なんてことない日常を過ごしていたはずの男子高校生。

しかしある朝に自分の体にとある変化が起こっていることに気が付く。

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1話 望めば案外叶うらしい

 日常に何か刺激が欲しい。

 朝起きて学校に行って、授業をなんとなく真面目とは言い切れない態度で聞いて、友達と愚痴を言いあいながら部活動に励んで、そのままなんて事のない話をしながら帰る。

 時々帰りがてら遊びに行く日もあれば、休みの日には少し遠いところにまで行ったりすることもある。

 けれど、そのどれもがどこまで行っても『日常』の範疇でしかなかった。

 

 空からサーモンが降ってくることもなければ、誰かを10秒間だけ乗っ取れるような超能力にも目覚めない。

 ちょうどいい感じの木の棒を拾って唐突にRPGが始まることはあるかもしれないが、それでもこの高校にはSOS団なんてないし、ダイスを振ったところで不可思議な現象が起こるわけじゃない。

 

 背が低いっていうほんの少しの個性しかないボクは、結局自分よりもずっと背の高い友達を羨みながらもあまり変わり映えしない毎日を過ごす。

 結局、望んだところで何も起こらない。それが普通で、ありきたりな結論だ。

 

 ――普通であれば。

 

 ☆☆      ☆☆

 

 夏休み初日なんていうそこかしこの小説で何かありそうなこの日。

 朝起きた時点ですべてが変わった。あるいは、変えられたとでもいうべきか。

 

 結論から言って……。

 

「なんか、めちゃくちゃ背ェ伸びてる……!」

 

 昔からの望みが向こうから叶われにやってきた。

 それはもうテンションが一気に上がった。おじいちゃんの代からずっと背が低かったらしくてあきらめていた身長が向こうから一夜でやってきたのだ。

 感覚でしかないが、確かに視点が一気に上がっているし、もともと来ていた服はだいぶきつくなっている。

 肉付きがよくなったわけではないらしく体の線は細いままだが、それでもこの身長は素晴らしいだろう。

 ぜひとも誰かに自慢してしまいなくなるようなほれぼれとする成長率だ。成長の秘訣は何だと答えるべきだろうか……。

 

 そんなふざけたことを考え出してしまうテンションも空腹に負けて落ち着いてきたころ、ようやく改めて自分の体を見て一つ気づいたことがある。

 まず第一に服がキツイ。もともと屈辱的なことに150センチメートル前半だった体に合わせた服ではやはり無理があるのか、体を動かすのに不自由な程度にはキツイ。というかお腹が出てしまってちょっと寒い。

 次になんだか感覚がおかしい。今までの肉体から一気に縮尺が変わってしまったからかもしれないが、改めて動こうとするとどうしてもこれまでの感覚からズレてしまって動きづらい。

 それで最後に……、『ない』のだ。

 

 これまでの人生をともにあり続けた『それ』が、感覚的に少々敏感なはずの『あれ』から伝わってくる感覚が何もない。

 まさかそんなことはないだろう、と高を括るがどうにも嫌な予感はぬぐいきれない。

 いつだってそんな予感を払拭する方法は一つだけ。事実さえ確認してしまえば不安なんてなくなって、そこには確固たる真実だけが残るのだ。

 そう、そこにある『真実』を求めていればちゃんとたどり着くことができるのだ。

 

「…………わお」

 

 ――ただし、いつだって『真実』は残酷だが。

 

 ☆☆      ☆☆

 

 お腹が盛大に何か食わせろと文句を言いだしたころ、ボクはようやくショックから多少立ち直ることができた。

 なれない体を使ってすでに仕事に向かったらしい両親にこの急成長を自慢したくなる気持ちに蓋をしてから朝食をとる。

 ご機嫌な朝食に満足してから、ふと思う。

 

 この格好でいるのはだいぶよろしくないのではないだろうか、と。

 しかし服を買いに行くにしても端から見れば明らかにサイズ感のあっていない服装に身をくるんだ高身長の人なのだ。ファッションと言い切るには無理のあることだろう。

 というかそんな言い訳をしながら服を買うだなんて明らかに不審者だ。

 ネットで買う手段もなくはないが、クレジットカードを持っていない以上、現状チャージされている金額が足りなければ結局コンビニなりに行く必要があるし、そもそもサイズがわからない。

 あわや万事休すか、だなんて思い始めた頃の我が家にインターホンが鳴り響く。

 

 時計を見ればすでに昼前、友達と遊ぶ約束をしていた時間だ。

 微妙な時間に朝食をとってしまった事実に今更気づきながらもここでボクの頭が超高速で回転をはじめ、そしてすべての問題を解決する一つの妙案が生み出される。

 自分でできないことは誰かにやってもらえばいいのだ。

 今回でいえば服の調達を自分以外にやらせればいい。ちょうどよく友達も来たのだし、まぁ多少文句は言われるだろうが今日遊ぶのはお人よしだ。

 後でラーメンでも奢ってやると持ち掛ければ友情に亀裂が走ることもきっとないだろう。

 そうと決まれば行動は早いほうがいい。

 

「勝ったな、ガハハ」

 

 そんなバカなことを言いながらいまだに鳴りやまないインターホンを止めるため、玄関へと向かう。

 扉を開けるとそこにはやはり見慣れた男が、視点ゆえか見慣れない顔で立っていた。

 

「……すいません、家間違えました」

 

「間違えてないぞ」

 

「いやでもこんな背の高い人がいるとは思えないでやっぱり間違い」

 

「ちゃんと正しいから安心しろ」

 

「ああでもやっぱり表札見てもあってるしどういうことなの」

 

「ボクが遊ぶ約束をしたその人だぞ」

 

 なんというか、やはりいきなりこんなに背が伸びた、というのは信用ならないのだろうか。

 いやまぁ常識的に考えれば昨日会った友人が一気に背が伸びている、というは信じられないのだろう。

 しきりに表札を見てボクを見てと忙しくしている友人を見て厳しい現実を改めて認識する。これは服を買ってもらうのは厳しいのかもしれない。

 というか、あらかじめLINNEなどで連絡をしてワンクッションはさむべきだったのかもしれない。

 だがこの程度で諦められるはずもない。しっかりと受け答えをすれば信じてくれるはずなのだ!

 

「……いやいや、俺の友達がそんなに背が高いわけがない!!」

 

「急成長したんだぞ」

 

「マジで?」

 

「マジで」

 

「そっか。そいじゃおじゃましまー」

 

「邪魔するなら帰ってー」

 

 ……あれ、なんかノリ軽くない?

 おかしいな、確かにTSとか急成長だなんて、日常に対する十二分なスパイスのはずなんだけど……。

 

 なんでぇ……?




登場キャラ紹介
主人公君
 TSした子。もともと身長150前半の女顔のいわゆる男の娘だった。

友達君
 TSした主人公君の第一発見者。急成長した主人公君より少し背が低い。
 とりあえずそんなこともあるか、という考えで現状を受け入れた。

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