やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
エピソードが十字架をぶん投げたがそれは俺とは見当違いの場所へと向かう。しかし俺には分かる。こういった種類の男が何を考えるのか、手玉に取るように分かる。だからこそ俺は彼が投げる前に走り出したのだ。それでも間に合うか五分五分といったところ。だから走る。
十字架の軌道上にいる、由比ヶ浜と雪ノ下のもとへ。
「比企谷くん。もっとよく考えなさい。相手は霧なのだから———」
「逃げろお前ら!!!!!!」
俺は駆け出す。だがそれと同時に理解した。これはもう確実に間に合わない。だが立ちすくんでなどいられるはずがなく、彼女らの元へひたすら走る。
走る。
走る。走る。走る。走る。
走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。
走る。
「間に……合え…!」
しかしそんな都合のいい奇跡は起こらず、無情にも十字架が雪ノ下に襲いかかる。そして。
ブシャァァァア——————
吸血鬼の嗅覚によって鉄の匂いが鼻をつんざき、同時に視界が赤で染まる。
俺の視界が真っ暗になる———絶望に染まる。
だが、一つだけ、予想外なことがあった。
「———え」
その赤色は雪ノ下のものではなかったということ。つまり消去法で、その血溜まりを作っているのは———
「…よか、った。ゆきのん、が…ッ!ぶ、無事で…」
———由比ヶ浜結衣ということになる。
彼女は、雪ノ下を庇って前へ出ており、それはつまりエピソードが投げた十字架が彼女の脇腹を抉っていることを指す。その衝撃で倒れ込んで、口から血を噴き出した。
「由、比ヶ浜———さん」雪ノ下が恐怖で震わせながらなんとか声を出した。由比ヶ浜の血を浴びた彼女は今にも腰が抜けそうで、もうこれ以上の言葉を発せないようだった。それに対して由比ヶ浜は。
「………へへ」
笑った。
「ゆき……のん。今まで、あり……がと…。ヒッキーを…よろしく、ね……」
その言葉を聞いた俺は、彼女までの距離およそ5メートルを走り切って、そして叫び散らす。
「うわああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
それは吸血鬼の、まるで自分ではないかのような、あまりにも野太い咆哮だった。
これが自分———化物。
遠くでエピソードが何か言っているがそんなのはもうどうでもいい。興味がない。俺が人間に戻れなくても、もうなんでもいい。由比ヶ浜が。由比ヶ浜が死んでしまう。
「ああああ…ッ!おい……なぁ由比ヶ浜…大丈夫、か…!」
俺ははみ出た彼女の腸を腹に入れようと試みた。ぐちゃぐちゃとねじ込む。汚いだなんて微塵も思わなかった。思えるわけがなかった。俺のせいで、由比ヶ浜まで。どうして俺はこいつを傷つけることしか出来ねぇんだ。折角全て解決して歩み出せたと思ったのに。どうして。どうしてなんだよ。
「はぁ、はぁ……はは…だ、大丈夫…な、はぁ、わけ……ないじゃん…ねぇ、ヒッキー」由比ヶ浜はそう言って、俺の手を掴む。その手はまだ、暖かかった。生きていた。
そして彼女は悲しそうに笑った。
「私…ね。ヒッキー、のことが——————好き」
彼女の美しい瞳から一筋の涙が流れ、それをきっかけにぐったりと倒れ込んだ。
「おい…おい?嘘だろ由比ヶ浜。起きろって……」俺は肩を揺する。だが返事はない。
「由比ヶ浜さん…そういった類の冗談は苦手なのだけれど」雪ノ下も拘束が外れ由比ヶ浜の側による。
俺も、彼女も理解している。それが冗談ではないということを。
「——————ッ!」
なんだろうな、これ。全然ウケねぇんだけど。
「…殺す」
昔の俺ならこんな感情は抱かなかったはずだ。せいぜい恐怖に駆られ逃げるくらいのことしかしなかった。
「殺す。殺す。殺す。」
だけど。だけど今の俺には。
「殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。」
俺は起き上がり、そして後ろの人物を睨んだ。
「ぶっ殺す」
確かに、怒りという感情が存在していた。
「はっ———そうこねぇとな」俺の剥き出しの殺意に怯みことなく、むしろやる気になるエピソード。その表情、服装、仕草、何から何まで鬱陶しかった。
殺す。
殺す、殺す、殺す。
俺の脳はその思考でいっぱいになっていた。
「おらぁっ———!!!!」
俺は先ほどよりも強く、床が凹むほどの力で踏み込んで走り出す。だがそれはエピソードに向かってではない。それでは勝てないということはもうすでに学習済みだ。同じ失敗を何度も繰り返すほどに俺は頭の悪い人間ではない。これは怒りで脳がフル回転した結果———というわけではない。雪ノ下の途中で切れてしまった助言によるものだ。
『相手は霧なのだから———』
これが何を指しているのか。この後に何が続くのか。それこそ文系の領域だった。それに俺は人間観察が得意で、なら相手の思考を読むことだってできる。だから俺は納得した。そしてそれを信じて走り出す。
「う…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
俺は壁をつたって地面と垂直に駆け出す。吸血鬼の力なのだろうか、落ちそうにすらならない。むしろ楽勝だった。俺の友人が、本物が消えていくことに比べたらこんなことはなんの苦でもない。俺はただひたすらに壁を登り———そして頂上へ辿り着く。
千葉の美しい夜景が目に入る。マンションや一軒家の光。本当なら俺もあの中にいるはずで———だが今は違う。
吸血鬼の眷属であり、それ以前に俺は今から、人間として最もしてはならない行為に出る。本当にすまん、雪ノ下。由比ヶ浜。戸塚。材木座も。それから———忍野も。
俺は地上でエピソードが立ち尽くしているのを目撃する。彼の表情は『何やってんだこいつ』とでも言いたげで、もはやウケてさえいないようだった。あぁ、それでいい。好きなだけ俺を馬鹿にしてりゃいい。最後に勝つのは俺だ。
次に雪ノ下と由比ヶ浜を見る。倒れ込む雪ノ下に胸が痛むが、それは後だ。まずはこいつを———。
屋上で俺がするのは前回のドラマツルギー戦でもしたことだった。…まぁ、あの時は不可抗力だったのだが。今回は自らの意思で行く。
「———ほっ」
俺は頭からまっすぐ、水泳選手がプールに飛び込むように落下した。流石はららぽーとである。学校よりも高度があり風が強いらしく、耳に中で風の音が響く。
ちなみに。
ここ、ららぽには大きな広場がある。遊具があったり、時にはコンサートが開かれたりと、幅広い年代の人で賑わう———だが今は誰もいないこの場所。
ここの地面は、砂だ。
ドンっ!と巨大な花火が開いたかのような音を響かせながら俺が地面へ着地する。そして———想像していた通りの結果になった。
砂埃。
俺は無表情で、いつものように言う。
「霧———っつーことは要するに水だろ。だったら砂に吸収される。だからお前はその状態で存在できない」
「は……?」
何処からか驚いたような声———それに続いて霧状態でいられなくなったエピソードが姿を現す。彼の姿が目に入った瞬間、俺は彼に飛びかかった。そのままエピソードに馬乗りになる。そして。
俺は怒りに任せて、親指に力を込めた。
次回、VSエピソード終了です。感想・評価などいただけると嬉しいです。具体的にどうなるかというと筆が進みます(当社比)。
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)