私の周りには、才能持ちが多すぎる   作:神咲胡桃

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たった一日でお気に入り千件超えました。それと日間ランキング最高五位にも上がりました。

ありがとうございます!

で、今回はあのウマ娘! しかも約一万字

正直これ投稿しても大丈夫か、ちょっと怖いですw



投稿するにも勇気がいるんだよ!

釣り。釣りは良いぞ。

魚がかかるまでののんびりとした時間。そして魚がかかった時の緊張感と、無事に釣れた時の達成感。

 

始めた当初はあまり乗り気じゃなかったが、慣れて来るとだんだんと癖になる。魚釣りを趣味にしている人の気持ちは、この時ようやく理解できるんだ。

 

まあ

 

「嬢ちゃん方! どうだー釣れたか?」

「いやーなかなか来ないっすわー。まあ、のんびり行きましょー」

「おうよ! ゴルシちゃんは素潜りで捕まえて来るわ!」

「ガハハハハッ! 毎度毎度面白いなぁ!」

「いや止めてくれ」

 

釣りが趣味になったのはゴルシが原因っていうと、明らかに心配されるから誰にも言わないがな。

 

「ゴルシー。マジで素潜りやんなよ?」

「ちぇー。仕方ねえなぁ」

「当たり前だろ……。それより、悪いな。急に頼んで」

「良いってことよ! ミライパイセンには世話になってるしな! エアグルーヴに追っかけられてるところ見逃してくれたり、足止めしてくれるし!」

「あくまで他人に迷惑をかけていないからだぞ。一応、お前も自分でしたことは自分で片付けてるし。他の人に迷惑かけるなら、()()()()()()()問答無用で説教だ」

「わーってるよ。ま、ゴルシちゃんも釣りますかね」

 

ゴールドシップ。

 

知っている奴からはゴルシの愛称で呼ばれ、トレセン学園の問題児という、まあ色々と噂の尽きないウマ娘である。

 

あちこちで問題を起こす故に、生徒会でも要注意ウマ娘として注意しているが、まあぶっちゃけ、巻き込まれるのは大体ゴルシが所属しているスピカのトレーナーなので、私としてはそこまで注意しなくてもいいんじゃないかと思ってる。

 

とはいえ、真面目なエアグルーヴとはそりが合わないらしく、偶に追いかけっこしているのを見かける。

私は他人に迷惑をかけていないなら気にしない派なので、偶に手助けをしてやっている。

善悪の区別は付けているし、後始末も自分でするので、追いかけて説教しても面倒なだけなのだ。エアグルーヴの顔に皺が出来ちゃう。

 

とまあ、そんな縁でゴルシと知り合い、その過程でおやじさんとも知り合ったわけである。

 

そして今日は、おやじさんのマグロ漁船に乗せてもらい、こうして漁の最中にマグロの一本釣りに興じている訳だ。

 

「いやー、それにしても悪いねおやじさん。毎回乗せてもらって、釣りもしちゃって」

「別に良いってことよ! 白髪の嬢ちゃんが乗ってるときは大漁だからな!」

 

普通なら怒られるか断られるかの2択だが、こんなことが出来るのはゴルシのお陰でもある。

こいつ、しれっと漁船に乗り込んでは漁を楽しんでいるらしく、その時は必ず大漁なため、船乗りたちにとって豊漁の女神扱いされているらしい。

そのため、ゴルシがいれば大体頼めばOKしてくれる。

 

現にほら、また一匹マグロがかかった。

 

逃げようともの凄い力で引っ張ってくるが、だからなんだというのか。

 

「どっせーい!」

 

釣竿を引き上げて、大物のマグロを釣り上げる。

 

ふっ、マグロがウマ娘に勝てるかよ!

 

これで15匹目。中々の記録である。

 

「おお!? 中々の大きさじゃねえか! にしてもいいのか? 嬢ちゃんが釣ったマグロまで俺たちが貰ってよ」

「まあ、お礼代わりですよ。遠慮せずに持って行ってください」

「そうか、ありがとよ! じゃ、()()()()()()()()も楽しんでいきな! 白髪の嬢ちゃん! もっと腰入れて引き上げなぁ!」

「おうよ! ゴルシちゃんのパワー舐めんなよぉ!!」

 

「ガハハハハ!」と笑い声をあげながら、おやじさんは作業に戻って行く。

ゴルシだけじゃなくて、おやじさんの朗らかな性格も関係しているのだろう。

 

何はともあれ、次の獲物を求めて釣り針を投げいれる。

 

「あ、あの~……」

「ん? どうした?」

 

後ろから聞こえた声に、振り向かずに答える。

きっと背後では、大きな耳をピコピコさせていることだろう。

 

「その、なんでライスはここにいるんですかぁ?」

「そりゃあ、私がゴルシに頼んで連れて来てもらったからに決まってんじゃん」

 

中々に酷いこと言ってるなと思いつつ、背後の帽子をかぶったウマ娘に声を掛ける。

 

「とりあえず、横においでよ。たまには海をゆっくり眺めるのも、乙なものだよ」

 

応じてくれたそのウマ娘――ライスシャワーは、おどおどしながらも私の隣に座った。

 

「あ、あの、今更ですけど、どうしてライスをここに? ゴールドシップさんと知り合いって、まさか……」

「ああ。私は()()()に関与してないから警戒しなくていいよ。ここに連れてきたのも、ただ息抜きの話し相手が欲しかったから。ゴルシに頼んだのは、ちゃんと任務を遂行してくれそうだから。ま、それに……お前さんも、今は出来る限り学園には居たくないだろ?」

「それは……」

 

さっきから暗かった表情を、さらに暗くしてライスシャワーが俯く。

 

「未だに引きずってるか? 菊花賞での三冠阻止」

「っ……」

 

事の始まりは、先日に行われたクラシック三冠の最後を飾る菊花賞。

今年は皐月賞と日本ダービーでミホノブルボンというウマ娘が勝利しており、さらには無敗の三冠が達成されるかもしれないということで、日本中が沸きに沸いていた。

 

ま、それ自体は良いことだ。レースを運営するURAも新たなスターは欲しいだろうし、それにどれだけ前評判があろうが、結局は速い奴が勝つのがレースだ。

 

しかし、今年はそれが悪い方向へと流れてしまった。

 

菊花賞の結果は、ライスシャワーがミホノブルボンを差しきって勝利。無敗の三冠も、ターフの芝へと消えていった。

残念っちゃ残念だが、それもレースだ。長距離ステイヤーに期待の新星登場かと、こういうのも粋なものだと私は思ったが、世間様はそういうわけにもいかないらしい。

 

無敗の三冠を期待していた……いや、期待しすぎていた世間は、その結果を不服とした。

私は用事で行けなかったが、レース場に直接見に行っていたルドルフから話を聞くと、菊花賞後のウイニングライブは特に酷かったらしい。しばらくは元気がなかった。

 

まあ、世間の気持ちはわかる。見ている側にとっては、所詮は娯楽の延長だ。観客席、ひいてはテレビの画面越しでは、走るウマ娘たちの心の内など知りようがない。

 

しかし今回の件は、オリンピックで金メダル有力候補の選手を打ち破った選手の国に、クレームを入れるようなものだ。

 

どんな激情も、悲しみも、悔しさも、新たな決意でさえも、赤の他人が知るには至らない。人間もウマ娘も、結局は頭で物事を考え、感情で衝動的に動く生物だっていうのにさ。

 

「……ライスのせいで、みんなが不幸になった。ブルボンさんの三冠が阻止されて、皆が望んでいた結果じゃなくなった。ライスの、せいで……だから」

「だから春の天皇賞には出ない、か?」

「ぇ……」

「これでも生徒会だからな。お前が連日スピカの連中に追い掛け回されているのは知ってる。後ブルボンにも。ああ、ゴルシには今回頼みをするついでに、一足先に説教しておいたから」

 

ライスが驚いた顔をしているが、生徒会の情報収集能力を舐めないでもらいたい。

さすがに度が過ぎる様なら、何らかの対策を施すつもりではいたため、情報は集めていたのだ。

 

で、情報を精査した結果、どうやらスピカの連中はライスシャワーが春の天皇賞に出ないことを知り、どうにかして出させたいとのこと。

 

理由としては……まあ、メジロマックイーンだろうな。

次の天皇賞じゃ三連覇が期待されているが、こと()()()()()に到ってはストイックなアイツの事だ。事の経緯は知っていても、ステイヤーとして大きな才能を持つライスが出ないことに、不満があるのだろう。

 

同情は出来ても理解は出来ぬ……か。

 

そういや、あいつ天皇賞終わったらスイーツ食べまくるよなぁ……よし、先輩として食い過ぎを防止してやろう。

 

これは極めて公正な判断である。あのパクパックイーンへの鉄槌では断じてない。ないったらないのだ。

どうせトレーナーからも頼まれるだろうしな。仕事しろよ。

 

「で? ライスシャワーは出たくないのか?」

「……だって、次の春の天皇賞は、マックイーンさんが出るし。みんな、マックイーンさんの三連覇を期待してるに決まってる。ライスなんかよりも、マックイーンさんの勝利の方が嬉しいんです!」

「そっか。じゃ良いんじゃね? 出なくて」

「…………ふぇ?」

 

私が肯定すると考えもしなかったのか、ライスシャワーの目が点になる。

気持ちは分からなくもないがね。

 

「嫌だよなぁ。周りから色々言われるのって。私だって、怒られたりするの嫌いだよ?」

 

なおライスシャワーの拉致現場をエアグルーヴに見られたと、ゴルシから報告が上がっている。それはまあ、私が一人で説教を受ければ済む問題だ。

 

それはそうとゴルシには後でお仕置きだな。

 

「い、言わないんですか? ライスに春の天皇賞に出ろって」

「泣きそうになりながら否定する娘に、強制する気にはなれんでしょ。逆に出るって言ってたら、多分止めるよ私」

「と、止めちゃうんですか!?」

「自分の意思で出ないレースほど、悲しくて苦しくて辛いものはないからね」

 

スピカの面々に追いかけられていたということは、ライスシャワーは出バを拒否していたことになる。

それが急に出るなんて話になれば、それは周りに流された結果だ。

 

そんなレースが、楽しいはずがない。

 

「自分の、意思……」

 

何か思うところがあるのか、考え込んでしまうライスシャワー。

私はそれを横目で見て、すぐに水平線の向こうへ視線を戻す。

 

私がライスシャワーを連れて(拉致して)きたのは、釣りの間の話し相手になってもらうためであって、相談相手になるためでもなければ悩みを解決するためでもない。

故に、彼女が何も言わないのであれば聞かない。

 

だがしかし、ライスシャワーは顔を上げ、水平線の彼方を向きながら話を始めた。

 

「……実は昨日、ブルボンさんに言われたんです。『あなたは私のヒーローなんです』って。そう言われたとき、少しだけ嬉しかった。憧れだった人にそう言われるのは、とても気持ちが良かった。でも、その後にこう言われたんです」

 

――『あなたは強いウマ娘なんです! 天皇賞に出てそれを証明しなさい!』

 

「たくさんの人の期待をねじ伏せて、夢を壊して、ブーイングを叫ばれて、誰からも認めてもらえない、勝利を祝ってくれない。そんな悪役(ヒール)のライスが、ヒーローでも良いのかなって。でも、なれなかった。結局ブルボンさんも、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思ったら、ヒーローになんてなれない! ライスは出たくないのに、ブルボンさんが……」

「(ふむ……?)」

 

明らかに違和感を感じる。何度拒否しても、果てにはあのブルボンに『ヒーロー』と呼ばせてみせた。きっとブルボンは、胸の内をさらけ出したことだろう。そこまでされて、そんな極端にネガティブな考えに行き付くのか?

 

可能性があるとすれば……強いトラウマによる本能的な拒否反応。

思えば、港に来た時も人の声に敏感になっていた気がする。初めは菊花賞のことが原因かと思ったが……中々に根深いところまで来ていたようだ。

 

きっとブルボンにはそんなつもりはないのだろう。スピカも、世間も、誰だって、そんなつもりはないのだ。しかし時として、言葉とは悪意のない凶器になり得てしまう。

 

言う側と受け取る側の、解釈の不一致。不思議なことに、本人たちはそのことに気が付かないのだ。

 

ルドルフから聞いたウイニングライブの様子を思い出す。

掲げられたペンライトは、ミホノブルボンと三着のマチカネタンホイザのカラーのみ。投げかけられる言葉も、二人へのものだけ。

いくら考えても、よくこれだけで済んだなと思う。ライスシャワーにとっても、観客にとっても。

 

正直言って、これ以上踏み込むのは良くない。ただの話し相手なら、適当なあたりで話を打ち切った方が絶対に良い。だけど……

 

「ライスはヒーローになれない。ライスなんかじゃ、誰も笑顔に……!」

「……いろいろと、言いたい事はあるけどさ。予想よりも自意識過剰なんだね」

「ライスはっ………………」

 

突然の暴言に固まるライスシャワー。

だがそれでいい。思考の流れを断ち切るには、頭を混乱させるのが手っ取り早い。後は余計な思考に行く前にペースを持っていけばいい。

 

「勝つ気あるんでしょ? あのメジロマックイーンに」

「え、と……誰が、ですか?」

「あなたが。だってさっきからそう言ってるし。みんなを不幸にするってことは、メジロマックイーンに勝てます!……ってことでしょ? かっくい―!」

「や、ライスはそんなつもりじゃ……」

「一つ言っておくよ」

 

悪いが、ライスシャワーにはしばらく喋らせるつもりはない。

 

「あなたが思うほど、世間はそんなに狭くない」

「……どういう意味ですか?」

「あなたはさっきから皆を不幸にするっていうけど、言うほどそんな暇じゃないんだよ。レース一つの結果に一喜一憂すれど、不幸になってらんないよ。ウマ娘の噂も七十五日。来月にはみんな忘れてるさ」

「でも……」

「私が不幸になってると思う? なんで勝利したんだって言った? 舐めんじゃない。トレセン学園は実力主義だ。誰が勝とうが負けようが、一日経てば自分の原動力だ」

 

これには確証がある。

 

先日、学園でライスについての噂があるか、陰口も含め調べたが結果は無し。あっても、トレーナー間でステイヤー適正に関するもののみ。

 

いたって平和。

 

そう言う場所なのだ。トレセン学園は。

 

「あんま大したこと言えるような戦績もないし、身分でもないがあえて言うぞ。……()()()()()()()()()()()()

 

――――言っておくぞ? ()()()()()()()()()()()()

 

……まさか、かつて言われたこれを自分で言うことになるとは。何があるか分からないものである。

 

「おーい! 嬢ちゃんたち、そろそろ引き上げるぞー!」

「はいよー! ライスシャワー、お前が諦めようと勝手だ。でもな――」

 

どうやらタイムアップらしく、仕方がないので話を切り上げようとした時、手に持っていた釣竿が強い力で引っ張られた。

 

「お前……ん? ってこのタイミングでくんのか!? 力つよっ!? お、おいライスシャワー! お前も手伝え!」

「……えっ!? は、はははははいぃぃぃ!?」

 

さっきまでの真剣な空気が一瞬で吹き飛び、泡を食ったようなライスシャワーが竿を握ったのを見計らい、()()()()()()

 

「ふぇぇ!? ミライさーん!?」

「私は疲れた。後は頑張れー!」

「な、なんですかそれー!?」

「安心しろ。それはウマ娘用の釣竿だ。力いっぱい引いても壊れん。ほら、オーエス! オーエス! オーエス!」

「ふぎぎぎぎぎっ……とりゃー!!」

 

ライスシャワーの見事な一本釣りによって、巨大なマグロが船の上に打ち上げられる。

 

瞬間、乗組員たちから一斉に拍手と歓声が沸き起こった。

 

「カッコいいぞー嬢ちゃーん!」

「見事なマグロじゃねーか! いよっ! 日本一ー!」

「今すぐに漁師になれるんじゃねーか!?」

「ばかやろーお前、あんな可愛い嬢ちゃん俺らに紛れさせてみろ。カミさんにどやされちまうぞ!」

「それもそうだ! あっはっはっはっは!」

「おいおい、アタシは可愛い嬢ちゃんじゃないって!?」

「おめえは可愛いっていうよりたくましいじゃねえか! どうだ、漁師になんねえか! そうなりゃ毎日大漁よ!」

「言ったなコノヤロー!」

『アッハッハッハッハッ!!』

 

ポカンと呆けるライスを尻目に、大人の男特有のバ鹿な会話をする男たち(+ウマ娘一人)。

 

「は、はぇ……?」

「良かったじゃん。ライスシャワー」

「ミライさん……」

「ここにいるみんな。あなたが笑顔にしたんだ」

「ライスが、笑顔に……」

 

どこか噛みしめるように呟くライスシャワー。

 

「よーし、お前ら! 港に帰るぞ!」

『おぉぉぉおおお!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今年は豊漁の女神が三人も来てくれたお蔭で、いつもよりも大漁だ! 全員ご苦労だった! しっかり食ってけよ! 乾杯!!」

『カンパーイ!!』

 

場所は変わって、ここは港から近いところにある飲食店。

 

おやじさんの所では漁閉期前の最後の漁が終わると、捕れた魚をいくつか自分たちで買い取り、その魚でこうして宴会を開くとのこと。

会場となるこのお店をやっている人がおやじさんと長い付き合いで、尚且ついつも優先して卸している故に開ける宴会だ。

 

調理された魚に舌鼓を打ち、漁の苦労を労う。おやじさんたちにとて、一番の楽しみらしい。楽しみが待っているからこそ頑張れるとは、親父さんの言葉だ。

 

さて、親父さんのご厚意で私たちもお呼ばれされたわけだが、今回の主役はあくまでおやじさんたち。あまり羽目を外し過ぎるなと、二人には言ったのだが……

 

「それじゃあマグロの解体ショー、いくぞー!」

『おぉぉぉおおおっ!!』

 

ゴルシは巨大な包丁でマグロを捌き、

 

「あらー可愛いわねー!」

「ほんっと、ウチの息子と大違い!」

「ほらほら、もっとお顔見せて?」

「男たちの漁について行ったんだって? だめよーあいつら野蛮なんだから。大丈夫だった?」

「あ、あのあのあの……! ぅ、ぅぅ……!」

 

ライスシャワーはマダム達に可愛がられているので、まあたぶん大丈夫だろう。

 

その後は私も料理を頂きつつ、ようやくマダム達から解放されたらしいライスの元へ行く。

 

「あぅぅ……」

「おつかれ。ほら」

「ぁ……」

 

ライスに差し出したのは、新鮮なマグロの刺し身がたっぷりと乗ったマグロ丼。漁の最後にライスシャワーが釣ったマグロだ。

 

「美味いぞー? ほら、食え」

「でも、ライスは……」

「……ライスシャワー。お前が何を恐がってるかは知らない。春の天皇賞で勝ってしまうことか、菊花賞で勝ったことか、それともそのことで何か言われることか……はたまた、まったく別の何かか。私にはわからん。でもな――」

「そういえば、ライスシャワーちゃんって、テレビで見た気がするのよねぇ」

「あ、私もよ。えーと、なんだったかしら」

「あれじゃない? ほら、菊花賞の」

 

不意に、マダム達からそんな声が聞こえてきた。

 

”菊花賞”の単語が出るとライスの表情が一気に強張り、何かに怯えるかのように体が小さく震える。

 

きっとこの子の頭の中では、あの日のトラウマがリピートされ続けているのだろう。

 

勝利しても、誰にも認められなかったあの辛い思い出。どれだけ勝っても、きっとみんなに否定される……しかしそれは

 

「そうよ、菊花賞! すごかったわよねー、()()()()()()()()()()!」

「……え?」

 

聞き間違いではないか。そう疑っているような表情のライスを置いて、話はどんどん盛り上がって行く。

 

「おいおい菊花賞の話か? 確かにありゃすごかったよなー!」

「ミホノブルボンって言ったか? あのウマ娘を後ろから追い抜かした時、度胆抜かれたな俺は!」

「そーよ。私、菊花賞見てライスシャワーちゃんのファンになっちゃった!」

「聞いてよ。この人ったら、菊花賞見てからライスシャワーちゃんの話ばっかり!」

 

当の本人を置き去りに、場の会話はさらに盛り上がる。

そこにライスシャワーへの嘲りも非難もない。あるのは、ライスシャワーへの温かい言葉のみ。

 

「ライスシャワー、少なくともこの場でおまえのことを悪く言う人なんていないよ」

「……ライス、良いのかな」

「ん?」

「今、とっても胸が一杯で、幸せで……ライスがこんな幸せになっても、いいのかな……?」

「さあな。少なくとも、お前はその幸せをすでに受け取ってるだろ?」

「…………ブルボンさん」

 

それは、強風が吹けば飛んで行ってしまうものかも知れない。だが、少なくともこの娘は大丈夫だ。後は、決意一つ。

 

「そんじゃ、後はっ……!」

 

喝を入れるように、背中を叩く。

 

「いひぃん!?」

「胸を張れ。堂々と、見せつけるようにだ。それは他でもない、お前しか出来ない事だ」

「ライスにしか、出来ないこと」

「自分の功績を誇れるのは、他人じゃない。自分だ。他ならない自分だけが、功績を誇ることが出来る。だから胸を張って言ってやれ。菊花賞を勝ったのは自分だ。ライスシャワーは強いウマ娘だと。誰にも負けない、祝福のウマ娘だとな!」

「誰にも負けない、祝福のウマ娘……」

 

それこそが彼女のアイデンティティ。彼女はその名の通り、祝福されているのだ。三女神様は意地悪だから、不幸に見舞われるかもしれない。だが、それ以上の祝福を受けるだろう。

 

「よし……はむっ、はぐ、あむ、はぐ、あぐ…………」

 

ライスシャワーが唐突に眼の前の丼を手に取ると、行儀も気にせずにかきこんでいく。

その勢いに喉を詰まらせないか心配になるが、さすがウマ娘。あっという間に丼を空にすると、勢いよく立ち上がった。

 

「ミライさん!」

 

口の周りに米粒を引っ付けたその顔に、しかし今までの気弱さは欠片も見当たらない。

 

「ライス出ます……春の天皇賞に! そこで、証明してみせます。ライスが一番強いって!」

 

強く、決意に満ちた宣言。どうやら立ち直れたようだ。

 

しかしどうも彼女は忘れているようだ。ここに誰がいるのかを。

 

それを教えるかのように、部屋が先ほどよりも大きな歓声に包まれた。

 

「天皇賞出るのか! こりゃ楽しみだ!」

「頑張れよー! ライスシャワーちゃーん!」

「応援してるわー!」

「絶対レース場に行って応援するわ!」

「ライス口の周りに米粒ついてんぞー!」

「へ? はわわわ!?」

 

どっかの葦毛の囃子立てで口周りの惨状に気付いたライスは、先までの勢いはどこへやら。顔を真っ赤にして座り込んでしまった。

 

仕方がないので、ライスシャワーの口を拭ってやる。

 

「ライスシャワー、手ぇどけろ」

「……あ、あの」

「おん?」

「ライスのこと、ライスって呼んでほしいです……」

「……そっか。なあライス、知ってるか?」

「はい?」

「ヒーローってのはなるものじゃなくて、そう呼ばれるものらしい。私が家族以外で一番お世話になった人からの受け売りだけど。だから、敢えて言うよ。ライスはヒーローだよ」

「そう、なれるかな」

「さあな」

 

 

「よーし、お前ら! ライスシャワーちゃんの天皇賞勝利を願って――」

 

 

 

『カンパーイ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ブルボンさん」

「ライス! あ……その」

「ブルボンさん、ライス決めました。春の天皇賞に出ます」

「っ! それは本当、ですか……?」

「はい。でも、ごめんなさい」

「何故あなたが謝って……」

「ライス、きっとブルボンさんのヒーローにはなれません」

「…………」

「ヒーローはなるものじゃなくて、そう呼ばれるものって教えてもらったから。だから、天皇賞で勝ちます。ライスが菊花賞に勝ったんだって、ブルボンさんに勝ったウマ娘だって、胸を張って言えるように。ブルボンさんにまた『ヒーロー』って呼んでもらえるように!」

「ライス……ごめんなさい! 私は、あなたに無責任なことを言ってしまいました。本当は、あなたが一番つらいはずなのに」

「良いんです。その代わり、ライスと、その、お友達になってくれませんか?」

「グスッ……もちろんです、ライス」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、これお土産です。ブルボンさんのチームのみなさんと一緒にどうぞ」

「お土産? ……マグロ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「ライスシャワーさん。ここにいらっしゃったのですね」

「……マックイーンさん。ライスも探していました」

「春の天皇賞、出場するとお聞きしました。楽しみですわ」

「はい。ライスも、マックイーンさんと戦えること、楽しみです」

「(……? 前あった時と雰囲気が違う?)……そうですか。ですが、勝つのは私です」

「違います。勝つのはライスです。絶対に負けません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、大きく成長されたようですわね。それでは、またレースで。ごきげんよう」

「あ、マックイーンさん」

「はい?」

「これお土産です。スピカの皆さんとどうぞ」

「(これは……本マグロ!? しかもこんなに大量に!? 何故減量中にこれを……ま、まさか、私に精神的ダメージを場外戦闘で与えるためですか!?)」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

生徒会室は、今日も平和だなー。

 

「やあミライ。前にもらったマグロ、とてもおいしかったよ」

「それは良かった」

「エアグルーヴもおいしいと言っていたよ」

 

そういや、ゴルシがライス拉致現場を見られたせいで、エアグルーヴにお説教されたんだっけか。

 

お土産(賄賂)を送ってみたりはしたが、結局お説教されたし。くそぅ、堅物女帝め……。

 

「それはそうと、その机の雑誌は何なんだい? 君がいつも読んでいる雑誌以外のもあるようだが……」

「んー? ちょいと気になることがあってね」

「そうか。だがそろそろ片づけないと、エアグルーヴにどやされてしまうぞ」

「はいよー」

 

机の上に散らばる雑誌の見開き。そこに写っているのは一人のウマ娘。書いてある内容も、どの雑誌も大体同じ。

 

で最後に読むのは、私御用達のいつもの雑誌だ。

 

はてさて、『今日のウマ娘!』の見出しはっと――

 

「……ふふっ」

 

 

 

 

『激闘 春の天皇賞!! 祝福のウマ娘ライスシャワー ここにあり!!』

 

 

 

 

そんな見出しの下には、泣き笑いのライスシャワーと、「やれやれ」とでも言っていそうなマックイーンが抱き合う写真が載せられていた。

 

 

 

 

 

 




ライスちゃん、無時永久的につよつよメンタル状態に。
これによって、アニメのような鬼は宿らないけど、堂々とした走りでさらにナイフのように鋭くなりました。
マックイーン? 彼女なら翼を切り落とされたよ(ハイパー無慈悲)


マグロ漁に関する指摘はやめておくれ(機先を制す)。

そして待って、今からお気に入り登録を解除し低評価を押そうとしている人待って。
言い訳という名の補足をさせてください。

そんなつもりはないよという方はスキップで。下におまけがあります。


まず今回の話のテーマが

・アニメとは違う立ち直り方
・ヒーローになれなかったライス

の2つです。

一つ目に関してはまあ、そのまんまで、アニメとは違う立ち直り方をさせたいなぁと思ったんですよ。
で、じゃあどんなのがあるかなぁと考えた時に思い付いたのが、”ファン”です。
レースを走るウマ娘って、一応プロのアスリートみたいなものですよ。で、そういうプロアスリートって大体ファンが付きものじゃないですか。
スポ根モノで、主人公が成長するのは大概ライバルとのぶつかり合い。これはウマ娘でも変わりません。
だからこそ、『ファンの存在がきっかけでライスが立ち直る』という展開にしたわけです。
あと、アニメで明確にライスのファンだというキャラが、あんまり出なかったじゃないですか。テイオーなんかあんなにいたのに。ヒールと呼ばれ始めてから、立ち直るまでの間に描写が無く、また、あの時点でのライスのファンだっていたはずだと思ったのも理由の一つです。
だって何度見てもかわいそうだもん!


そして二つ目。
こっちはぶっちゃけ、後付けです。
ライスをファンの存在で立ち直らせるために、ブルボンとの会話で立ち直らせるのは、ひじょーに不味いわけです。これを両方ともとったら、上手く書ける気がしなかったので、片方に偏らせる必要がありました。
そのために、『アニメ7話でのブルボンの説得に応じることが出来なかったライス』にすることにしました。でも、ただ拒否させただけじゃ面白くない。それで考えたのがヒーローを拒んだライス、つまり『ヒーローになれなかったライス』です。
まあ、その過程すらこじ付け感があったんですが、そこは目を瞑って貰えないかなぁと。
この結果、ヒーローにはなれなかったけど、ヒーローと呼んでもらえるように頑張るライスとなったわけです。
いやまあ、これもどうかなーとは思ったんですけど、これ以上は無理だったよ……。




おまけ

宴会でのゴルシとおやじさん
<大人として>

「いやー、嬢ちゃんのお陰で大漁だ!」
「よせやい。それに礼を言うのはこっちだぜ」
「……なんのことだ?」
「っかー! おやじさんは嘘が下手だなぁ。元から知ってたんだろ? ライスシャワーの事」
「……だったらなんだよ」
「いや、ホントに助かったってだけだな」
「なんてことねぇよ。頑張ってる子供応援してやるのが、大人の役目だろうよ。それが寄ってたかって苛めてちゃ、あの世の親に顔向けできねぇ」
「いいじゃねぇか」
「おちょくってんじゃねぇ。……帽子の嬢ちゃんのこれからに」
「乾杯」
「……おめぇ、それ酒じゃねえだろうな?」
「ちょっとくらい良いだろ?」
「良くねぇよ!?」


その後のライスとミライ
<お姉さまって呼ばせて!>

「ミライさん」
「どうしたー、ライス?」
「その、ミライさんのこと、お姉さまって呼んでいい?」
「お、お姉さまぁ?」
「うん。ライス絵本が好きなんだけど、その絵本に出て来るお姉さまみたいで、その……」
「お姉さまと呼びたいと?」
「うん」
「いやー、さすがに勘弁して欲しいかなぁ」
「……だめ?」
「うっ……やっぱりだめ。私はライスの言うお姉さまには、とてもじゃないけどなれないさ」
「なんで? だってミライさんのおかげで、ライスは勇気がでたのに……」
「そういうもんじゃないだよ。私はルドルフのように人望が有る訳でもないし、エアグルーヴのように誰彼構わず助けるわけでもないし、ブライアンのように実力で魅せるわけでもない」
「それでも、ミライさんはライスを助けてくれたよ!」
「私は……さっさと見捨てることも、素直に手を差し伸べることもできない、中途半端なだけだよ。ライスの時だって――いやなんでもない。とにかく、お姉さまって呼ぶのはこっぱずかしいから駄目だからね!」
「ミライさん……」



――本当は、手を差し伸べるつもりはなかった。



――偶然、校舎の裏で泣いている君を見つけただけだから。






――ライスの時だって、結局は中途半端なままだったよ、トレーナー。

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