やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
第十八話、エピソード戦が終結です。タイトルからもう『次回、城之内死す!』と同じ匂いを感じますが…まぁ何はともあれご覧いただけたら嬉しいです。そんな戯言だよなぁって感じの第十八話、よろしくお願いします。
「カハ……ッ!」
エピソードはジタバタと暴れ出す。俺はそれを馬乗りになって押さえ込み、更に親指に力を加える。怒り、憎しみ———負の感情を全て込める。
「こッの野郎……!」
思い出す。
由比ヶ浜と初めて会った日のこと———まぁ同じクラスだから初めてではないのだろうが。少なくとも認知したのはあの日からだ。
『失礼しまーす…ってなんでヒッキーがここにいんの!?』
そう、彼女はあの時からもう既に俺をヒッキー呼ばわりして騒がしかった。だが彼女の声はもう聞こえることがなく、それが無性に寂しく感じた。友達ができると人間強度が下がる———中学の頃、俺と同じくぼっちだった男が発した台詞だ。そして友達と呼べる存在がいる今、改めてその意味を理解する。
「———ッ!」
ついに白目を剥き始めたエピソードに、俺は最後の力を加え始める。殺すために。復讐を果たすために。
さぁ、早く死んでくれ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
さぁ。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く。
早く死ん「そこまでだ」
「え———」
俺の肩に手が置かれる。思考するよりも先に反射で後ろを振り向くとそこにはアロハシャツのおっさん———忍野メメが突っ立っていた。
ポケットに手を突っ込み、火のついていない煙草を咥えながらいつも通りニヒルに微笑を浮かべて———いない。珍しく彼の表情は真面目なもので———どうして、そんな顔をしてるんだ?
というか、俺、半分吸血鬼の———人間を、殺そうと———
でも。
でも、由比ヶ浜が。
由比ヶ浜が———と、先程の映像がフラッシュバックして動悸が早くなる。
「はぁ…はぁ…はぁ…どうして、止めんだよッ!」
「それ以上やったら、人間じゃなくなる」忍野は諭すように、俺に理由を述べた。そしてすでに泡を吹いて失神しているエピソードの顔を指差して言う。「見ろよ。君の勝ちだ」
「なんで、止めなかった?」
その理由については何も言及せず、続け様に俺は責め立てるように尋ねた。それに対して忍野は「何をだい?」と何も知らないような口ぶりで質問に質問で返した。嘘つけよ。いつも見透かしてばっかのお前が知らないわけがねぇ。それにここにいるってことは今までの一部始終も見ていたということだ。
だったら。
だったらどうして。
「由比ヶ浜を、助けなかった?」
「料金外だからね。僕に団子頭ちゃんを助ける理由はないよ」
「ッ!でも!」
「それともあれかい?君がその分の料金を払ってくれたのかな」
「ったりめーだろ!」俺はここで初めて叫んだ。「100万でも200万でも払ったに決まってんだろッ!!!」
静かなららぽーとに、俺の怒りが響き渡り、余計に虚しさを増幅させた。もう取り返しがつかないのに何を怒っているんだ、という声がどこからか聞こえてくる。由比ヶ浜はもう死んでしまっている。取り返しなんてつくわけが———
「交渉成立」
「———は?」
俺の叫びから暫く黙っていた忍野が突然口を開いた。それも意味不明の単語だけ。顔を見上げると忍野の表情にはいつもの微笑が戻っていて———憎たらしかった。それに、こいつは一体何を言っている?
「…こんな時に何の冗談だよ」
「
「………あ?」俺は混乱してしまい、つい間抜けな声を出してしまう。
「200万。それと300万。足して500万だ。それで一つアドバイスをあげよう」忍野は手をパーの形にして言った。
あぁ、なるほど。商談、か…そういうことか。それは随分と分かりやすい話だ———だけど、もう由比ヶ浜は死んでるんだぞ。だったらどうしようもないだろ。俺みたいに吸血鬼な訳でもないし。
「
「え」
俺の、不死身性?俺の話は今関係ないだろ。しかもそれが何のためにって、そんなの、分かるわけね———
いや、待て。
「…そういうことかよ」
そう呟いてから俺は忍野に背を向けて走り出す。忍野に背を向けて、由比ヶ浜と雪ノ下のもとへと。恐らく、走ろうと走らまいと結果は変わらない。だが体が勝手に動き出していた。由比ヶ浜のことを思うと、自然と体が傾いた。そして暫くして、ようやく辿り着く。
「あ———比企谷くん」
そこには目を赤くした雪ノ下と、眠っているかのようにぐったりと倒れている由比ヶ浜。
「………八幡」
だけではなかった。それは俺の予想だのしていない出来事で、むしろここにいるのは最もあり得ない人物と言えた。何故なら俺は彼のことを傷つけて、彼は俺を見放したのだから。
「———戸塚」
そこには戸塚彩加が呆然とした様子で立ち尽くしていた。
「………。」
恐らく、何か言うべきなのだろう。だが俺は彼に何も言わず、由比ヶ浜のそばに座った。今本当にするべきことはこれなのだから。
『少しは頭を使えよ』
『その不死身性は、何のためにあるんだい?』
忍野のアドバイスを実行することが今の、由比ヶ浜を救う為の最適解。だから俺は、深く深呼吸をしてから
ぐしゃぐしゃと。
ぐちゅぐちゅと。
痛みに耐えながら脳を弄り回す。そして血を掻き出していく。
死にそうなくらい痛かった。よくよく考えたら脳じゃなくて良かった気がする…ならどうして忍野は『頭を使え』なんて———って、あれ。もしかして普通の意味?深読みしすぎたのか、俺…。まぁ、なんでもいいや。由比ヶ浜が助かるならいくらでも血を分けてやる。
雪ノ下の「ひっ」という短い悲鳴に続き、ぼたぼたと地面に血が落ちる音がする。そしてそれが、破れた由比ヶ浜の腹をより一層赤に染める。
吸血鬼は不死身だ。それは恐らく血が関係している。人間の血を吸われ、吸血鬼の血に入れ替わり、不死身になるということ。だとすればこの血は他者にも効果があるはずだ。
そして予想通り、みるみるうちに由比ヶ浜の腹は修復———切り傷一つない美しい肌になった。
「嘘…」雪ノ下が声を漏らす。俺も同感だった。正直ここまで上手くいくとは思っていなかったから。だから俺は安堵しきって、由比ヶ浜の腹に顔を埋めた。
「……由比ヶ浜」流石にキモいことをしているという自覚は大いにある。だが俺はこうせざるを得なかった。少しでも由比ヶ浜を、由比ヶ浜結衣の命を感じていたかったから。
「………ひゃっ!?…えぇっと、ヒッキー…?なんで私のお腹に顔を埋めているの、かな…しかも服も破れてるし…これ、ヒッキーがしたの?」
目が覚めた由比ヶ浜が引き気味で俺に尋ねる。いやいや、覚えてないのかよ、自分から突っ込んでいったじゃねぇか。服が裂けるのは当たり前だろ。俺が本当にやばいやつみたいになってるじゃねぇか。
ったくもう。こいつはほんと仕方がない。そしてそう言う部分が、全くもって嫌いじゃない。
「…悪ぃ、もう少しだけこのままで、いいか」
「あの、八幡!」
夢見心地な俺を大きな声が現実に引き戻した。あぁ、そういえば戸塚がいた———と、少し羞恥心を覚えながら返事をした。もちろん顔はお腹から離して。久しぶりに見た彼の顔は少し体調が悪そうだった。あぁ、今の光景を見たからか。そりゃ気分も悪くなる。雪ノ下だってちょっと吐きそうになっているのに。なんなら俺だって気持ち悪い。すぐに再生したとはいえ頭こじ開けたんだしな。
「…なんだよ。邪魔だっつったろ?」
「八幡はそういうこと言う人じゃないよね」キッパリとそう言い切った。「そんなことを言う人が、そんな嬉しそうな顔しないよ」
「…お前は何がしたいんだ」
「八幡と、また…友達になりたい」
「なら、もう一回パン…あいやごめんなんでもない」
俺の言葉に戸塚は顔を傾かせる。俺だって不思議だ。どうして今パンツを見せてもらおうとしたんだろうか。それにもう一回ってなんだ。一回もねぇよそんなの。いや、まじでないから。
「…あー、なんかそういう気分でもねぇな」俺は頭をぽりぽりと掻いて言う。「まず、その…この前は悪かった」
この前とは言わずもがなドラマツルギーとの戦いの後の話だ。
「うん、いいよ」戸塚は俺の謝罪に対して即答した。快く許したしなんなら一秒の間も無かった。怖いです、戸塚さん。
「その代わり、八幡が今どういう状況なのか、教えて欲しいな…」戸塚は上目遣いで言った。くそっまじでそれやめろって。それで断れる人類存在しないから。だが、本当のことを告げることはできない。なら、どうするべきか…。
「…信じてあげなよ」
後ろから由比ヶ浜の声。それを聞いて、迷っていた俺の心は定まった。
「聞いてほしい」俺は戸塚の肩を掴んで言う。
「うん…」
「俺は今、割とヤバい状況の中にいる」
「まぁ、それは分かるよ…」戸塚は苦笑いした。
「だけど助けてもらう必要はねぇんだ。むしろ、人に知られることで余計に大変なことになるっつーか…まぁ、だから言えない。全て片付いたら言う。それで今は納得してくれねぇか」
戸塚は俺の言葉を聞いて、驚いたような顔をし、そして微笑を浮かべた。
「…うん!」
「それと、まぁ代わりといっちゃなんだが、一つお願いしてもいいか」
「当たり前だよ。何?」
「えっと、あぁその…あれだよ。あの…学校で待っててくれ、っつーか…」
今までカッコつけてたのに最後に最後でキョドッてしまった。恥ずかしすぎる。だが戸塚はそんなこと気にも止めず嬉しそうに「分かった」と笑った。反則だろ、その笑顔は。
俺は腕時計を見る。少しひび割れていたが時間が分からないほどではない。時刻は午前4時。学習塾への移動時間も考慮すると日の出までギリギリになりそうだったのでそろそろ動くこととしよう。ちなみに我らがららぽーとに迷惑はかけたくないと言う理由もある。あ、せっかくだからどっかの自販機でマッ缶買いたいな…。
俺は自販機を探して後ろを振り向く。すると自販機ではないものが先に目に入った。
雪ノ下と由比ヶ浜が抱き合ってイチャイチャしていた。というか由比ヶ浜が一方的に抱きついているだけか…だが雪ノ下も口では「やめなさい」と言いながら嬉しそうな表情を浮かべていた。ったく、どいつもこいつも今日は表情筋が緩いな。
「…マッ缶は今度でいいか」
俺はその光景を見て、買う前に満足してしまいポケットから取り出そうとした財布を奥へ押し戻した。…いや、別に海老名さんよろしく百合に興奮したわけじゃねぇぞ。ん、あいつの場合はBLだけなのかな…まぁどうでもいい。
さて、これで吸血鬼ハンター二人を退治し、残るは一人———純粋な人間、ギロチンカッターのみだ。
正直ここまで来ればもう余裕なはずだ。相手はただの人間なのだから、こればかりは策略では埋められない力差だろう。
「帰るぞ」
「えぇ、わかったわ」
「りょうかーい!」
「じゃあ行こっか、八幡」
それぞれ、帰る先は違うのに同じ場所へ行くかのような返事をした。きっとその向かう場所というのは物理的なものではなく、精神的なものだったのではないかと思う。やれやれ、つくづく俺にはこんな青春群像劇は似合わない。捻くれてて、目が腐っていて、
由比ヶ浜結衣の、俺への気持ちに真正面から答えるタイミングが。
♦︎♦︎♦︎
「悪い、比企谷くん」
「しくじった」
「ツンデレちゃんが、攫われた」
♦︎♦︎♦︎
Q. なんでゆきのんとガハマさんはららぽに入れたの?
A. 忍野『そりゃあまぁ、結界なんて貼ってなかったからね』
戸塚、せっかく仲直りしたけどほとんど出ません!!!!ギロチンカッター編に続きます。感想・評価などいただけるとうれしいです!!!
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)