やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
「ゆ———雪ノ下おま」
「話は後」
雪ノ下雪乃は吸血鬼になった。それは確実であろう。彼女のその反応が1番の証拠だ。
「どういう…ことだ?」
何故雪ノ下は吸血鬼になった———?ギロチンカッターや、当然だが俺が血を吸うなんてことはなかったしあのピンチにそんな余裕は無かった。ならこの現象は一体なんなんだ。どうして。
その疑問は先程ギロチンカッターに対して感じたものとほぼ一致していた。
今目の前で起きている光景は現実離れしたもので———その体質に慣れていないからなのか表情は苦しそうなものの、吸血鬼体質を完全に使いこなしギロチンカッターの攻撃をいなしていた。
「才能…?」
そんな陳腐な言葉で片付けてられるようなことではないと思うが、それでも俺は彼女には才能があると言わざるを得なかった。
本当にこいつは何でもできる。勉学も、スポーツも。だから人に頼らなくても全てなんとかなり、それ故に自身の限界にも気が付かず走り回り———その繰り返しだったのだろう。そして俺は再び彼女に無理をさせようとしていた。由比ヶ浜と、約束したはずだったのに。
『ゆきのんが困ってたら、助けてあげて』
俺はこいつに出会ってからずっと、助けられてばかりだった。そして今も。
なら、俺にできることは御託を並べることじゃねぇ———そうだろ。
「———伸びろッ!」
爪先をギロチンカッターに向け、念じた。そしてその通りに勢いよく爪が長くなる。便利な能力だ。目の前の男女も同じくらい素直だったらいいのに———なんて思っている間に、ダン———ッと地面に突き刺さり、砂埃が舞う。
「ふむ、若さ故なのですかね。素晴らしい成長速度です」
「———ッ!?」
そして、気がつけばギロチンカッターは俺の目の前にいた。
どうやら彼には当たらずすんでのところで5つ全てかわされていたらしい。俺は即座に後ろへ飛んだが間に合わず、いつぞやのように綺麗に腕が切断されていた。
「いぃっ……!ぐあぁ……いっつ…」そう言ったところでふと気がついた。「———ふぅ…なんか、慣れてきたな…」
この痛みに慣れるなんて、そろそろ本格的に人間やめてきたなぁと少し怖くなるがそんな感情も流れる血を見ていて朦朧となり始めた。こんなヘタレなところだけ人間なのだから面倒である。
「1人ずつ消していきます。まずは貴方からです。眷属よ」
ギロチンカッターはそう言って、八重歯を剥き出しにしながら笑った。
俺は、それを見て。
「はっ、馬鹿じゃねぇのお前」
笑った。当然、気が狂った訳ではない。ただ、彼の余裕さに根拠がなさすぎてついおかしくなっただけだ。
「1人が2人になったから1人ずつ潰していこう———その考えはいい。てか俺でもそうする。だけどお前はその二分の一をミスったな」
運も実力のうちだぜ、とウインクをしてカッコつけてみせる。
同時にそれは
「さようなら」
「え」
ザクっ。
そう音がしそうなほど乱暴に、注射針を突き刺した。
「ガッ——————」
そのラベルには『強』の文字が貼られていた。
———物体生成能力、か。
どこまで天才なんだよお前は———。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!゛!゛!゛!゛」
♦︎♦︎♦︎
「はぁ…はぁ…」
「はぁ…比企谷、くん…」
ふらり。
「っ!雪ノ下!」
緊張が切れたせいか突然ぶっ倒れそうになる雪ノ下を俺は熊の手で何とか受け止めた。
前につき出したその異形を見て、改めてそのつなぎ目の自然さを実感し、思う。
あぁ。
これはたしかにもう人間ではないな、と。
「はぁ…はぁ…」
あれ?と俺は疑問を抱く。こいつ、ここまで息切れするほど動いたか?いつかのテニスの時に持久力がないことは把握したものの、いくらなんでも疲れすぎでは…てか、なんかエロいな…。
「はぁ、はぁ、はぁ———比企谷くん。体が、熱くて」
「だ、大丈夫かよ」
続けて何度も咳をし始めた。本気でキツそうなその表情を見て、俺の心は不安一色になる。エロいなんて思ってねぇよ本当だ。
「大丈夫———多分、免疫が働いているだけだから」
「…悪い、全然わからん」生憎俺は生物の授業を聞き飛ばしているから常識の範囲内での『免疫』の意味は分かるもののいまいちよく分かっていないのだ。
「自然免疫——— ウイルスや細菌などの敵が体内に入ってくると真っ先に殲滅しに向かう免疫反応のことよ。は…ッ!」
突然胸を押さえて苦しそうにし始めた雪ノ下に、俺は「もういい、一回黙れ」と言った。だがそれが逆に、彼女の負けず嫌いの引き金となってしまったらしく、そのまま続けた。
「私、は、さっき比企谷くんが…上に、飛ばされたとき、注射器を、打って、それで、はぁ…」
「は?いやそれ———」
さっき俺が飛ばされている時に打った。それは理解した。それを使ったから雪ノ下は吸血鬼になることができたという至極簡単な理論。だが同時に、別の疑問が浮かんでくる。
どうしてお前が注射器を持っているんだ?
「あら、知らなかったのかしら」雪ノ下は無理に笑みを浮かべて言った。「私、かなり器用なのよ」
つまり。
つまり、それは———
「…お前、俺が来る前にあのサイコパス野郎のポケットから盗んだっていうのかよ…」
「正解」
なんだよそれ…。
馬鹿じゃねぇの———俺はニヤリと笑った。
雪ノ下も笑ってくれた。
「ただ、それだけではないわ」
「あ?どういうことだ」
「考えて、みなさいよ…『強』なんてラベルが貼られてある得体の知れない注射針を誰が選んで使うかしら?」雪ノ下は自慢げに言った。「だから」
その言葉を飲み込むのに10秒かかった。
そしてようやく理解したとき、俺はその馬鹿さ加減———いや、天才加減に呆れ果て、深いため息をついた。
「だから———ラベルを貼り替えたってのかよ」
雪ノ下が飲んだ注射器の中身は『弱』だ。そしてギロチンカッターの話が正しければ効果は一時的なものである。
免疫。
まさに風邪のようなものなのだろう。
「正解。これは感覚だけれど———もうすぐ治りそうだわ」
…ったくもう。
何なんだ、この人は。
誘拐されてながら冷静に物事を考え、仕掛けをしておいて———
そんなの。
「手先が器用なんてレベルじゃねぇぞ…」
天才としか言いようがねぇだろ。
まぁとにかく。ギロチンカッターは二本目の血液に体が耐えられなくなり倒れた。もしかしたら死んでいるかもしれない。いや、仮にも吸血鬼だからいつかは復活するはずだ。そう信じて、あとは忍野に任せよう。
「にしても良かったよ。由比ヶ浜との約束守れて。最悪あいつに殺されるところだったわ」
「え?約束って」
「じゃ、帰るか」
「…?…えぇ、そうね———え?」
雪ノ下は、俺の思わせぶりな言葉、その後の行為に対して二重に目を丸くした。
「……いや、歩くのキツイかなって思っただけだ。他意はない」
「いえ、別にそこは疑っていないのだけれど…まさか貴方に
「えぇ…いやそれは酷くない?」
「冗談よ」ツンデレちゃんはそう言って笑った。
そして———
俺の手を掴んだ。
ガシリ、と力強く。
起き上がる。
俺は気恥ずかしさから手を離そうとし、だが。
彼女の手はしばらく離れなかった。
というか、離そうとしてくれなかった。
尋ねる。
顔が真っ赤になっている雪ノ下に。
俺は、尋ねる。
もしかしたら、吸血鬼になったせいで体調が悪いのかと思ったのだ。
だけど雪ノ下は。
いいえ、と否定する。
じゃあなんだよ、と再度聞く。
なんでもないわ、と顔を俯ける。
んな訳ねぇだろ、と言う。
返事は聞こえない。
と思ったら、雪ノ下は。
今から言うことは聞かなかったことにしてくれるかしら。
そう返事をした。
意味は分からなかったが俺は納得した。
分かった、と言った。
そして。
その言葉を聞いて、暫くしてから。
雪ノ下は言った。
雪ノ下は意を決したように———
これにてギロチンカッター戦終了です。雪ノ下ルートか、由比ヶ浜ルートか、はたまた戸塚か…平塚先生…材木…はねぇな。まぁお楽しみにして頂けると嬉しいです。感想・評価などお願いします!
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)