神医と呼ばれた男(中身アホ気味転生者)   作:アルマリ

6 / 6
外堀

男に感謝や感謝以上の感情を抱くウマ娘は必然的に怪我や病気になった時に、それを治してもらったウマ娘達が多い。

 

 

「せんっせー!!」

 

 

「ぐおっ」

 

 

(何じゃ何じゃカチコミかぁ!? 何処の国の暗殺部隊じゃあ!!)

 

 

男の内心は数百と襲われたプロへの文句であるから仕方無いとして、上背は平均身長だが激務に耐えうる肉体を誇る故に中々重いと言える男を仰け反らせる衝撃。

 

 

「テイオー……先生を見る度に飛び付くなと言っているだろう、まったく仕方のない奴だ」

 

 

ベリッと男から引き剥がされるのはトウカイテイオー。

 

 

 2度の骨折を経験するも即座に治った事で無事に無敗の三冠を達成し、現在は魔窟極まるルドルフ達の土俵で戦うウマ娘だ。

 

 

ルドルフも男に無邪気に甘える姿を見て微笑ましい感情を隠しきれずに苦笑いを見せる。

 

 

 

「テイオーちゃん久しぶり、元気そうで何より」

 

(元気っ子って癒されるわぁ、あぁ〜若返る〜)

 

 

 

「ボクはいつも元気だよ、先生のおかげでね!」

 

 

 

ルドルフに猫のように持たれたままで会話をする2人、要するに何時もの事なのだ。

 

 

挫折の無い分傲慢になっていた時期もあったがテイオーはバ鹿ではない。男の存在が無ければ3冠はなかったと理解しているし、トレーナーから天性の身体の柔らかさに頼り過ぎた走り方による骨折だと聞かされ、もう一度骨折しながらもフォームの改善をトレーナーと二人三脚で成し遂げた。

 

 

 

何よりルドルフが評価するのはテイオーは男を父親のように慕っている事、テイオーの恋慕はトレーナーに向いているのだ。

 

 

絶対に恋敵にならない上にルドルフを慕ってくれている、故にルドルフはテイオーを猫可愛がりしている。

 

 

トレーナーとならルドルフに勝てると宣戦布告してきたテイオーにルドルフは覇気を持って返答したが、内心では抱きしめたくて仕方がなかった。

 

 

トレーナーと喧嘩したので仲を取り持ってほしいと相談と称して遠回しにお願いしてきた時など普通に抱きしめた程だ。

 

 

 

「挨拶も終わった事だ、先生の定期健診に行こうか。 時間も」

 

 

「お兄様!」

 

 

ルドルフの笑みが固まる。

 

 

癒やされた代償に戦えと言わんばかりの敵の襲来。

 

 

「来てたんだ、こんにちはお兄様。 テイオーさんも会長さんも、こんにちは」

 

 

ライスシャワーは3人に挨拶をする。

 

 

厳密には男とテイオーに挨拶したついでにルドルフに挨拶をした。

 

 

ライスシャワーは明確にルドルフとタキオンを敵対視すると正直に真正面から宣言した事がある。

 

 

2人に負けないと宣言したライスシャワーの目には確固たる意思が籠められていて、絶対に引く事は無いと目が語っていた。

 

 

ルドルフもタキオンも納得して受けて立つ宣言をした。

 

 

2人がライスシャワーから聞いた話を要約すれば男が大人として医師として正しい発言をして、一切の自覚無く誑し込んだのは明白だった。

 

 

「こんにちはライス……少しトレーニングのし過ぎだな、休む時は休むんだよ? 今日はトレーニングをせずに休みなさい」

 

 

(呼び方おじさんでもいいのよ? なんだろうな10歳程度の差でおじさんって呼ばれると嫌なのに……20歳違うとお兄様呼びが気遣いから来るように感じるわ、俺の心が汚いからなのかね)

 

 

 

「はい、ごめんなさいお兄様」

 

 

「よろしい、トレーナー……は居ないのか。 1度骨折しているからな、流石に心配だ。 後でいつものトレーニングのメニューを送ってくれれば俺が調整しよう、遠慮は無しだ。」

 

(ライスとかスズカはなぁ……投げ出したりしたら自己嫌悪で死ぬかもしれねぇ)

 

 

 

「ごめ……ありがとうお兄様、ライスはお兄様の考えてくれたメニューなら必ず守れると思う」

 

 

 

「そうか、なら信頼に応えよう。 ル…ルドルフ行こうか、流石に時間が押している」

 

(なんか人気者になった気分?……人気者だったわ、結構な数のウマ娘治療したし。 美少女に囲まれると無意味にテンション上がるぅ!)

 

 

 

「ああ、同意見だ。 少し急ごう」

 

 

 

テイオーとライスに手を引かれてトレーニング施設を巡り、動きに違和感のある生徒を見つける度に止まりながら次々にウマ娘の診察をしていく男。

 

 

男性より女性が痛みに強いようにウマ娘は更に痛みに強い、それは鈍いとも言える程で足の指程度なら疲労骨折をしたまま走れる。

 

 

だが走れるだけで痛くない訳ではない上に普通に悪化する。

 

 

故に我慢しないで病院に来なさいと指導しているが効果はイマイチである事にため息を吐く、定期的に訪れる男が毎回数名は骨折に耐えているウマ娘を見つけている事に、頑丈さと根性論の相性の良さを痛感する。

 

 

トレーナーの居るウマ娘が重傷レベルの怪我をすればトレーナーは減給などの罰が与えられる。

 

 

十数年前に男が怪我を即座に完治させる事を利用して無茶なトレーニングをウマ娘に課すトレーナーが居たから生まれたルールだ。

 

 

しかしトレーナーの居ないライスのようなウマ娘達は怪我をしない程度のメニューでは満足しない、彼女達もレースに出たいし勝ちたいのだ。

 

 

止めるトレーナーが居ないので無茶をする、無茶をしても治るので再度無茶をする悪循環。

 

 

怪我や病気での引退は無くなったが学園内で死亡未遂事故、男が執刀しなければ確実に死んでいた事故が起きてからは流石に彼女らの無茶を規制するしかなかった。

 

 

今は学園の合格人数を本来の半分である1000人に減らしている。

 

 

それからはトレーナーも増えて生徒の6割はトレーナー持ちか、トレーナーの率いるチームに所属している。

 

 

それでも自身の才能に限界を感じて去っていくウマ娘はいるのだから今が丁度いいのだろう。

 

 

アグネスタキオンを代表にサイレンススズカ、他にも馬時代は有名とは言えなかったウマ娘が活躍している。

 

 

昔では考えられなかった事だが、G1レースにスターウマ娘が居なくてもレース場は満員になる。

 

 

強いウマ娘を応援するのではなく、好きなウマ娘の活躍を祈り全力で応援するレースファンが増えて来ている。

 

 

容姿で雰囲気で走りで表情で、様々な要因から好いたウマ娘が大舞台で勝利し歓喜を爆発させる姿に感極まり大の大人が号泣する姿も散見される。

 

 

男は男が居ない世界よりも男が居るこの世界は、圧倒的に努力が実を結ぶ数が多いと胸を張れる。

 

 

怪我を推奨など死んでもしないが、努力の末の怪我ならば治す。痛みによるイップス等にも手を尽くし、必ず健常に戻した。

 

 

引退するウマ娘達は自身の可能性を出し尽くした結果の引退だと悔しさ九割の中に清々しさを一割抱いて去っていく。

 

 

ブラッド・スポーツとまで言われた競馬を受け継いだ世界故に、この世界は残酷なまでに才能至上主義だ。

 

 

だから可能性の全てを吐き出せた彼女らは幸運なのだろう。道半ばでの怪我や病気での絶望を抱えた引退では無く、全身全霊を出し切った上の敗北と引退なのだから。

 

 

 

「ウマ娘が満足するまで走れる一助に……当初の目的は達成できたかな?」

 

 

(マルゼンスキーがレースに出続けたから一敗したし、スピードの向こう側目指すスズカは3回も複雑骨折するし……マルゼンは優等生だがスズカってばかなりの問題児なんだよなぁ)

 

 

 

「先生の尽力が一助なら私達の尽力など塵芥だよ、謙遜は自身の大きさを考えて発言してほしい。」

 

 

 

男がトレセン学園に多大な寄付と協力をし始めてから怪我病気の引退は0、精神的な問題も尽く排除されているので自主的な引退が全てだ。

 

 

ルドルフが考えるに引退した彼女達は走り切った。青春全てをレースに使い、そして次の道へと進んだだけの事。

 

 

ルドルフが男に懸想している事は案外多数にバレているのでレースで負けた意趣返しなのか結婚報告が多数送られてくる、結婚式への招待では無いので煽っているのは確実だ。何度皇帝の神威を見せてやろうとしてエアグルーヴに止められた事か。

 

 

つまり引退した者共は健常そのもので、ウマ娘生を存分に謳歌している。そしてその謳歌の大部分に男が関わっており、男が居たからこその彼女らの幸せなのだ。

 

 

「俺は健常に戻すだけだ。不屈の闘志を持って立ち上がり走り抜いたのは彼女達、謙虚とは違うな……役割分担と言うのが正しいか」

 

 

(ウマ娘の精神パゥワってヤベーからな、実際俺は回復と維持、脆い者を普通にしただけだし……主に俺の人生を犠牲にして)

 

 

「結婚か」

 

 

(もう諦めろよ、って氷の妖精が言ってる気がするが知らん!嫁とイチャコラしたいんじゃぁ!医療関係じゃ各国に引かれる程貢献したじゃん!神だ何だと崇めるなら妃的な女性も側に居て然るべきじゃんよぉ!)

 

 

 

短い一言がルドルフとライスに衝撃を与えた。

この男は端から見れば医療に人生を捧げた求道者である。故に結婚願望があるなど初めて聞いたのだ。

 

副音声たる内心では事ある毎に愚痴っているが本心が口から漏れ出たのは初である。

 

 

即座に男からあくまでも自然に距離を取るルドルフとライス。

 

 

「ライスシャワー、貴様は先生の独占を望むか?」

 

 

「ライスはお兄さまの1番に唯一になりたい。でも叶わない願いって事も理解してるよ?だってタキオンさんが居る。」

 

 

そう、最大の障害はアグネスタキオン。最初期から男の側に侍り、今でも病院に1室を造らせて最も近くにいる。

 

 

「互いの目的を明らかにするべきか。私は先生の愛を受け取れるならば1番でも10番でも構わない。私の信念の手伝いはして貰いたいが、強制はしないし手伝いは名誉職になるので拘束時間は極めて短い。」

 

 

 

「ライスはお兄さまのお嫁さんになれればいいよ、結婚式には憧れるけど我儘を言って困らせたくない。それとタキオンさんに伝えるべきだよね?多分色んな準備を整えてると思う。」

 

 

着々と進む男の包囲網に気づかず、男は新しく見つけた怪我をしているウマ娘の治療に集中していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ既に準備は万端さ、政府も天皇も先生に限り重婚を認めるとさ。だけど序列は大事だよねえ?第2夫人第3夫人?序列を承認するなら半年で外堀内堀本丸まで埋め、本丸で先生に降伏勧告をしてあげよう。」

 

 

「……異論は無い、先生と触れ合う時間は交渉の後に決定しよう。」

 

 

「ライスはお兄さまと結婚できるならライスの時間は自分で確保する。お兄さまの自由意思を捻じ曲げる事をタキオンはしないって信じてるから」

 

 

こうして男の預かり知らぬ所で計画は順調に進んでいた。

 

 

そしてタキオンが態と流した情報により更に2桁の立候補者が現れ、男の拗らせた童貞特有の小学生低学年女児のようなロマンチックな出会いやプラトニックな愛などの妄想は砕かれる事が確定した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。