見えない世界は素晴らしい   作:灰夢

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事実上、二作目ですが、まだ手探りです。


第一話 青空の記憶

 私、リボンノエルがいたリボン家は、代々優秀なウマ娘を排出してきた名門であると、物心ついた時分より、言い聞かされてきました。

 末の私とて例外ではなく、私の三歳の誕生日にお父様が渡したプレゼントは、足に付ける軽めの錘でした。自分が、お父様とは何かが違うことすら理解できていなかった私は、ぬいぐるみやおもちゃが欲しくて、わんわん泣いたのを、今でも覚えています。

 泣き止まない私に、茶色の三角耳と尻尾を持つお母様は、ウマ娘という種族の話をしてくださいました。

 私やお母さまのように、頭の上の大きな耳と、長い尻尾を生まれながらに持ち、車よりも早いスピードで駆ける、ウマ娘という謎に満ちた存在のお話。時に数奇に、時に輝かしい彼女らの話。

 私の頭をなでながらお母様は、ぺたんと伏せてしまった私の頭の上の耳が元に戻るまで、優しく抱きしめてくださいました。お母様の声を聴きながらウトウトしてしまった私は、話の途中で寝てしまいました。

 もっといろいろなお話が知りたくて、それから私は寝る前に、何度もお母様にウマ娘の話をせがみました。そのたびにお母様は、嫌な顔一つせずお話をしてくれたのです。

 

 誰からもバカにされながら、懸命に走った田舎のウマ娘の話。

 

 皆から恐れられた、暴れん坊の暴君ウマ娘の話。

 

 戦争の最中、友の思いを胸に、走り続けたウマ娘の話。

 

 枕元で語られる、私の見知らぬ世界の話。

 頭の中で躍動するウマ娘を、少ない知識を用いて描くたび、まるで見てきたように鮮明に景色が浮かび上がってきて、それだけで、胸が高鳴りました。

 それが期待の表れであると自覚したのは、私が小学校三年生のときでした。

 その頃になると、同世代の友達が、流行りのゲームやファッションなどで交流している間に、私は、年の近かったお姉様たちと、実家が管理している小さなレース場で、日曜日以外のほぼ毎日、走り回るようになりました。

 私よりもずっと先を行くお姉様たちの足の動きに合わせて、ウッドチップがぱちぱちと乾いた音を立てて、私はその音に近づきたくて、毎日お姉様たちを追い続けました。

 本当は、少しだけ友達と遊びたいなと思っていたのですが、お父様と、お母様と、お姉様たちが、「ノエルは足が速いね」と、笑顔でほめてくれるたびに、私はこの人たちの笑顔が大好きだなと、思うのでした。

 

 その日は、夏が過ぎて少し涼しい風が混じり始めた、青々とした空が美しい、絶好のトレーニング日和でした。

 その日の私は、走りやすいコンディションと、自慢のサラサラとした鹿毛の尻尾が、いつも以上に整ってくれて、わかりやすいほど浮かれていました。

 コースの傍らで、白髪混じりの執事が、あぶないですよ、とかけてくれた声も無視して、上機嫌な私は、お気に入りのシューズでスキップしたりなんかしていました。ただ、最高のコンディションで、最高の状態で走ることができる喜びに、幼いウマ娘は、尻尾を振り乱して喜んでいたのです。

 新調した、少し値の張る新品のジャージは、お父様が「もうすぐ入学だから」とプレゼントしてくださったものでした。お姉様たちに囲まれ、かわいいと言っていただいて、私はますます、上機嫌になりました。はじめて袖を通した、少し鈍い光沢を感じる真新しい布の感触が、私ももうすぐ競争ウマ娘になるんだ、という自覚を芽生えさせました。

 転調は、あまりに一瞬でした。

 スキップでコースに入ろうとした私の体が、右足元の感覚を見失い、バランスを崩した直後、頭部に激しい痛みを感じました。

 今でも、起きているのか、まだ夢の中なのか、私にはわかりません。

 ひとつだけ幸いなのは、あの日の記憶が、雲一つない青い空だったことです。

 




いまだに、文章がこんな感じでいいのかわからない
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