前回説明回すぎてカフェが全然喋ってなかったので今回はカフェいっぱいです。
マンハッタンカフェと走法のトレーニングを始めてしばらくたった。
今日は休日。トレーナー室で翌週のトレーニングの準備をしていたところ、いくつか足りないトレーニング用品があるので、ショッピングモールに脚を伸ばそうかと外出の準備をしていた時だった。
Prrrr
着信音とバイブレーションが胸ポケットのスマホを揺らす。
発信元はマンハッタンカフェ。何の用だろうか。
「もしもし。マンハッタンカフェ、どうかしたか?」
『おはようございます。あの、トレーナーさん・・・・・・今日、お暇でしょうか。よければ、以前お話していたコーヒー豆を買いに行くのにお付き合いいただければと』
デビューから今日までバタバタしていたので機会を逃していたが、以前一緒に行こうと約束していたな。
元々出かける予定だったので、もちろんだと返事をする。
「それじゃ、俺はいつでも出れるから美浦寮の前で待ってようか」
「いえ」
返事が右耳に当てたスマホの通話口ではなく、左耳から聞こえてくる。
なんと、いつの間にかマンハッタンカフェが俺の横に立っていた!
「私も準備はできています。行きましょうか、トレーナーさん」
「い、いつの間に・・・・・・?」
「熱心なトレーナーさんも素敵ですが、気配を消しただけでこんな近くにいても気づかないのは考え物ですね・・・・・・私に悪意が合ったら命はないですよ?」
「ここは気配を消す敵に襲われるような世界じゃないぞ!?」
大真面目に恐ろしいことを口にするマンハッタンカフェ。俺は実は彼女に命を狙われたりしているんだろうか。
そもそも気配を消してトレーナーに近づかないでほしい。なんでそんな特技を持っているのかは知らないが。
「
「・・・・・・。うん! それじゃ、二人とも準備できてるんだし出かけよう!」
なぜだろう。その
最初に向かったのはショッピングモールのスポーツ用品店。
マンハッタンカフェが先に俺の用事を済ませていいと言ってくれたので、お言葉に甘えて寄らせてもらった。
必要なものを手早く揃えて店を後にする。
新商品もたくさん出ていたのでできれば数時間くらいここにいたかったが、今日はマンハッタンカフェと一緒だ。また次の機会にでも、一人で来てゆっくり見て回ろう。
「お待たせマンハッタンカフェ。それじゃ、次はマンハッタンカフェの行きたいところに行こうか」
「はい・・・・・・よかったのですか、トレーナーさん。もう少しゆっくり見て回っても」
「いや、大丈夫。今日は買うものも決まってたからな。それにせっかくオフなのに、君をトレーニングのことに付き合わせるのもな」
「そうですか。私にそんな遠慮はいらないのですが・・・・・・」
マンハッタンカフェはなぜか少し不満気だが、すぐに微笑んだ。
「・・・・・・そうですね。今日は、トレーナーさんのご厚意に甘えさせていただきます。では、次は私の行きたいお店に行きましょう」
マンハッタンカフェは俺の手を引くと、スポーツ用品店に歩を進める。
「お、おいマンハッタンカフェ?」
「私、今日はトレーニング用品が見たいので、お付き合いいただけますか・・・・・・トレーナーさん?」
どうやらいらない気遣いだったらしい。
数か月の付き合いでわかってきたが、彼女はどうも俺が遠慮するのを嫌う気がある。
なら、俺も遠慮はあまりせず、その分彼女のやりたいことにも積極的に付き合った方がいいのかもしれないな。
「ありがとう、マンハッタンカフェ。それじゃ、色々見て回ろう」
店内に並べられた商品を手に取り見分して回る。
こうしてトレーニング用品に囲まれていると次から次へのその道具を使ったマンハッタンカフェのトレーニングのアイデアが浮かんでくる。
通販でも買うことができるが、やっぱりウマ娘が使うものはこの目でしっかり見てから買いたいからな。
「あっ、そういえばトレーニングシューズもそろそろ変える時期か。マンハッタンカフェはどのデザインが好みだ?」
「そうですね・・・・・・やはり黒色がベースなのが第一です。濃いコーヒーのように深い黒色が落ち着きます」
「黒はデザインの幅も広いからいいな。あっこれなんかデザインもクールでマンハッタンカフェに似合いそうだな。それに、クッション性も高性能だし脚への負担も減りそうだ」
「マンハッタンカフェってプロテインの味は何が好きなんだ? 今はとりあえず買い置きしてたバニラだけど、嫌いだったりしないか?」
「いえ、特に嫌いではないです。でも、プロテインってこんなに色々な味があるんですね・・・・・・知りませんでした。あっ、コーヒー味まで」
「小分けのパックで色々試せるし買っていこうか。俺もちょっと味が気になるし」
「ん? なんだこの道具。うおっ、凄い跳ねる! 跳ねるぞマンハッタンカフェ!」
「それは・・・・・・一体何に使う器具なんでしょう?」
「体幹を鍛える器具みたいだな。でも、ちょっとウマ娘には物足りなさそうだな・・・・・・いや、あれと組み合わせれば効果的なトレーニングができるかも。それなら・・・・・・」
「あっ・・・・・・トレーナーさん。そんな跳ねながら考え事をすると・・・・・・」
「えっ? うわぁ!?」
二時間ほど店内を見て回り、すっかり満足した俺はホクホク顔で店を出た。
「いやあ、こんな長く悪いなマンハッタンカフェ。ありがとう、満足できたよ」
「いえ・・・・・・楽しそうにはしゃぐトレーナーさんを見れて、私も楽しかったですから」
スポーツ店で俺を見て楽しいっていうのはよくわからない感想だが、まあ彼女も退屈しなかったならよかった。
「それじゃ改めて、マンハッタンカフェの方の用事に行こうか。このショッピングモールの中なのか?」
「喫茶店は商店街の方です。・・・・・・ですが、このショッピングモールでも少し服など見たいので、寄ってもよろしいですか?」
「もちろん」
向かいながら聞くと、マンハッタンカフェがよく着ているブランドの店舗が別フロアにあるらしい。イメージキャラクターを務めているんだそうだ。
「私はあまり服にこだわりはないので、ブランドで統一した方が楽なんです。私をイメージキャラクターにするようなブランドなので、好みの色遣いやデザインが多くて悩まなくて済むので・・・・・・」
「へえ、でもこだわりがないっていうのは意外だなあ。マンハッタンカフェの服、今日もお洒落だし結構その辺意識してるのかと思ったよ」
今日も、キャスケット帽とサングラスの変装感丸出しのいで立ちでも、それが怪しくなくファッションの一つと思わせるような着こなしだ。
「そう言っていただけると嬉しいですね・・・・・・。これでも一応芸能人の端くれですから。センスがないと思われてしまうと、流石になけなしのプライドでも傷つきますので・・・・・・」
嬉しそうに微笑むマンハッタンカフェ。彼女の言うこだわり、とは、俺のように休日でも面倒くさくてスーツで過ごすような輩と一緒にしてはいけない領域での話のようだ。反省。
話しているうちにたどり着いた女性向けの服屋の前で、俺は立ち止まる。
「それじゃ俺はここで待ってるから、ゆっくり見ておいで」
すると、マンハッタンカフェは不思議そうに小首を傾げた。
「・・・・・・トレーナーさんは一緒に来てくださらないのですか?」
「いやあ、流石に俺みたいなのが入ったら、浮かないか。この店」
外観から、入っていく客層からもう、お洒落な女性以外立ち入り禁止というようなオーラが満ち溢れている店構えだ。入るだけで精神を削られそうな。
「大丈夫・・・・・・。私と一緒に入れば、女性の買い物に付き合わされている男性としか思われませんよ。それに、今日はトレーナーさん目線でも服選びを手伝っていただきたいんです。芸能界ではなく、レース競技者としての衣装センスでは私はまだだと思いますから。ほら」
手をグイッと引かれ、店内へと導かれる。人生でこんな店に入ることになるとは・・・・・・。
「そ、そうか。わかった。覚悟を決めよう」
だが、マンハッタンカフェに求められているのだ。俺のメンタルダメージについては今は無視しよう。
いざ、戦場へ!
燃え尽きた・・・・・・。
「ありがとうございました・・・・・・トレーナーさん。トレーナーさんの意見、とても参考になりましたよ」
「そ、そうか・・・・・・。それならよかったよ・・・・・・」
いくら変装しているとは言え、店内のいたるところにマンハッタンカフェがモデルとして写った写真やポスターが貼ってある店内で、当のマンハッタンカフェが気づかれないというのは無理があったらしい。
遠巻きにマンハッタンカフェを見てヒソヒソと会話する女性たちの目が、その後ろで引きつった表情をしている俺に集中するのは当然の流れだった。
一切気にせず、マイペースに服を見ては俺に感想を求めるマンハッタンカフェに応じながら、四方八方の奇異の目に晒される時間は、控えめに言って恐ろしいものであった。
でも、マンハッタンカフェが喜んでくれたなら俺の精神が削られた甲斐もあっただろう。マンハッタンカフェの胸には、今日買った服の入った紙袋が抱かれている。
やっぱり、隣で歩く機会も多いわけだし、彼女に恥をかかせないためにも俺ももっとこういった分野も磨かないとなあ。
俺の知り合いで一番こういうことに詳しそうなのは・・・・・・有栖川社長か。近況報告も兼ねて、今度連絡してみようかな。
取り留めないことを考えながら、横を歩くマンハッタンカフェにこの後の予定を問いかける。
「どうする? まだ何か買うものあるなら付き合うぞ」
「そうですね・・・・・・。行きたいお店はもうないですが、もう少しここで何か見ていたいですね・・・・・・せっかく二人で来ているのですし。トレーナーさん、どこかおすすめのお店などは知ってらっしゃいますか?」
腕時計の示す時間はまだ夕方16時。マンハッタンカフェの行きつけの喫茶店は夜までやっているそうなので、ここでもう少し時間を潰してから行けば寮の食事の時間にもちょうどいいくらいだろう。
しかし、仮にも高校生の彼女を、保護監督する立場にある余り遅くまで連れまわすのもよくない。
二人で短い時間でも楽しめる店か。
「そうなると・・・・・・あそこかな」
「ゲームセンターですか」
「ああ。ここなら色々楽しめるだろ? マンハッタンカフェはゲーセンはよく来るのか?」
「いえ、こういった騒がしいお店はあまり・・・・・・。アニマルポッケさんはお好きみたいで数回はお付き合いしたのですが」
ああ、何かわかる。完全に偏見だけどアニマルポッケは格ゲーとかスロットコーナーにたむろしてそうだ。
「トレーナーさんは?」
「俺も、最近はあんまり来てなかったなあ。それでも、学生時代には友達と学校帰りによく行ってたから、君に色々教えるくらいはできるぞ」
トレーナーを志し、そして夢叶ってからは、そっちの勉強やら何やらですっかりこういった遊び場からは遠ざかっていた。
それでも、大まかなゲームの種類は昔と大して変わっていない印象だ。マンハッタンカフェをリードして接待するくらいなら何とかなるだろう。
「マンハッタンカフェ、やりたいゲームとかあるか?」
手持ちの千円札を両替機で崩しながら、興味深そうに周囲を見渡すマンハッタンカフェに尋ねる。
「そうですね・・・・・・では、あれをやってみたいです」
マンハッタンカフェの視線の先にはガンシューティングゲーム。襲い来るゾンビを銃で撃つ、よくあるあれだ。
二人で協力プレイもできるので、経験者の俺は彼女の補助に徹しよう。
「よし。サポートは任せてくれ。君の背中は俺が守ってみせるよ・・・・・・なんてな」
銃型のコントローラーを構えると男心がくすぐられて、ガラにもない映画のワンフレーズのようなセリフが口を突く。
「頼もしいですね。よろしくお願いします、トレーナーさん」
華奢な彼女に不釣り合いな、武骨なコントローラーを抱えたマンハッタンカフェ。
しかしなぜだろう、彼女が銃を構える姿はやけにハマって見えた。
「トレーナーさん・・・・・・右から来ます。グレネードを撃つのでガードの体勢を」
「お、おう!」
マンハッタンカフェの的確な指示に合わせて画面の中の俺の操作キャラが防御する。
「・・・・・・今」
冷静沈着に、ブレることない動作から放たれた弾が着弾し、画面内のゾンビを一掃する。
初めてとは思えないほどに落ち着き正確なプレイのマンハッタンカフェは、俺にサポートされるどころか逆に俺をサポートしてみせる余裕を見せ、気づけば俺も到達したこともない最終ステージへとノーコンティニューで到達していた。
「あ、危ないマンハッタンカフェ!」
マンハッタンカフェ側の死角から飛び出てきたゾンビに気づき、そちらへ銃口を向けようと銃を構える。
マンハッタンカフェは俺のサポートで、身体も銃も逆方向だ。ここは俺が!
パンッ!
マンハッタンカフェは顔を向けることすらせず、銃口だけゾンビに合わせ寸分の狂いもない射撃で脳天を打ち抜いてみせる。
そして流れるようなリロードの後水平方向に銃を倒し、視界がお留守になった俺に向かってくるゾンビの群れを連射で薙ぎ払った。
「ふう。危なかったですね、トレーナーさん・・・・・・大丈夫ですよ。貴方は私が守ります。指一本触れさせません」
うーん、カッコいい。俺が女子だったら確実に惚れている。
「あ、ありがとう・・・・・・うん」
何と驚くことなかれ。ここまで俺のキャラクターの体力は1ゲージたりとも減っていない。
俺の実力・・・・・・なわけもなく、マンハッタンカフェの手厚い介護の賜物だ。
経験者とは。接待とは。サポートとは。
俺の少し心のどこかにあった経験者意識はもはや粉々に砕け散ってしまった。
しかし、銃を構えるマンハッタンカフェの姿はどことなく生き生きとしており、彼女がここまで楽しんでくれるならよかったと思いなおす。
そして何より。
銃を撃つマンハッタンカフェが、女の子にこういうのは何だが、イケメンすぎる・・・・・・!
男の俺が嫉妬するのが虚しく思えるほどサマになっており、銃を構え、撃つその所作一つ一つがまるで映画から飛び出てきたキャラクターのようだ。
いつの間にかギャラリーも集まっており、マンハッタンカフェの一挙手一投足にキャー! と黄色い歓声を上げている。
何なら俺もギャラリーに混ざりたい。残念ながら俺の腕では目の前の画面のゾンビに対処するだけで脳のキャパシティが限界を迎えるので、横で八面六臂の活躍を見せるマンハッタンカフェの姿をしっかり見ることは叶わないのだ。
「ラスボスのようですね、トレーナーさん。頑張りましょう。サポートは任せてください」
「頼もしすぎるぞ、マンハッタンカフェ」
そして情けないぞ、俺。
言うまでもなく、ラスボスの攻撃も一度も俺に届くことはなかった。
これ、そういうゲームだったっけ?
「ありがとうございます、トレーナーさん。大切にしますね」
黒い豆に点のような顔のついたぬいぐるみを大事そうに持ったマンハッタンカフェ。コーヒー豆くんとかいうらしい。そのままだ。
俺にもわずかながらも意地があったので、何かいいところ見せねばと挑んだクレーンゲームで5回のリトライの末にゲットした景品だ。マンハッタンカフェが少し欲しそうにしていたので、取れてよかった。
「喜んでくれてよかったよ・・・・・・本当に」
マンハッタンカフェが鬼のようにゲームが上手かったのはあくまでガンシューティングだからのようで、その後プレイした音ゲーやレーシングゲームではごく普通の初心者ゲーマーといった姿を見せてくれたので、俺もどうにか大人で経験者のプライドを保つことができた。
マンハッタンカフェがゲーム下手な姿を見てプライドを保つってよくよく考えなくても情けなさすぎると思うが、男は恰好つけたいものだから見ないふりをした。
逆に、何であんなにガンシューティングだけ異常に上手かったのか。マンハッタンカフェに聞いてみると、母親にアメリカへ連れて行ってもらった際に銃の使い方を教わったのだそうだ。
実銃の使い方とは違うのでは、とも思ったが現実にスーパープレイを目の前で見せられたので何も言えない。そういうものなのだろう。
「時間もそろそろいい頃合いだな。そろそろ出ようか」
時間を忘れて楽しんでしまった。久々に来てみると、やっぱりゲーセンはいいものだ。たまにはトレーニングの息抜きにでも、これからもマンハッタンカフェと来るのもいいかもしれないな。
「あの・・・・・・トレーナーさん。最後にあれに、一緒に入っていただけませんか?」
マンハッタンカフェが遠慮がちに指さすのはプリクラ。学生時代は男友達とバカ騒ぎしていただけの俺にはほとんど縁のなかった機械だ。
「せっかく取るなら、また今度友達と来たときに撮った方がいいんじゃないか? 同期の皆とか」
プリクラに興味が出たのはいいが、今撮っても俺とのツーショットしか取れないしな。
「・・・・・・。トレーナーさんは、私と写真を撮るのはお嫌ですか?」
・・・・・・その言い方は、卑怯だろう。
俺の方からマンハッタンカフェとの写真を厭う理由は何もない。何だかかんだ、そういう写真は担当ウマ娘との絆の印みたいでちょっと憧れもあったしな。
「よし、それじゃ撮るか! 落書きは任せたぞ、マンハッタンカフェ。自慢じゃないが、俺はそういうセンスは欠片もないからな!」
「! はい・・・・・・! お任せください。影より濃い闇で彩りましょう」
「いや、それはプリクラ的にはどうなんだ。明るくなんか可愛い感じでいいんじゃないか」
「明るく・・・・・・可愛く・・・・・・私には、荷が重いですね・・・・・・」
「はは・・・・・・それじゃ、二人で色々やってみやるか」
「ええ、そうしましょう・・・・・・ふふ」
日もすっかり落ち、外灯に照らされた美浦寮の入り口で俺が持っていた彼女の荷物をマンハッタンカフェに手渡す。
「今日は一日ありがとうな。コーヒー豆も、選んでて楽しかったよ。豆って言ってもあんなに種類があるなんて知らなかったな。また色々教えてくれ」
「こちらこそ、ありがとうございました・・・・・・。今日買った豆は明日からトレーナー室で使いますから、楽しみにしていてくださいね」
マンハッタンカフェに案内された喫茶店を営む老夫婦はマンハッタンカフェととても親しげで、俺にもとても親切にしてくれた。
彼らやマンハッタンカフェの手助けで自分好みの豆を探す体験ができたので、それを飲めるのが今から楽しみだ。
「それじゃ、明日に備えて早めに寝るようにな。一日遊んだから疲れてるだろうし、しっかり休むこと」
「・・・・・・トレーナーさんも、まさかとは思いますが、今日はトレーナー室に寄ったりせず、部屋に戻って休んでくださいね?」
俺のこれからの予定を見透かされドキリとする。今日はこの後、買ってきた機材をトレーナー室で色々触るつもりだった。
「はあ・・・・・・そもそも今日はオフの日なのに、朝からトレーナー室にいたことも私は少し怒ってるんですよ」
「いや、どうも休みの日って何すればいいのかわからなくて・・・・・・やることないならトレーニングのこととか、事務仕事でもやってた方が効率いいかなって」
趣味と言える趣味がないので、俺にとってはウマ娘のことを考えるのが趣味でもあるようなものなのだ。
しかし、その答えはマンハッタンカフェのお気には召さなかったらしい。ジトッとした目で見られ、言葉に窮する。
「・・・・・・。わかりました。では、来週も私とどこかに行きましょう。それなら仕事はできませんよね?」
ナイスアイディアでしょう。そんな顔で提案される。
しかしマンハッタンカフェの申し出は嬉しいが、それは彼女を拘束してせっかくの休みでまで俺と顔を突き合わせることになる。彼女の精神的な負荷になると困るのだが。
「・・・・・・私も休日は基本的にお仕事だったので、それがアリスさんのご厚意で減ってる今は、トレーナーさんと同じでやることがあまりないんです。ですので、私が趣味を探すのを手伝うとでも思ってくだされば・・・・・・。休日を私と過ごすのは・・・・・・。お嫌、でしょうか?」
・・・・・・だから、その言い方は卑怯だぞ。マンハッタンカフェ。
わかってて言っているのだろう。言葉とは裏腹に、上目遣いで俺を覗き込む彼女の瞳は笑っている。
「わかったわかった。休みの日には(できる限り)仕事はしない! マンハッタンカフェの外出にも付き合う! でも、嫌になったり予定が入ったらすぐ言うんだぞ。無理してほしくないからな」
「もちろんです。それではトレーナーさん、また明日お会いしましょう・・・・・・おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
美浦寮の中へと消えていくマンハッタンカフェを見送り、踵を返す。向かう先はトレーナー室――ではなく、トレーナー寮。
流石にこの流れで仕事に向かうほど俺の面の皮は厚くない。
・・・・・・マンハッタンカフェの出ている映画でも、ネットで探して見てみるか。
まるで、マンハッタンカフェの瞳のように金色に輝く月に照らされながら、帰途についたのであった。
「お帰りなせェ! ・・・・・・あンれぇ、カフェさん。何だかすっげぇ嬉しそうですねぇ。何かいいことでもあったンで?」
ルームメイトのユキノビジン――ユキノさんが、部屋に戻った私を元気よく出迎えてくれる。
私が笑っている姿はよく他人からは不気味と言われることがあるが、彼女はそういう色眼鏡もなく私の素の心を見てくれる心優しい人だ。
純朴で、初雪のように清らかな心の持ち主。そんな彼女を見ているといつも心が安らぐ。そして同時に――暗い欲望が首をもたげる。
私が胸に抱くどす黒い欲望を彼女に叩きつけた時、彼女はどんな顔を、声を、感情を見せてくれるのだろうか。
泣くのだろうか。怒るのだろうか。恐怖? 嫌悪に歪むのか。軽蔑するかもしれません。この、ユキノさんが。
純白のキャンバスをペンキをぶちまけ徹底的に汚したい、そんな私の下卑た妄想。
しかし、それに私は蓋をする。
欲は欲。理性で覆う術を持つから、私たちは獣ではなくヒトなのだ。
私が獣になるのは芝の上でのみ。己を解き放つことが許される場所。
でも、心で何を思うかは自由ですよね。表に出さない限りは、それが誰に迷惑をかけるわけでもないのだから。
内心の自由を自分に保証し、彼女をそんな欲望のはけ口にしている素振りはおくびにも出さず、ユキノさんに微笑みかける。
「ただいま帰りました。ユキノさん。・・・・・・今日は、トレーナーさんと買い物に街へ行っていたんです。これは寄った喫茶店で買ってきたユキノさんへのお土産です。コーヒーを淹れますので、おやつに一緒に食べましょう?」
「うンわぁ~! オシャレなスイーツです! こげなもンもらっちまっていいンですか、カフェさん!?」
喫茶店で買ってきたお茶請けの菓子に目を光らせるユキノさん。本当に、可愛らしい方。
「もちろん。ユキノさんのために買ってきたものですから」
「ありがとがんす! それにしてもトレーナーさんと二人でお出かけして、お買い物して、喫茶店なんて、まるで、で、デートみたいですねぇ。シチー派だべ、カフェさん・・・・・・憧れちまうなぁ」
「デート・・・・・・デート・・・・・・ふふ、ふふふふ」
デート。そう、今日のお出かけは、私とトレーナーさんの、まごうことのないデートだった。
トレーナーさんは意識していないだろうが、少なくとも私と二人で出かけることに忌避感もなく、あれだけ心を開いて楽しんでくれていた。感触は悪くないはず。
少し強引だったかもしれないが、次の予定も決められた。二人で撮ったプリクラと合わせてこれ以上のない戦果でしょう。
「ユキノさん・・・・・・よければ今日のこと、聞いてくださいますか? このお菓子を食べながら」
「ええ、もちろン! カフェさんのお話なら、何でも聞かせてくだせぇ! そうだ、アタシも今日の事で聞いてほしいことがあるンです。シチーさんと話してたことで、よければカフェさんの意見も聞きてぇンですけども・・・・・・」
「喜んで聞かせてもらいます・・・・・・では、今コーヒーを淹れますから、お菓子をお皿に出してくれますか?」
「了解です!」
優しく、素敵なルームメイトと、コーヒーとお菓子を楽しみながら歓談するこの時間。
私の求める激しい快楽はないが、穏やかに包み込まれるひと時も大切なものだ。
夜はまだまだ長い。
素敵な一日を最後まで素敵にするために、今はこの時を愉しみましょう。
自分を慕う優しいルームメイトも容赦なく妄想のネタにするスタイル。