やはり俺が吸血鬼なのは間違っている。 作:角刈りツインテール
背中に地面がぶつかる感触。そして衝撃。
「がはっ…ッ!」
先程、俺はビルの4階くらいの高度から落下した。吸血鬼だからと言えども(流石に鉄筋を素手で破壊できるなら俺が吸血鬼になったことは実証成功だろう)、普通に痛いらしい。一瞬呼吸できなくなったことからも、どうやら吸血鬼になったからといって別に痛みが無くなるわけではないようだ。
打撃を受ければ通常のように痛い。割と面倒な体質だ。どうせ強いならもっと硬い体だったら良かったのに…こんなことなら生前(?)にもっとトレーニングをしておけば…なんてのは後の祭りでしかないし、それにそもそも俺は祭りになんて行かない。暑い中わざわざ人だかりに向かうくらいなら家で録画済みのプリキュアでも見てる方が有意義だ。
「お…?おぉ、すっげ」
だがその分回復能力は異常だった。期待以上だった。先程まで火を見るよりも明らかに折れていた右腕はすぐに再生。頭はすでに止血されていた。『痛みはあるがすぐ治る』。それはメリットともデメリットとも言えるだろう。にしても本当に吸血鬼になったんだなぁと感動しなくもない。非日常、かっこいいじゃねぇか。悪くない。
「…やっべ」
さて突然だがここで問題。
今から、カッコいいかどうかはさておいて『悪い』ことが始まろうとしています。それは一体何でしょう。ヒント1『吸血鬼の弱点』ヒント2『そして段々と姿を現し始めた太陽』。
「あ———
答え『実際に火を見る』。ただし自分にまとわりつく形で。
今の俺にとっての日光は人間にとっての塩酸のような劇薬で、皮膚に直撃すれば甚大な被害が及ぼされる。そのことは分かっているつもりだったから俺は皮膚が焦げ始める前から日陰へ走った。だが間に合わずに結局、身体中に緋い炎を纏うことになる。ただ熱い。痛い。怖い。
「あああぁ……いってぇ…!」
恐怖に駆られて足をうまく動かせずに、俺はとうとう転けてしまう。そんなことをしている間にも日は更に上がる。続けて背中で金属と触れた肉がジュウ、と焼ける音が聞こえた。
「ひぃっ…!?あ、
俺は悲鳴を上げた。誰かが助けてくれないかと。由比ヶ浜か、キスショットか———さっきの少女でもいいから誰か!俺は何度も叫ぼうとしたのに喉からは『熱い』『痛い』『ああああああ』しか出てこない。言葉を覚えたての幼児のように同じ言葉を反駁する。そしてまだ歩けない乳児のように転がり回る。死んだかもしれない、と思ったが諦めなんてつくはずもなく、俺はただ惨めったらしく生き延びようとすることしか出来なかった。吸血鬼の不死身性。簡単には自殺できないというわけだ。分かった、もう分かったから誰か助けてくれ———と、その思いが届いたからだろうか。
「————————たわけっ!」
上方から声が聞こえた。何が起きた、燃える視界を凝らして熱さに耐えながら———いや、耐えれていなかったが———見つめてみると、俺と同じように燃えている少女がこちらに向かって落下しているところだった。その光り輝く姿は、周囲からすれば隕石にしか見えないはずだが、俺にとって彼女は正真正銘のヒーローのように見えた。
ドシャァァン…と俺の真横に落下する。そして「行くぞッ!」と俺を、更に自身を勇気づけるように叫び、俺を引っ張って歩き出した。
「は…は…はぁ…」
俺も少女も既に疲労困憊、といった様子で、歩くのも面倒なほどになっていた。今すぐここで倒れてしまいたいとも思ってしまった。
「うぐっ…はぁ…。ふ、はぁ…はぁ…」
だが俺はその少女の『死なせない』という強い意志のこもった表情に奮い立たされ、再び歩き出す。
「ひ、ヒッキー早く!」
前方で、知り合いの声。顔を見上げると予想通り、今にも涙腺が崩壊しそうな由比ヶ浜結衣がいた。部活とクラスが同じ女子。たったそれだけ。たったそれだけの関係性な筈なのに———
どうして俺は、彼女の顔を見てこんなに安堵しているのだろうか。
♦︎♦︎♦︎
「あ゛や゛ま゛っ゛て゛!゛」
「あ…いやだけど由比ヶ浜。被害を受けたのは俺なん」
「あ゛ や゛ ま゛ っ゛ て゛ !゛」由比ヶ浜結衣は泣きながらキレた。うぇぇ、とまるで子供のように俺のシャツを掴んで離さない。可愛い。可愛い。まじで可愛い。いや、そうじゃねぇだろ何言ってんだ。早く鎮まれ俺…!俺には戸塚と小町がおるだろうが!浮気だぞこれは!
…と、ここで普段なら照れてすぐに振り払っているところだが残念ながら今回は俺にも非がある。というか俺にしか無いので、仕方がない。暫くはこのままでいてやろう。あいにく頭を撫でたりすることはできないが。
「いや、その…まじで、あー…うん、心配かけた。悪い…」俺は俺なりに誠心誠意を込めて謝る。
「ぐす…はぁぁ…もうっ…馬鹿」いや、それは理不尽すぎやしませんかね、ガハマさん…?俺が悪いとはいえ少しくらいは労ってくれてもいいと思うんですけど?
「ったく…うぬは自殺でもするつもりか?」
先ほどから話題に出ている少女は(お前も労ってくれないのか)、自らを『キスショット』と名乗った。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼の名前を口にした。
…え、キスショット?キスショットって昨日俺が助けた吸血鬼の名前である筈なのだが…。あの時はもっと豊満だったというか、なのにどうしてこんなに平坦な体型になっているのだろうか。これが栄枯盛衰というやつなのだろうか。あぁ、時の流れって怖い。そうか、平塚先生にきっとモテ期はあったんだな。
「阿呆か。うぬの血が足らなかっただけじゃ」キスショットはぶっきらぼうに言った。足りなかったのかよ。じゃあ俺、血を分ける意味あった?そう尋ねると
「そりゃああったに決まっておろう。ウヌのお陰で、儂は今ここに立っているのじゃから———じゃが延命措置であることには変わりはない」感謝するぞ、と返した。なんでそんなに上から目線なのか知らないが、役に立てたのなら幸いである。由比ヶ浜も町の平和も保てたことだあい、今日のマッ缶はきっと格別だ。
まぁ、だけど———
「…えっと、なぁキスショット、俺ってこの後どうなるんですかね…?」俺は失礼なのか失礼じゃないのか分からない敬語を用いて尋ねた。ほら、一応年上だから。
しかし彼女はそれには答えず、何やらポカンとしているようだった。そんなに失礼だったか、俺。
「あ…おーい?」
「……はっ!すまんの。儂をそう呼ぶ奴はうぬが二人目じゃったから———」キスショットは『だから』の続きを言わずに哀愁に溢れた表情を浮かべた。その中には寂しさや後悔など、様々なものが入り混じっていた。
少し気になりはしたものの、教えてくれなさそうだと思ったので聞かないことにした。それに、一番聞きたいのはそれじゃない。
「なぁキスショット」
「あっ…」
「…。」
「…なんじゃ?」
「あの、キスショ」
「やっ…」
「……キ」
「やんっ」
「さっきから何なんだよお前…!」頬を赤く染めながらそんなエロい声を出さないでくれ。年頃の男子高校生には刺激が強すぎる。…いや、これは不可抗力だと思いますよ?俺は悪くない。
「…ヒッキー」と未だ俺に抱きついたままの泣き腫らした由比ヶ浜が俺の顔をジロリと見て頬を膨らませる。うっわこっちはこっちで可愛すぎんだろ…じゃなくて。本題はそこじゃない。
「なぁ、キスショット…俺は
「戻れるぞ」彼女はいとも容易い、といったニュアンスを込めてそう言った。それ故に俺は今この場でも出来ることなのかもしれないと期待した。だが続けて繋げたそのセリフが、俺を更なる絶望へと煽る。
「じゃがの———儂は今、ある事情で手足を奪われておる。それを回収して儂が完全体にならんことには、うぬはいつまで経っても人間には戻れぬ」
ある事情。そう聞いて、なんというかもう嫌な予感しかしなかった。
そしてそれはしっかりと的中した。やったぁ!全然嬉しくねぇ!以上!
……と、いうのが俺の吸血鬼生活初日の話だ。なんだか燃えたり萌えたりしかしていなかった気がするが、ここがメインとなるのでいくら恥ずかしくても雪ノ下には確実に話さなければならなかった場面である。まぁもちろんある程度改変はしたものの…俺の胸で号泣した由比ヶ浜のためにもそれがいいだろう。ついでにキスショットのほっぺたで欲情していた(してない)のも内緒にしよう。それらはメインではなくデザートだ。無くても大丈夫。うんそうだな、それがいい。互いのための最善策である。
…いや、コイツにはバレてそうだな…と、俺は冷や汗をかきながらその回想を———雪ノ下雪乃への一人語りを終えた。
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回 カイソウ 想 終 シュウリョウ 了
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これで回想終了になります。どうしてヒッキーは引きこもり始めたのか…ちなみに原作『傷物語』でこの後、阿良々木くんは速攻吸血鬼ハンターを倒しに行ってますね。よく考えたらそれってかなり凄くないですかね…今まで平和な生活を送っていた高校生が急に戦えって言われてヘタれずに戦地に迎えるって言うのが…
完結後の番外短編(もしかしたら普通に続きになるかも?)では何を書いて欲しいですか?
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阿良々木との会話
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羽川との会話
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怪異にあった俺ガイルメンバーの話
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日常編
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その他(感想にてお願いします)