神医と呼ばれた男(中身アホ気味転生者)   作:アルマリ

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生徒会長の楽しみ(仲良く紅茶を飲むだけ)

かの天才という称号を鼻で笑うレベルの才能と努力と信念の人であるカエル医師と違う部分が男にはある。

 

 

男には後ろ盾が乏しかった。

 

 

故に男はアメリカで飛び級に飛び級を重ねて医師の資格を取り、ロシアで臨床研修で数年滞在し、再度アメリカで数年生活してから日本に帰って来ている。

 

 

日本に帰って来た時点でちょうど成人といった具合だが、それからも年に数日は2国に滞在して有用な論文や最新医療機器の発表などをして仲の良さをアピールしている。

 

 

有り体に言えば大国に媚びを売っている。

 

 

媚びを売って身辺警護に多大な協力をしてもらって、尚も身の危険が存在する為にあまり病院外に出れないのがこの男である。

 

 

 

男からすれば外国のウマ娘も幸福であって欲しい対象であり、到着して間もなく自分でなければ難しい執刀を頼まれるのも苦ではない。

 

 

だが出張が嫌だというよりも、外国のウマ娘と仲良くなるのが嫌だという娘達が一定数存在する。

 

 

 

「今年は行かないでほしい」

 

 

直球で要求するのはシンボリルドルフ、現在はトレセン学園の生徒会室に2人が向かい合って座っている。

 

 

トレセン学園は男が安心して外出できる数少ない場所にして憩いの場でもある、最低でも2週間に1回は学園に健診と称して訪れる。

 

 

訪れた矢先に生徒会長に呼び出された直後の発言がコレである、前もって人払いをしてあるのが実に計画的だ。

 

 

いつもの事であるが。

 

 

 

「無理だよルナ、俺の安全上それは不可欠だ」

 

(ミサイルで都市ごと排除されかけた唯一の個人ですし? あのサイコパス国家め!!)

 

 

 

シンボリルドルフが男と出会ってから5回は言われた毎年の恒例と化した会話。

 

 

 

大国に協力してもらわねば軽く千回は死んでいるだろう、それだけ男の影響力は巨大に過ぎる。

 

 

 

「ではウマ娘と安易に連絡先を交換しないでほしい」

 

 

 

「何故ウマ娘に限定したんだ? それも否だよ、第一ルナの信念とも違うだろうに……俺の信念も知ってるだろ?」

 

(なんか浮気疑われてるみたいでソワソワしてきたわ、まぁ経験無いので正確には知らんけど)

 

 

 

 

「手の届く全ての患者を救いたい。 悩ましいな……では全ての女性の連絡先を見せてもらいたい」

 

 

 

「どうしたルナ? 皇帝らしいといえばらしい発言だが、ライオン時代に退行してないか? また抱っこを要求するか?」

 

(ルナちゃん小っちゃくて可愛かったけどなぁ〜 気性が荒かったから暴君だったわ、その頃でも脛蹴られたら骨砕けるパワーだったから正直ガクブルしてた)

 

 

「子供の時の!!……事はあまり言わないでくれ」

 

 

 

大声を出した後に周囲を確認してから苦言を呈するルドルフ、男は年一ぐらいの間隔で子供時代を引き合いに出すので話し合いは有耶無耶になる。

 

 

冷静になれればいいのだが黒歴史に関する事には過剰反応してしまう、正直男も前世で経験した事である。

 

 

 

「声を荒らげたら交渉は終わりだよ、交渉というか要求の突き付けだったが……まあいいか、こんにちは久しぶりだねルナ」

 

 

意地悪げに笑った後に改めて挨拶をする。

 

 

 

「……こんにちは先生、元気そうで何よりだ」

 

 

 

悔しげに眉をひそめた後に吐き出すように言うルドルフ、先程の反則紛いを使われなくても男に口で勝てた事が無いので本当に悔しいと表情に出ている。

 

 

「ははは、元気だったよ」

 

(いやぁ〜弁舌で勝負しようとする相手に卓袱台返しキメるの気持ちいいわ、ムカつく政治家とかによくやったなぁ……俺大人げねぇわ、ルナちゃんってば下手な大人より大人だから忘れる。 反省せねば)

 

 

 

この男は絶妙にゲスである、権力者相手に長々と話すのが面倒だからと身につけたスキルを年の離れた友人だと思っている相手に使う事に躊躇が無い程度に。

 

 

「……大丈夫そうだね、ルナは身体が強い上に管理が上手い。 来る時にエアグルーヴ君も見たが彼女は自分に厳しいから、ルナが無理しないように見てやってくれ」

 

 

ふと表情を緩めてルドルフの様子を確認してから話し始める、ルドルフも冷めた紅茶を入れ直す為に立ち上がる。

 

 

 

 

「部下である前に学友だ、無理はさせないさ」

 

 

 

「ならギャグを言うのを控えなさい、彼女は真面目にギャグをスルーしない努力なんてものをするんだから」

 

 

「無理な相談だ、もう考えるのが癖になっている」

 

 

「癖なら直せばいいものを……彼女のやる気は乱高下を繰り返すのが運命なのか」

 

 

紅茶を用意するルドルフに背中を向けたまま軽口を叩きあう2人、学園に来る度いつも30分程はこうやって話し合う。

 

真面目な話もありオヤジギャグの話もありの自由な時間。

 

 

 

(やはり彼が好きなんだな私は……こんな何気ない会話で心が浮つく程に)

 

 

 

シンボリルドルフはこの時間を大切にしている。 公明正大であろうとする自分が職権乱用をしていると理解していても、この時間だけは削らないと決めている。

 

 

 

 

 

では生徒会長としての仕事を始めよう、あと少しだけ彼と話してから。


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