やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
「ゴミぃちゃーん!世にも珍しいお友達が来たよー?」
そして翌日午後二時、雪ノ下雪乃は本当に来た。それも、気まずそうな顔をしている由比ヶ浜結衣を連れて。あと妹よ、俺はもう既に友達以上に珍しい存在に出会っているからいつもなら衝撃のあまり錯乱してブリッジでもするだろうがそんなことでは驚かないぞ。今の俺はハイパーゴミぃちゃんである。結局ゴミなのかよ。辛い。
「お邪魔するわ」
「や…やっはろー」
「お…おう」
「皆さんお菓子持ってきましたよ!お兄ちゃんのエロ本探しとか好きにしてても大丈夫なのでごゆっくり〜」
「は!?お、お前何言ってんの!?」
突然、小町が根も歯もないことを言った。いや、んなもん無いから。やめてくださいお二方、信じないで。そんな顔でこっちを見ないでくれ…いや無いよね?おそらくないはずだが…心配になってきたので今度しっかり掃除しておこう。
それにしてもなんなんだこの状況。部活生どころか(そもそも中学では帰宅部だったし)同級生が自分の部屋に来たことなんて無いからどう対応したらいいのかわからない…いや、そもそも他人が入ったこともないはずだ。だって友達がいないもの。
そう、あれは小学生の頃———
俺『ねぇ、ウチ来る?この新しいゲーム買ったんだけど』
A『あ…あーごめん、俺それ持ってないわ』
B『俺もー』
C『悪いな…はは』
そして数日後、俺は彼らが教室でそのゲームをしている場面を目撃する。
「どうしたの、ヒッキー大丈夫?」と由比ヶ浜。その言葉で現実に引き戻される。危ない危ない、トラウマが———と何の毛なしに由比ヶ浜の顔を見ると、本当に俺のことを心配している表情をしていたので驚いた。…まぁ当たり前か。俺、吸血鬼になったんだしな…。
あぁそっか。俺、今はもう人間じゃないのか。その事実を再認識して少し切なくなる。だが、由比ヶ浜を助けて他人を助けて、さらに自分が助かるにはこの方法しか無かったのだ。今更とやかく言うまい。
俺は「え、俺今そんなに陰鬱な顔してた?」と、普段通りを装って尋ねた。
「うん、いつもより目が腐ってた…」いつもより腐ってるってなんだよ。変わんねぇよ。デフォルトだわこれは。ふざけんな。
俺はウインクで目配せをする。すると由比ヶ浜はブンブン、と顔を縦に大きく振る。本当にわかってんのかこいつ。ちなみに俺が頼んだのは『雪ノ下に俺が吸血鬼になったことがバレないようにしろ』といった内容のものなのだが…。
「ところで自殺頭痛は治ったのかしら?」
「自殺!?」と由比ヶ浜が飛び上がる。なんだろう、『一肌脱ぐ』という言葉にいやらしさを覚えている小学生みたいな反応だった。だがしかし目の前にいるのは高校生。可愛さなんてものはない。…いや、まぁ、うん。かわいいとは思ったけど…。
「あぁ、頭痛な。まだちょっとあるかなって感じだ。悪いな心配かけて」
「えぇ、心配をかけたわ。あなたの目がこれ以上腐るのかと思うと心配で心配で」
いらっ…。
おっと不味い。この苛立ちの勢いで湯呑みを割ってしまったりしたら言い訳のしようがない。なんて言おう。『最近腹筋にはまってさぁ』かな。うん、これだな、これで行こう。
「…で?どうしてあなたの湯飲みはひび割れ始めているのかしら」
「あぁ、これは———」
俺がそう言おうとした途端、湯呑みがバキッと割れた。まじですか。
「…最近腹筋にハマっていまして」
「あらそう」とどうでも良さげに返す雪ノ下。どうでもいいんかい。いやその方がありがたいけども。
さて…どうする、比企谷八幡。この状況をどうやって打破する…?机の上にばら撒かれたお茶をティッシュで拭きつつ考える。
このままでは吸血鬼になったことがバレるまでは無くとも、俺に異変があることくらいは気づかれそうだ。
異変———怪異。
「ねぇヒッキー、ゲームしない?」と由比ヶ浜。なるほど、ゲームで議論を途絶えさせる作戦だ。由比ヶ浜にしてはまぁ悪くないんじゃないだろうか。そう思い同意する。
「おう、いいぞ。何がいい。モ○ハン、ス○ブラ、ス○ラ、なんでもあるぜ」その言葉におお〜、と由比ヶ浜が目を輝かせる。単純で何よりだ。きっとこいつの人生、毎日がエブリデイなんだろうな。別に羨ましくはないけど。
いや、ヒキガエルくん、…と雪ノ下。何ちゃっかり俺の小学校時代のあだ名で呼んじゃってんの。
「これ全部友達とするゲームじゃないのかしら」
「いや、最近のゲームはオンラインで見知らぬ人とできるんだぜ?だから俺は実質ぼっちではない」どドヤる。なんの自慢してんの、俺。
「まだ何も言っていないのだけれど…」と雪ノ下。しまった、嵌められた。彼女のトーク力の高さのあまりつい俺がぼっちであることを認めてしまった。やるなぁこいつ。座布団を一枚あげたい。座布団は違うか。洋風な我が家にそんなものはないし。そこでようやく机の上は綺麗になり、ゴミ箱へティッシュを投げる。そして外す。
はぁ、とため息をつきながらゴミ箱まで行き、そのついでにゲーム置き場へ向かう。
ガサゴソとゲーム置き場を漁る俺の背中で、由比ヶ浜が雪ノ下にコントローラーを持たせて操作方法を教えている声が聞こえた。仲良いな、こいつら。
♦︎♦︎♦︎
そして本当にゲームをして一時間が経過した。時刻は午後三時。先ほどよりマシになったとはいえ、外にはまだ日光が照り輝いている。俺にとっては死海も同然だった。まぁそれは人間時代にも同じことなので別に気にならない。そんなことを思いながらゲームを片付ける。
「ヒッキー、ここちゃんと換気してんの?二酸化炭素濃度高いよ?」と由比ヶ浜。まじかこいつ二酸化炭素濃度なんて、そんな難しい言葉を知っていたのか。これは由比ヶ浜の見方を少し改めなければならないかもしれない。由比ヶ浜さんは天才だ!
「お前はなんでも知ってるな」俺が本棚を漁りながらそう言うと。
「えー、そう?えへへ…」と立ち上がりながら照れ始める。なんだろうね、雪ノ下と由比ヶ浜を足して二で割ったら本当に素晴らしい人間になりそうだ…。
…って、あれ。こいつなんて言った?んで、どこに行こうとしている?と、俺は気になって由比ヶ浜を見る。
窓ガラスを、開けようとしていた。
もう一度だけ言わせてもらおう。
由比ヶ浜結衣は、日光に当たると灰になる吸血鬼がいる部屋のカーテンを広げ、窓ガラスを開けようとしている。
「—————————ッ!?」
…おいおいおいおい。嘘だろ。お前のせいでバレるとは想定外だっての。いや、想定はしていた。脳内でしっかりと。だからこれは俺が現実から逃げてただけの話なのかもしれない。だって由比ヶ浜がアホの子なのは初めから分かりきっているのだから。
もう由比ヶ浜の手は既にカーテンにかかっている。あぁ、雪ノ下にバレて殺される。今までありがとうございました。比企谷八幡の次回作にご期待ください。
俺は正直、あぁ死んだな、と思った。そして諦め、そして両手を広げ、日光を全身で受け止めようと———は、しなかった。俺はもっと、ゴキブリのように諦めの悪い人間である。人間?吸血鬼か———まぁいいか、なんでも。俺は比企谷八幡。見たまんまの男だ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ最善を尽くす。
誰も傷つかない世界を作るのみだ。
そう、諦めたというのは死ぬことを———という意味ではない。体を燃やして家を燃やして小町や由比ヶ浜、雪ノ下を道連れにしてしまうことを、ではない。
単に雪ノ下にバレないことを諦めただけだ。そのあとはなるべく殺されないように善処するつもりである。で、またその後はと聞かれても俺は知らん。きっとそこらへんの吸血鬼かラブコメの神様がなんとかしてくれるさ。
だから。
「由比ヶ浜!」
俺はカーテンを乱暴に奪い取り。
「え」
全力で引っ張った。
由比ヶ浜が倒れた音と同時に指先が燃える。事態は最小限に抑えられた。だがしかし、これで雪ノ下に気づかれた。だけどまぁ、悪くない選択肢だったのだと思う。なぜなら吸血鬼は不死身で、俺は吸血鬼なのだから。それはポジティブにいえば未来があるということだ。
なんて素晴らしいこと何だろうか。
何をしても死ぬことはない。
まさに、キノコ無限増殖場バグだ。
「…はっ」と笑う。あまりにもくだらない。
死なないように、とかそういうのは人間としても価値観で、そんな思いは吸血鬼に対しての冒涜である。まぁ、いざ死にかけるとなったら騒ぎまわるんだろうが。そんな事態にならないことを祈ろう。
「なぁ、雪ノ下」
「…何かしら」すっかり怯えてしまった雪ノ下が、だがそれを悟られないように尋ねた。猫みたいだな、こいつ、とかなり気色の悪い言葉が思い浮かぶ。それを邪念と合わせて必死で払い除けて。
「依頼だ」俺はそれに答える。
「俺に起きた出来事を、聞いてほしい」
読んでくださりありがとうございます!
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
-
阿良々木との会話
-
羽川との会話
-
怪異にあった俺ガイルメンバーの話
-
日常編
-
その他(感想にてお願いします)