やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。   作:角刈りツインテール

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吸血鬼編最終話です。


第二十五話 春は、降り積もる雪の下にて結われ、 芽吹き始めるはずだった。(後篇)

「…………見つけた」

 

俺が千葉を走り回りようやく見つけた彼女は日本最大級のコンベンション・センター———即ち幕張メッセにいた。どうしてこの場所なのだろうかと不思議に思ったがその理由はすぐに分かった。

隠密性に長けているからだ。コンサートや試合が行われているときには異常なほどの熱気に包まれるこの場所も、イベントがなければ入る人なんていない。

目を凝らすと、彼女の周囲、そして口元がやけに生々しい赤色に染まっていることに気がつく。その足元には、すでに生き絶えた人間の積み上げられている。

少なくとも、20人は倒れていた。

 

「遅かったのぅ、待ちくたびれてもう何人も食ったわい」

ぺろり、と口周りについた血を舌で拭くキスショット。その姿は不気味でありながらどこか艶かしく、美しかった。

彼女は俺を怒らせたい。そして自分を殺してほしい。ならどうするべきか?簡単だ。相手の大事なものを奪ってしまえばいいのだ。

 

例えば、玩具。

 

例えば、恋人。

 

例えば、金。

 

例えば———命。

 

生物を容易く殺めるような人間に、人は怒りを覚える。そして、それは。

 

俺にしても同じ話だった。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「分かっておったよ」

俺が見知らぬ被害者を助けていると背後からキスショットの声がした。

「うぬが儂に優しいのは、儂が弱っている間だけじゃとな」

「…………。」

「うぬは儂だから助けたのではない。弱っていたら誰でも助けたのじゃ」

それは偽善ではあるまいか?と。

キスショットは試すように尋ねた。

俺を悪者にさせないために。

「ちっ」

偽善はどっちだよ、と下唇を噛む。

さて、どうするべきか。———なんて答えは分かりきっている。誰かのために、なんて柄じゃねぇが恩はある。だったら、今ここでそれを返すべきだろ。

「はっ」俺はいつものように、嘲るような笑みを浮かべた。

「そうだよ。それの何が悪い?『やらない善よりやる偽善』っつー名言を知らんのか」

折角だ。思う存分くだらない茶番に乗っかってやろう。

 

 

 

「かかっ。…そうじゃの」

キスショットは目を見開いたのち、呆れたように笑った。まさかここで反論されるとは思わなかったのだろう。いや、もしかすると『お前らしいな』といった意味の笑みだったのかもしれない。まぁその真意は彼女にしか分からないことだ。俺には察することしかできまい。

 

偽善。

 

それは正真正銘の偽物で、本物なんかとは程遠い存在である。だけど、そんな嘘が誰かを助けることだってある。ソースは俺だ。そういう生き方をして、何度も嘘に助けられてきた。だから俺がするべきことはただひとつだ。

正しくないのかもしれない。

救われない人が出るかもしれない。

だけど、そんな嘘を塗りたくった正義と悪の戦いはきっと何かを前進させる。そんな予感がしていた。

 

 

「死んでくれ———我が主人」

「死ぬが良い———我が従僕」

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ…」

はや1時間だろうか。俺とキスショットは戦い続けた。体がもげては蘇生し、千切れては回復し、を繰り返した血みどろの試合で、お世辞にも美しいとはいえない泥試合だった。会場だってボロボロで、もう言い訳のしようもなさそうである。

そして今。

俺は彼女の首から血を吸った。キスショットからは若々しさと言うものが消え去っており、老婆のようになっていた。

「…たわけ」

キスショットは、俺に最初に放った言葉を再度言った。状況こそ違うが思いは変わっていない。

やめろよ。

「はよぅトドメを刺さんか」

やめろってば。

「じゃなければまた再生してうぬを殺すぞ」

そんなこと言ったら———

「…殺したくなくなっちゃうだろうが」

「ヒッキー!!」

その時だった。俺にとって聴き慣れている()()()の声がした。

「…ナイスタイミング」

 

由比ヶ浜と、雪ノ下と、そして———

 

「はっはー」

 

忍野メメが到着した。彼はいつものようにニヒルな笑みを浮かべて俺を見つめる。満身創痍の俺に労いの言葉をかけてやろうなんて意思は毛頭なさそうだった。まぁ、かけられても返す言葉に困っちゃうんだけどな…。

 

♦︎♦︎♦︎

 

数時間前のこと。

「なぁ、由比ヶ浜」

『もしもし?ヒッキーどったの?』

「ちょっと不味いことになった。んで頼みがあるんだが…」

『いいよ、何?』

「いや、お前の命も危ねぇから…キスショットに殺されるかもしれねぇから無理にとは言わん。お前の匂いとか覚えてるだろあいつ」

『ふっふん、乙女を舐めないでほしいかな〜、ママのキッツい香水があるから大丈夫大丈夫』

「いやお前の母だろ舐めるべきでないのは。何でお前の手柄みたいになってんの」

『む…いいじゃん細かいとこは?ゆきのんにもお願いしとくからね!じゃまたあとで!』

「おう、助かる」

『あ、あとさ』

「ん、なんだ」

『…好きだよ』

 

♦︎♦︎♦︎

 

…あぁくそ、思い出さなくていいとこまで思い出してしまった。体温が上昇していく感覚がする…やめろ雪ノ下、不思議そうな顔で見るな。由比ヶ浜と俺の顔を交互に見るな。どんだけ推察能力高いんだよ。

ふぅ、と数十秒息を整えて、声を出す。

「———忍野」

「なぁにやってんのこんなに壊しちゃって。次にここでコンサートを開く人の気持ちを考えたことがあるのかい?全く、君たちは元気がいいなぁ。なにかいいことでもあったのかい?」

「商談だ」

俺は力強く要件を述べた。忍野は分かりきっている癖に「なんだい」と尋ねる。そんな彼の態度も、もはや気にならなくなっていた。

それと同じで、時間の流れというものは全てを解決してくれる。だけどそれが自身のためになるとは限らない。

だから俺は、尋ねる。

 

「皆が幸せになる方法はねぇのかよ」

「ある訳ないじゃん」

 

馬鹿じゃないの———らしくない冷淡な口調でそう返した。場が静まり返る。ある訳がない。そう、それが事実だ。

 

だけど。

それが本物とは思えないのだ。

 

キスショットを殺して、俺が人間に戻ってハッピーエンド。後述したようにそれは正しいことではない。

 

少なくとも俺の中では。

 

先程、俺はキスショットを殺す決意を固めた。

だがこの2週間、俺と彼女は文字通り一蓮托生だった。共に過ごし、喜びを共有し語り合った。それを殺す?

ふざけんな。

んなもんハッピーエンドどころかバッドエンドだ。

だけど、そんな都合のいい事実はない。

キスショットを生かしたまま俺を人間に戻すなんて———

 

 

「………ちょっと待て」

「お、気づいたかな?」

待ってました、という風に忍野が言う。だから買い被りすぎだっての。お前は俺をどんな天才だと思ってるんだ?

 

しかし、これならいけるのでは、と期待を抱かずにはいられない。まぁ何にせよ善は急げ、だ。キスショットが完全体になって暴れ出す可能性も考慮して急ぎ足で進めよう。「はっ」と、俺はいつものように皮肉めいた微笑を浮かべて名案を伝えた。

 

 

「…ひとつ、いいか」

 

「ま、て。うぬ何を言うつもりだ」

 

「これは皆が不幸を分け合う案なんだが—————」

 

 

 

 

 

 




次回、現代(卒業間際)まで戻り、久しぶりのいろはす登場です!

完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?

  • 阿良々木との会話
  • 羽川との会話
  • 怪異にあった俺ガイルメンバーの話
  • 日常編
  • その他(感想にてお願いします)
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