私の周りには、才能持ちが多すぎる   作:神咲胡桃

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面白い会話ができる人は尊敬する

 

――ある日の午前。

 

今日も今日とて、私は生徒会の仕事のために学園内を渡り歩いていた。

 

数か月後にはトレセン学園の伝統行事、ファン感謝祭。その前準備の時期がやってきたのだ。

 

ファン感謝祭は、言ってしまえば文化祭のようなものだが、トレセン学園は規模が規模なだけにその準備には、かなりの時間を要する。

何より、準備のための準備は、我々生徒会の領分である。数か月後とはいえ、これでもかなりギリギリのスケジュールとなっているのだ。

 

トレセン学園はトゥインクル・シリーズにおける大黒柱と言ってもいい。

レースを走るウマ娘といえば中央ことトレセン学園と相場が決まっているし、故にこそ、このトレセン学園が市民からの理解を得る場となっている。

ファン感謝祭も、その理解を得るための活動の一環だ。

 

しかしその準備をさせられる方にとっては、いい迷惑でもある。

 

ただでさえ猫の手も借りたい程に少ない人手なのだ。通常の学園の運営ですら忙しいのに、プラスして感謝祭の準備。

生徒の自治性を尊重するとか言っているが、結局は丸投げしているだけである。

仕事をしている大人と言えば、秋川理事長とたづなさんと用務員のお爺さんくらいしか思い浮かばない。大人はもっと仕事しろ。

 

ルドルフに人員の増加を陳情しようかと考えていると、前からドタバタと走ってくる影が見えた。

 

「……ゴルシ? お前何やらかしたんだよ」

「おっ!? ミライパイセンじゃねぇか! いやな、ちょいとエアグルーヴから追いかけられててよ」

「何したんだ?」

「学園の噴水でマグロ飼ってたのがばれた!」

「……後で海に帰すか、食べて証拠隠滅しておけ。手助けは?」

「いや、いらねぇ。今日は逃げきれそうだしな!」

 

そう言うと、ゴルシは走り去っていった。ピューッという音が聞こえてきそうだった。

 

「……エアグルーヴから逃げきれそう? 珍しいこともあるもんだな」

 

いつもなら、逃げるゴルシが捕まってお説教されるまでがテンプレである。

それが今日に限って逃げ切れそうとは、エアグルーヴも日頃の疲れがたまっているのだろうか。

 

そんな風に思っていると、ゴルシが現れた方向から件のエアグルーヴが現れた。

 

エアグルーヴと目が合うと、一目散に私に近づいてきた。

 

「ミライ! ゴールドシップの居場所を素直に吐け!」

「悪いが、今回に限っては手助けしていない」

「くっ! 知らないならいい!」

「まあ待て待て。どのみちもう追いつけねぇよ。それにしても珍しいな。お前がゴルシに逃げられるとは」

 

純粋に気になった私がそう聞くと、エアグルーヴの表情が苦々しいものに変わった。

 

「……別に、そういう日もある」

「それ自体が異常なんだよ、女帝様。気にもなる」

 

遂に断念したのか、エアグルーヴが重い口を開いた。

 

「実はだな……」

 

うんうん。

 

「会長はたまに、会話の中にダジャレを混ぜるだろう?」

 

うんうん。

 

「私は今まで、それに気づいても特に指摘はしなかった」

 

うんうん。

 

「ダジャレを言うのは良い。だが指摘されるのは、中々に恥ずかしいものがあるだろう? だから今まで、気づいてはいても指摘はしなかった。だが……!」

 

うんうん。

 

「だが…………私は気付くことができなかったんだ!」

 

うんうん……ん?

 

「エアグルーヴ、一生の不覚!」

 

つまりなんだ、ルドルフのあのどう反応すればいいか分からないダジャレに気付かなかったから、調子が良くなかったと?

 

なんていうか、その……

 

「くっだらね」

「おい貴様! 何がくだらないだ!」

「いやだってお前、思ってたのと違ったからさ」

「私にとっては一大事だ! 気づいて思わず指摘したならまだしも、まったく気づかずに対応してしまったんだぞ!?」

 

……まあ、彼女が言わんとすることは理解できる。

 

現生徒会長であるルドルフは、その数々の偉業や立場から生徒たちに畏敬の感情を抱かれている。

しかしそれが、逆にルドルフに対して薄っすらとした壁を作っている。

 

要は、ルドルフは気安く話せる相手が欲しいのだ。

しかし彼女は、何をとち狂ったのか気安さを演出するためにダジャレを言いだした。

 

本当に、何がどうなってそうなったのかが全く分からない。

 

確かにダジャレを言うことで、気安さは出るかもしれない。でもそうじゃないだろ。

ダジャレを言って許されるのは、最初から言い続けてるやつだけだ。お前は違う。

 

なにより、あの天下のシンボリルドルフがダジャレを言うんだぞ?

名門シンボリ家のウマ娘のダジャレを、一体だれが指摘できるというんだ。

下手に笑って不興を買いたくないというのが大半の思考である。

 

そしてそのダジャレ作戦の結果がエアグルーヴだぞ。

 

しかしルドルフはその作戦を信じてやまないから、誰もそれは違うと言い出せない。もちろん私も。

 

そして、立場上ルドルフの傍にいる時間が多いエアグルーヴは、ダジャレに気付きながらも指摘できないわけであり、その度に気を揉んでいるのだ。

 

「レシート……もらってうれしーと……会長、申し訳ございません……」

 

その時のことを思い出したのか、私の目の前で頭を抱えて悶えるエアグルーヴ。

 

正直言って、この状態のエアグルーヴはめんどくさい。

ほっぽり出してさっさと退散したいところだが、さっきも言ったように生徒会は万年人手不足。

 

正気に戻すために、エアグルーヴに声をかける。

 

「エアグルーヴ。ちょっと聞け」

 

 

 

 

 

 

 

「――ダジャレへの感性を鍛える?」

「そうだ。いつでもルドルフとの会話の中に紛れたダジャレに気付くために、お前のダジャレの感性を鍛えようと思う」

「そう、か」

 

いや突っ込んでくれよ。私だっていやだよ。

 

しかし絶賛傷心中のエアグルーヴは、黙って続きを促す。

 

「……仕事の最中、会話の中で私がダジャレを言う。ダジャレに気付いたら、お前はそれをすぐさま指摘しろ」

「なるほど。たしかに会長相手でなければ指摘はできるな……」

 

何でだよ。ふざけんな。

 

「……じゃ、いくぞ」

「ああ! よろしく頼む!」

 

 

 

 

 

「とりあえず、私の仕事を手伝ってくれ。まずは理事長に資料の確認をしてもらう」

「随分と大量にあるのだな」

「ま、一度に見てもらった方がお互い楽だしな。これだけの量だ。それなりの手荷物だから、しっかり手に持つように」

「ああ……………あ、手荷物……」

 

 

 

 

「次は前年の感謝祭の内容から、今年の予算案の草案を作らないとな」

「とはいえ、前年とほとんど変わらないだろうな」

「いや、今年は台風があったからな。その影響で食料品の値段が変動するかもしれん。その分も考慮しないとな」

「そうだな。あれは酷かった」

「一番面倒なのは、前年の予算案からの大幅な変更の理由を考えることだけどな。理由が薄かったり、ないようなのは怒られてしまうしな」

「それもそうだ。まあ、今年は食料品関係ぐらいだと思うが」

「だな。……バツ一回」

「え…………内容か……」

 

 

 

 

 

「次は補修作業の進捗確認……本当にこれ私たちのすることか?」

「書面上では分からないこともある。実際に出向いて確認することは重要だ」

「人手不足でやることかぁ?」

「さっさと行くぞ。そういえば、この前メジロドーベルから柚子をたくさん譲ってもらったんだ。お前もいくつかいるか?」

「そうか、まーもらえるに越したことは……え?」

「……待て。今のは別にそういう意味では――」

 

 

 

 

「少し休憩がてら、自販機で何か飲んでいくか」

「おい。今はまだ仕事が……」

「休憩も大事な仕事だ。ココアでいいか?」

「……そう言いながらすでに買っているだろう」

「まあな。ほら」

「……ありがとう。お前はコーンポタージュか」

「自販機で飲むのは、インスタントのを飲むのとは違うだろ? 私は自販機派だ」

「私はインスタント派だ」

「意外だな」

「あれはあれで美味しいぞ」

「ふーん……ああ、くそ。コーンが出てこんなぁ」

「……さすがに分かるぞ」

「だろうな。……ちなみに本当に出てこないんだけど」

「知るか」

 

 

 

 

 

そんなこんなで、アホみたいなダジャレ特訓は幕を閉じた。

 

マジで何でこんなことしてんのか分かんないが、エアグルーヴに業務を手伝ってもらったのだから文句は言えまい。

 

ともかく、これでふざけた特訓も終わりだ。

清々としたと、首周りをほぐしていると、エアグルーヴが口を開いた。

 

「……お前は」

「んー?」

「お前は、あの量の仕事をいつも一人でこなしていたのか?」

「そうだけど。そこまでの量じゃないだろ?」

「馬鹿を言うな! 私も手伝って夕方に終わったんだぞ! 一人でやれば間違いなくこれ以上に時間がかかるぞ!」

「でも一人でも終わるぞ」

 

今日はダジャレ考える必要があったから遅くなっただけで、とは言わない。

 

「それにお前やルドルフはドリームトロフィーリーグがあるだろ。そのトレーニングもある中で仕事してるんだから、私はこれくらいやらなきゃな。それにこの量だって、感謝祭の前準備があるからだ。毎日こういうわけじゃない」

 

これは全て本当のことだ。

 

未だ尚レースで活躍する二人と違い、私はすでに引退した身。ブライアンは、まあサボりそうだしな。

それならば、これくらいの仕事があってもやむ無しである。

 

「だが、お前だけに負担をかけるなど……」

「これは私が選んだことだ。別に気に病む必要はない。それでもまだ気にするっていうんなら、ルドルフと良き友人であってくれ。それでいい」

「ミライ……そうか、お前がそう言うなら、そうしよう」

「ああ。そうしてくれ」

「では、私は生徒会室に寄ってから帰る」

「分かった。今度からは今回のようなこと、止めてくれよ」

「や、やかましいぞ……たわけ」

 

エアグルーヴと別れ、夕焼けで真っ赤に染まる廊下を歩く。

 

あの様子なら、私のことで気に病むこともないし、またダジャレに気付かなかったとかで落ち込むこともないだろう。

 

あれだけ面倒なことをさせたのだ。ちゃんとその成果を発揮してほしいものである。

 

まあ、もっとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダジャレに気付けても、指摘できるかは別問題なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

エアグルーヴ は やる気 が 下がった!!

 

 

 

 




実際、会話のたびにダジャレを披露できるカイチョーはすごいと思う。
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