私の周りには、才能持ちが多すぎる   作:神咲胡桃

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お待たせしました。

前回の最後で、無駄にシリアス出しすぎました。反省。

あれからびっくりするほどアイディアが湧いてこない。


怪我には気を付けた方が良い

走ることはウマ娘にとって、本能レベルに重要なこと。

 

ウマ娘ならば一般常識……否、生まれた時から知っているそれは、時として鬱陶しい。

 

何故か。それは、

 

「サイレンススズカのお見舞いに行ってきてくれないか?」

「……なんでまた」

「本当は私が行きたいんだが、理事長に呼ばれてしまってな。それに、ミライは面識があるだろう?」

「ほとんど一方的だけどな。それにあの時だって、ほとんど覚えているか」

「暇だろ?」

「……行ってきまーす」

 

たまに他人にまで迷惑をかけるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()() PM21:30

 

 

「っていうこともあったなー」

『……そんなに私に会うの、嫌だったんですか?』

「当然だろ」

『あぅ……』

 

()()()()()しょんぼりとしたスズカに、私は自分がジト目を向けているのが分かった。

 

夜も更けた闇の中、生徒会権限で出た寮の前の噴水に座り、在りし日の会話に興じる。

 

「チームをあっちこっちして、仕舞いにはあのリギルすら抜けたせいで、かなり噂が流れていたからな。あれらをもみ消すのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ」

『そ、その件はもう謝ったじゃないですか』

 

そうは言われても、あれは本当に苦労したのだ。

 

当時、チームを転々としさらにはリギルも抜けたことで、スズカに関して良くない噂がいくつか出回った。

 

 

曰く、サイレンススズカは冷かしていると。

 

曰く、自分の好みに合わないチームを陰で嘲笑っているのだと。

 

曰く、逃げで走るのは転々としているチームのウマ娘を、前で笑っているのだと。

 

 

全く持ってくだらないなと思いつつ、それに怒ったのが我らが生徒会長と理事長。

その噂が、足の速さへの嫉妬だったり、すげなく振られたことに対する嫌がらせだとは分かりきっている。

だから放っておけと思ったのだが、その噂が拡がることでスズカが良いと認めたチームに入れなくなるのではと危惧したらしい。

 

ぶっちゃけ、その程度の噂を真に受けるくらいならそもそも相応しくないのではと思うのだが、とにかく噂を消すことに決まった。

 

で、その噂の撲滅に駆り出されたのが私というわけだ。

 

マジでなんでだ。

 

『そ、そんなに大変だったんですか……?』

「あれホント大変だった」

 

OHANASIすると、出るわ出るわ腐った奴が。

 

秋川現理事長の前任の時代からいる奴の多くが、これを機に粛清という名のクビ。

 

こんなに大量のトレーナーをクビにすると、何処からか騒がれたりしそうなものだが、まあ、名家である秋川家やシンボリ家がいればチョチョイのチョイである。

 

とまあ、このおかげで、私のスズカに対する印象は割と酷いものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞いていた病室の前に立ち、ノックを数回する。

 

『……はい?』

「邪魔するぞ、サイレンススズカ」

 

清潔感に溢れながら、何故か人参の入った段ボールが山積みとなっている病室。

 

窓際に置かれたベッドに座っていたのは、件のサイレンススズカである。

 

だが何故か、ジーッと穴が開くほど見つめられていた。

 

「…………」

「あーどうかしたか?」

「ぁ、いえ。えっと、どちら様ですか?」

「生徒会のミライクライだ。生徒会長に言われて見舞いに来た。これ、見舞いの品な」

「……ありがとうございます。椅子、そこにありますからどうぞ」

「……どうも」

 

困った。品を渡したらさっさと帰るつもりだったのに、椅子を奨められたら帰るに帰れない。

 

どうするか悩んだ結果、仕方なく椅子に座ることにした。

スズカも大して知らないウマ娘と話したくはないだろうし、きっとすぐに帰れる。

 

なぁに、すぐに話すことがなくなって、そんな雰囲気じゃなくなるさ。

 

そう考えていたのに……

 

「ミライ先輩は、生徒会で何をされてるんですか?」

「庶務。雑用ともいうけど」

「その割には、全然見ないですけど」

「私は面倒事が嫌いなんだ。式だとか、片っ苦しいことには出たくない」

「自由な方なんですね」

「……お前が言うのかぁ」

 

なんかめっちゃ話しかけられるんですけど。

 

え? なに? お前そんなに話す奴だっけ? もっと寡黙というかクールな奴だったろう?

 

「……ミライ先輩、どうしたんですか? あ、お腹すいたんですか? スペちゃんが持ってきてくれた人参、食べますか?」

「お前、さては天然だな?」

「……?」

 

首を傾げられた。ちくせう。

 

「はぁ……そろそろ帰るぞ。面会時間もあるしな」

「あ、はい。また、来てくれますか?」

 

何でここまで懐かれてんのかね?

 

「気が向いたらな」

「そう、ですか……」

「……じゃあな、()()()()

「っ! はい、また」

 

こうして、私とサイレンススズカの奇妙な縁が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――日本時間 PM21:45

 

「そういえば、あの件は解決したのか?」

『あの件、ですか?』

「ほら、お前がピリピリしだした時の」

 

そう言うと、スズカはまるで思い出したくないことを思い出したとでも言わんばかりに、顔を苦々しいものに変えた。

 

『あ、あれはもう解決してます。スぺちゃんにも、ちゃんと謝りました。逆に謝られもしちゃいましたけど』

「ははっ、お前ららしいじゃないか」

『あ、あんまり思い出させないでくださいよ~』

 

ほんのりと赤くなった顔を両手で隠すスズカ。

 

あざとい。然しこれを素でしてるのだから質が悪い……いや、よくよく考えたら似たようなことする奴らいっぱいいたな。

 

『……あの、ミライ先輩』

「どったよ?」

『私あの時、ミライ先輩にも酷いことを……』

「気にすんなよ。あの時のお前の状態からすれば、あれも仕方ないさ」

 

それでも気にしていることは変わらないのか、スズカは暗い顔を俯かせる。

 

「だったら、時間ができたらで良い。顔見せに日本に帰ってこい。それでチャラだ」

『……っ! はい、なるべく早く会いに行きますね』

「時間ができたらで良いからな?」

 

さっきまでの暗い表情を明るくし、スズカはウキウキと楽しみだと話す。

その表情に、あの日の陰鬱さは欠片もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからというものの、スズカと私の見舞いは続いていた。

 

私も生徒会の仕事があるので、週2日しか会いに行けないが、これでも多い方だろう。

なんせ、元々ちゃんとした面識はなかったんだから。

 

時には互いに話をしたり、逆に何も話をせずにただ二人でボーッとしていたり、私は雑誌を読んでいるところをスズカが覗き込んできたり。

 

そんな風に続いていた見舞いだったが、ある時からスズカが見るからにピリピリしだしたことがあった。

それでも、そのことを押し止めていようとしていたので、まだ平気だったのだろう。

 

しかし、それも限界が訪れた。

 

私がいつものように見舞いに訪れると、スズカからこんなことを言われた。

 

「ミライ先輩。もう、お見舞いに来ないでください」

 

私を見ることなくそういったスズカに、私は、ついに来たかと思った。

元々、スズカの気分が最悪気味だったのだ。何時かこうなることは分かっていた。

 

「ミライ先輩だって、お仕事があるんでしょう? だから、もう来てもらわなくても良いです」

「そうか。じゃ、もう来ないよ」

「はい」

「……で? なにがあった?」

「は?」

「次からは来ないよ。でも今は違うだろ? 何があったんだ」

 

何でそんなことを聞いたのか、今でもわからない。

……ああ、あれだ。ルドルフは未だに私が見舞いに行っているのを知っている。それが急に行かなくなれば、何かあったのかと聞かれるのは当然だ。だから、その時に説明するために話を聞いておかなければならないからだ。

 

スズカが話し始めるまで待っていると、少しの逡巡を経て口を開いた。

 

「……だんだん、怖くなってくるんです」

「なにが?」

 

スズカが包帯が巻かれた左足の少し上あたりを優しくさする。

 

「走りたいのに走れなくて、もしかしたらもう走れないかもしれなくて、そう思ったら、とても憎くなったんです」

 

サイレンススズカにはとある二つ名がつけられている。

 

それが『異次元の逃亡者』

 

圧倒的なまでの逃げによる走りは、多くの人を魅了した。

 

しかしスズカにとっては、ただ自身の走りたい欲求を満たしているに過ぎない。

今まで多くのチームをとっかえひっかえしていたのは、自由に走ることができないためである。

 

だからこそ、秋の天皇賞で故障し、復帰が絶望的とされたことでストレスが溜まっているのだろう。

 

「私が苦しんでいるのに、他の人はみんな自由に走れる。それが羨ましくて、憎くて、悲しくて、スぺちゃんに酷いことを言って……。怖いんです。走れなくなることが、走ることができないことが……! 走れない私は、なんなんですか! 私は……走れないなんて……」

「なんだ。私と同じじゃん」

「……え?」

「…………ほら、私引退してるしさ」

「でも、まだ走れるじゃないですか!」

「貴方は走れるよ」

 

前回、見舞いから帰る時にある医者に話しかけられた。

話を聞いてみると、その医者はスズカの容態を見ている医者だそうで、スペシャルウィークの次に見舞いに多く来ている私が気になり声を掛けたそうだ。

 

その医者はスズカのファンらしく、彼女の様子を随分と気にかけており、過酷なリハビリを辛そうな表情で続けるスズカを心配していたらしい。できれば、こうして彼女に会いに来てほしいとも言われた。

 

それに関しては別に構わないのだが、その際、怪我の容態を聞いておいた。

 

確かにスズカの怪我は大きく、最悪復帰することはおろか走ることも難しくなるかもしれない。

だがそれは最悪の場合だ。走れるようになる可能性も、復帰できる可能性も残っている。

 

「――だから、まだ走れる」

「……なんで、そんな風に言えるんですか」

「出来るかどうか分かんないなら、出来るって思った方が得でしょ。それに、結局思い込みだよ」

「でも……」

 

それでも顔を暗くさせるスズカ。

 

まあ、こんな言葉で立ち直らせられるのであれば苦労しない。

スズカにとっては文字通り生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。どうするかなんて、簡単に答えは出ない。

 

「…………ま、私は貴方の足を治すことなんて出来やしないけど、愚痴を聞くことくらいはできる。溜め込んでいることがあるなら、私に言えばいいさ」

「ミライ先輩……」

「その代わり、スペシャルウィークとか、他に見舞いに来た連中にはそういうこと言うなよ。みんなあんたを心配して来てんのさ」

 

こくんと頷いたスズカの顔は、少なくともさっきよりかはマシな顔だった。

 

「あ、でもさっき、もう来ないでくれって言われちゃったしなー」

「あ」

「どうしよっかなー?」

「あ、あの、その……」

「んー?」

「も、もう! 意地悪しないでください!」

「アハハッ! ごめんごめんって」

 

むくれた表情を見せるスズカの頭を撫でる。

 

その後、紆余曲折あって異次元の逃亡者は復活したのだ。

 

彼女は、その俊足を持って、バッドエンドを抜け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

――日本時間 PM 22:00

 

「長話しすぎたな。そろそろ切るぞ」

『もっとお話ししたかったんですけど……』

「これ以上はさすがにな。なぁに。お前が帰ってきたときに、また話せる」

『そうですね。次会えるのを、楽しみにしてますね』

「ああ。じゃあな」

 

スズカとの電話を終え、月夜を見上げる。

 

雲にかすむ月は、されど地上を照らしていた。

 

スズカも、同じ月を見上げているのだろうか。

 

願わくば、この月の光が、スズカのこれからを照らしてくれることを祈ろう。

 

 

神の存在を信じていなくても、それを祈るくらいは、しても良いだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

――――――痛い

 

 

痛い……痛い……痛い……だけど、もっと辛い。

 

あのスピードの先が見たかったのに、あの景色の先を見たかったのに。

 

 

――カ――ん! ス――さん! ――スズカさん!

 

 

声が聞こえる。誰……? あれ? 私、いつの間に……寝ころんで……。

 

 

――ど――て!? いっ――はし――――くそく――いですか!?

 

胸のあたりが引っ張られてる……?

 

誰の声……見えない……聞こえない……やく、そ、く……?

 

 

――スズ――さん――――カさん――

 

おい――なにやって――――

 

はなして――わたし――――やくそ――――が――――

 

そん――――場合――!? おい――サイレン――――救護――急げ!

 

 

誰かの怒鳴る声。引っ張られてる力がなくなった。

 

 

――スズカ。しっかり――すぐにびょうい――――に向かう――!

 

 

あなたは、誰なの?

 

分からないけど、なんとなくわかる。きっと、ここで知らないと、もう会えない。

 

ねえ、教えて。あなたは――だ、れ……?

 

出来る限りの力を振り絞って、薄く目が開いた。

 

歪んでぼやける視界に映った、焦ったような表情を浮かべるその顔を、忘れないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

また……会えます……よう、に……――――

 

 

 

 

 

 




個人的に、傍にいて心地よいと思うウマ娘第一位です。

アプリ版スズカ大好き。
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