漆黒の猟犬、静寂の摩天楼   作:エセダンディズム

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第3話 宣戦布告

 「き、き、き、貴様! このたわけ! 天下のトレセン学園の往来で、あろうことかトレーナーにウマ娘が、う、う、う、ウマ乗りになって、スカウトなど! 倫理観の欠如甚だしい!」

 

 「はい・・・・・・」

 

 生徒会室。

 正面の机に生徒会長シンボリルドルフ、眼前に立ちはだかる副会長エアグルーヴ。

 

 気分は法廷に立つ被告だ。

 

 ちなみにマンハッタンカフェはここにいない。

 夕方から外せない仕事があるとのことだったので、どうにかエアグルーヴとバンブーメモリーを説得して、連行されるのは俺一人で済むよう彼女を見逃してもらった。

 後日しっかりその埋め合わせはさせるし、今日はその分貴様をみっちり絞ってやろうと宣言したエアグルーヴの形相はそれはもう凄まじいものだったが。

 

 「そもそも、なぜスカウトするのにトレーナーがウマ娘にウマ乗りされているのだ!? そしてなぜその体勢のままスカウトを決行する!? 貴様には常識というものがないのか、たわけ!」

 

 「ごもっともです・・・・・・」

 

 「トレーナーたるもの、大人として掛かるウマ娘を制御するのも務め! それを貴様、逸ったウマ娘をやりたい放題させた挙句それに便乗するなど! 中央のトレーナーというのはなぜこうも一癖も二癖もある輩が集うんだ!? 難関試験ではないのか!? 採用試験に倫理項目を入れるよう直訴しなければダメなのか!?」

 

 「返す言葉もございません・・・・・・あと倫理の試験はあります・・・・・・」

 

 「なら勉強した倫理に乗っ取って行動しろたわけ!」

 

 「はい、面目次第もございません・・・・・・」

 

 説教そのものもそうだが、何より年下の女の子に常識とか倫理とかを掲げられて、正論のナイフでザクザク切りつけられるのはとてつもなくメンタルが削られる。

 

 

 そして、精神がガリガリ削られたところで、本丸『皇帝(シンボリルドルフ)』のお出ましだ。

 

 こちらはエアグルーヴから一転、怒るではなく諭すように、静かに語りかけてきた。

 

 「やあ、トレーナー君。事の顛末は報告で聞いているよ。私は今日は別件の用事があってね。残念ながら直に現場を見ることはできなかったのだが・・・・・・。情意投合(じょういとうごう)、実に情熱的で気持ちの通じ合ったスカウトだったようだね」

 

 「すいません・・・・・・本当にすいません・・・・・・クビは勘弁してください・・・・・・」

 

 「そう落ち込まないでくれていい。確かに君のスカウトは、その、まあ、少々、いや・・・・・・かなり、生徒たちには刺激的だったようだが。倫理的にはともかく、校則を大きく逸脱したそれではない。こうして注意こそさせてもらうが、処分を下すようなものではないよ」

 

 シンボリルドルフ会長から見ても倫理的にアレなスカウトだったようだ。

 明日からどんな顔で学園を歩けばいいんだろう・・・・・・。あの時は若干ハイになってたからか感じなかった恥ずかしさが今更押し寄せてくる。

 

 でも、取り合えずクビは回避できたようでよかった・・・・・・。担当ウマ娘ができたその日に解雇とかシャレにならない。

 

 胸を撫でおろす俺に、シンボリルドルフ会長は笑顔のまま更に続ける。

 

 「それはそうとして、報告の中で興味深い話を聞いてね」

 

 「?」

 

 「『シンボリルドルフより、マルゼンスキーよりも、マンハッタンカフェがいい』だったか。意気衝天(いきしょうてん)。いや、実に熱烈で苛烈な口説き文句だ。『皇帝』や『怪物』など君の眼中にない、か。・・・・・・私たちも、無礼(ナメ)られたものだな」

 

 !?

 

 いや、確かに言ったけど!

 

 あれは言葉の綾というか話の流れででしてね。別にシンボリルドルフ会長やマルゼンスキーが眼中にないだとか、貶めるような意図は断じてないんですよ。

 

 と、いう弁明をしたかったのだが、笑顔のまま底知れぬ威圧感をビンビンに発するシンボリルドルフ会長の前に、一般人の俺は情けないことにしどろもどろになる。

 

 そんな俺の醜態にまるで我慢の限界が来たかのように、シンボリルドルフ会長が笑いを吹き出した。

 

 「ぷっ、ははははは。すまないすまない、冗談だよ。君は反応がいいから、ついね」

   

 「・・・・・・えっ」

 

 「トレセン学園のスクールモットーは『Eclipse first,the rest nowhere.(唯一抜きん出て並ぶ者なし)』。全てのウマ娘に頂点を夢見る権利があり、目指す義務がある。それは当然、この(シンボリルドルフ)をも超える存在であれということだ。高みを目指す傲岸不遜さは、好ましいことでありこそすれ、誰にも恥じることのない姿勢だ。シンボリルドルフ、マルゼンスキー何するものぞ。その意気込みを『()()』として()()しよう」

 

 父親のように雄大で寛大、だが尊大。なるほど、これが『皇帝』か。面と向かって初めてわかるものがある。

 

 このウマ娘は、全てのウマ娘に期待をしている。『自分のいる高みに来い。挑戦してみせろ』と。

 そして同時に、こうも思ってるのだ。『だがその上で宣言しよう。頂点は自分だ。我に従え、王道楽土へ導こう』と。

 

 「だが、君たちはまだデビューすらまだのウマ娘と、何も実績のない新人トレーナーだ。大言壮語もいいが、まずは雌伏の時間だろう。切磋琢磨、トレーニングに励むといい。私からは以上だ」

 

 「・・・・・・。はい、そうします。ご迷惑をお掛けしました。では、これで失礼します」

 

 「あっ、おい貴様――」

 

 一礼し、席を立ち上がる。

 エアグルーヴが呼び止めようとするが、意に介さず生徒会室の扉に手をかける。 

 

 「ですが、一つだけ訂正させてください、シンボリルドルフ会長」

 

 「ん? 何だい、トレーナー君。ああ、それから私たちに無理に敬語は使わなくていいよ。単純に年齢が君の方が上というのもあるが、それ以上に、ここトレセン学園において君たちトレーナーはウマ娘を導く者であり、私たちウマ娘は導かれる者だ。それは、担当の関係にない私たちの間においても変わらない。気軽に話してくれたまえ」

 

 なんだかあなたのような人間が出来すぎてる人にそう言われても、とても年下を相手にしているとは思えないんだけど・・・・・・まあ、本人がタメ口でいいと言っているんだから素直に従おう。

 

 「では、お言葉に甘えて。・・・・・・・・・・・・」

 

 大きく一つ、深呼吸。

 

 シンボリルドルフにまっすぐ視線を合わせ、見据える。決してそらさない。

 

 「俺は、マンハッタンカフェのトレーナーだ。だから、担当ウマ娘である彼女がシンボリルドルフを、マルゼンスキーを超える、超えられる存在だと本気で信じているんだ。大言壮語とか、意気込みとか思われるのは仕方ないけど、いつでも俺だけはそう信じていたいから。だから、まあ・・・・・・精々首を洗って待っててくれ、『皇帝』」

 

 「・・・・・・! ふっ。季布一諾(きふいちだく)、既に強い信頼で結ばれているということか。ならば、楽しみにしていよう。簒奪者を名乗る不届者が私の眼前に現れるのを」

 

 不敵に笑う皇帝に、見劣りしないよう精一杯に格好つけて笑い返す。

 

 「ああ。では、失礼」

 

 言ってしまった・・・・・・何事もないように装っているが冷や汗ダラダラだ。

 というか、当事者のマンハッタンカフェのいないところで何やってるんだ俺。

 少しカチンときたからって、シンボリルドルフに宣戦布告する馬鹿がどこにいる? ・・・・・・ここにいたよ。

 

 後でちゃんとマンハッタンカフェには謝らないとな・・・・・・。

 知らない間にシンボリルドルフ超えを目指すウマ娘にされてたら流石に彼女も怒りそうだが、そこは相棒だ。ちゃんと説明しよう。

 

 それに彼女もウマ娘、走って勝つことは大きな目標であるはず。それなら、いずれ進み続けた先にシンボリルドルフはいるのだから、意識するのが早いか遅いかの違いだ。

 ・・・・・・うん、こんな感じで説得してみよう。

 

 マンハッタンカフェの説得方法を考えながら、振り返らず生徒会室を出ようとして――

 

 ガシッ

 

 「自然に失礼するなたわけ・・・・・・! 確かに会長は処分はしないとはおっしゃられたが、貴様が学園の風紀を乱した事実に代わりはないんだぞ」

 

 物凄い力で肩を捕まれ痛みに振り返る。

 そこには、青筋を浮かべて般若の形相になったエアグルーヴの姿。

 

 「痛い痛い痛い!?」

 

 「さあ来い! 貴様には『自主的』な『奉仕活動』に勤しんでもらう。注意を受けに来たその足で、あろうことか会長に身の程知らずに喧嘩を売るなぞ・・・・・・そのふざけた思考回路を矯正し、金輪際そんなことを考えられないよう徹底的に労働してもらうぞ!」

 

 「砕ける! 肩が砕けるから一旦離してくれ! 別に逃げないから!」

 

 「ちょうど昨日、教室が一つ爆発騒ぎを起こして困っていたのだ。貴様には一日で元通り使えるよう掃除してもらおう」

 

 「爆発する教室って何だ!? 待ってくれ、そんなところに行きたくない! シンボリルドルフ会長助けーー」

 

 

 

 バタンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 エアグルーヴに連行されたトレーナー君の阿鼻叫喚の断末魔を遮るように、無慈悲に閉じられたドアを見て苦笑する。

 

 爆発した教室とは、『彼女』がヤンチャをした教室だろう。大変な重労働にはなるだろうが、なんだかんだと面倒見がよく、かつ、綺麗好きなエアグルーヴのことだ。

 見るに見かねて、そして耐えかねて彼女も掃除に参加することだろう。

 

 さて、トレーナー君たちもいなくなったことだし、

 

 「そろそろ出てきたらどうだ。マルゼンスキー」

 

 私の呼びかけに応じて、会長席の陰からひょっこりとマルゼンスキーが顔を出す。

 

 「うぅ~ん! ずっと黙ってジッとしてるのって疲れちゃうわねえ」

 

 「なら無理せず顔を出していればよかったのに」

 

 「やぁねルドルフ。冗談はよしこちゃん。お説教なんて堅苦しい場所、私には合わないわ。チョベリバよ」

 

 ・・・・・・彼女の友人には冗談が得意なよしこちゃんという女性がいるんだろうか。

 それは是非紹介に預かりたい。

 先ほども、緊張したトレーナー君の気持ちを解そうと皇帝と肯定をかけた私の鉄板ジョークを会話に織り交ぜてみたが、見事にスルーされてしまったところだ。軽妙洒脱な会話術への道のりは険しいな。

 

 スルーするー・・・・・・うん、これもまた今度披露してみよう。

 

 「それでどうだいマルゼン。私としては挑戦者の登壇に喜ばしく思っているが、『怪物』として、トレーナー君の宣言はどう映った?」

 

 「ルドルフや私に追いつき追い越せってくらいの子になってくれるなら、もちろん私にとってもバッチコイよ。それに、みんなの前で告白紛いのスカウトなんて、まるで月九の世界みたいでとってもトレンディでムネズッキュンね!」

 

 朗らかに笑うマルゼンスキー。しかし、ふっとその表情が暗くなる。

 

 「でも、ただ楽しく走ってるだけの無責任な私のそれと、ルドルフ、皇帝であるあなたを超えるということ。口にすれば似ているようでも、その本質は大きく違うわ。あなたの背負ったものは余りに重いから」

 

 マルゼンスキーが私の頭を後ろから抱えるように掻き抱く。

 確かあすなろ抱きと、マルゼンスキーは呼んでいたか。

 

 伝わる親愛の情を心地よく思う。

 私の首を温かく包み込むマルゼンスキーの腕に手のひらをやり、労わるように撫ぜる。

 

 「私はその重みを苦ではなく喜びと感じている。だから気に病むことはないよ、マルゼン」 

 

 「・・・・・・ダメダメ、おセンチになっちゃわね。許してちょんまげ!」

 

 大輪の花が咲いたような喜色満面の笑顔に変わり、下げた頭の上で手をパっと広げるマルゼンスキー。

 ・・・・・・なるほど、手のひらで頭の上のちょんまげを再現しているのか! ボディランゲージと言葉遊びを組み合わせた高等ギャグテクニックに戦慄する。

 やはり君は恐ろしい『怪物』だ。油断ならないなマルゼンスキー。

 

 「やっぱりあなた超えって言うならまずはクラシック三冠路線かしらね。どう? マンハッタンカフェって子はいい線行きそう?」

 

 「千異万別、三冠だけが絶対の価値ではないし、それのみが私を超える道でもないさ。もちろん、三冠はトゥインクル・シリーズの華。ウマ娘やファンたちはその冠の輝きに魅了されるのは事実だがね」

 

 そして思案する。彼女が三冠路線で戦う様子を。

 

 「確かに、マンハッタンカフェには秘められた才能の片鱗を感じていた。それが本格化によって開花して、そしてあのトレーナー君の手によって磨き上げられたのなら、きっと素晴らしい走りを見せてくれることは信じて疑っていないよ。しかし、三冠か・・・・・・」

 

 「あら? 何か気になることでも?」

 

 「彼女のクラシックは、例年にも増して一冠取るだけでも至難の業になるだろう。高材疾足、才気煥発。眠れる獅子が、その伏せた巨躯を起こし眼を見開いたからには」

 

 「ふーん。それって、今日あなたが駆り出されてた用事に何か関係があるのかしら?」

 

 「フフ。さて、それは今後のお楽しみ、とでもしておいてくれ」

 

 「もう! ルドルフの意地悪! オタンコナス!」

 

 ポカポカと私の肩を叩いてじゃれ付いてくるマルゼンスキーをいなしながら、彼らの行く道の険しさに嘆息し、そして期待する。

 

 あの『閃光』のような才能を誇るウマ娘を前に、君たちはどう立ち向かうのか。来年のクラシックが今から待ち遠しいよ。




ゲームのストーリーよろしく4話、つまり次話でジュニア期前のプロローグを終わらせる予定でしたが、もうちょっとかかりそうです。
お付き合いください。

オリウマ娘の名前はどちらが好みですか?

  • アニメ・シングレ風 例)キンイロリョテイ
  • 史実そのまま 例)ステイゴールド
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