やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
テニスボールを避けながらも凄まじいスピードでこちらへ向かってくるドラマツルギーへ、俺はラケットで砲丸を打った。根本を持ったのでラケットが折れることはないはずだが予備も持ってあるので安心して打てる。
「あー…外したか」
俺は見事に球を外す。まじか、テニスには割と自信あったんだけど…やはり普通のテニスボールと砲丸では軌道とか変わってくるか。それはちょっと面倒だな…なら投球すればいいと思うが、生憎俺は野球を嗜んでいない。むしろ甲子園で泣きながら砂を集めている高校生を見て『何やってんのこいつら』と思っているほどだ。今のちょっと反感買いそうだな…まぁいいや。反感を買われる相手がそもそもいないし。まぁ要するに、つまり俺の得意なスポーツ・テニスで勝負するしか有り得ない。
一球目、二球目———でラケットが壊れたので持ち替えて三球目、四球目———と、ここまで全く当たる気配がなかった。だがそれはドラマツルギーとの距離、あと20メートルとなった時のこと。
「青春の———馬鹿野郎…ッ!…あ!」
奇跡的に相手に当たった。それも眼球へと。ぐしゃりと何かがつぶれる音がして、少しバックする———が、そこにはひとつのボールがあった。ドラマツルギーは見事に転ける。ここまで何もかもが計画通りだった。自然と笑みが溢れだす。
さて、と俺は軽く準備運動をして、
そんなくだらないことを考えているうちに、倒れているドラマツルギーの元へ辿り着いた———もうすでに目は完治しているだろう、と思って、俺は反撃をくらう前に素早くその秘密兵器———審判台を持って大きく振りかぶった。
だが。
「降参だ」
ぽつり、と聞こえた。その声の小ささが理由だろうか、その言葉を聞くと同時に、雨の音が少し強くなった気がした。
「は…え…?」俺が聞き間違えかとドラマツルギーの顔を見ると、そこにはすでに諦めの表情が浮かんでおり、そして眼球は未だ潰れたままだった。
「俺のことをどこまで知っているのか知らないが…俺はそこまで回復力が強いわけではない。そんなものをぶつけられれば死んでしまう」
そう言った。
「そ、そうか…へぇ…なら右脚も…」
「あぁ、返そう。約束は守る」
「お、おう…ならいい」
「なぁ…お前も吸血鬼ハンターにならないか?そうすればお前がハンターから追われる理由はなくなる」ドラマツルギーはまるで俺を案ずるようにそう提案した。だが、それに対する答えなんて一択しかない。
「いや、ならん。あいにく俺の将来の夢は専業主夫なもんでね」働きたくねぇんだわ、と俺はそう返した。
それに対してドラマツルギーは短く「そうか」と答えた。
会話をしていてものすごく感じることがある。こいつは思っていたより物分かりがいい。そして優しい。つくづく吸血鬼にもそのハンターにも向かない人柄だった。
「…ったく」俺も、ドラマツルギーに倣って倒れ込んだ。何というか、青春の1ページ、みたいな感じで少し気恥ずかしい。けどまぁ悪くないんじゃないかと思えた。
「なぁ、ドラマツルギー」
「…なんだ」
「もし、俺とお前が人間だったら友達になれてたと思うか」
「ふっ…」彼は一呼吸置いて「愚問だな」と短く笑った。
「はっ…言えてる」俺も同じように笑った。
しばらくしてドラマツルギーは立ち上がり、挨拶もなく去っていった。その時にはすでに雨は止んでいて、はるか遠くまで曇り空が広がっていた。ふと横を見ると、彼が元いた場所には、寂しげに右脚が置かれていた。
何とも白く美しい、適度に引き締まった女性の足だった。
「………。」
俺は多少の罪悪感に苛まれながら足を拾う。ごめんなさいキスショットさん。こっそり洗ったりしないでくれよ頼むから。
「いや温かいんだけど…生々しいなおい」
まぁ何はともあれ、あの学習塾跡に帰るか…と上半身を起こしたその時。
「八幡ッ!」
俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それは、俺の天使の声によく似ていた。あれ、おかしいな、ついに幻聴を聞き出したのかな…そう思って振り返るすると———
「は……八幡…」
そこには、息を切らしたマイ・エンジェル、戸塚彩加の姿があった。
「今の、何?」
♦︎♦︎♦︎
「な、なんで戸塚がここに———」
「いま僕のことはどうだっていいよ!八幡のことが心配なんだってば…ねぇ、さっきの喧嘩は何?あの人は誰なの?」戸塚が目を潤ませながら聞いてくる。俺はそれを見て、つい話したくなってしまった。だが、グッと堪える。
「あ、あのさ戸塚」
「八幡!そうやって自分一人で抱え込むの、悪い癖だよ?」
「…」
「だからさ、教えて欲しい…心配なんだよ」
「…でも」
「お願い」
いくら可愛く上目遣いでお願いされても、バレるわけにはいかないのだ。俺は初め、戸塚や最悪の場合材木座にも協力を仰ごうと考えていたのだがこれ以上広まってしまうのはまずい、というのは忍野の言葉。
『怪異って言うのはね。人が認識しているから存在しているんだ。卵が先か鶏が先か、みたいな話になっちゃうけどね…忘れられてしまえば、怪異は存在できない。逆に多くの人間に知れ渡れば、その怪異はより強大になる。いやだろ?折角パーツを全部集めたのに殺されたら。はっはー、そんな馬鹿話があるかい?まぁそういうことで、これ以上広まってしまわないようにしてね』
きっと戸塚は俺が何度拒否しても「教えて」と懇願してくるだろう。そういう人なのだ、こいつは。ひ弱なようで、意外と芯がある。
だから。
だから俺は、こうするしかないのだと思う。この時は確かにそう思っていたのだ。
「………悪い、言えねぇ」
その瞬間、空気が凍ったのを感じた。戸塚の表情を、どうしても俺は見ることができなかった。
「…ねぇ、僕ってそんなに頼りないかな」戸塚が切なげに尋ねた。胸がじくりと痛む。それと同時に由比ヶ浜を思い出す。
『……馬鹿』
「頼りないとかそういう話じゃないんだ」
俺は込み上げてくる感情をグッと抑えて、顔も見ずにこう言う。
「邪魔なんだよ」
「……え」
「邪魔なんだつってんの。お前の力なんて借りねぇよ。俺は一人で解決するさ。いつもみたいにな」
やめろ。
「……」
「それに、
やめろよ、何言ってんだよ俺。これが本当に正しいと思ってんのか?
「…かん、ちがい」戸塚が呟く。
「あぁ。はっきり言って迷惑だ」
「…………」
「だから、もうこれ以上関わ———」
俺はそこで、初めて戸塚の顔を見た。そして絶句した。
戸塚は———静かに一筋、涙を流していた。
「あ」
そこで俺はようやく、取り返しがつかないことをした、と気がつく。気づかないふりをしていたがもうそれも出来ない。俺は間違っていたと確かに気づく。
「わ、悪い戸塚、俺、」
「はは…ごめんね、八幡。ちょっと…僕の方こそ勘違いしてたみたいだよ。そうだよね、友達な訳ないよね… うん」戸塚は涙を拭いながら言う。
「いや、ち、違う。俺とお前はと———」
「…無理しなくていいんだよ?その…もう…話しかけないから。安心してよ、比企谷くん」
比企谷くん、と。俺をそう呼んだ。出会った頃のように、他人行儀に。それから戸塚はじゃあね、とだけ言って走り去っていった。
悲しそうな背中だった。
ドラマツルギーも戸塚もいなくなった今、テニスコートに俺だけがぽつりと残されている。
別に嫌じゃない。むしろ一人は好きだ。
それに、作戦は成功し、戸塚がこれ以上この件に関わることは無くなっただろう。事情なら全てが終わった後にでも言えばいい。俺が人間に戻った後にキスショットが強くなろうとどうだっていいのだから。
「…はぁ、ったくもう」
なのに、何だろうか、この気持ちは。
わからない———が、まぁ何はともあれ、この曇り空のように陰鬱としていた。
もうすぐ、朝になる———早く戻らないと。
俺は重い足取りで学習塾へ歩き出す。誰とすれ違ったのか、どこを通ったのか。その間の記憶は、ほとんど残っていなかった。
・戸塚彩加(とつかさいか)
総武高校2年F組に所属している『男子』生徒。テニス部の部員。座右の銘は、清沢哲夫の詩「道」の全文。
性別は男だが、小柄な上に腕も腰も脚も細く肌も抜けるように白く、可愛らしい顔にソプラノの声と外見も立ち居振る舞いも儚げな可愛い美少女にしか見えないためにクラスの一部の女子生徒からは「王子」と呼ばれて人気があるが、男子の友達は少ない。性格は素直で、優しく控えめであり、作中では最もまともな部類に入っている。本人は可愛いと言われることを好まず男らしい振る舞いに憧れているが、嗜好は乙女趣味で、結衣が驚嘆するほどに可愛らしいアイテムを選ぶセンスに優れている。また校内では基本的にジャージを着用している。
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)