やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
というわけで後編。
一色からサプライズチョコを貰ったあと、俺は意気揚々と教室へ向かったのだが(サプライズチョコってなんだ)、机の中にチョコレートは入っていなかった。
「…………。」
チョコは欲しい。しかしそれを全面に押し出してしまえば女子はキモがるのみでむしろ逆効果だ。
ソースは俺。
チョコソースである。
…いや、意味が分からない。
故に俺はいつも通り音楽を聴いて本を開く。タイトルは『俺の妹が(以下略)』。誰かに見られてしまえば学校生活は終了を迎えるのでしっかり書籍にカバーも付けている。仕方ないだろ、面白いんだから。
それは一旦置いておいて。
まさか、一色以外に誰もくれないなんてことはないだろうが…なんて考えてしまってから、前の俺からは想像つかないことを言っているなと気がつく。
ぼっちを極めた男だったはずなのに。
今の俺は誰かといることが当たり前になってしまっていた。
「…はっ」
俺はつい自嘲混じりの笑みを浮かべてしまう。おっといけないいけない。いつぞやのように由比ヶ浜に『あれまじキモいからね』と言われてしまう。あの時はほぼ他人だったからいいものの、今それを言われたらショックで寝込む自信がある…。
♦︎♦︎♦︎
数分後。
ページ数は昨日の続きの124ページから一向に変わっていない。
誰がつけたのだろうか、エアコンの風によって微かにチョコレートの匂いが流れてくる。恐らく女子の誰かが持ってきたのだろう。メンバーからして三浦さんだろうか。海老名さんは有り得ないだろうし…。
しばらく経って由比ヶ浜が登校してきたものの、結局顔を合わせることもなく朝礼の時間が迫った。
「八幡」
あと5分、となったところで真横から名前を呼ぶ声がした。
誰かなんて言う必要もなかろう。俺をそう呼ぶのは世界でかの———彼1人である。
「うっす、戸塚」
戸塚は腕を後ろに組んでこちらに近づいてきた。てか肌綺麗な上に真っ白だなこいつ。文字通り女子も顔負けじゃねぇか。いずれこの学校の女子が全員ストッキング履くようになるぞ。ってそりゃどこの美少年探偵団だよ。どこの美脚だよ。
「あの…実はこれ作ってきたんだけど」
そう言って俺の眼前に突き出されたものは紛れもなく先程から俺が欲していた物体・チョコレートである。可愛い袋に3、4個入ったチョコの形はハートや星でどれも店で売られている完成度にしか見えない。テカテカと光り輝く様子は海の宝石さながらだ。
「ありがとう」
本当なら原稿用紙五枚びっしりに感謝の思いを綴りたいところだったが無理矢理に喉元で押さえつつ、物理的には下唇を噛みつつ五文字で済ませた。多分血が出てる。
「八幡、よく甘いコーヒー飲んでるから甘い方がいいのかなぁと思って甘めにしてみたよ」
「お、おう…たしかに甘い方が好きだが…」
「…あれ、もしかしてあんまり好きじゃなかったり…する?」
戸塚は『きゅるん』という擬音が聞こえてきそうな潤った瞳で俺を見つめてきた。
やめるやめろ。んなもんたとえ嘘でも好きって言うわ。運動後にコーラを渡されても君から貰えば甘露と言って飲み干せる自信がある。
もちろん嘘である。
「いやそうじゃねぇよ。なんつーか、心配りとかすげぇなと思って。普通そこまで考えねぇだろ?」
「そうかな?なら良かったんだけど」
にこっと微笑む戸塚。可愛い。
「あぁ、お前は将来いい妻になるよ」
「妻?」
「ごめん素で間違った」
その後も数回言葉のキャッチボールを繰り返していたのだが途中で平塚先生が朝礼のため現れて解散する事となった。『今日は短縮授業』『イチャイチャしすぎて勉学に支障がないように』『わたしにもチョコくれ』とだけ残して去っていった。最初は皆驚いたような表情で先生の顔を見ていたのに段々と同情の目線へ変わっていく様がなんとも面白かった。
いや、まじで可哀想なんだよなぁ…。
♦︎♦︎♦︎
そして迎えた放課後。俺は1人、奉仕部室の前に突っ立っていた。中からは由比ヶ浜と雪ノ下の雑談の声が聞こえる。何を話しているのかはわからんが少なくともチョコの話ではなさそうだ。
緊張の一瞬。
俺は意を決してドアを開ける。
「あ!やっはろー!」
「こんにちは」
「…っす」
何も思っていない風を装い、どさりといつもの席へ座って本を取り出す。さて朝と同じ作戦決行だと思ったのだが。
「ねぇ、比企谷くん」
来た。
俺は心の中でガッツポーズをした。
「なんだ」
「今日は何の日か知っているかしら」
「煮干しの日」
「え、そうなの!?」
由比ヶ浜は初耳らしく椅子を揺らすほどのオーバーリアクションをとった。
「確かにそうなのだけれど…」同様に雪ノ下は困惑した表情を見せる。「真っ先にそれが出てくる辺り流石だわ」
「そりゃどーも。で、何、煮干しくれるの?」
「いやヒッキー、そこまで出てたらもう分かってるでしょ…」
『もう』どころか最初から分かっていましたけどね。
「ふむ…つまりバレンタイン、か」
俺は火サスの刑事さながらの名推理を見せたがそこには触れられず「そうね」と一言。
「比企谷くん」
「ひゃい?」
噛んじゃった。
「少し目を閉じていてもらえるかしら」
「?お、おう…」
俺は言われた通り瞼を落とし、視界が真っ黒に染まる。
「あ、耳もね」
追加で来た由比ヶ浜からの指示にも従う。だがそれでも多少は聞こえてしまうだろ———そう思っていた途端に耳元で由比ヶ浜の声が聞こえ始めた。
「きみは〜しんでれらが〜る…まい、ーぷっr?」
歌詞を覚えてない歌を歌おうとするなよ。何語だよそれ。
まぁしかしながら由比ヶ浜のせいでいい具合に気が逸らされてしまい、結局何をされたのか分からずじまいだった。え、ちょっと今俺のお腹つついたの誰!?怖い怖い怖い!まじで何されたの俺!
「もう良いわよ」
その合図を聞いて俺は目を開く。だが特に変化があるようには思えず、由比ヶ浜と雪ノ下は目を閉じる前と同じ場所に座っていた。…いや由比ヶ浜さん、どうして息切れしてるんですか?あなた歌ってただけですよね?
「…今のは一体」
「あら、何のことかしら」
え?
嘘、こんな雑に記憶から抹消しようとしてる?
「何もなかったわよね、由比ヶ浜さん」
「あ、う、うんそうだね!何もなかったよ!」
「………いや怖すぎるんだが…」
まぁ別に害があるわけではなさそうだしいいか、と思い直し再び読書のふりをしながらチョコレートを貰えるのを待ったのだった。
♦︎♦︎♦︎
結局チョコレートはなかった。貰えたのは一色からと戸塚から———奇しくも当初に予定していた最低個数と同じだが、本当にもらいたい人とは違った。実は半年間言いづらかっただけでもしかして俺の片想いでしかなかったのか…?
いや、それはないはずだ。
「…まぁ、作らなかっただけか」
それだけ。恐らくそれが正解なのだろう。全てにの事象に意味を見出すことは不可能であり、今回の件も同じ話だ。
とはいえ悲しいものは悲しい。
『友達を作ると人間強度が下がる』
中学時代の唯一の話し相手が言っていた言葉を思い出す。なるほど、たしかにその通りだ。現に今俺は知り合いがいなければ悩むこともなかったことについて悩みまくっている。
持つものの苦しみ、という奴か。
かーなしー、と気持ちを紛らわすためにリビングのソファに顔を埋める。途中で息が苦しくなり馬鹿らしくなる。
「…ごみぃちゃん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。ちゃんとチョコレートはもらった」
「……。」
「……。」
「1+1=?」
「坂◯英二」
「お兄ちゃんが頭悪くなってる…!?」
失礼だなこの妹は。俺のどこが頭悪いんだよ。逆に今のギャグの面白さがわからない小町の方がよっぽどだと思うぜ?
なんて脳内で悲しい言い訳をしている俺の頭を、小町は慈しみの表情を浮かべてゆっくりと撫でた。
「彼女からチョコ貰えなかったんだね、残念残念。残念無念。でもねお兄ちゃん、あれ作る方も大変なんだよ?溶かして固めてほら完せ———あ、結衣さんからメールだ」
「……むぅ」
子供かよ、と面倒臭がる小町にうるせぇなとでも返そうとしたのだが叶わず、代わりに小町の「お」という声がリビングに響いた。
「どうした」
「お兄ちゃん、バッグの中見てみて」
「は?なんでだよ」
「いいからいいから!」
本当に愉快そうに誘う小町に揺さぶられて渋々、俺は自分のバッグに中身を漁る。
一番下に、覚えの無い感覚が二つ分あり、なんだこれはと取り出す。
「あ」
俺のバッグのなかにあったもの、それは——————。
「煮干しですっ!」
「いやなんでだよ」
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