なんとか姿勢を正して前を向く。
模擬レースをしているウマ娘たちの面倒を彼が見ていたのは事実だが、トレーニングの全てを彼が計画して実施していたワケではない。
そもそも担当のいないウマ娘たちには学園から汎用のトレーニングメニューが渡されている。それを元に彼がアドバイスをしている程度だ。
それをあえて誤解を産むような誘導をすることで、新人たちが慢心しないよう釘を刺したのだが……。
「遥かな高みどころか……負けてるんだよなぁ、実際のところ。GⅠ獲ってる地方のウマ娘たちってのは、アイツがアドバイスしてたのを別のトレーナーが育てたヤツだろ?」
「環境、才能、ともに劣る条件で、それでも中央に勝つための方法にたどり着いているワケですからね。実践したのはベテランのトレーナーたちだとしても、彼が中央に一矢報いたのは事実ですよ」
皆が彼を認めているのは、つまりはその部分。誰もが仕方ないと諦めていた地方の勝利を、スキルという彼のオリジナルで実現してみせた。
同じ条件で自分たちに同じことができただろうか? 答えは否、である。何故ならば地方が中央に勝てないのは彼女たちにとっては“当たり前の常識”なのだから。
さて、そんな常識知らずの天才……鬼才? 奇才? もうこの際どうでもいいや。とにかく今後、そんなトレーナーよりも格上の存在として自分たちが扱われることになる。
どんな罰ゲームだコレ。
しかも途中でカミングアウトすることは許されない。そんなことをして、もしも新人の誰かが『それならサブトレーナーさんリーダーにしてチーム作ろうぜ!』なんて言い出したらトレセン学園が一瞬で魔境になる。
まず間違いなく、メンバー入りを狙うウマ娘たちでグッダグダの掛かりっぱなしの選抜レースが始まる。
簡単なアドバイスだけでも効果が出ているのだ、本格的にチームとして担当したらどれだけ成長できるのか。ウマ娘であれば何がなんでも参加したがるだろう。
想像するだけで頭が痛い。ひとりの男性トレーナーを巡ってなど、そんなアホなことに全身全霊になっているところをゴシップ記者なんぞにスッパ抜かれようものなら、URA全体のイメージダウンに繋がりかねない。
これも全てはウマ娘たちの未来のために。覚悟をしていたとはいえ、全方向にハッタリを効かせ続けなければならなくなった。
うん、わかってる。彼は悪くない。彼は自分の仕事に一生懸命なだけなのだから。
いっそのこと利用なんてしなければ……ダメだな。それで女尊男卑のバカが余計なことしたら確実にウマ娘たちがキレる。信頼している相手を侮辱されることは、ウマ娘にとって最大の逆鱗だ。
本当に、三女神たちは何故この世にあんな厄介な天才を産み出したのか。ウマ娘たちの未来のためだとしても、もう少し手加減した天才にしてくれればよかったのに。
それともアレかな? ウマ娘たちの幸福のために、ヒトのトレーナーたちは頑張って耐えてねということなのか? コンチクショウめ。
あれはいつの頃だったか。ゴールドシップが三女神の像をゲッ○ードラゴン、ライガー、ポセイドン風に塗装したのを厳重注意して掃除させたことがある。
いまなら大雪山おろしでブッ飛ばしても笑って許せる気がする。いっそのこと2段返しで跡形もなく粉砕してほしい。
────ッ!? ──ッ!!!!
「……皆さん。自信を持って振る舞ってください。私たちが不安な顔をしては、新人の皆さんも、ウマ娘たちも不安になります。私たちは日本で最高峰のトレーナーなのですから。──いいですね?」
「「YESマムッ!」」
「誰がマムですか、誰が」