私の周りには、才能持ちが多すぎる   作:神咲胡桃

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笑う奴は大抵強い

現在、トレセン学園には中等部、高等部が存在している。

 

当然のことだが、高等部を卒業した後も、大学に通う者や社会で働く者もいる。

 

このウマ娘と人間が存在する社会。当然だがそれぞれに向き不向きというものがある。

 

ウマ娘に向いてる仕事もあるわけだが、それが何かと言われれば当然力仕事が真っ先に思い浮かぶ。

 

なにせ、身体能力はウマ娘の方が圧倒的に上なのだ。ウマ娘が大工をしている姿も珍しくないし、力仕事に人間の男性ではなくウマ娘が頼られるのも日常だ。

 

それはバイトでも変わらなく……現に今も、私は野菜が入った段ボール箱を大量に運んでいた。

 

「おやっさーん。これここでいいのー?」

「おう。いつもすまないねぇ。年取ると、何でも重く感じちまっていけねえや」

「あんたも年なんだから、あんま無茶すんなって」

「でぇじょうぶさ。うちの店は息子が継ぐからな」

「確か今は、大学で経営学学んでるんだっけ?」

「ああ。親に負担掛けたくないって言って、奨学金もらってな」

「良い息子さんじゃねぇの」

「ったく、店の経営なんざ、俺が教えてやるってのによぉ」

「これだから年は取った爺さんってのは。今時昔のやり方じゃ、通用するもんも通用しなくなるぞ?」

 

「そうかい」と言って、おやっさんは接客に向かう。

 

……ここまでで分かったと思うが、私は八百屋のバイトをしている。八百屋の、というよりはこの商店街のと言った方が正しいか。

 

この商店街はトレセン学園の近くということもあってか、生徒がよく利用している。そのおかげか、現代では衰退気味の商店街の中でもかなり盛り上がっている。

 

だが、歴史があると同時に並んでいる店の中には経営者の高齢化が進んでいたりする。そんな若い力を必要とする人たちのために、毎日とはいかずとも私が一肌脱いでいるのだ。

 

今日は八百屋のバイトだが、日によっては肉屋だったり、魚屋だったり、クリーニング屋だったり、居酒屋だったり……。

 

元々、歴代の生徒会でも、誰かしら手伝ったりはしていたらしいのだ。要は商店街と学園のより良い関係づくりというものだ。

 

そのおかげで、商店街の人たちとはちょっとした顔なじみだ。

 

そんなわけでバイトに勤しんでいると、商店街を練り歩く生徒たちに紛れて、見覚えのあるピンク色の髪が見えた。

 

同年代に比べて小柄な体躯。特徴的なピンク色の髪。その名はハルウララ。

 

ここでバイトをしている関係で、よく商店街に遊びにくるハルウララとは顔見知りでもある。

 

しかしいつも浮かべているはずの可愛らしい笑みはなく、沈んだ表情で歩いていた。

 

「ウララちゃんじゃあないか! 今日も人参買ってくかい? サービスしちゃうよ!」

「あ、八百屋のおじちゃん……ううん。今日はいらない……」

「そうか……」

 

いつもの元気な様子は鳴りを潜め、おやっさんに話しかけられても沈んだ表情のまま歩いて行ってしまった。

 

「あいつ何かあったのか……?」

 

一応知り合いだから心配ではあるが、私もバイトをしている身だ。さすがに仕事をほっぽり出すわけにもいかない。

 

それに彼女はキングヘイローという、面倒見が良すぎるウマ娘がルームメイトがいるので、彼女がどうにかするだろう。

 

「おーう、嬢ちゃん。これ今日のバイト代だ」

「ああ? ついに頭もボケてきたか? まだ時間まで一時間もあるだろ」

「いいからさっさともらっとけ」

 

半ば無理やり押し付けられた封筒の中身を見ると、そこには今日のバイト代、きっちり残り一時間分も……否、それよりも幾らか多かった。

 

「……なんか多くね?」

「お前、ウララちゃんと仲良かっただろ。俺らぁあの子甘やかしちまうからな。嬢ちゃんは懐かれてるし、話し相手にゃ十分だろ」

「さしずめその代金ってか。私はそんな仲が良いわけでもないぞ?」

「じゃおめぇ。あの娘があのままでいいってのか?」

「あんたらにとっちゃ、孫娘同然かもしれねぇかもよぉ。私にとってはただの知り合いなん……でぇえ!?」

 

気づけば商店街の店中から視線を向けられていた。

 

肉屋のおばちゃん、魚屋の爺、駄菓子屋の爺さん、文房具屋のばあちゃん、クリーニング屋のおじさん、居酒屋の前を掃いている女将さん、果てにははちみーの移動販売車のお姉さん。みんなが私を見てた。

 

いや、私の背後を見ているのかもしれない。

 

後ろを見る。誰もいない。

 

「「「「「「「…………………」」」」」」」

「………………」

 

黙って、私を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

トボトボ歩いている小さい背中を見つけ、声をかける。

 

「そんな辛気臭い顔してどうしたよ、ハルウララ」

「……あ、ミライさん……」

 

振り返ったウララに、コロッケを突き出す。

 

「先輩後輩のよしみだ。なんかあるなら、話してみ」

 

場所を変えて、私は公園のベンチに座りハルウララから話を聞いていた。

 

「あのね……この前、ありまきねん?っていうレースに出たの」

「そういや、お前出てたな」

 

12月にあるレースの一つ 有マ記念。

 

このレースは少々特殊で、出走する権利はファン投票の上位から宛がわれていく。

 

つまるところ、人気であれば出走できるレースだ。まあ、その人気ウマ娘の大概が足が速い奴なのだから、何とも言えないが。

 

その中で、特別と言っていいのがこのハルウララ。

 

彼女の戦績は、はっきり言って良くない。

 

良くないが、彼女の持ち前の明るさや無邪気さにファンになる者は多く、彼女の笑顔を見るためだけにレースを見に行く人もいるとか。

 

今回の出走も、その賜物だろう。色々と面倒くさくもなったが。

 

で、肝心のその結果だが

 

「それでね、私勝てなくて、なんだかすっごく悲しくて、いつもは楽しいのに……私、へんになっちゃったのかな?」

「ほうほう。ついにその時が来たのかー」

「その時って……?」

「勝てなくて悔しいって思う時だよ。安心しろ。お前のそれは、何も間違っちゃいない」

 

不安そうに見上げてくるウララの頭を撫でる。

 

はっきり言って、笑顔でファンがつくなら、大抵のウマ娘にはとっくにファンがついてる。

 

それでも、ハルウララのファンになる理由。それは『負けても笑顔』になることだ。

 

他のウマ娘とは比較にならない数のレース出走。それらを負け続けてもなお、ハルウララは笑顔で走り切る。

 

そこには負け惜しみや、諦観といった感情はない。ただただレースを楽しんでいるのだ。

 

なぜなら、ハルウララの中には勝ち負けの世界はなく、それが彼女のすべてだった。

 

そんな彼女が()()()()()()と、悔しいと感じたのであれば、それはきっと間違いではない。

 

それは誰もが持つ、当たり前の感情だから。

 

「でもね、悔しいって思ってから、走ってて楽しくないの。いつもとーっても楽しいのに、なんだか、楽しくなくて……トレーナーにも心配させちゃって」

「ふーむ」

 

どうやら予想以上に、”初めての敗北”に苛まれているようだ。

 

ウマ娘にとっては、特段珍しいことではない。たった一度の敗北でターフから去ることも普通にある。

 

そんな中で、その敗北の記憶から立ち直らせる要因は、古今東西から決まっている。

 

「……そうだな。お前のトレーナーは、なんて言ってた?」

「トレーナー……」

「言ったんだろ? トレーナーに」

「うん。そしたらね、ぎゅーって抱きしめてくれたの。『次は絶対勝とうな』って」

「じゃあ、どうしたい?」

 

改めて問えば、ハルウララの顔に先ほどまでの不安はなかった。あるのは、このトレセン学園で走る全てのウマ娘が持つ、覚悟を決めた顔だった。

 

「勝ちたい……」

「もっと大きな声で」

「勝ちたい……!」

「もっと腹から声出して」

「勝ちたい! 勝って、トレーナーや商店街のみんなに、勝ったよって言いたい!」

 

ベンチから立ち上がり、大きな声で宣言する。

 

これだけの気合があるなら、ハルウララは大丈夫だろう。商店街の連中がうるさくなりそうだが、まあどうでもいいことだ。

 

「ミライさん、ありがとう! お話し聞いてくれて!」

「おーう、感謝しろ。あの商店街の連中にもな。みんな、心配してたぞ」

 

抱き着いてきたハルウララを宥める。

 

まあ、こうして話をするきかっけこそあれだったが、みんな心配していたのだろう。

 

あのバカ騒ぎが無くなるのは、それはそれで寂しいものだ。

 

「うん! ウララ、みんなに謝ってくる!」

「ばーか」

「うわわ!?」

 

走り出そうとしたハルウララの頭に手を置き、そのまま強めに撫でる。

 

「あいつらが見たいのは、お前の謝る姿だとか、そういうのじゃない。ただ一言、とびきりの笑顔で言ってやればいいのさ。――『ありがとう』ってな」

「……うん!」

 

「うっららー!」と今度こそ走り去っていったハルウララの顔には、見事な笑顔が咲き誇っていた。

 

 

 

 

 

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