・霊とか別に見えない
・トレーナーLOVE勢
・快楽主義
・倫理観欠如ぎみ
・女優もやってる
という、今のマンハッタンカフェとは似ても似つかないウマ娘です。
『マンハッタンカフェ 初期設定』とか『マンハッタンカフェ 原案』で検索するとすぐ見つかりますので気になった方は調べてみてください。
第1話 stalking hound
ここ最近、誰かに見られているような気がしている。
自覚したのは二か月ほど前。自分がトレセン学園にトレーナーとして採用されて、一週間くらい経ったころだったと思う。
初めは、新人トレーナーへの物珍しさや観察だと思っていた。
しかし、人気のない夜道やトレーナー室の中でも背中に視線をはっきり感じるのは、果たして正常なことなのだろうか。
もちろん、自分の勘違いの可能性は否めない。
そもそも、新人トレーナーの自分が誰かにそんな付け回されることに心当たり自体ないのだから。
今のところ、感じるのはただ視線だけだ。
目に見える危害や異変はないし、このまま様子見をすべきか、学園に一度報告すべきか、悩んでいた。
「はぁ・・・・・・」
いけないいけない、生活環境が大きく変わって、メンタルが少し弱っているのかもしれない。
視線も、そういった心の弱さが作った幻覚だとすれば、気にすれば気にするほどドツボにハマる、という奴だろう。
ズズ・・・・・・。
気持ちを落ち着けようと、まだ湯気の立っているコーヒーを口にする。
「フゥ・・・・・・」
疲れた心に温かいコーヒーが染み渡る。心地の良い芳香が鼻腔をくすぐる。
美味しい。
1秒・・・・・・5秒・・・・・・1分・・・・・・。
異変は、ない。
「さて」
コーヒー豆も、抽出器具も、そもそも食器もないこのトレーナー室で、この淹れたてのコーヒーは、一体誰が用意したものなのだろうか。
「やっぱり視線、幻覚じゃなかったかぁー・・・・・・」
身体からどっと力が抜け、背もたれに倒れ込む。
得体の知れない恐怖が一周回って、落ち着いた感すらある。妄想やオカルト的なものではなく、実在する誰かの手によるものなら、まだ対処のしようもあるだろう。
鍵のかかった部屋に誰か入り込んでいるという事実自体が問題といえば問題だが、しかし、何か物色された形跡もないし目的が不明だ。
「俺をストーキング・・・・・・? いや、ないな。どんな物好きだよ。多分別の目的があるんだろう」
本当ならすぐ学園側にこのことを報告するべきなんだろうけど、間が悪いことに明日は『選抜レース』。
いらない騒ぎでウマ娘たちに迷惑をかけたくはない。
しかし、本当に何者なんだろう。手がかりの一つでもないものだろうか。
そう思って周囲を見渡すと、机の上、コーヒーカップの置いてあったソーサーの端から、何か白い紙の端がのぞいていることに気が付く。
ソーサーを避けると、そこには折りたたまれた一枚の紙。カップを置いてそれを広げてみる。
「私を見て」
ゾワッ
「何も見てない! 俺は何も見てないぞ! さあ、明日のスカウトに向けて準備準備!」
紙を見なかったことにして、カラ元気を振り絞りながら心に誓う。
(明日、選抜レースが終わったら理事長室に駆け込もう・・・・・・)
年に4度、『本格化』を迎えたウマ娘たちが、己の描く夢への第一歩を踏み出すため駆け抜ける、トレセン学園名物『選抜レース』。
天気は晴れ、バ場は良。環境に恵まれ絶好のレース日和だ。
日程も順調に進行し、見事結果を出したウマ娘や結果は惜しくとも光るものを見せたウマ娘のところには、スカウトをしようと次々にトレーナーたちが声をかけていく。
一人も担当のいない自分も、担当を見つけなければという義務感から積極的に声をかけてはいるのだが、目を付けた子に声をかけようとしたら別のトレーナーに先んじられたり、実績のなさを理由に振られたりと、結果が振るわないままとうとう最終レースまで来てしまった。
何かと面倒を見てくれる先輩がチームのサブトレーナーやってみないか、と声をかけてくれているし、その方がいいのだろうか。
やはり研鑽と実績を積んだ上で成長してからじゃないと新人の自分には担当ウマ娘もできないのかな、と若干ネガティブになりながら最終レースの準備を見守る。
『5番――さん・・・・・・6番マンハッタンカフェさん・・・・・・7番――』
マンハッタンカフェ。続々とゲートに入っていく中で、一人立ち振る舞いに緊張が全く見られないため目に留まった。
他の子は気負っていたり落ち着かない様子を見せる中であの落ち着きぶり。
レースにおいて大事な精神面では既に他の子に一歩リードといったところだろうか。
「マンハッタンカフェ・・・・・・ああ、あの女優をやってるっていう」
「撮影のために欠席も多いらしいわね。メンタルは鍛えられてるみたいだけど、練習不足は精神じゃ補えないわよ」
「よく言えば落ち着いてるが悪く言えばレースに思い入れがそんなにないんじゃないか? 1番のウマ娘みたいにデビューにかける熱意みたいなものも見えないし、レースは腰掛程度に考えているのかもしれん」
そんな口さがないトレーナーたちの会話が後ろから聞こえる。
別に彼女の事に詳しいわけでもないが、頑張っているウマ娘がそこまで悪し様に言われる筋合いもないだろうと怒りを覚える。
だが、ここで騒ぎを起こすわけにもいかないし何よりもうすぐレースが始まる。
喉元まで上がってきた反論を飲み込み、マンハッタンカフェに肩入れして応援しようと心に決め、出走を待つ。
「――っ」
「ん?」
ふと、マンハッタンカフェと目が合った気がした。
たまたま偶然、こちらを見ただけだろう。
しかしなぜか視線はこちらに固定されたまま止まり、大きく見開かれたその金色の瞳が、じっとこちらを見ている気がして、思わず小さく手を振ってみる。
たぶんこっちに仲のいい友人がいてそれを見ているとかだと思うし、勘違いしている人みたいで恥ずかしい限りだが、観戦しているトレーナーがウマ娘を応援しているだけだしそこまで変ではないはず・・・・・・。
『さあ、各ウマ娘全員ゲートに収まりました・・・・・・。トレセン学園選抜レース最終組、まもなく出走です』
ガシャコン
『――スタートしました! あっ、マンハッタンカフェ、マンハッタンカフェ出遅れた!』
直前まで目線がこちらに向いていたからだろうか。他のウマ娘が一斉に好スタートを切る中、マンハッタンカフェ一人出遅れてしまった。
(まさか俺のせいか? いや、知り合いでもない自分が手を振ったくらいで出遅れるくらい集中力を乱すか? ・・・・・・そんなに気持ち悪かった、とか? どうしよう・・・・・・)
「はあ、まさか出遅れるなんてね」
「心ここにあらずか、こりゃダメだな」
(くっ、頑張れマンハッタンカフェ・・・・・・!)
手を握りしめ彼女の走りを見つめる。
晴れ舞台でこの失態。流石の彼女も気持ちは完全に焦っているはずだ。
それなのに、なぜだろう。
風になびく黒い長髪が、やけに弾んでいるように見えた。
(見てくれた見てくれた見てくれた見てくれた見てくれた見てくれた見てくれた見てくれた!)
たった一行。
日々募り続ける想いに心が張り裂けそうになり、押しとどめることができなくなり。
ついに意を決して告白しようと思い立ったまではいいものの、結局恥ずかしさに負け、意味のある言葉は書けず名前すら記せなかった、あの手紙というのも烏滸がましい紙片。
それでも、トレーナーさんは偶然でも私を見てくれた。
彼を見る私に気づいて、優しく見つめてくれた。
それどころか、応援しているよとばかりに愛らしく微笑みながら、手まで振ってくれたのだ。
胸の奥から止めどなく流れる愛しさに頭の中を支配され、ついゲートが開くのを見逃して出遅れてしまったが、それは些細な事。私の心は一片の曇りもなく晴れやかだ。
まるで翼が生え、空だって飛べそうなくらいに足も軽い。
出遅れによって結果的に最後方からのレースになったが、元々私は前目でレースの流れを作るようなタイプではない。
後方で気配を殺し流れを見極める上で、この位置は好都合だ。
スカウトを勝ち取らんと掛かった子たちが前の方で競り合い、結果として団子になって蓋をしてレースそのもののペースを抑えてくれているのも追い風となる。詰まったレース展開で、最後方であることなどはハンデにもならない。
ならばこそ、きっと今もじっと見てくれているであろうあの人に、走る私の姿が思いきり魅力的に見えるよう、このレースをランウェイに仕立て上げてあげましょう。
先頭集団が第3コーナーに差し掛かる。
(ここから・・・・・・)
『先頭逃げる逃げるハピネスポピー! しかし第3コーナーを回ったところで、苦しいか! ここまでか! 後ろから迫る混戦の先行バ集団が襲い掛かる!』
先方に追い付けず垂れてくるウマ娘をかわしながら、内へ、内へ、影に隠れるように位置取りジワジワと進出する。
逃げを取ったウマ娘は既に尾を掴まれ、団子になった先行集団に飲み込まれてしまったようだ。
『レースは大混戦! 四人のウマ娘がもつれ合いながら一歩も引かないデッドヒート! この分厚い壁を前に、中団以降のウマ娘たちはどう出るのか!』
勝負ここから第4コーナーまでに、あの集団から誰が抜け出すか、観客は皆そんな風に考えているだろう。
後ろは時すでに遅く、今から外に回ってこの集団をかわそうものなら、タイムロス・距離負担増大の両方に押しつぶされるから。
それは正しい。
ではどうするか。
『第4コーナーに差し掛かろうかというところ! おおっと、ここでマンハッタンカフェ! 最後方からいつの間にかマンハッタンカフェが上がってきていた! が、抜けない! 大きく横に広がった先行集団に阻まれる!』
壁? この隙間だらけの集団が?
別に彼女たちは誰かをマークやブロックしようとしているわけでもない。
ただ、自分が一歩でも前に出ようとして、それが団栗の背比べとなって結果として膠着状態を形成してしまっているだけだ。
風が吹けば飛ぶようなバランスの上に成り立った天秤に、後ろから私という石を放り込めば、天秤は傾き、そして崩れる。
かわせないなら、抉って食い破れ。
猟犬は逃げる獲物の群れを壁などと考えない。追いつけばそこから先に待つのは、壁の踏破ではなく蹂躙だ。
私とトレーナーさんの記念日となるべきこのレース。門出に掲げる祝杯を満たす、深紅のワインを準備しましょう。
そして、なみなみと浴びるように飲み干して、顔を赤く染める火照りを、熱情を、恋慕を、酒精のもたらす酔いにて全て包み隠そう。
収穫を待ち、熟れた葡萄は全て眼前に。
貴方たちから滴るワインが染め上げる血路こそ、私たちの進むべき楽園へのレッドカーペット。
さあ、
「――狩りを始めましょう」
『おおっと! 3番イエローピースここまでか! ペースが落ち・・・・・・間にスルリと身体を差込むマンハッタンカフェ!』
(わかっていましたよ。このレースのペース、四人のうち貴方だけには少し早すぎたんですね。張り詰めた糸に私という得体の知れないプレッシャーに気を取られ、そして安心しようと後ろを確認してしまった)
人は、認識こそ安心だと思い込む。
しかし、認識すればこそ生じる恐怖もあるのだ。そして、恐怖で思考にノイズが走り、足は一瞬ではあるが硬直し、薄氷を成り立たせていた前提が崩れ去る。
そうすればもう、彼女はただ首を牙の前に差し出したも同然。
なぜ、どうして
すれ違いざまに向けられた視線、背中にたたきつけられる感情が私を昂らせる。
そうだ、この瞬間こそ、私がレースのゴールよりも望むもの!
どす黒く、甘美で、醜悪で、淫靡なこの快楽を、もっと味合わせてください!
さあ! さあ! さあ!
『並んだ! 並んだ! 並んだまま――いや、マンハッタンカフェ強い! 先行集団のわずかな隙を見逃さず、そのまま差し切って一気に飛び出した!』
『背中を見せつけるマンハッタンカフェ! 後続も追いすがるが、衰えない末脚を見せつける! ゴール! スタートこそ出遅れましたが、強さを見せましたマンハッタンカフェ!』
ゴールを超えて、感じるのは達成感ではなく物足りなさ。
ああ、このレースではこの程度か・・・・・・。
一瞬で胸の奥から熱が消える。
代わりに満ちるのは虚しさか。
(ですが、まあいいでしょう)
所詮は選抜レース。自分を含め、デビューすらまだのウマ娘しかいないレースに期待するものはない。
『トゥインクル・シリーズ』
選ばれたウマ娘が集うあの場所にこそ、私の求めるものがある。
今日のレースはその道のりの一歩目、前菜ですらないのだから。
(ですから)
客席を見上げ、一点を見つめる。
そこには、まるで我がことのように喜びながら私を見つめる愛しい人の顔があった。
ああ、堪らない。何て素敵な光景だろう。
これから先、何度もこの光景を再現し続けたい。
クラシックで、シニアで、何度でも貴方に栄冠を捧げましょう。だからどうか、その瞳を私から外さないでいて。
「今日からが始まりですよ、トレーナーさん。ふふ・・・・・・ふふふふふ」
「!? か、カフェさん怖っ」
「健闘を称え合いたかったけど話しかけるのやめときましょう。・・・・・・不気味だわあの人」
「ふふふふふふふ」
なお、二人の間に直接の面識はないものとする。
オリウマ娘の名前はどちらが好みですか?
-
アニメ・シングレ風 例)キンイロリョテイ
-
史実そのまま 例)ステイゴールド