やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
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何もない草原。
女の子を抱えた男と目の腐った吸血鬼がただただそこに立っていた。
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「雪ノ下ッ!」
忍野が聞き出せた唯一の情報を元に俺は学習塾跡から駆け出し、たどり着いたのは時刻9時を過ぎていた。
「おや、走ってこられたのですか。お疲れ様です。それにしても身体を霧に変えることもできないとは、その辺りはまだなりたてといった様子ですね」
ギロチンカッターは馬鹿丁寧にそう言った。だが、彼は俺の最後の敵であり———彼の腕の中には、雪ノ下雪乃が収まっている。そのちぐはぐさが余計に狂気を増長させていた。そして雪ノ下陽乃を彷彿とさせるその笑みに俺は目を細めた。
「ひ…比企谷、くん…逃げ、なさ」
「話さないでください。私も無駄な殺しはしたくありません」
そう言ってギロチンカッターは、雪ノ下の喉を親指で押しながら持ち上げた。
「がっ…!」
雪ノ下が苦しそうに手足をバタつかせる。
「———ッ!おい雪ノ下!」
気が狂いそうだった。本来ならすぐにでも飛びかかっている所だったが、忍野の戒め、そして無理な特攻を行えば雪ノ下の命が危ないという事実がなんとか俺を人間たらしめていた。こうやって平和的な解決を望んでいるかのような話口調をしているがやっていることはただの誘拐———そして俺が少しでも彼を刺激したとなれば、雪ノ下は。
なら。
なら、どうする。俺。
俺に何ができる?
「…どうすりゃ解放してくれんだよ」
「いえ、元より返すつもりでしたよ。ただ、少しばかり実験台になってもらいたいだけでして」
ギロチンカッターは外套のポケットから先の尖った何かを取り出した。
よくよく見ると、それは———注射器。
その中には赤い液体が入っていた。
嫌な予感がした。
「な———なん、だよそれ」
「吸血鬼は血を媒介にして眷属を増やしていくのです。つまり———」
やめろ。
そう言いながら彼は。
やめろ。
雪ノ下の腕へ。
やめろ。
腕へ。
やめろ。
針を。
「———やめろ」
ギロチンカッターまでの距離———100mほどを全力で走り出した。由比ヶ浜のときは、間に合わなかった。だが今の俺には、俺だからこそできる技がある。
以前俺がドラマツルギーのように両腕を刀にできなかったのは理屈がわからなかったからだ。非現実なようでまごうことなき現実。それ故にいまいち想像し、創造することができなかった。
だからなのだろうか。
俺は2人が持ってきてくれた漫画を読みながら何度か試し成功したことからそんな仮説を立てた。
だから理屈なんて必要なしに物事を考えられる、と俺はそう解釈したのだが実際どうなのかは知らない。ただ知らなくても走れないことはない。クラウチングスタートを構えて。
そして。
「
俺は光の速さで、ギロチンカッターに追いつき、そしてその勢いで彼の腕を引きちぎったのだった。
それだけではない。
「———あ」
俺の両腕の中には、小さく縮こまった雪ノ下がいた。回収できるかどうか、五分五分だと思っていたため喜びで涙が出そうだった。
本気で良かったと思う。
こんなこと、俺らしくはないが———こいつが生きていてくれて良かった。
「ひ、きがや、くん」
いつもの気高い様子はどこかに消え去ったかのように声を震わせて俺の名前を呼ぶ。それを見て、俺はそんな余裕のある状況ではないと知りつつもドキリとしてしまった。
更に、脳内で、由比ヶ浜の言葉が反駁される。
もしかしたらそれは普通にあり得る話なのかもしれなかった。
「…雪ノ下。逃げろ。無理ならどっか隠れてろ」
そう伝えつつ俺は雪ノ下をそっと地面に下ろす。しかしその瞬間、彼女の体の震えはより一層増した。
「———ごめん、なさい。あ、足が」
申し訳なさそうにうつむいた雪ノ下。どうやらこの場の恐怖に完全にやられてしまっているようだった。当たり前か。俺だって誘拐されたらそうなると思う。むしろ漏らしそう。
まぁ雪ノ下が弱気な発言をしていること自体、そこまで問題点ではない。ソースは俺。奉仕部として一学期間彼女と過ごした時間は伊達じゃねぇ。ヘタレな自分を押し込めて無理矢理、俺はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「へぇ、お前ともあろう奴が———そんなこともできないのか?」
その言葉を聞いた途端、雪ノ下の震える足はぴたりと止まり、いつもの表情になった———とまでは流石にいかないが、多少の余裕が戻ってきたのが窺える。
「…それは挑発と受け取っていいのかしら?」
「あぁ、そういうことになるな。お前は逃げることもできない雑魚というわけだ」
「…帰ったら切り取るわ」
「いやちょっと待って。何をですか雪ノ下さん」
本気でビビっていたら雪ノ下が「冗談よ」と俺にカチコチながらも微笑みかけた。ギロチンカッターより性格悪いだろこの人。将来が不安だよ。
「ありがとう」
そんな言葉を残してギロチンカッターとは反対方向へ走っていった。その瞬間、ギロチンカッターはパチパチと手を鳴らした。
「ふざけんなよ、誘拐犯の分際で」
「いえいえ、私は素直に感動しているのですよ。青春とは素晴らしいものだ。だけど」
だけど、と言ったところで違和感に気がついた。
———その瞬間、ギロチンカッターはパチパチと手を鳴らした。
あれ。
こいつ。
「…どういうことだよ、もう…」
「さて、当初の計画とはずれましたがこれでお互いフェアということで」
死合いましょうか。
俺は空になった注射器がギロチンカッターの側に落ちているのを見て愕然としながら、戦いの開始のゴングを聞いた。
どうやらまだ、彼の狂気を舐めていたらしい。
次回、後編です!こっからはギロチンカッターが吸血鬼になったら馬鹿強いんじゃねぇかという作者の妄想です。もう暫くお付き合いください。あと感想・評価もよければください!!更新頻度が多少上がります!
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)