やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
第二十三話 いつでも、忍野メメは全てを見透かしている。
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ところで。
皆さんは吊り橋効果というものをご存知だろうか。
———なんていう質問も愚問と化してしまうほどの知名度だろうが一応の説明をしておくと、恐怖や不安を一緒に体験した人に恋愛感情を持ちやすくなる心理効果であり、実際にカナダの心理学者によって立証もされている科学的にも正しい理論なのだ。
だが。
俺から言わせてもらえばそんな理論は無意味で、無価値だ。
だってよく考えてみろ。例えば、名前の通り今にも落ちてしまいそうなオンボロの橋を男女で渡っているとき突然。
『———うわあああ好きだああああ!』
『———え?え?え?ちょ、やめて離して!いやっ…あっ橋が———きゃあああああ!!!』
こうなる。危機的状況で勘違いしたとしても想いを伝えることなんて出来ないのだ。だから無意味で無価値。
———と、思っていたのだ。
さて、ここで一つ。
俺がギロチンカッターとの戦いの後、雪ノ下雪乃から言われた台詞をご覧いただこう。こちらだ。
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私、あなたが好きよ。
比企谷くん。
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「…………。」
さて、ギロチンカッターとの戦いも終えてようやくひと段落ついたところでまずは現状報告をしよう。
今、俺は学習塾跡で完全に思考放棄していた。それは何故か———2人の女子に同日に告られたからである。
馬鹿じゃねぇの。なんのギャルゲーだそりゃ。いや、ギャルゲーでも基本告られるのは1人だけだろ…なんで急にモテ期来たの…馬鹿なの?死ぬの?
「まじでどうすりゃいいんだ…」机を8つ並べて作った簡易ベッドの上で俺は呟く。「なぁ、どう思う、キスショット」
「そうじゃのう…人間の色恋沙汰なんて普段はどうでもいいのじゃが———」キスショットはあははと豪快に笑って言った。「儂は今、気分が良いから答えてやろう」
そう、告白が個人的に衝撃的すぎて伝えるのを忘れていたのだが、キスショットはようやく完全体に戻ったのだ。よくあのギロチンカッターが返してくれたな、と思ったが忍野曰く。
『僕がなんとか説得したら渋々って感じで返してくれたよ。なんならその前の心臓マッサージのほうがキツかった。ほら、僕ってひ弱だからさぁ』
知らねぇよ、と言いたくなるがまぁそりゃあホームレスに筋肉なんてもんがついてる訳がないなと思い返して突っ込むのはやめた。俺にすらついてねぇんだもん。
まぁ何にせよ、これで全て解決。晴れて人間に戻ることができるのだろうけど…。
「人間に戻ってからのほうが面倒じゃねぇか、これ…」
この数日間を俺は地獄と形容したのだが、どうやら本当の地獄はここからのようだった。どっちを選んだとしても奉仕部内が気まずくなっちゃうだろ…嫌いなんだよそういう雰囲気…。
「で、俺はどうすりゃいい」
「そりゃあ当然ハーレムに決まっておろう」
「お前なんでそういう言葉知ってんの?」
どこからその知識流れてきたんだよ。
まじで怖いよお前。
「まぁ実際の話、儂に人間の色恋沙汰は分からんからの…」
「はっ、あんな上から目線で『答えてやろう』とか言ってたのにその体たらくかよ」
「…うぬ、随分と…まぁいいわ。なんかもうそうでもいい…あはは」
彼女は完全体に戻ることができた喜びでいっぱいいっぱいな様だった。少しはこちらの気持ちも考えて同じ空間にいてほしいものだ。
「てかお前、あれじゃないの?忍野のこと怒ってねぇのか」言い終わってから、子供っぽい表現だったと少し恥ずかしくなる。
「べっつにー。てかもうほんっと…どうでもいい!!!」
再びキスショットは高笑いし、転げ回った。良かった、もっと子供っぽい人がいた。
ちなみに忍野メメはもう既にこの場にいない。
何故か———少し前に遡る。
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「なぁ」
これは俺がギロチンカッターとの戦いを終え、忍野も最後の体の部位———両腕を回収し終えてすぐのことだった。
俺と忍野は学習塾跡の踊り場で話をしていた。
「なんだい、比企谷くん」
「…ずっと気になってたことなんだが」そういえばこいつ、俺にだけあだ名呼びしないな、なんて関係ないことに気がついたものの言及するのも面倒だったので続ける。「ずっと考えてたんだよ。
ふぅん、と面白そうな返事が聞こえる。
「ドラマツルギーも、エピソードも、ギロチンカッターも———まぁ後で考えればの話になるけど———弱すぎると思うんだけど」
そう、俺の場合、いくら攻撃を受け、体がもぎ取られたとしてもすぐに回復した。吸血鬼の回復能力である。そりゃあ、怪異殺し———伝説の吸血鬼の眷属なのだから並の吸血鬼より強いのだろう。それは分かる。分かるからこそ、ある疑問が生まれる。
「どうして最初———キスショットは身体を奪われた?」
ということ。
なぁ、忍野。
「これはどっちなんだ?どういうことなんだ?」
俺が強いのか、相手が弱いのか。
この違和感はなんだ?
「どっちもだよ」忍野は言った。
「比企谷くんにとって彼らは弱かったし、彼らにとって比企谷くんは強すぎた」
「…いや、それだけの話なわけ」
「それだけの話なのさ」忍野は煙草ケースから新たなタバコを取り出して、火もつけずに加えた。
「比企谷くんはさっき、どうしてハートアンダーブレードが3人に身体を奪われたのか、って聞いたね。確かにその疑問はごもっともだ。はっはー、よく気がついたね」
流石比企谷くんだ、と忍野は手を鳴らした。こんなに空虚な拍手が今までにあっただろうか。…いつもの俺の拍手か。
「あぁ、たしかに普段のハートアンダーブレードなら3人の吸血鬼ハンターを撒くどころか殺すことだって楽勝だろう。だがもしも———そのとき、力を完全に発揮できない状況に置かれていたとしたら?」
———それにあの時は少し体調も悪かったからのぅ
いつだったか、キスショットの口から聞いた言葉を思い出す。
ゴクリと唾液が喉を通る。嫌な予感がしたからだった。そして吸血鬼になってから、その嫌な予感はまだ一度も外れた試しがない。
忍野は。
アロハシャツのポケットから、何かを取り出す。
「ひっ…!?」
どく、どく、どく、と鼓動を響かせている、真っ赤な心臓だった。混乱で頭が回らないが———えぇっと要するにだな。
「忍野が心臓を抜いた…」
「そ。言ったろ?僕はバランサーなんだよ。危険粒子が紛れ込んでいたから弱体化させて平穏を守ったのさ」
それがまぁ、こんなことになるなんてねぇ…と笑った。嘘だと思った。見透かしたようなこの男が、3人の吸血鬼ハンターも同じ場所にいたことに気が付いていないはずがない。
全てを知っているかのようにニヒルに笑うこの男は一体、どこまで知っているのだろうか。
「ほらよ」忍野は心臓をパスしてきた。
え…心臓を?
「うわっちょ待っ…あひっ……」我ながら気色悪い声を出しながら、何度か手のひらの上でバウンドさせてからキャッチした。あぶねぇ、落としたらどうなっていたんだろうか。
間近でその心臓を見る。
赤く光り輝くその物体からは強い生命力が感じられ、美しいとさえ思ってしまった。
———と、心臓を眺めていると徐に立ち上がった忍野は階段へ向かう。
「おい、どこ行くんだよ忍野」
「どこって———出てくんだよ。もう用事は済んだからね」
「いや…つーか」
「あぁそうそう、君の借金、チャラでいいから。僕は気前がいいんだ。はっはー、別に裏なんて無いさ。そんな顔するなよ。比企谷くんは元気がいいなぁ。何かいいことでもあったのかい?」
そう言って、雨の中忍野メメは去っていった。
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「…忍野メメ、ねぇ…」
俺はあいつに感謝を伝え切れていない。伝え切れないほどの感謝を、まだ伝えていない。
いつかまた会えるといいなぁ、なんてらしくもないことを考えるの3割、雪ノ下と由比ヶ浜からの告白どうしよう7割の感情を胸に、俺は眠りにつくのだった。
比企谷「…ハーレム、ねぇ…」
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阿良々木との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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