人間がウマ娘に負けるわけないだろ!いい加減にしろ!! 作:なちょす
ここまで読んでくれた独身兄貴たちのおかげなんだよなぁ⋯⋯シャカール無料配布するね♡コイツいつも釈迦配ってんな。
評価やお気に入り、誤字報告や、ネタと暖かい言葉で溢れかえった感想の数々⋯⋯本当にありがとナス!!
レース場面を書ける兄貴たちって、走った事ある人では?(名推理)
習って1200m走ってきました。筋肉痛で床に伏しました。二度とやらねぇからなッ⋯⋯!
あっ、タグに独自設定を追加しました。(事後報告する作者の屑)
───ウマ娘は"ユメ"を見る。
初めてのG1、阪神JFの前にアグネスデジタルが話していた事だ。
"夢"では無く、"ユメ"。
子供の頃に1度きり⋯⋯だがそれは、確かに記憶に焼き付いている自分自身の姿であり、自分の知らない『いつか』の景色。ウマ娘達の誰もが必ず覚えているかは分からない。けれど、伝説や寓話として語られるようなウマ娘達は、誰もが自身の"ユメ"を分かっていたと言う記録もある。
記憶⋯⋯或いは、魂なのか。
その正体が何であれ、ウマ娘という存在を形作る大切なファクターには違いない"
ウマソウル、と。
『トレーナーさん⋯⋯アタシ───。』
走って、走って、走り続けて⋯⋯ URAファイナルズを勝ち、目尻に涙を浮かべたデジタルの笑顔。
その瞳には、俺の知らない勇者の魂が宿っていた。
とまぁ、オカルトじみた隙自語はさておき⋯⋯とうとうカレンチャンとサクラバクシンオーが競う短距離の一大レース、『スプリンターズS』の日がやってきた。
先にボーノと一緒に観客席に行ってもらったデジタル情報では、かなりの盛り上がりを見せているらしい。『カワイイダービー♪』の効果が未だに続いてるのか、カレンチャンと言う魔性のウマ娘が振り撒くカワイイパワーなのか⋯⋯なんにせよカレンへの注目度は以前に比べると格段に高くなっているのは事実である。
そんなカレンが今控え室で何をしているかと言うと───。
「⋯⋯⋯。」
「⋯⋯カレン?」
やたらと大人しかった。黒と白を基調としたオフショルダー(ここ大事)の勝負服に身を包み、いつもの様に自撮りをするでも無くSNSを更新するわけでも無い。
ただ静かに目を閉じて、レースが始まるのを待っていた。
お兄ちゃんに抱きつく必要ある???
どうしたのカレン。何かしっとりしてるじゃない。普段はもっとこう⋯⋯アレだったでしょ?
クソザコお兄ちゃんの事これでもかってくらい惑わしたり、ドーテイムーヴを掛からせたりしてたでしょ?急にそんなモードに入ると、お兄ちゃんもポニーちゃんも心配しちゃうんだから。ヌッ、ポニーちゃんは寝ろ。
合同練習から今日まで、カレンの走り自体に大きな違和感は見られなかった。ただ後輩ちゃんが言ってたように、カレンの口からは時折『兄さん』と言う単語が出ていたのは確かだ。それも今日が近づくにつれ頻度が増えた状態である。
デジタルに貸してもらった勇者手帳にはカレンのプロフィールが書いてあったものの、家族構成は無かった。兄さんと呼ぶのは、本当に兄が居るからではないのか?お兄ちゃんプレイに発展しているのは、トレセンに来て離れてしまった兄が恋しいからではないか?
むんっ。そう考えればカレンチャンもまだまだ年頃の女の子であるという事だ。
「⋯⋯お兄ちゃん。」
「どうした?」
カレンは俺の手を取り、自分の頬へ添えるように持っていった。指や手の平に、僅かに吐息が当たる。顔を上げ、笑ってこちらを見上げるその眼は甘えたがりな妹の眼そのものだった。
カレン───俺がもし学生だったらその動きだけで確実に堕ちてたし、『あっ、俺の事絶対好きじゃん』っていう童貞特有の勘違い
飢えたペニー
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!うまだっち!!!!
お前センチなのかいつも通りなのか分かりにくいアクションはやめろッ!お兄ちゃんこの数秒数分でメンタルぐるんぐるん回されてんだよ!心の三半規管で『ねるねるねるね』作れるわッ!!は?(困惑)
大体レース前なのに何でこっちが消耗させられてんだ!クッ⋯⋯しかしカレンのこの顔、こちらに手は引かせないという絶対的に強い意志を感じる。寧ろこんな⋯⋯どちゃクソカワイイ妹から手を引くとか選択肢ある?無い。
ヒト息子を宥めながらどうしたものかと考えていると、部屋の扉が爆速ノックされた。そんな芸当をするのは1人しかいない。ナイス委員長。
「失礼しますッ!サクラバカチンオーですッ!!ちょわっ!?」
「もう1回やる?」
「いえっ、お気持ちだけで結構⋯⋯ッ!何故なら私は学級委員長!失敗はあれど発言に責任を持つ優等生なのですからッ!」
そこに責任持ったら君は今日からバカチンオーだよ。まぁ良いか⋯⋯大方自分のトレーナーにバカチンオーとでも言われたんだろう。彼女のトレーナー(1期上の2歳下)は委員長の事を可愛がってるようだし、愛称みたいなものだ。担当を可愛がりたがる気持ちも分かるけどね。
「カレンさん!今日の私は絶好調ですよッ!!」
「あはっ♡カレンだって調子は良いですから、負けません♪」
「それは素晴らしいです!今となっては短距離も多くの人が期待を寄せる一大レースですからね!スプリンターの王を決めるのにこれ程良い日も無いでしょう!」
⋯⋯⋯⋯ん?
「じゃあバクシンオーさん、カレン先に行きまーす♪お兄ちゃんもしっかり応援してくれなきゃ、めっだよ♡」
「あぁ、行ってらっしゃい。カレン。」
最後まで手を振りながらカレンは部屋を後にした。何を考えてたのか、何を見てたのかは分からないが⋯⋯違和感を感じたのはもう1人だ。
「委員長、いつからそんなに短距離熱心になったんだ?」
「はて?何の事でしょうか?」
「お前さん⋯⋯委員長は全距離走るんだーって、散々トレーナーを困惑させてただろう。」
「ハッハッハッハッ!何も変わっていませんよ!変わったのは運命の方です!」
「⋯⋯はい?」
「だってそうじゃありませんか。私は───覆したんですから。」
『トレーナーさん⋯⋯アタシ、覆しました。』
背筋がゾッ、とする。
こちらを振り向いたバクシンオーに、有馬記念で見たデジタルの姿が重なった。強者であると語るその眼⋯⋯そこに居たのは、誰も知らないウマ娘。
「⋯⋯誰だお前。」
「私は私です。いつだって、"サクラバクシンオー"ですとも。」
踵を返したその背中を、俺はただ見送るだけだった。
◇◆◇◆◇
『各ウマ娘ゲートイン⋯⋯今一斉にスタートしました!』
開いたゲートから飛び出して、いつもの場所へ。うん⋯出遅れなかった。逃げのウマ娘が前に2人、先行策はカレンも含めて4人。バクシンオーさんは1番前で逃げに走ってる。
何度かこの人のレースは見てきたし、カレン自身一緒に走った覚えもあるけれど、普段は先行策を取ってる人だった。何か考えがあるのか、本当に最初から最後まで逃げ続けるのかは分からないけれど⋯⋯カレンはカレンに出来ることをするだけ。
1200mのレースだと大体1分ちょっと。その中で出来ることは余り無い。だから大切なのは、他の距離よりも周りに気を配り続ける事と速度を落とさない事。展開が目まぐるしく変わる中で、選択は1回きり。その1回で速度を落としたりすると立て直すのは難しいってお兄ちゃんも言ってたし、何よりカレンがそれをよく知ってる。短距離だって、差しや追込みをしてくる子達が勝てないわけじゃない。それもG1クラスなんだもん。
後ろからピリピリしたプレッシャーがあるけれど、ライスお姉ちゃんと走ってきたカレンなら乱されるほどじゃない。
だから後は───。
「⋯⋯⋯⋯。」
(バクシンオーさん⋯やっぱり速い⋯⋯っ。)
先を行くバクシンオーさんは速度を緩めない。1番前なら他の子達と競り合ったりする事も無くて自分の望むレース展開を組み立てやすいけれど、その分後ろからのプレッシャーもある筈。なのに全く動じてない。
でもそういうの、カレンの十八番ですから!
『さぁ向正面から第3コーナーに掛かりまして、カレンチャンが僅かに進出でしょうか。サクラバクシンオー先頭のまま以前レースは縦長に続いています。』
少しだけ距離を詰める。内側は他の子達が詰まってる感じで攻めにくそう⋯⋯その位置だとバクシンオーさんを交わす前に他の子達を交わさなくちゃいけない。1番良い所でスパートを掛けるなら、ここで余計なスタミナを使うのは得策じゃないよね。
今先頭を行くのはあの人だけ。もう1人の逃げの子は後ちょっとで交わせる場所だから、そうなったらスパートを掛ける。今のカレンのスタミナなら、バクシンオーさんがスパートを掛けるより速く掛けられる。最後まで持つ自信がある。ブルボンさんやライスお姉ちゃん、後輩さんに沢山練習に付き合ってもらったんだから。
だから⋯⋯勝たなくちゃ、ダメ。
勝たなくちゃカワイくない。
そんなの、あの人が⋯⋯兄さんの望んだカレンじゃない!
行かなくちゃ。勝たなくちゃ。ここで───。
「行っちゃうからッ!!」
スパートを掛けて逃げの子を交わす。スタミナは持つし、そこまで集団に入らなかったから脚だって溜めてきた。
走る。走るの。前に前に行って、バクシンオーさんに追いつく。目測で後2バ身無いくらい。これなら⋯⋯!
「カレンさんッ!!」
「
⋯⋯⋯え?
あっ、あれ⋯⋯何で、デジタルちゃんと兄さんの声⋯最終、直線⋯⋯?
嘘。
嘘嘘嘘っ、だって全然距離が縮んでない⋯⋯スパートを掛けてるのに、追い抜けてないッ!
あの人に引っ張られてなんかいないよ兄さんっ。だってカレンはずっとレースの事を考えながら走ってたのに。他の子達がどう上がってくるか、どのコースで攻めてくるのかも考えてた。バクシンオーさんがずっと先頭内側を走ってて、もう1人逃げの子がそれより少し外。後続の子達は2人が蓋になっていたから外に抜けるしかないけど、カレンが先に外へ───あっ。
もし⋯⋯もしバクシンオーさんが、カレンの事を信じていたなら。
カレンならここで上がってくるって、全部分かりきっていたなら。
初めから───カレンしか狙っていなかったとしたら⋯⋯?
「ッ⋯⋯そんな、事⋯!!」
『最後の直線、残り200mを切った所で先頭はサクラバクシンオー!カレンチャン必死に粘るが苦しいかっ!?』
まだ走れる。まだ負けてない。全部全部、こうなる様に誘導されてたなんて思いたくないッ!ここで負けたら、兄さんが悲しんじゃう。叶えたかった夢が叶わなくなる。また、おいていかれ───っ。
季節外れの桜。見間違えなんかじゃない。
眼が、こっちを向いていた。
カレンの知ってる、明るくて誰にでも元気をくれるあの優しくて強い眼じゃない。
怖い⋯冷たい⋯⋯春の花。兄さんがいなくなった、あの日と同じ桜吹雪。
バクシンオーさんは、
『サクラバクシンオーがここに来て速度を上げた!何と言うウマ娘だ!G1の大舞台で、2着に5バ身差の堂々勝利!やはりドリームトロフィーリーグの最有力候補、圧倒的力を見せつけました!』
ゴール板を抜けた先は、あの人を称える歓声が割れんばかりに響いていた。さっきまで自分が居た場所が夢で、ようやく現実に戻ってきたみたい。
スタミナは残ってなかった。膝に手をついて息を整えようとしても上手く出来ない。勝てなかった事、追いつけなかった事、全部バクシンオーさんの想定の内だった事⋯⋯何より、あの眼が怖かった事。
自分でもこんなに気が動転するだなんて思わなかった。そんなカレンの所に、少しだけ息を切らしたバクシンオーさんが来た。
「高松宮記念です。」
「えっ⋯⋯?」
「お"2人"共、次は本気で走りましょうね!今日はありがとうございました!ではッ!!」
嵐のようにバクシンオーさんは自分のトレーナーさんの所へ帰って行った。
高松宮記念⋯⋯そこでもう一度⋯ううん、そこじゃない。あの人は、2人って言った。
誰の話をしてるんだろう⋯⋯バクシンオーさんは、何を⋯⋯。
「カレンッ!」
「あっ⋯⋯。」
スタンドの方から声がする。心配そうにこっちを見てるデジタルちゃんとヒシアケボノさん。それから───。
ゆっくり歩いていく。皆の所に、お兄ちゃんの側に近づく度に、胸が辛くて息苦しくなる。
「お兄ちゃん⋯⋯カレン⋯。」
「ん⋯⋯ちゃんと見てた。最後まで見てたよ。頑張ったな。」
ぎゅっとしてくれる優しさが、こんなに辛いなんて初めて。泣いちゃうかもって思ったけれど⋯⋯それ以上に、ごめんなさいっていう気持ちの方が強かった。
お兄ちゃんの胸に頭を当てて、顔を見せないようにするしか出来ない。
「本気、だったんだけどなぁ⋯⋯。」
聴こえてたのか、聴こえなくても察してくれたのか⋯⋯お兄ちゃんは、ただカレンの頭を撫でてくれるだけだった。
サクラバクシンオー(驀進王) : ニシノフラワーちゃんと競った中で"領域"へ到達、3馬身差をつけての勝利を収める。レース前後に人が変わった様な状態になる事が見られ、彼女のトレーナーは不安を感じている模様。実態は"領域"に入った+フラワーちゃんに勝った事で、ウマソウルが丁寧丁寧丁寧に『うま憑依(ぴょい)』しかかってる。カレンチャンの中に『もう1人の王』を感じている為、トゥインクルシリーズ最後のレースとして、高松宮記念でカレン"達"を迎え撃つ。予定。
SSRデジたんの私服がオサレになってて脳バグる⋯⋯アニバ前になんて事⋯⋯サイゲ君さぁ⋯⋯。
次 回 は ロ リ コ ン 編。