やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
VSドラマツルギー、開幕です。
第十一話 そして、一つめの舞台の幕が上がり、祭りは最高にフェスティバっている。(前篇)
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ザー…ザー…ザー…——————
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その日、土砂降りの大雨の中、俺は総武高校のグラウンドで突っ立っていた。どうしてここにいるのか———それは忍野の計らいによるものだった。
俺が忍野に依頼したのは、俺が人間に戻るための
『人は一人で勝手に助かるだけだよ、比企谷くん』
彼自身は戦わない。戦うのは俺自身だし、むしろ俺以外には出来ない、と彼は言った。全く、ここまで同じ思考を持つ人間は初めて見た。どうやらこいつも俺と同じ孤高のぼっちのようだ。そう思っていたら『僕にだって学生時代の友人はいるさ』と哀れまれながら言われた。ぼっちは俺だけかよ。やめろ、んな顔すんな。
まぁ要するに、ルールのない試合にルールを設けて公平な試合をするための仲介人。それが忍野メメである、という話だ。
『地の利ってのは君が思っているより大事だよ、比企谷くん。負ける、もう駄目だ———そんな時に打開策を見つけることもできるし、最悪の場合には逃亡もしやすい。今回僕が戦いをセッティングした場所は君にとってのホームグラウンドだと思うぜ』
俺は威嚇の意味を添えて、目の前を睨む。かつて雪ノ下に向けて行ったのと同じように。ちなみにそこには一人の大男が、俺と同じように棒立ちしている。いくらぼっちでも、空に向かって睨んだりはしない。
名を、ドラマツルギーという。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを退治しようとしたヴァンパイアハンターの1人で———彼女から右脚を奪った。身長2m超はある筋骨隆々な体躯をしており、伸びきった髪をカチューシャでまとめている。
人呼んで———『同族殺し』
「あやつは吸血鬼じゃよ」キスショットは告げる。「じゃが、はっきり言って———弱い」
俺はその言葉を聞いて驚愕した。吸血鬼が吸血鬼ハンターをしているということを俺は全く想定していなかったのだ。いや、確かに人間にしては異常に高身長で筋肉が発達しすぎていると感じたが…吸血鬼なら納得だ。
そしてそれと同時に、俺はキスショットに対して呆れた。殺されかけてたお前が言うか、と。
「でもお前はその男にやられたんだろうが。油断は禁物だろ」
「たわけ。儂は怪異の王じゃぞ」キスショットは本気で嫌そうな顔を見せた。「一対一ならイチコロじゃわいあんな奴。3人で同時に襲われたからこうなったのじゃ。一人なら余裕じゃわい———それにあの時は少し体調も悪かったからのぅ」
しくじるな、私の顔に泥を塗るな。そう言っているように聞こえたのは俺の被害妄想が激しいからだろうか。だけどまぁ将来、厳しい上司からの命令を妥協するための訓練だと思えばそこまで重荷ではない。それに、キスショットのことを考えられるほどこちらも余裕ではない。
「…はぁ」俺はそのことを思い出してわざとらしくため息をつく。「で、どうすんの?よーいどんでいいのか?」
「…あぁ、それでいい」男は俺に負けずにぶっきらぼうに言った。「早く始めよう」
「あ、その前に2個聞いていいか?」ポケットに両手を突っ込んだまま尋ねる。
「なんだ」
「俺が勝ったら、本当に右腕を返してくれるんだな?」ここで俺は初めて、ポケットから手を抜く。
「あぁ。約束は守ろう」ドラマツルギーははっきりと言った。俺の観察眼によれば、それは本心だと思う。
「その代わり、俺が勝てばハートアンダーブレードの場所を教えろ」
そう、これが中立な立場に属する第三者・忍野メメが定めた極めて公平なルール。これ以上の妥協はできないであろうライン。だから俺は承諾した。
「了解。んで二つ目———お前吸血鬼なんだろ。なんで吸血鬼ハンターしてんの」俺は尋ねる。
それに対して彼は「仕事だからだ」と端的に答えた。それで終わり———かと思いきや、続けてこう言った。
「吸血鬼が人間の驚異とならぬよう、性質や数の調整を行っているのだ。ただそれだけのことだ」
そして、静寂。
「はっ、仕事ねぇ…」俺は笑う。「オッケ、じゃあ始めようぜ」
それが合図となり、戦いの火蓋が切られた。
———だが。
「「…………………。」」
俺たちは動かなかった。互いに互いの動きを観察しており、そしてどうにかして相手を先に動かせようとした。これでは肉体戦、というよりも心理戦だ。よく知りもしない相手を前にすぐ動き出すのは愚の骨頂だと思っているし、どうやらあっちにしても同じ意見らしい。もちろん嬉くはない。もしこいつが人間だったら友人になれたかも、なんてのありがちなことも思わない。だってこいつが人間だとしても友達になれる訳がないし。
(まぁ、注意するべきなのは拳だけだろうな。それにさえ気をつければなんとかなる。逆に、一回でも当たればかなり不味っちゃうが…)
約三十秒見つめあったのち、十分に観察し終えた俺はついに、歩いてドラマツルギーに詰め寄る。
ざ、ざ、ざ、としっかり砂を踏んで一歩ずつ確実に。そして彼の2メートルほど前まで進んだところで俺は動いた。
「ふっ———」
右腕をグーにして、鳩尾を狙う。
しかし、それは叶わなかった。何故か。何が起きたのか俺はすぐに理解でいなかった。脳が痛みに追いついていない。だがやがて、じわじわと痛みを感じ始める。
俺は足元を見る。
足元には俺の腕が落ちていた。
それは、心理戦が肉体戦に変わる合図だった。
「あ———あああああああああああああっ!!!!!」
俺は痛みのあまり芋虫のようにのたうち回り、先程の俺と同じように、ドラマツルギーはズンズンとこちらへ歩いてくる。
完全に舐められていた。普段ならイラついているところだが今はそんな余裕なんてない。ただ痛い。太陽の下に出た時よりも格段に。
何だ、今の。
(何が起きた!?見えなかったぞ何も!何だよもう!なんで上から殴っただけで腕が取れるんだよ!)
俺の思考はぐちゃぐちゃになってしまっていた。何で俺はこんなに痛みに弱いんだ。弱い。弱すぎるだろ俺。
「———っ!くそっ」
俺は切断された部分を左手で押さえながら、ばしゃばしゃと雨水の溜まった地面を蹴り上げて不恰好に走り出した。やばいやばいやばいやばい、これは死ぬ。まじで死ぬだろこれ!やばい負ける!俺の脳は完全に『戦闘』から『逃亡』へとシフトしていた。ここにきて忍野の言葉が思い出される。悔しいが地の利、まじで大事だ。
「遅い」
「な———」なんで、と言う暇なんてなく、俺は左腕を掴まれ、校舎へとぶっ飛ばされた。
窓ガラスが割れ、一階、1年B組の教室へ転がり落ちる。
前言撤回。
圧倒的な強さの前に、地の利なんてものは何の意味も持たない。
「かはっ…ふっ…!」
視界が霞む。頭が痛い。無いはずの腕がジクジクと痛む。右耳が聞こえない。寒さと恐怖で足が震えて動けない。やばい。やばい。やばい。
「ひっ!ご、ごめんなしゃい!」
俺はいつの間にか校舎へ入っていていたドラマツルギーの拳を間一髪でかわす。それから二発目、三発目も何とか避けることに成功。だがそれも、いつまで続くかわからない。俺は机をかき分けて教室から逃げ出し、全速力で走った。
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「ま、撒いたか…?」
俺は自分の腕を労りながら、2階の柱の影に隠れていた。恐らくあいつはまだ一階を探しているためまだ時間はある。ここでしっかり体勢を立て直そう。さて、どうする比企谷八幡。俺なら余裕なはずだぞこんな問題。今までだって散々いろんな人の問題を解決してきたじゃねぇか。それが今度は助ける対象が自分になっただけ。相手のことが完全に分かってんならむしろ楽勝だろ?
「ふぅ…」俺は一度深呼吸をした。「どうすっかなぁ」
気分は大分落ち着いてきた。まだ頭とガラスが刺さって少し切れた腹と腕が痛いが———そう思って、今まで鬼ごっこのせいで見れていなかった患部を眺めた。
そして、俺は驚愕することになる。そして、改めて理解する。の回復力の凄さを。今の自分の非人間性を。非常識を。
「…はは」
不意に笑いが込み上げてきた。この非現実を脳が受け止めまいとしているからなのか、それともただ目の前の光景が滑稽なものだったからなのか、俺には分からない。
ただ、事実は一つだけだ。
「生憎…俺は諦めが悪いんでね。だから、まだ———」
「勝負は決まってねぇぞ脳筋野郎」
勝算がある。ただそれだけのこと。
今回は流石に一話で終われそうにないのでまた前半後半で分けます。もしかしたら中編も加わるかも…感想・評価などお願いします!
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)