未完結作品となっております。申し訳ございません

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人は堕落を求めるもの〜未完結〜

「最近の外の世界は凄いわね。それこそ何でも揃ってるんじゃないかしら?」

「確かに物資が豊かですね。この・・・携帯電話とやらも、この一つで計算とか写真だとか・・・」

 身長170ほどの2人、1人は大きな傘を日傘のように扱い、1人は何本もの尻尾を生やしていた

 傘を携える少女は八雲紫、幻想郷の賢者であり、大妖怪である。その式神として生きるのが、九尾の妖怪、八雲藍。その尻尾はどんな生き物をも堕落させてしまうと噂である

「大きな建物ばかり・・・人も多いですし、賑やかなのはそうなのですが、こちらと比べると空気が悪いですね」

「これでもまだまだよ。まあ田舎に行くと空気は澄んでるわ。都会だとこんなもんね」

 談笑する2人の手には大量の紙袋。その外見や荷物、異様なオーラから、人々の注目の的になるのは当たり前のはずなのだが、通る人達は彼女達をただの一人として扱い、別段目をくれることをしない

「というかこんな買っちゃって・・・良かったんですかね?紫様」

「あーうん。まあ霊夢・・・魔理沙・・・あの辺りに御裾分けしときましょう。お菓子とかはそのつもりだったし」

「それであんなに・・・でも明らかに2人で食べ切れる量ではないと思うのですが・・・」

 藍は疑問符を浮かべる

「あら?聡明な九尾ともあろうお方が、まさかこれをわからないとでも?」

 皮肉を込めるわけではなく、純粋な期待の意味を込める。藍も単に確認の意味を持っていただけのようで

「・・・ですよね。そんなことだろうと思ってました」

 やや呆れ、愚痴るように。本心は隠しつつ。八雲紫はその姿を見て微笑んでいた

 

 

「暑いですね・・・」

「そうね・・・」

 ベンチに座り、両手を不自由にさせていた紙袋を地面に置く。空いた両手でなけなしの風邪を送る

「・・・あー!紫様!扇子はズルイです!私にも貸してください!」

「貴女が外の世界を見くびっていたのが悪いんですよ。5月だからと侮ってはいけません」

「もー!それならそうと言って下されば・・・」

 膨れ面になる。侮ったのは事実だが、そもそも藍は外の世界に出ることなぞ無かった。外に出れるのは八雲紫を除けば、博麗の巫女位なものだ。それでも博麗の巫女でさえ正式な書名書、手続きを踏まないと異分子扱いされてしまう。気軽に出れるのは八雲紫しかいない

「まあ、空気が幻想郷に比べると悪いの。便利になったなんていうけど、その代償がこれなのよ」

 持っていた扇子で口を隠す。八雲紫が何時も行う動作、癖と言っていい。なにか大事な話をする時に、誤魔化すかのように口を隠すのが癖なのだ

「・・・なるほど。確かに・・・」

 

 八雲藍は幻想の世界に住みながら、外の世界・・・現実の世界に幻想を抱いていた。忘れられたものが流れ着く最終処理場でもある幻想郷に流れ着くものは、ここ数年で猛烈に加速していた。その中には機械も含まれており、ポンポンと手品のように進歩していくその様を見て、内心心踊らせていた

 外の世界の科学力と河童の科学力は、どちらが上なのか。その計算に1日を使うこともままあった。その間の家事は研修として自らの式神である、化け猫の橙にやらせていた

 主である八雲紫に外の世界へと誘われ、心臓は恋をした少女のように高なっていた。外の世界に恋をしていた

 

 しかし、現実は非情だった

 行き交う人々の顔は千差万別。楽しそうにカップルで、仲間同士ですれ違うかと思えば、暗い顔をして通り過ぎる1人の人もいる。幻想郷と違ったのは、一人で外にいる人の顔が圧倒的に悪い。中には心踊らせるような、満足したような、喜びの感情を顕にする人もいた。しかし無を決め込む人の方が多い

 科学の進歩と幸せは比例するとばかり思っていた。そんなことはなかった。機械のようにもくもくと。ぶつかっても立ち止まることをしない。丁寧に謝ることをしない。むしろ謝りすらしない人もいる

 想像とうってはなれた世界に困惑した。

「理想と現実・・・それぞれは相反するんですかね・・・」

 愚痴を零す

 

「理想に近づけば近づくほど、もう一つの理想からは遠ざかるものよ」

 扇子で口を隠しつつ、しかしその両の眼だけで笑っているとわかる

「例えば・・・そう。こんな話を知っているかしら?」

 語るように、子供にものを教えるように唄い出す

「今日本ではLED電球が主流になりつつあり、電気を発熱に変換する量を格段に減らし、なおかつ色も鮮やか。それまでの白熱電球とは比べ物にならないほど、色も良く電気使用量も少なくなり、電球の耐久時間も格段に伸びたの」

 一瞬の静寂。紫は藍を見て微笑む

「そしてそれを信号機・・・まあ知ってるとは思うけど、それに件のLED電球を使用したの。まあ確かに大都市ではLEDが主流ね」

 藍は何を話したいのかさっぱりと言った表情を見せ、紫はそれ見て楽しんでいる

「つまり・・・どういうことでしょう?」

 痺れを切らしたかのように問いただす。その藍の唇に人差し指を当て、空いている片方の手を、人差し指を立て自らの口元に持っていき、黙ってというジェスチャーをする

「・・・ここからがこの話の目的よ。確かに効率やらなんやらは良くなったのでしょう・・・でもここで問題が発生したの」

「・・・問題・・・と言いますと?」

「それはね・・・」

 紫は顔を藍の側に寄せる。息と息がかかるほどの距離だ

 そして小さく、しかし鋭く、確かにその言葉は藍の耳に届いた

「・・・雪国で雪が溶けなくなったの。熱を出さないから積もった雪が溶けてくれない」



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