漆黒の猟犬、静寂の摩天楼   作:エセダンディズム

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第5話 集い始める世代

 「えっと、君たちは・・・・・・?」

 

 降ろしてもらえる気配がないので、とりあえず宙づりのまま相手の正体を確認する。

 

 俺を片手で持ち上げもう片手に竹刀を握った、ツリ目で三白眼のウマ娘。青筋をこめかみに浮かべて、まるで“ビキッ”“ビキッ”という効果音でも浮かんでそうなくらいのメンチの切り方だ。

 とても怖い。

 

 「『根暗』の友達(ダチ)だ! 文句あンのかゴラァ!」

 

 「君の存在に文句はないけどこの状況に文句はあるぞ!?」

 

 ダメだ、血が上っていて話にならない。

 

 もう片方の葦毛のウマ娘に視線で助けを求める。

 

 「? アー・・・・・・コレガ、視姦、デス? イヤーン」

 

 色白の肌にポッと朱が差し、身体を守るように抱きかかえたウマ娘。

 

 「何『メリケン』にまで色目使ってんだテメェ! ブッ飛ばすぞ!」

 

 「違う違う!? 勘違いだから! グェッ」

 

 救いはないんですかー?

 すいません、沖野トレーナー・・・・・・約束、守れそうにありません。

 

 更に高く吊り上げられ、締まる首に死を覚悟したその時だった。

 

 

 「何を・・・・・・しているんですか・・・・・・?」

 

 

 俺を挟んで二人のウマ娘を相対す位置に立っていたマンハッタンカフェが、感情がストンと抜け落ちたような表情で、絞り出すような声でそう問い質す。

 

 いつの間にかターフを一周して戻ってきていたらしい。

 肩で息をしていることから、もしかしたら俺の様子を遠目に確認してダッシュしてきてくれたのかもしれない。

 

 「す、すまんマンハッタンカフェ。俺にも、何が何やら・・・・・・」

 

 「おう『根暗』、トレーニング邪魔して(ワリ)ぃな。すぐ終了(オワ)らせっから、ちょっくら待機()っとけ――」

 

 

 「アニマルポッケさん、私、お節介焼きな貴女の事、結構好きなんです・・・・・・だから、二度目はありません」

 

 

 「その手を今すぐ離してください」

 

 

 「「!?」」

 

 「? わっ」

 

 アニマルポッケ――そうマンハッタンカフェが呼んだウマ娘の手が突然緩み、重力に従って俺の身体が自由落下する。

 

 ポスッ

 

 痛みを覚悟して目をつむるが、優しく受け止められる感触に迎えられる。

 目を開ければ、優しく微笑むマンハッタンカフェの細腕に、所謂『お姫様抱っこ』の形で受け止められているのがわかった。

 

 「怪我はありませんか? トレーナーさん」

 

 「あ、ああ・・・・・・ありがとうマンハッタンカフェ。・・・・・・あの」

 

 「どうかしましたか?」

 

 「降ろしてくれない?」

 

 流石にこの体勢のままは恥ずかしいと訴えると、なぜか名残惜しそうな表情をしながらマンハッタンカフェが俺の身体をそっと地面に降ろしてくれた。

 

 「あのままでもよかったのに」

 

 「勘弁してくれ・・・・・・」

 

 地に足がつく感覚に安心感を覚える。

 いやあ、突然持ち上げられるからびっくりした。

 

 乱れた服装を直していると、マンハッタンカフェが俺を持ち上げたウマ娘の方に歩を進める。

 

 「さあ、アニマルポッケさん、サスケハナさん――説明してください」

 

 

 

 

 

 

 『アニマルポッケ』

 『サスケハナ』

 

 マンハッタンカフェからクラスメイトであると紹介を受けたウマ娘たちは、現在芝の上で正座をさせられていた。

 

 「なんでアタシがこんな・・・・・・」

 「足、シビレ、デス・・・・・・ツライ・・・・・・」

 

 プルプル震える二人に、改めて問いかける。

 

 「それで、何であんなことをしたんだ? 俺、君たちに何かしたか?」

 

 「アァン!? それはテメェが――」

 

 「アニマルポッケさん・・・・・・?」

 

 一瞬凄んだアニマルポッケだが、マンハッタンカフェの静止に威勢が弱まる。

 

 「・・・・・・テメェが、アタシの友達(ダチ)の『根暗』を変態的な手で手籠めにしたって噂で聞いて、『根暗』に確認しても誤魔化(シラバッ)くれるからよォ・・・・・・なら、変態トレーナー本人に確認するしかねぇじゃねえか」

 

 「ええ!?」

 

 アニマルポッケの言葉に涙目のサスケハナも頷いていることから、アニマルポッケ一人の勘違いではなく、本当に広まった情報なんだろう。

 しかし、手籠めって。そんな卑劣な方法でウマ娘に迫るようなトレーナーはこの中央にはいられないんだが・・・・・・。

 そのあたりは、年頃の少女特有の噂好きが事実に優先したってところだろうか。

 

 「ソレデ、実際ノトコ、テゴメ、サレタンデス。カフェサン? アト、テゴメッテ、ナニ?」

 

 そんな真面目な顔で、女の子が手籠めを連呼しないでほしい。

 

 というか、どんな状況だこれ・・・・・・。

 

 「手籠めとは、〇〇〇(うまぴょい)して×××(うまだっち)△△△(ずきゅんどきゅん)ということです」

 

 「Wow!」

 

 「そして、私は手籠めされてはいません。残念ながら」

 

 「Oh」

 

 「マンハッタンカフェもそんな冷静に解説しない! それに残念じゃないから! それが普通だ!」

 

 はぁ、と溜息をついてマンハッタンカフェがアニマルポッケに向き直る。

 

 「ですから、今朝もクラスで言いましたよね。私は何もひどいことはされていないし、自分の意思でトレーナーさんと契約をしたって。それがどうして・・・・・・」

 

 「んなもん、口じゃ何とでも言えるだろぉよぉ。アタシは自分の目で確かめなきゃ気が済まねえ。だからこうしだな・・・・・・」

 

 「・・・・・・そうですか。それなら、実際にその目で見てもらうしかないですね」

 

 ゆらり、と立ち上がったマンハッタンカフェが、体は向こう正面に顔だけ振り向いて俺を見る。

 

 ペロリ

 

 舌なめずりをするマンハッタンカフェに、既視感と寒気を覚える。

 

 「ま、待てマンハッタンカフェ!」

 

 「お、おい『根暗』、オメェ何を・・・・・・」

 

 アニマルポッケの戸惑いの視線を背に受け、一歩、また一歩とこちらに歩を進めるマンハッタンカフェ。

 

 「落ち着け! 自棄になるな!」

 

 「Unbelievable・・・・・・」

 

 手で顔を覆っているように見えて、指の隙間からチラチラとこちらを伺うサスケハナ。

 

 「あ、ああ・・・・・・」

 

 

 イヤーッ!

 

 

 

 

 

 

 「あー・・・・・・その・・・・・・真剣(マジ)生意気(ナマ)言ってサーセンっした!」

 

 「ソーリー・・・・・・ハヤトチリマシタ」

 

 ガバッと勢いよく90度、あるいはそれ以上の角度に腰を折るアニマルポッケ。

 ペコリと礼儀正しく頭を下げるサスケハナ。

 俺たちの間には何とも気まずい空気が流れていた。

 

 「うん・・・・・・わかってくれたならよかったよ・・・・・・うん・・・・・・」

 

 まだジンジンと痛む首元を摩りながら乾いた笑みを浮かべる。

 

 「つまり、手を出したのも、手籠めにしたのも、どちらかと言えば私で、トレーナーさんは哀れな子羊ということです。わかっていただけましたか? ポッケさん、サスケハナさん」

 

 濡れた唇を淫靡になぞりながら、妖しく微笑みかけるマンハッタンカフェ。

 ズカズカと肩を怒らせながら近づいたアニマルポッケが、その笑顔にグーでげんこつを落とした。

 

 ゴチンッ!

 

 「・・・・・・痛いです、ポッケさん」

 

 「究極に理解し(ワカッ)たわボケ! テメェが『根暗』の『ド変態』だったってことがな!! あー心配して損したってのクソが!」

 

 怒りにまた青筋を浮かべたアニマルポッケ。

 直情的だが根はいい子のようだ。

 

 「でも、君はマンハッタンカフェのことを心配したから、こうして俺のところにまで殴り込みに来たんだろ? 恥じることじゃないよ。・・・・・・ちょっと、手が早いとは思うけど」

 

 「・・・・・・うっす。友達(ダチ)のために動かないのは女じゃねぇッス」

 

 顔を赤くしたアニマルポッケが、スカートの裾を翻して校舎の方へと歩き出す。

 

 「帰るぞ『メリケン』! 迷惑かけたトレーナーさんへの詫びだ、いらねぇ噂はアタシらの手で消滅(カキケ)すぞ」

 

 「アッ、待ッテクダサイ、ポッケサン!」

 

 歩き出したアニマルポッケと、その背中をトテトテと追いかけるサスケハナ。

 しかし、何かを思い出したようにアニマルポッケが立ち止まりこちらを振り向き、拳を突きつける。

 

 「おい、『根暗』。テメェもいよいよトレーナーが付いたってことは、今年デビューなんだろ? なら、アタシらはトゥインクル・シリーズでも同期(タメ)好敵手(ライバル)だ。友達(ダチ)だろうが、レース場で会ったら破壊(ブッツブ)す! 覚悟しとけ!」

 

 「負ケマセン。勝チマス、デス」

 

 そうか、彼女たちはトゥインクル・シリーズでマンハッタンカフェで戦うことになるライバルになるのか。

 

 「ふふ、ええ、私も楽しみにしてますよ・・・・・・」

 

 不敵に微笑むマンハッタンカフェ。

 ライバルの出現に、俺も胸が熱くなる。

 

 「それから『根暗』。お前、『マッド』の話、聞いたか」

 

 「『マッド』――タキオンさんの話、ですか? いえ。私も出た選抜レースを欠場したのは知ってますが」

 

 「タキオン、サン。デビュースル、聞キマシタ。トレーナーサン、スカウトサレタ、ラシイデス」

 

 サスケハナの言葉に、マンハッタンカフェが目を見開く。

  

 「! あの、タキオンさんが・・・・・・?」

 

 「まっ、アタシには誰がデビューしようが関係ねぇ。全員まとめてアタシの踏み台よぉ! んじゃな」

 

 「サヨナラ、マタデス」

 

 今度こそ立ち去る二人の背を見送る。

 

 

 タキオン――俺も、小耳に挟んだことがある。

 

 とても凄い才能を持ちながら、授業もトレーニングも選抜レースも出ない異端のウマ娘。アグネスタキオン。

 

 そして俺が一日がかりで片づけをした爆発教室の下手人だと、一緒に片付けしたエアグルーヴに聞いた。

 

 何でもあまりにサボりの常習犯過ぎて、いよいよ退学の話まで持ち上がっていたとのことだったが、一体どんなトレーナーがそんな問題児をスカウトせしめたのだろうか。

 

 

 先ほどのマンハッタンカフェの反応が気になったので、確かめてみる。

 

 「マンハッタンカフェは、アグネスタキオンとも仲がいいのか?」

 

 「えっ? いえ・・・・・・特によくはないですね。なぜか一方的に絡まれることはありますが」

 

 「そうか。それにしては、さっき何かすごくびっくりしてたよな、マンハッタンカフェ」

 

 「そうですね。自分で走る気を全く見せなかったあの人が、デビューしてトゥインクル・シリーズに出場してくるという事実自体に驚いた、とでも言いましょうか。それに、何度私が誘っても併走もしてくれなかった人ですから」

 

 「なるほど。それならレースで戦えるのが楽しみだね」

 

 「はい」

 

 頷くマンハッタンカフェ。

 色々あったが、マンハッタンカフェのライバルたちのことを知れたのは大きい。 

 

 「よし、それじゃトレーニングを再開しようか。デビュー戦に向けて準備しないとな。さっきの続きから、始めよう」

 

 「了解しました。・・・・・・今度こそ、ちゃんと見ててくださいね?」

 

 ジト目のマンハッタンカフェにたじろぐ。

 

 「す、すまない・・・・・・もうあんなことはないと思うから。大丈夫だ」

 

 さっき見てると約束したのを破ったことを根に持っていたらしい。

 でも、あれは不可抗力だと主張していいと思うんだ。

 宙づりにされるのは考慮してないよ、流石に。




アニマルポッケ:童謡『ジャングルポケット』の歌詞に動物がいることから+ポケットの変形
サスケハナ:黒船来航の際、ペリーが乗艦していた黒船艦隊旗艦の艦名が『サスケハナ』

オリウマ娘の名前はどちらが好みですか?

  • アニメ・シングレ風 例)キンイロリョテイ
  • 史実そのまま 例)ステイゴールド
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