今日も慌ただしく怪我人が運ばれて来る。
今回は2人。医師は二十年の月日で磨かれた眼で即座に明らかな重体患者を手術室に運ぶように指示する。
だが今回は滅多に起こらない事が起きた。
「お嬢様を先に治せ! お嬢様は将来を期待されるお方なのだ。 凡俗は後回しにしろ!」
明らかに脳にまでダメージがありそうなウマ娘を後回しにし、腕と脚の通常骨折のウマ娘を先にと叫ぶ男。
「タキオン、任せた」
「はいはい」
それを完全に無視して手術室に向かう医師と尚も叫ぶ男との間、そこに医師を庇うようにタキオンと呼ばれたウマ娘が雑に男を押しながら返事をする。
「戻れ貴様ァ! この方は」
直後に打撃音
脇腹にウマ娘基準の軽い蹴りが突き刺さる
「まだこんなのが居るんだねえ、名家だの富豪だのが楯突いていい人ではないのだが……まあ私の知った事ではないか」
悶絶する男を引きずりながら軽快に歩く彼女の名はアグネスタキオン。
趣味と称してウマ娘の研究の為のラボを病院に用意してもらう代わりとして、今引きずっている男のような邪魔者の排除を請け負っている。
本来は暴れるウマ娘の手足を抑え込む役割なのだが契約に邪魔者の排除も含まれているので嫌嫌だがやるしかないのだ。
(先生への恩返しだと思えば苦はないね、本来のプランはもう証明済み……後は寿引退でもしようか)
史上最速と謳われる今も現役で無敗を貫くG1九冠ウマ娘。
皇帝すら切って捨てた最速、超光速のプリンセスことアグネスタキオンは男を病院の外に投げ捨てながら笑う。
「タキオンさん、お疲れ様。 どうしたの?アレ」
「ああ先生を脅して重症患者を放置しろと喚いたバカさ、後で抗議をすることになるだろうね。 いつものアレでね」
「じゃあ仕方ないね、また名家だか富豪だかが潰れそうね~ 名家がみんなメジロ家みたいだったらいいのに」
「本当の名家は喚かないのさ、当主が直々に頭を下げに此処に赴くのが正しい。本来はね」
「あぁ~そういえば迷惑にならないように使用人も連れて来ないものねぇ、護衛も病院内に連れて来ない……名家も色々居るのねぇ」
「どちらが人として正しいのかは瞭然だね、では私も戻るよ。 アレは警備に引き渡してくれ」
「了解、っと……10冠目楽しみにしてるよ!」
受付のオバちゃんと仲よさげに会話し、男の引き渡しを頼み背に激励を受ける。
ヒラヒラと後手に手というか袖を振りながら歩く彼女は傍目から見れば少し不真面目な雰囲気の少女。
だが彼女は《弱点を完全克服したアグネスタキオン》だ。
脚の強度は一般ウマ娘並みなので一度試合後に折れていたりしたが、骨折程度なら即日退院できる病院が存在しているので療養の必要が無い。
(レースで怖いのは皇帝様とテイオー君かな……色々な意味で怖いのはライスシャワー君とか……多くないかな?)
強敵を頭に浮かべながら手術室近くの控室へと歩いて戻るタキオン、戻る頃には手術は終わっているだろうと笑いながら歩く。