闇夜の中、まるで地上に太陽が生まれたかの様に輝きが生まれた。
赤から白へ、炎は光へ。
メルトダウンした「コア」から放たれる光の糸はまるで繭の様に押し寄せる敵を諸共に周囲の全てを同化しながら肥大化していく。
行かなくては
踏み出そうとする私は、博士の手に引き留められる。
「行ってはダメだ、君も巻き込まれる」
「放してください!博士は……博士はあの子を一人ぼっちで死なせるつもりですか!!」
「ダメだよ、君は生き残るべきだ、それがどんなに残酷な事でもね」
全てを黒く染め上げながら、光の繭が大地に沈みゆく。
もしも、もしも私が……私が戦えたのならば!
私があの場所に立っていたのならば!
今はただ無力に、彼女の名を呼ぶことさえできなかった。
私は……
西暦2050年、世界各地で頻発する異常気象が全ての始まりだった。
火災・洪水・土砂崩れ・竜巻、様々な災害が文字通り悪意と実体を持った「怪物」の姿となり、世界は恐怖した。
「災厄獣」と名付けられたそれらは、圧倒的な力により全てを蹂躙、破壊し尽くす。
当然、人類もただ黙って見ているわけではなかった、最新鋭の兵器を、ありったけの武力をぶつけてそれらに対抗しようとした。
だが、結果は芳しいものではなかった……
やつらは既存の物理法則ではない何かで成り立っており、1体の災厄獣を倒すのに多くの犠牲が出た。
無数の砲弾、数百発のミサイル、反応兵器による飽和火力、地形を変えてしまう程の威力を必要とした。
結果として人が住むことのできない場所を作ってしまう事になっても、仕方なかった。
そして仮になんとか撃退する事に成功したとしても、新たな災厄獣がどこからともなく現れる。
最初の災厄獣の出現から5年、世界は疲弊し、人々は諦めかけていた。
だが……諦める事なく、立ち向かう事を続ける者達もいた。
犠牲を払いながらも抗う術を見出す者がいた。
しかし、その力を持つことが出来るのは適合性を持つ少女だけ……加えて一歩間違えれば自らを滅ぼす諸刃の剣でもある。
だが、今この世界においてはただ一つの希望。
この星の明日の為に命を懸けて戦う少女達を人は「戦乙女」と呼ぶ。
そして私「
『カレンくん、出現したリバイアサン型が動き出した。このスピードでは防衛部隊の展開も市民の避難も間に合わない、海上でこれを迎撃して可能なら撃退して欲しい』
「撃退などと…」
『冗談だよ当然「撃滅しろ」、だがくれぐれも死んではくれるなよ?システムもだが君ほどの適合者を失うのは困る』
博士はひどく芝居がかった甘い声で私にそう告げる。
実際に彼女が私達に向けている感情は貴重な実験体、被験者、よくてせいぜい大事な道具ぐらいなのはよくわかっているつもりだ。
文句なく、倫理性の欠片も感じさせないロクデナシ女だが……それでもかまわない。
私に戦う力を与えてくれる、それだけで十分だ。
背にした機械の翼で空を翔け、私は迫りくる敵へ急ぐ。
白い飛沫を上げ、陸地へ向かう巨大な海蛇、リバイアサン型と区分される水棲の災厄獣。
その体はヘドロの様な物質で構成され、絶えず流動し続けており、ダメージが通りにくいだけでなく、傷を与えてもすぐさま再生してしまう厄介な相手だ。
もっとも、楽な災厄獣なんていない、どいつもこいつも災害の名にふさわしい怪物揃い。
だが必ず殺す、災厄獣は全て滅ぼす。
例えどんなに時間がかかろうと、こいつらに報いを受けさせる事だけが……私の望みだ!
「レーヴァテインッ!!!」
音声認識によりシステムのロックを解除、海面に現れたリバイアサンの巨大な蛇体に深々と赤い炎の刃を突き立てる。
纏っていた水とヘドロの体を炎が蒸発させ、そのまま振りぬいて長い体を切断してやりたいがそれは解決にならない。
災厄獣は簡単な物理的な破壊であればすぐに再生してしまう、故に!
私は突き刺した炎の刃を回転させながらリバイアサンの体をグチャグチャにかき回しながら「熱する」。
災厄獣を構成するのは火・水・風・土の四属性の「エレメント」エネルギー体。
今のところ災厄獣を倒す手段は構成するエレメントのバランスを崩壊させるか、膨大なエネルギーの飽和で吹き飛ばすの二択しか無く。
ヴァルキュリアシステムは前者だ、システムコアに貯蔵されたエレメント結晶体を使用者と共振させ、膨大なエレメントエネルギーを生み出して、それを災厄獣への攻撃などに転用する。
その共振の為の因子こそが、戦乙女になる為に必要な条件だ。
この理論を世界で最初に提唱・確立させた字世アカネこそ、私達のロクデナシ指揮官だ。
自身の体を灼熱に焼かれ、苦しみ悶え、リバイアサンが暴れだす。
その巨体と質量だけでも危険だが、それだけなく高圧水流が体中から噴き出す。
かつて海上でリバイアサン型と交戦した者達がこれで多く犠牲になった、が私は違う。
高純度の火エレメントにより構成された高熱のシールドが飛来する水を即座に蒸発させて防御しながら、エレメントエネルギー弾を巨体に撃ちこんでいく。
すると奴は私の攻撃から逃れるべくその巨体を完全に海中に沈ませていくが、逃がしはしない。
ここで逃がせば奴は体をすぐに体を再生させるだろう、だが火エレメントは海中ではどうあがいても不利だ。
「ならば!」
自らの体に宿る因子とヴァルキュリアシステムのコアクリスタルを強く奮わせる。
怒りだ、私の血に流れる強い怒りの想いがそのまま炎の力へと変わる。
それを両手を介して、この世界に顕現させる。
あの日見た光景、あの日感じた怒り、無力な自分と、敵への怒り。
それが小さな太陽となる。
『レゾネイトボンバー』
提唱者自身ですら理論上は可能ではあるが、実現は不可能としていた必殺機能の一つを私は可能とする。
故に彼女は私を見初め、必要とした。
そして誰よりも率先して、力を与えて、戦場へ送り出す。
「消し飛べッ!!!」
投げつけ、ぶつける様に太陽の如き火球を放つ。
白い輝きと共にそれは爆裂、ドウッとあらゆるものを呑み込む音と共にリバイアサンの巨体を海水諸共に包む。
リバイアサンは断末魔の絶叫を上げる間もなく、黒いヘドロの体が煮立ち、粉々に吹き飛び、分解され、蒸気へと変わっていく。
そして手のひらの大きさ程の小さな結晶体がだけが残り宙に浮かぶ、それこそが災厄獣の心臓であるコアだ。
私はコアを掴むと握り砕きたい気持ちを押さえて、それを不活性化させて回収する。
これは大きなエネルギー源となり、ヴァルキュリアシステムの開発の為にも必要な素材になる。
だから余程でもない限りは壊す訳にはいかない、これを確保するだけで少しでも希望が見えるのだから。
『ふむ、前に比べて更に共振値が上昇しているね。これなら更にシステムを強化しても耐えられそうだ』
博士の話題は勝利の喜びなどではなく、次の戦いへの備え、どの程度先まで見通しているのかは私にもわからない。
だがかつて彼女は言った。
—ヒトは愛するべき者の為にならどこまでもバケモノになっていくものさ、それこそ災厄獣よりもね
私が愛した者はどれも災厄獣によって奪われた、ならば復讐の為に私はどこまでもバケモノになってやる。
『ああ、やっぱり君が残ったのはきっと運命だね。君は運命の申し子だ』
そう言って博士は笑った。